閑話 もう一人の勇者6
しっかりとした戦闘会です。
「先に雑魚から潰す! 二人はゴブリン種から倒してくれ! 俺は少し大きめのゴブリンを倒す!」
「悪い! 俺とイオリで雑魚は排除するから安心しろ!」
「勝手に決めつけるな、とは思うが確かに力不足だ。今回は任せた!」
素直じゃねえな。
別に任せるだけでいいと思うがイオリのプライドが許さないんだろう。まぁ、任せてくれるだけ頭が回るってことだし、何より仲間と認めなかったら手を貸してくれとは言わないよな。今回だけは見逃してやるよ。
さて、どうやってコイツらを排除していくかな。まずもって俺には魔法は使えない。サクラとは違って魔法の詠唱は浮かばないからな。そこは勉強しなくちゃいけないだろう。
だからステータスのゴリ押ししかないか。後ろを見ればリュードさんが笑顔で腕を組んで見守っているだけだし。あの人はチートだ。そう易々と使ってしまっては俺達に成長の二文字はない。
「俺に力を貸せ! デュランダル!」
「グギャギャ!」
馬鹿にしたようにゴブリンが笑う。
手に持つ装備からしてゴブリンナイトだから倒せないわけではないと思う。戦力で言えばサクラとユウキで時間はかかっても怪我なく倒せるレベルだからな。でももう一体の大きなゴブリンが気になる。手に持つのはラウンドシールドじゃなくて大きな大剣だ。多分、あれはゴブリンナイトではない。その上の進化種だと予想する。
まだ俺達に驚異を感じていないから襲っては来ないが……今のうちに消せるだけ消さないとな。じゃないと全滅も免れないかもしれない。……何よりも二人に合わせる顔もないな。こんな雑魚にやられていたら。
「うるせえんだよ! 雑魚のゴキブリがァァァ!」
皆が驚いた顔をする。
今だけはこんなことを言ってもいいだろう。自分を正当化する気もないが俺は俺で他人は他人。誰だって誰かを阻害するような、暴力的な面はあるはずだ。
よく分からないが体から力が溢れてくる。少しだけ頭痛がするが行動阻害が起きるほどではない。もう一つよかったこととしてゴブリン達が恐れ始めた。これは威圧みたいなことが出来ているのだろうか。
デュランダルを振るう。
少しだけ緑色が混ざった血が舞散りゴブリンナイトを殺していく。何体かはラウンドシールドで守ろうとするがデュランダルで簡単に切り裂けるので問題ない。
「リュウヤ、ナイス!」
「これで潰しやすくなった!」
「サクラちゃん! 援護をお願い!」
「任せて!」
俺の威圧でゴブリン達の攻勢は弱くなった。
上位種であるゴブリンナイトが十体もやられれば指揮も弱くなる。俺のおかげとは言うが少しだけ楽になっただけだ。皆なら時間はかかっても全員を倒せる。問題は……一体だけ俺を睨む大剣のゴブリンだけ。
「グギ!」
「なっ! はっ!」
一瞬、目を離した隙に大剣のゴブリンはコウタと肉薄していた。俺も近づいて援護したかったが何分、ゴブリンナイトが多すぎて難しい。
「サクラ! コウタの援護を頼む! イオリはユウキの前に立って! ユウキは武器を切り替えてイオリの撃ち漏らしを撃破!」
「分かったよ!」
「コウタ君を守って! ウォーターウォール!」
「馬鹿ユウキ! 前に出すぎだ!」
イオリは文句を言いながらも笑顔でユウキの周囲の敵を狩る。ユウキは中距離からサブ武器として渡されていた鞭でゴブリンナイトを打ち、イオリは盾のないゴブリンナイトの首を切る。
サクラは壁を展開しながら攻めるコウタが攻撃をする時には展開をやめ、コウタも無理に近づかずにサクラの援護がなければ下がって敵の行動を見る。
俺は皆の戦況を見ながらゴブリン達を潰していき数を減らしていく。もう少しで七割は撃破出来る。総数としては五十はいたからこれはかなりのアドバンテージなはずだ。
三割ともなればイオリでなんとか対処出来るはずだ。俺はコウタのところまで走る。こんな時には遅いと感じる足がとても腹立たしい。ステータスが三百と言ってもこの程度か。
「ヤバっ」
水の壁を突破って大剣がコウタに迫る。
間に合うか? いや、間に合わせないといけない。俺の鼓動は早鐘のように、シュウに負けたあの時のように脈打つ。痛い、俺のことを理解してくれているコウタには死んで欲しくない。
「待てよ!」
「グギャ? ギャ!」
何とかギリギリというところで間には入れた。でも……今の足の速さは……? いや、それよりも……この光はなんだ……?
ダメだ! 敵の前で考えることじゃない!
