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閑話 もう一人の勇者3

「どうやって分けようか……」


 コウタが率先して全員を集めて聞いた。

 その目は期待に満ちていて、どこか俺を頼りにしているように見える。俺にまとめ役でもやれというのか。……でもな、分ける方法が見つからない。


「四つの分け方があって、本当に運任せか、ステータスを聞いて上位と下位が平等に分けられるやり方、上位から分けるやり方、自由に決めるやり方があるかな」

「リュウヤの言う通りですね。効率を考えるなら上位からですが、プライバシーを考えるなら自由や運任せです。……個人的には早めに決められるくじ引きでいいのではないでしょうか」


 サクラが俺の考えに賛同する。

 俺をチラッと見て微笑む姿に聖女の面影が見えた。よくある優しさと気品さから影で呼ばれているあだ名だけど、まぁ、それに間違いはないな。異世界であった人達の顔の美しさに負けず劣らずな外見をしている。


 あまり話したことがないから恥ずかしい。出来れば俺の方は見ないで欲しいな。


「出した俺が言うのは何だけど魔王というのは強いらしいからね。個人的には強くなりやすい人達が集まって効率的にやるのを推すよ。弱いからといって虐めるやつは俺が許さないし」


 元々、面識が薄い人がいるとしても俺は同郷の人には死んでもらいたくない。色々と使い道があるといえば語弊があるだろうけど、先を見通す力や想像力に関してはこの世界の人達に負けているとは思えない。俺の考えを正す、いや、色んな考えを知るということに重点を置きたい。そのために死んでもらいたくないだけだ。


「ですが、聞いて回るのは億劫です。それに時間もかかりますよ?」

「サクラさんは知らないと思うけど、そこはリュードさんに力を借りれば何とかなると思う。俺の考えに間違いがなければリュードさんはステータスを見れますよね……?」


 サクラの不思議そうな表情に対して安心させるために、それと自分の考えが当たっているかのためにリュードさんに聞いた。サクラは俺の言葉を聞いて「それだったらプライバシーも問題ないですけど……」と呟いている。


 分かっている。これは俺が強くなりやすい環境を作るためで、他の人はどんなパーティになろうと構わない。


「もちろん、リュードさんに教えてもらうのは上位五名だけで他は自由に組んでもらう。そうすれば結構楽になると思うんだ。くじ引きもどうやってやるか、方法がないでしょ?」

「……そうですね」

「いいですよ、上位五名ですね。まさか私のスキルが見破られるなんて思ってもみなかったです」


 口を隠してクックックと笑っているけど絶対に嘘だ。俺を試しているのかどうかまでは分からないけど、俺が気が付かないなんて考えは最初っからないと思う。これも台本通りだったのか……?


「あの……」

「勇者と君と君、そしてそこの二人ですね」


 俺の言葉は遮られリュードさんが高い順に指をさしていく。最初は俺、次にコウタ、その次がイオリ、次いでサクラとサクラの友達の柳優希だった。少しだけ顎に手を添えてからリュードさんは続ける。


「本当は生産班をまとめていた女性が三番目に強かったんですけどね。ですがそこまで差があるわけではないので気にしなくても大丈夫ですよ」


 チヅルが三番目だったのか……。

 視線を考えれば俺が一番で二番目がサクラ、その次がチヅルだったみたいだな。……手を貸してもらえればとても楽だったのだが、まぁ、無理強いは良くないな。生産班で活躍してくれることを願っている。


「それではこの五人をリーダーとしてパーティを組みましょう」

「リーダー……というのはよく分かりませんが、五人でパーティを組むのは正しいと思いますよ」


 リーダーが分からない、か。

 異世界でも通じる言葉と通じない言葉があるって言うことか。例えば俺達が使っている言葉に通訳機能があって、それでも英語とかそこら辺の多言語には精通していない……準じていないってところかな。


 ということは、これからは言葉に気をつけて話をしないといけないな。早めに気がつけて良かったと思うべきか、気がつけなかった自分を恥じるべきか。……あの二人ならもっと早くに気がついていたんだろうな。


「他は……リュードさん、申し訳ないですがこの中で六番目から十番目に強い五人を教えてください。そうすれば早く終わります」

「なるほど、いいですよ。あまり差はありませんがあそこからあそこの五人です」

「ありがとうございます。それではそこの五人でジャンケンをして勝った順から欲しい人を一人ずつ選んでください。選ぶ際には自分の利点を教えるのも手だから。例えば前衛から後衛までのバランスを考えてやるとちょうどいいかもしれない」


 俺の言葉に選ばれた五人が首を縦に振る。

 その後は案外すんなりと五つのパーティが完成した。最後まで選ばれなかった人達は積極性のない人達だったし仕方がないだろう。逆にこれでバランスが取れていなかったり、話が合わなければ俺が間に入ってもいい。俺の最大の目的は仲間割れを防いで力を合わせることだ。


「それで皆の職業とかは分かりますか?」


 レベル1で職業につくことは出来ないらしいけど勇者や異世界人は別らしい。それに聖の制限に外れて異世界人の中に聖の名を持つ者も少なくないらしい。少しだけ俺の仲間の職業が気になっていた。


 コウタは変わらず格闘家だろうから他の三人がなんなのかが気になるんだよな。特に遠距離系の後衛職業がいれば楽になる。……ゲームの受け売りだけどな。


「私は……聖女でした」


 恥ずかしげにサクラは言った。

 確かに自分で自分を聖女だなんて言えないよな。俺だったら恥ずかしくて言えないし率先して言えるところはすごいと思う。それにしても聖女か。……その人に沿った職業が勝手に選ばれるのかな?


