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閑話 もう一人の勇者2

「では、本題に入らせていただきます。皆様を強くするという中に戦闘訓練を積んでもらう、といった、まぁ、課題のようなものがあるのです。そこで個人個人で戦闘をするもの、生産に回るものを分けようと考えています」


 分けるのか……いや、その方が効率的でいいのはよく分かる。テンプレ通り全員に戦わせて仲間割れを起こしやすい環境にするわけではないんだな。


「そうする理由はなんだ……なんですか?」


 クラス内でチンピラの立ち位置を持つ柳瀬伊織が手を挙げ聞いた。だが威圧で返されたんだろうな。簡単に敬語に戻している。……確かにあの威圧は俺でさえもキツイのだから当然といえば当然か。


「少しだけ勘違いしないでもらいたいのは私は貴方達の子守りを担っているわけではないことです。私を害するのであれば誰であろうと殺します」


 ニッコリといい笑顔で告げる。

 怖い、こんなにも簡単に人に恐怖を抱かせることが出来るリュードさんが怖い。威圧を受けていたのとは違ってリュードさんは笑顔を浮かべただけだ。そこに恐怖を与えるだけの力がある。……力の差が歴然としているのは明白だった。


「……俺が皆の子守りをします。どうか今だけはその怒りを収めては頂けませんか?」


 俺が言えるのはこれだけだった。

 最初に転移したての時にムッノー様から魔王討伐という話を持ちかけられた。その代償として自由と王族に近い好待遇が約束されたわけだが、そこで勘違いしてはいけないのは例え勇者といえど王族に手を出せば簡単にやられる。それをリュードさんは言いたいのだろう。


 それに何より俺は自分に自信なんてない。

 多分、人よりも高いステータスであることは、昨日のステータスチェックで分かっているし、ムッノー様からもお褒めの言葉を頂いている。それでも皆が幸せに、というよりも俺が幸せに生きるためには俺一人の力で何もかもをクリア出来るわけではない。戦力を考えて仲間を増やす。そんなRPGゲームのような考え方も必要なんだ。


 だから、皆の力を知らない状態で仲間が減るのだけは何とかしたい。俺の言葉でまとめられるかどうかは分からなくても、力を貸してくれる人を一人でも多く欲しい。リュードさんと敵対する気はないが殺されては俺が困る。


「……ふふふ、構わないですよ。君達は勇者君に感謝するべきですね。私からすれば皆、小石と変わらないのですから。自由を与えられたからと言って私に喧嘩を売るなんて馬鹿にも程があります」

「その通りです」


 俺の賛同に批判する人はいない。

 いや、批判するということは今の立場が崩れることを暗に理解しているんだろう。どうか、このまま馬鹿な考えは捨てて欲しい。俺はそう願った。


 軽く俺達を殺す。

 俺はリュードさんをそう評価している。


 あの目は俺が今までに見た人達とは明らかに異質だ。それだけはどうやっても俺の中で消えない考えだと思っている。それに威圧感だけは今の俺の中にも残っている。体が感じなくても心が感じている。絶対に忘れてはいけない感覚だ。


「話を戻しましょう。私が君達を強くするという話なのですが、無論、君達にも働いてもらう必要があります。それは強くなるためや魔王討伐において武器類を支給させやすくするために、です。仲間が簡単に良い武器を作ることが出来れば全員で強くなることは難しくないでしょう」

「それに失敗したものは売ったり素材は戦闘班が得たものを使わせる。必要な鉱石を王国が配布するから技能を上げるのに時間はかからない。そんなところでしょうか」

「そうですそうです、王国は大きいとは言っても資源が無限にあるとは言えないですからね。全員が手を取り合って強くなる。すごくいい感じがしませんか?」


 純粋無垢な笑顔。

 そこには先程までの恐怖はなく、どちらかというと人懐っこい犬のような優しさがあった。俺は少しだけドキリとして俯く。リュードさんは不思議そうに俺を見ていたみたいだけど、それ以上見ることは出来なかった。


「と、まぁ、そんなところで君達には二つの班に分かれてもらう。戦いたくないものは生産班に回ってもらって全然構わないですよ。最も強くなればなるほどに待遇の良さも変わってくるだろうけど。まぁ、一定以上は下がらないから安心してください」

「質問いいですか?」


 クラス副委員長の八重桜が挙手をした。

 リュードさんはサクラを見てから首を縦に振って「どうぞ」と返す。その姿にサクラは安堵して口元を緩めた。ちなみに委員長はシュウだった。俺はシュウと戦っても勝てないと踏んで立候補はしていない。


