表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/273

3章24話 丸く収まるです

 脱衣所で服を脱いで一箇所に固めておく。

 本当は銭湯の脱衣所みたいに籠とかをたくさん置いておいて脱ぎやすい場所にしたいな。いちいち地面に服を置いていたら回収とか面倒だし。


「先にお湯をかけるよ」

「うん、分かっているって」


 とか言いつつも足が湯船の方に向かっていることに気が付かない僕ではない。浮き足立つってそんなにお風呂が嬉しい事なのかな。毎日ではないけど結構入れるはずなんだけど。


【久しぶりに一緒に入れることが嬉しいのでしょう】


 あー、確かに一緒に入るのは久しぶりか。

 最近、部屋に篭もってポーションとか制作ばっかりだったし空いた時間でお風呂入っていたもんね。よく考えてみればミッチェルに入ろうって誘われるくらいだったし。イルルとウルルは平常運転だったから知っていたけどさ。


「ふぁぁ」

「……やはりお風呂はいいですね」

「そうだねぇ、湯浴びばっかりだったから結構気持ちよく感じるなぁ」


 腰にタオルを巻いてロイスを膝に乗せる。

 エルドは隣で星座をしながら肩まで浸かっているけど、何だろう、僕よりも日本人らしい気がする……。腰にタオルを巻かないで頭にタオルを置いているしね。


 ロイスの肩に手を回してくつろぐ。

 ぶっちゃけ肌がすべすべしていて男の子だとは思えない節はあるけど、しっかりとついているものはついているんだよね。アキとかが見ていたら「ふぉぉ」とか言いそう。少し腐の気配がするからね。


「ギド様はロイスを前にすると砕けた感じになりますね」

「うーん、まぁ、弟だし。大切な家族に気を遣う理由もないでしょ。それに同性だから共感する部分も気を許せる範囲も違うと思うよ」

「確かにその通りですね。俺の時とキャロの時では扱いに差がありますし」


 くっくっく、と口元を隠して笑う。

 そんなに差があるのかな。僕としてはエルドにもキャロにも普通に対応しているつもりなんだけど。


「そこまで深く悩む必要性はないですよ。ただギド様のお傍にいる人達にはギド様の癖が何となくですが分かるものです」


 悪戯小僧のような屈託のない笑み。

 エルドがこんな笑い方をするのは初めて見たな。少しだけ驚いた。何かしてやられた気がしたので頭を撫でておく。


「これからも頑張ってくれ」

「当然です。パーティも執事としてもギド様の役に立つことを誓いましょう」

「僕もいるからエルドが一人で抱えることはないよ」


 なんだかんだ言いながら二人は仲がいいね。

 やっぱり男同志の友情みたいなのがあるのかな。僕とロイスは家族のような絆があるし、エルドに関しては信者としての忠誠心からきている絆だ。だけど普通に考えたらこれほどまでに折れづらい固い絆があるのかな。


 皆が僕を裏切る未来なんて見えないし僕も裏切る気なんてサラサラない。死なれるくらいなら僕がその未来を何としてでも回避してやるっていう気概はあるしね。


「ほら、長風呂は厳禁だ。早く体を洗うよ」


 少しだけ考えた後、ロイスを抱えて風呂椅子に座らせる。いつも一緒に入る時には頭とかは洗っていたからね。久しぶりに洗ってあげようと思った感じだ。


「僕も後でギド兄の体を洗ってあげるね」

「その時はお供します」

「うーん、じゃあ任せるよ」


 手の中で泡を立たせてロイスの頭につける。軽く頭を掻いてみたけどそこまで泡立たない。やっぱり先に泡立たせておいて正解だったね。日本みたいな楽しめる洗剤とは訳が違うよ。


「痒いところはないかー」

「もっと全体的に強くしていいよ」


 よくある質問に対して力を強めて欲しいって言われてしまった。マジか、ステータスが上がると軽い力じゃ物足りなく感じるのかな。子供の時には痛かった床屋の洗髪も大きくなるにつれて物足りなく感じ始めるのと一緒なのかな。


 洗剤を水で洗い流す頃にはエルドが頭を洗い始めていたのでロイスと一緒に悪戯をしてみる。なんてことはない、水で流している間に泡立たせた洗剤を頭に落とし続けているだけだ。水性のシャンプーが欲しいってすごく感じた。


「……落ちない」


 独り言だからか敬語のないエルドはとても面白かった。天然なのかな、全然気がつく素振りがなくて三分間くらいずっとお湯で流すのを繰り返していた。少しだけ申し訳ないね。


 最後に僕も二人から奉仕を受けて湯船に浸かってあがる。キャロが全員分の牛乳を替えの服の中に入れてくれていたので飲んでから着替えた。


「それでは稽古があるので失礼します」


 エルドはそう言って風呂場を出てからロイスと一緒に外へ出て行った。多分、庭で素振りか何かをしているんだろうね。僕自体は見たことがないから正解かどうか分からないけど。


 一応はお風呂のお湯も水魔法で綺麗にしておいたから次に回しても大丈夫なはずだ。でもなぁ、皆が入り終わるまで暇なんだよね。というわけでエミさんから鋼の両手剣を預かって直しておくことにした。


 エミさんは「気にしなくてもいいんだけどな」と言っていたけどそういう問題ではないよね。模擬戦をさせた手前、そういうのは直しておかないとさ。出張なのに出張費が出ないくらいに酷いように思ってしまうから。


