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閑話 もう一人の勇者5

「ゴブリンより強い敵はいるんですか?」

「ゴブリンナイトなどがいますが……確かにゴブリンでは役不足ですね」


 少し思案げにリュードさんは考えてから俺達に伝える。リュードさんの目から見ても俺達がゴブリンでは戦闘経験にならないことが分かるのだろう。それにしてもゴブリンナイトか。よくあるキングとかクィーンとかの下位互換なのだろうか。


「ゴブリンが一番弱い魔物なんですか?」

「そうです。他にもコボルトやオークなどがいますが、それらがゴブリンと戦ったとしても負けることはありません。それに大体はナイトからキングまでの進化種が存在していて、一度進化するとステータスは大幅に強化されます」

「人族が進化することはありますか?」


 確かに人族が進化するのなら頑張りがいもあるけど。それを聞いたのがサクラということに少し驚いてしまう。サクラもオタクじみた趣味があるのだろうか。俺は話の都合上、少しだけ嗜む程度だが。


「噂では過去に進化した者もいるようです。私達、人族の進化方法はあまり知られておらず、また強くなるための方法も魔族や魔物とは全然違いますから」

「魔族……は魔王と違いがあるんですか」

「魔王は魔族や魔物の中で国を治めた存在や人族に多大な害を与える者、もしくは私達からすれば勝つことすらままならない存在のことを指します。前提としては魔族や魔物だけではなく、人族で魔王になった者もいるらしいので一概にそうだとは言えません」


 今回の魔王は魔族なのだろうか。

 それとも闇堕ちといえばいいのか、そんな人族が進化して魔王になってしまったのか。どちらにせよ、俺に人族を殺せるだけの覚悟はあるのだろうか。少しだけ不安だ。


「魔族と魔物の違いは何かありますか」

「説明していませんでしたね。魔族はほとんどが人族に近い見た目をしていて、魔物との違いは知能を持つか持たないかです」


 知能を持てば魔族。

 とても分かりやすい覚え方だな。それならファンタジーでよくある吸血鬼とか蜥蜴人とかも魔族なのか。……少しだけカッコよく思えるから悲しくはなる。敵となれば倒すだけだけど。


「ああ、もう一つ言うのを忘れていたことがありました。人族には進化する手が分かっていない代わりにある特有の利点があります。私達は心器と呼んでいるのですが、人の心から生み出される自分だけの武器のことです」

「心器……ですか……?」


 その人の特有の武器があれば生産班は要らない気がするが……。いや、ポーションとかは例え強くなったとしても必要か。武器に関しても強い分だけ心器は出しづらいんだろうな。


 俺の手にあるのは人に比べれば強い聖剣だけど、よく考えてみればシュウはこんなものは要らないんだろうな。あいつなら知らなくても心器を出してしまいそうだ。


「心器は人の心を映し出す武器とされていて、何よりも強く折れない心を持っている人の心器はどのような攻撃を受けても壊れることがありません。それにその人に合った特有の能力を持っているため使える人はすぐに名前が売れていくでしょう」

「……リュードさんは出せるのですか」


 俺の言葉に悲しげに首を横に振る。

 果たしてリュードさんにも出せない心器を俺達に出せるのだろうか。いや、その点で言えばシュウやイツキは天性の天才だ。リュードさんを超えていてもおかしくないけど。俺はリュードさんに勝てる気がしない。


 二人のことだ。何かやっている最中や聞いた瞬間に出せるんじゃね、みたいなノリで簡単に出していそうな気がする。イツキの妹のココも同じ感じだろうな。どうせ、お兄ちゃんがとか言って出していそうだ。


「……あまり気にしなくてもいいですよ。勇者様はここぞという時にいつも出しています。いつかは君にも、リュウヤ様にも出せるはずです」


 俺の大きなため息にリュードさんが慰めてくれる。


 俺にも、か。

 出せれば少しは二人に近づけるんだろうな。まぁ、それまでの距離も時間も、努力でさえも誰よりも長いもので、太いものでなければいけないんだろう。二人に勝てたことのない俺に出来る気がしないんだが……。


「俺達にも出せますかね……」

「勇者様と同じ道を辿り努力を重ねれば届かない場所ではないはずです。そのうち君達に私は抜かされてしまうかもしれませんね」


 その時にはリュードさんにドヤ顔をしたいな。澄ました顔がどんな表情を浮かべてくるのか気になる。自分の本心を絶対に表には出さなそうだからな。その時に見えるのは本心からの、仮面の外れた姿か、あるいは……。


「とりあえずゴブリンナイトを探しましょう。先程からコウタ様とイオリ様ですので、次はサクラ様とユウキ様に任せてみましょうか」

「……強くなったゴブリンに勝てるのか心配ですが、頑張ります」

「……ユウキも出来る限り支援します」


 人よりもオドオドしているユウキが片手剣を装備しているのだから、必然的に前衛はユウキが担う必要があるだろう。後衛のサクラがどれだけ助けを入れることが出来て、ユウキが後ろに敵を入れないか。そこが重要になるだろうな。