「ムッノー様との契約に好待遇とありましたが待遇変化はそこの規約に抵触しないのでしょうか。それと戦闘班と生産班ではどのようなことを行っていくのかを教えてもらえれば幸いです」

「好待遇の話からすると、それっていくらでも取り方はあるだろ。うだつの上がらない、やる気のない人達を養っていくだけ王国も馬鹿ではないし、先に頑張れば頑張るほどより良い生活を送れるとすればやる気にも繋がる。そこは私から見てもおかしいところはないと思うけど?」

「……一般市民よりは良い生活を送れれば身寄りのない俺達にとっては好待遇と捉えてもあながち間違いではないですもんね」

「そういうことです」


 ただし前提としては俺達を無理やり連れてきていなかった場合は、その話は簡単にまかり通るだろうけど。まぁ、そこは今のところ関係がないな。やる気がなければ首を切られる。社会という歯車に組み込まれた俺達として当然の理だろう。


 逆に何もしなくても衣食住は約束されているんだ。それが好待遇じゃないのならなんて言うのだろうか。……暗殺される可能性の方が高そうだけど。


「それで班分けについてだけど、これはダンジョンや兵士の付き添いでレベルを上げてもらうのが戦闘班。道具を手渡され勉強しながら先輩達から技能を授けてもらうのが生産班だと考えてくれればいい。君達は学生だったと聞く。運動よりは座学の方が好きという人も少なくいのではないか?」


 語るように手でジェスチャーをして話すリュードさん。さっきよりはその姿に好感を持てるし、こっちの方が愛らしさや顔の綺麗さも相まってモテそうに見える。


 本当にさっきまでの怖さが嘘みたいだった。


「ステータスの平均は五十もあればいい方です。逆にMPだけが高かったりすると生産向きでしょうね。これは例えですがMPだけが取り柄なら生産に、他のステータスが高かったり満遍なく偏りがないのなら戦闘向きと言えるでしょう」


 リュードさんが目配せをしてきた。

 これは俺に行けと言っているんだろう。確かにその話からすれば俺のステータスはかなり高いのだから。……いやでも、なぜ俺に目配せした? 俺のステータスを知っているのか?


「……俺は全ステータスが三百みたいですね。これって高いんですか?」


 すっとぼけてリュードさんを見る。

 どう返す、わざわざ褒めてくれるのか、俺はただただ対応が気になった。こんな俺は勇者として、個としての確立が出来ているのだろうか。


 笑顔を浮かべてきたので安堵した瞬間、リュードさんから拍手が聞こえた。表情は崩さず、それでもどこか道化師のような闇を感じさせる姿に少しだけ気持ちが揺れる。


「それだけあれば素晴らしいです。王国は何度も勇者召喚をしていますが、それだけの逸材は数百回に一度の存在でしょう」

「……お褒めに預かり光栄です」


 気恥しさはない。

 どこかセッティングされていた話のような気がする。もちろん、台本もセッティング内容も俺は聞いていない。きっとリュードさんの頭の中で考えられていた脚本通りにことが進んでいるんだろうな。


「さすが勇者ですね。貴方がいれば魔王討伐なんて簡単でしょう」

「……ありがとうございます」


 そうして俺は担ぎ上げられた感覚を拭えないままにリュードさんへの質問が終了した。班わけはすぐには終わらないにしても案外早く終わり、戦闘班は俺を筆頭に三十名、生産班は十名と言った具合に分かれた。


 戦闘班にはサクラやコウタ、イオリ何かもいた。俺達の中で先生はいない。きっと巻き込まれはしなかったのだろう。俺はそうだと思っている。


「うまく分かれましたね。では、生産班はあちらの部屋へと移動してください。私は戦闘班を任されていますので担当が違いますから」

「……わかりました」


 図書委員長であった日向千鶴が首を振り全員を先導して奥へと向かっていく。悪いがここからは俺達と生産班ではやることが違う。そこで摩擦が起きないことを願うしか出来ない。


「残った戦闘班にはパーティを組んでもらいます。どのような組にするかは自由ですがちょうど三十人いるのです。五人のパーティを六つ作ってください」


 そう言ってリュードさんは手をパンと叩いた。ここからが俺の戦いだ。組んだパーティによっては良い未来すらも壊してしまうかもしれない。出来る限りの最善策を俺はこのパーティ選出で手繰り寄せてみせる。

閑話がまだまだ続きます。

ああー、早く秀サイドやギドサイドを書きたいんですけどね(笑)。だからといって早く書いてしまうと不完全燃焼感が消えないので手を抜けないんですけど。

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