俺はデュランダルで大剣を弾いて構え直す。
「コウタは下がって! サクラも回復が出来そうならユウキの回復をお願い! 割と削られていると思う!」
先のゴブリンナイト戦で削られていたんだと思う。武器を振るう際にもスタミナを使う。限界までスタミナを使えば無理に働かせた時に代わりに使われるのは体力だ。ユウキの撤退は必要不可欠。
「でも! リュウヤだって!」
「今はそれどころじゃない! いいから任せてくれ! 俺はこんな奴に負けない!」
とんだフラグだ。
でもそれでいい。俺ならコイツには負けない。下卑た目でサクラを見るゴブリンごときには。俺は……誰がなんと言おうと勇者だ。そう、例え誰にも認められていなかったとしてもーー
「ーー俺は勇者だァァァ!」
「ギャァ! ギギ!」
下から切り上げるデュランダルにゴブリンは大剣でガードをする。刹那の鍔迫り合いに俺は右腕の力を抜き右に跳び殴る。大したダメージではなくてもいい。相手の苛立ちを増幅させれば、なんて思っていたけど割と良いダメージだったみたいだ。
ポーカーフェイスを気取っているのか分からないけど、目の充血は隠せていないよ。やるなら本気でやれ。俺でさえも出来ることだぞ。
「調子に乗るなァァァ!」
「ギ!」
俺の振り下ろしに合わせて大剣を振り上げてきた。ヤバい、空中に跳んだせいでバランスが取りづらい……。コイツ……嫌な目をしやがって!
「お前が……お前がその目をするな!」
「ギギャ!」
ぴしりと音がした。
分かっている。デュランダルじゃない。
「消えろ!」
「ギ……ギャ……」
デュランダルで大剣ごと体を切り裂いた。
真っ二つとまではいかなかったけど十分なはずだ。それにしても……頭が痛いな。これが今、俺の使った何かのデメリットというところか……。
【固有スキル、限界突破を獲得しました】
【スキル、威圧を獲得しました】
ああ、やっぱり威圧だったんだな。
それに限界突破……これがアイツを倒すために、コウタを守るために手に入れた力か。でも……何だか眠いな……。
「ゴブリンキングになりかけのゴブリンジェネラルを倒すなんて……流石です。後はお任せ下さい。リュウヤ様」
俺は薄い目でリュードさんの笑顔を見た。
少しはリュードさんのお眼鏡にかなったかな。それなら……二人に近づけた気がして良かったんだけど。……俺も勇者になれるのか、な……。
そこで俺は意識を失った。
◇◇◇
「……ここは……」
目が覚める頃には俺は全然知らないところにいた。綺麗なシャンデリアが天井にあって真っ赤に燃えるロウソクが周囲を照らす。ランタンや灯籠で照らすよりも少し暗くて目の前がぼんやり見える程度だ。
皆は……いないか……。
幻想的でムードがある。言い方を変えればそんな雰囲気の場所にある一つのベッド。俺はそこに寝転がっていた。……王城か? いや、それにしては部屋の壁とかが少し違う気がするけど……。
「おや、目を覚ましたようですね」
「あっ……リュードさん……」
壁がすうっと開いて一人の青年が中を覗いた。リュードさんが話す頃にようやく正体に気が付けて何気ない返事をした。リュードさんは昼間のように鎧をつけてはおらず軽い服装で、ここでの呼び方は分からないがTシャツと短パンだといえば説明しやすいと思う。上が白で下が黒という顔が綺麗でなければオシャレと言われないファッションだ。
それに……俺は気が付いてしまった。
いや、薄々は感づいていたけど……。
「ここは王城のある一室なんですよ。本当は言わなくてもいいことなんですが、まぁ、王様が王妃以外と事を致す時に使われる部屋です」
事を致すって……不倫みたいなものか?
一夫多妻制だとは言っても王様でも何人かの女性がいるのなら何で誰も見たことがないんだ? ……いや、それよりも……。
「なんで……この場所に……?」
「いやー、私が話をしたかったんですよ。それと部屋などだと他の人達がうるさいですからね。ここは王様以外はよく分からない場所にありますし、少し説明すれば快く承諾してくれましたよ」
王様と話が出来る。
それだけ剣聖は必要とされているのか。まぁ、あれだけ強ければ疑う理由もないけど。俺もあれだけ強くなりたい……。
「体は大丈夫ですか?」
「……なんとか」
腕を動かすと軽い筋肉痛のような痛みがあるが動けないほどではない。それにこの程度なら明日には治っている。……今日も早く寝ないといけないな。
「それなら良かったです。まさかこの目で過去の勇者様が使っていた限界突破を見られるとは思いませんでしたから」
「えっ……?」
過去の勇者が使っていた……。
それならこの力があれば俺は勇者になれるのか? 皆に認められるような強い勇者に、俺が楽しく生きられる毎日に変えられるのか? 努力次第で俺は……二人を超えられるのか?
「……暗い顔をしていますね。そうだ! 私の部屋に来てみませんか? ここでは変な気分に呑まれてしまいそうですし……」
「いえ……この時間に異性の部屋に行くのは少し抵抗があります」
俺の言葉にリュードさんが固まった。
俺もそれを見て少しだけ戸惑う。俺はなにか対応を間違えたのか……?
後、一話か二話でリュウヤ視点が終わります。その次に生産班のリーダーである千鶴視点、秀と心視点を余裕があれば書きます。……千鶴視点は書くかどうかは不明ですが……秀と心視点は書きたいですね。
#早く3章を進ませたい