「俺は剣士だ」


 剣士、よりは素手で戦いそうなイオリが真っ直ぐ俺を見て言う。これで近距離が二人、中距離が俺、後衛が一人だ。中距離か後衛が一人いるとちょうどいいけど。


「ユウキは魔物使いでした」


 魔物使い……少し特殊だな。

 扱い方によっては化けそうだけど本体となるユウキが弱ければ使い物にならなくなる。そんな難しい職業だと言ってもいいよな。俺の知っている限りだと戦闘系職業よりも上昇するステータスも低そうだから……守りきれるかが心配だ。


 それでも強い敵を仲間に出来る後衛キャラはとてもありがたい。これはバランスが取れていると言ってもいいよな。


「……何か……気に触りました……?」


 無言が怖かったのかユウキが聞いてきた。

 俺の顔って怖いのかな。人気者二人に視線がいくから考えたこともなかった。


「全然、全員がバランスよく配置出来て都合が良すぎると思っただけだよ。特にユウキが特殊だからね。どうやって全員で強くなるかを考えていたんだ」

「それなら……良かったです……」


 オドオドして誰よりも女性らしいが、ユウキはこう見えて男性だ。ステータスに男の娘なんて書かれていても驚きはしないな。


 目元まで伸びた前髪は右側でとめられていて首元まで伸びた後ろ髪は女性らしさを強調する。身長が低いことも相まって男らしさなんてどこにもない。


「あの……ユウキに任せてください」


 腕で力こぶを作ろうとする姿も女性らしい。

 裏で男性からも人気があるだけはあるな。俺は少しもそんな気にはならないけど。そんな腐った展開は俺好みではない。至って俺はノーマルタイプだ。だからコウタ、そんな目でユウキを見るな……。


「それでは決まったようですね。なら明日からは少し遠出をすることになります。今日はゆっくり休んでください」


 リュードさんは笑顔で全員に言った。

 その日はブラッドウルフという魔物のステーキが出てきた。ランクという魔物の階級付けのようなものでは上位に入る高級品らしい。強い魔物を食べれば食べるほど強くなることもあるらしいので存分に振舞ってくれた。味は美味しくてご飯のような白い何かを三杯お代わりしてしまうほどだった。


 その夜は軽く歯を磨いてベッドに潜り込む。

 今朝のメイドがタオルなどを片付けていたので膝枕をしてもらって眠りについた。ただただ今の環境を楽しむ。俺は……特別な存在でありたい。そんな妄想をしているうちに眠っていた。メイドの名前はニースというらしく、宥める手つきは一級品もので俺についてくれて感謝しかない。


 次の日、俺は柔らかさが減った枕の感覚で目が覚める。平等に朝は訪れるというらしいけど訪れて欲しくない人にも朝は訪れる。一夜だけ覚めなくていい夢を見ていたのなら俺は朝なんてなくてもいい。そう思ってしまうほどに頭を支えていた今の枕は普通で、俺の心には虚しさが残っていた。


「おはようございます」

「ああ、おはよう。良い朝だな」

「私の膝枕のおかげでしょうか」


 優しげに笑う。

 彼女は向日葵だ、なんて言えばくさいだのなんだの言われるんだろうな。それでもそれ以外に言葉が思いつかなかった。恋ではない。きっとそんなわけはない。


「そうだな。今夜からもお願いしたいよ」

「……いいですよ」


 俺の心が跳ねた。

 例え嘘でも今だけはそれに溺れていたい。そう今だけはそれでいい。俺は特別なのだから。


「……勇者様、初戦闘ですのでお気をつけください」


 抱きしめるのははしたない。

 だから夜まで我慢すればいい。


 ニースの頭を撫でて優しい言葉をかけておく。ああ、なんて楽しいんだろう。どうか皆を守りながら、こんな生活を続けたいものだ。俺は今まで異性に恵まれなかった分だけ異世界では甘やかされたい。


 逃げたシュウに少しだけ反逆出来た気がする。逃げたから味わえなかった楽しみ方だ。まぁ、アイツはイツキがいればどうでもいいんだろうけどな。


「それじゃあ、行ってきます」

「行ってきます……? ……ああ、分かりました。行ってらっしゃいませ」


 ニースは薄く笑った。

リュウヤ君がお熱のニースの話はそのうち詳しく書かれる……のかな……? 恋を恋と認めないシャイボーイんでしょうね(適当)


多分、次回は戦闘会です。

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