 鋼の両手剣はものの数分で直ってしまったので、アキとイアと取ってきた薬草と魔力草を使ってポーションを作っておく。少し多めに作っておいて割合回復のものは鉄の処女にプレゼントするつもりだ。手土産みたいなのって必要だよね。


 結構、冒険者って早風呂なのかなと思っていたけど一時間くらい入っていた。やっぱり女性なんだね。イルルとウルルが報告に来ていた。


 就寝時間も近いので二人を連れて上に行く。

 短い時間だけど引っ付いてくるのは許そう。二人は二人なりに頑張ってくれているからね。ロイスが褒めていたくらいだし、それに薬草採集においては一番持ってきてくれている二人だし。


 だからさ、僕の背中に乗って胸を大きくするのだけはやめてくれないかなぁ。別に巨乳が好きなわけではないんだけど……。そういう目で見られているのかな。ギド=巨乳好きみたいなね。


「どっ、どうだ……?」

「……似合う?」

「私なんかが……いや、どうだろうか?」


 広間に入って早々に三人から聞かれたけどさ。えっと、ごめん。なんて返せばいいんだろう。


 三人は僕の家の備え付けの寝間着をまとって恥ずかしそうに聞いてくるんだけど。……うん、可愛いとしか言えないよね。だってさ、分かりやすく言うとすれば好きな子が自分のTシャツを着て「どうかな」って恥じらっているようなものだよ。うん、可愛いとしか言えない。……こんな時でも僕のボキャブラリが少ないことが仇になるなんて……。


 だから、僕なりの言葉で伝えないと。


「エミさんは普通の女性にしか見えません。その髪を撫でたりとか抱きしめたりとか、家庭的な姿を見たいって思いました」

「そっ、そうか……」


 エミさんの顔が真っ赤に染まっていく。

 よく考えてみれば三人の後に人が入っているわけだから、このエミさんの顔の赤さは湯あたりしたせいではないよね。きっと僕の言葉にミスはなかったはずだ。


「イアは女性というか女の子だね。一緒に遊べるだけで自慢が出来そうなくらい可愛くなっているよ」

「……誇ってもいいよ……」


 胸を張るイア。

 うんうん、ドヤ顔する意味は分からないけどかあーいかあーい。頭を撫でておざなりに返しておく。


「リリさんは……鎧姿じゃないことが珍しくてなんとも言えないです。ただ可愛くて良い香りがして……そう、男っぽい感じがするのに女性としての色気もある、そんな感じです」


 この世界の言葉でまとめることが出来ない。

 前にボーイッシュって言葉を使ったことがあるんだけどさ、皆から何言っているんだみたいな顔をされたんだよね。だからその言葉は使えないし……。


 リリさんを元の世界の言葉で例えるなら、学年に一人はいた男女にモテるボーイッシュな女性だ。ただその人達に比べれば顔のレベルは一段と高いし……うーん、宝塚とはちょっと違うんだよね。


 男らしさというよりも女の子らしい可愛らしさがあるのに、ボーイッシュな見た目にギャップがあって、みたいな感じかな。


 だから端的に言うのなら。


「普通に似合っていますよ」

「……いきなり堅苦しい言葉遣いをし始めたってことは本音なんだろうね。まぁ、それで許してあげよう」


 リリさんは僕の頭を撫でて笑顔を浮かべた。

 でも騙されないぞ。リリさんもエミさんも、なんだったらイアも茹でダコみたいに顔が真っ赤だったことは。


 とりあえずその日はそのまま寝ることにした。エミさんから「三人が模擬戦で頑張ったから願いを聞いて欲しい」と頼まれて同じ部屋で寝ることになったけど、なにか話し合いでもしていたのか、段取りをしていたようにキャロとミッチェル、アキが僕を部屋まで連行し始めた。


 三人って鉄の処女の三人だと思っていたけど、どうやら模擬戦で戦ってくれた僕の仲間達の方みたいだ。別に嫌な気持ちもないのでキャロとアキに挟まれながら眠りについた。ミッチェルは今日は譲ってあげたみたいだ。




 ◇◇◇




 寝息が聞こえる。


 二人の少しだけ怪しい寝息だ。本当に童貞には辛い声が聞こえてくる。今は……まだ外が明るくなってはいない。一度は眠れたけど状況を理解した体が無理やり頭を起こさせてきたのか。……こんな時に起こされる以上の地獄はないね。


 仕方ないので抱きついてくる二人をゆっくりと引き剥がしてベッドを下から出る。ミッチェルも……寝てくれているみたいだ。三人共疲れていたんだろうね。このままゆっくり眠っていて欲しい。


 頭が冴えて眠るのは辛いしどうしようかな。考えつくのは一度、水とかを飲むことくらいかな。っていうか、あの状況で羊なんて数えていたら、いつの間にか羊がおっぱいになりかねないし。本当に凶器が四つ腕に引っ付いていたら正常な判断なんて出来ないよ。


 僕は扉をゆっくり開けて部屋を出た。

夜中の話は元々書きたかった話です。誰が主になるのかは次回をお楽しみにして貰えるとありがたいです。


後、次回で3章の前半部分が終わる予定なので、一度、閑話を挟もうと思っています。中身としてはシュウとココが消えた勇者陣営の話です。ただ予定です(予定は変わる可能性があります)。中身としてはこの3章にも深く関わってくるものなので楽しんで読んでもらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