「……サクラって魔法が使えるのか?」

「……頭の中に流れる言葉? のようなものはいくらでもあります。多分、これを読んでから魔法名を叫べば魔法が出せるとは思いますけど……」

「それは詠唱と呼ばれるものですね。異世界人の中には魔法を教えずとも使える人がいます。サクラ様もその一人なのでしょう」


 口振りからして稀有なのだろう。

 下手したらただただ勇者という名前に縋っている俺よりも珍しくて、人に助けを求められる存在なんじゃないのか。聖女なんて大層な存在に俺はなれる気がしないし。


「ちなみにですが今の環境でやってはいけないことは分かりますか?」

「……ここでは火類は使えませんね。森に燃え移ってしまいます」

「そのような洞察力を持っているのなら十分です。時々、教えなくては分からない危なっかしい勇者様の仲間もいるので安心しました」


 なるほど、環境に応じて使う戦い方も変わってくる。そこに気が付けるサクラもすごいな。チラチラと俺を見てくる理由はよく分からないけど。


「あの! もし危なかったらリュウヤ君が助けてくれますか……?」


 あぁ、心配だったのか。

 そりゃあな、初めての戦闘で命の危険性もあるんだ。この中で一番強いと言われている俺に助けを求めるのも仕方がないか。


「安心していいよ。俺は仲間を見捨てる気はない」


 どこの主人公だと思うが。

 まぁ、俺の言葉にミスはなかったのか、サクラが安心した表情を見せてくれてよかった。何よりも緊張することが悪いことだからな。緊張するということは自分の出せる本気の何割かしか出せないということなのだから。


「ユウキも怖いのならサクラと一緒に後退していい。代わりに俺が入るから」

「……安心しました。ユウキは無理に戦わなくてもいいんですね。ですが、役目は守ります。サクラさんを守りながら二人でゴブリンナイトを倒そうと思います」


 グッと腕を前に出してにこやかに笑う。

 少しだけどきりとした俺は悪くないはずだ。……こいつは男で間違いはないんだよな。トイレに行った時も男トイレで間違いはなかったはずだし。


「……こちらにいるようですね。付いてきてください」


 リュウヤさんが率先して先に進む。

 歩いて二分後に草むらを隔てた先の方に、木で出来たラウンドシールドと鉄の剣を装備しているゴブリンがいる。


「後ろに控えていますので安心して戦ってください。進化種とは言ってもゴブリンです。お二人なら難なく倒せますよ」

「その言葉を信じます。それに……リュウヤ君のためにも……」


 先にユウキが飛び出す。

 ゴブリンナイトはそれに気が付いてユウキの剣を盾でいなして剣を振るった。その時間、数秒のうちだ。


「弾き返せ! ウォーターボール!」


 ボールと呼ぶにはとても小さな、言ってしまえば銃弾の、そうバレットと呼べばいいような早くて小さな水の塊がゴブリンナイトの剣を弾いた。


「ここだ!」


 そこを片手剣を突き刺してゴブリンナイトの盾を持つ手に大ダメージを与えた。まだ離してはいないにしても持っていることすら辛いはずだ。たかだかゴブリンとは言っていたけど、されどゴブリンか。進化するだけでこれだけ違いがあるのか……。


「グギャァァァ!」


 怒りに満ちたような目で大声をあげるゴブリンナイト。……嫌な予感がするな。今、目の前にいるのは一体のゴブリンナイトだ。ゴブリンってもっと、ゴキブリのような存在だと思っていたんだが。


「ギャギャ」


 呼応するように他のゴブリンの鳴き声が響いた。……だよな、そう簡単にはいかないよな。俺は小さくため息をついた。


「二人は目の前のゴブリンナイトに注意していてくれ! 他は俺達が対処するから!」

「すいません! お任せします! こちらを片付けたらすぐに皆様の手助けに回ります!」

「オーケー! それでいいよ!」


 まだ俺は魔物を殺していない。

 だから倒せるかは分からないけど倒せなければ二人には追いつけない。俺にだって越えたい存在はいるんだ。目の前のゴキブリのようにたくさんいるゴブリン達には糧になって貰わないとな。


「行くぞ! コウタとイオリは二人で敵を対処してくれ!」

『任せろ!』


 二人の声が重なる。

 俺は目の前のゴブリン達を睨みつけてから地面を強く蹴りあげて距離を詰めた。その手で抜かれている聖剣の白さを消すほどに最高の戦いをしよう。

イフ視点の魔族の説明に付け足したような説明ですね。実際、魔王となるやり方はいくつかあるのですが、そこは話の中で書いていこうと思います。お楽しみにしていてください。

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