3章22話 模擬戦はデットヒート?です2
先手はミッチェルが仕掛けた。
遠距離でワルサーを撃ち込んでリリさんの対処を見る。リリさんは少し落胆したようにレイピアで流してから両手剣を投げつける。
横に回転しながらミッチェルに飛んでくる両手剣はワルサー四発で撃ち落とされるが、それすらもこの戦いでは隙になってしまう。
「はっ!」
「その短剣固いね。でもそれまでだ!」
「それまでの武器をギドさんが渡すと思いますか?」
ぶつかり合うレイピアが凍っていく。
だけで終われば良かったのに発光によってリリさんの目を潰した。咄嗟に目を瞑っていたけど数秒間は目が見えづらいだろう。僕ならアイシクルウォールで対処するけど、リリさんならどうするかな。
「化け物ですか?」
「Aランク冒険者の勘を舐めたらいけないよ。戦闘経験はこれでもたくさん積んでいるんだ」
まさかの勘だよりか……。
すごいね、僕なら多分後手に回ってしまって相手に優位を与えてしまうことになる。時にはその感覚も必要になってくるのか。
「それにそう来るのは考えていた。最初にあんな攻撃をしたことが君の失敗だよ。……まぁ、ここまで食らうとは思わなかったけど」
最初の攻撃が最高威力だと考えていたのか、いや、戦い方があまりにおかしすぎる。リリさんはカウンター狙いだったに違いないね。僕がリリさんだったら相手の油断を狙ってそうすると思うし。……となればリリさんはミッチェルが強いことを認めているのか。
「ギド兄、ウズウズしている?」
「えっ? いや、そんなことはないけど」
「……嘘ばっかり、さっきから膝が揺れて座りづらい……」
「……気が付かなかった。でも、多分、心配しているだけだよ、きっと」
「それも嘘だと思うよ。ギド兄、目が上下しすぎだもん」
目が上下……全然気が付かなかった。
いや、これはきっとドキドキして目が泳いでいるだけだ。僕が戦いたいとかではないはず。だって戦ったところで鉄の処女を力でねじ伏せるだけだし。
「それならこれはどうですか?」
「……へぇ、分身か。初めて見たな。でも、それまでだね」
「そうだといいんですけどね」
ミッチェルが七人に増えてリリさんに向かっていく。主にレイピアとレイピアのぶつかり合い、もしくはワルサーで撃つ係と三、四で分かれている。
よくある弾幕ゲーがあるけどそれに近い。
四方八方からたくさんの銃弾が飛び交って、悪いけど箱庭にもかなりのダメージが入っているほどだ。僕であっても交わしきれるかどうか。
それを目を閉じて交わしきるリリさんはすごいね。多分、最後の最後まで信用出来るのは勘なんだろう。
「あたら、ない!」
「動きが単調だよ。そんなんではギド君も飽きるんじゃないかな。夜の方が心配になってくるよ」
「手を出されたことなんて、ありません!」
何を恥ずかしいことを言っているんですかね。手は出さないよ。手を出すということはそれなりに準備が必要だと思うし。子供が出来たらどうするんだろ……。僕に育てられるほどの財力も力もないし。
元の世界でさえ英才教育だ、なんだって高校生までにマイホームを持てるくらいお金を使うらしいからね。大学に行かせるならもっとかかるし、ましてやこの世界で学校なんて行かせるには天才じゃないと無理だ。相手はなんと言っても貴族だからかける金額も違うでしょ。
「……私が勝ったら君のギド君とイチャイチャするんだよ? 嫉妬はしないの?」
「……嫉妬はしません。ゼロとは言えませんけどギドさんを私一人で縛り付けるなんて無理ですから。それならたくさんの私の好きな人と一緒に幸せにしてもらうだけです」
「ふーん、私には分からないね。別にギド君がたくさんの女子を囲うこと自体は普通だけど、その数が尋常じゃないだろ? 私が知っているだけでも十一人はいる」
十一人……フェンリル三人とミッチェル、キャロ、シロ、悪魔の双子……思い当たる節が鉄の処女を含めると十一になるんですけど……? でもイルルとウルルが僕のことを好きなのは、リリさんは知らないはずだから後二人が浮くんだよね。
会話の時に手を止める二人は戦いながら楽しんでいるんだろう。それだけ仲がいいってことだから見ていて少し微笑ましい。
「十三人ですよ」
「……へぇ、本当に色男を好きになったんだねぇ。私も人のことを言えないけど」
「仕方ありません。ギドさんですから」
「……ふっ、ははは。なるほど、これ以上しっくりくることはないね。……それなら続きを始めよう。もし私達に勝てたら抱いてもらえるかもしれないよ?」
「……それなら負けられませんね!」
全員のワルサーの弾丸が飛び交いリリさんはそれを弾き続ける。弾いた先にミッチェルの分身がいるために消え続けていくけど、いかんせん全てが消える様子もない。
このままだとジリ貧だけどリリさんはどうするんだろう。……僕だったらそうだね。
「一気に消せばいいだけの事だ」
全体魔法で消せばいい。
分身を見る限りだと大したダメージではなくても分身は消えていた。そう見越しての攻撃が一番当たり障りのない良い攻撃だ。
実際、驚いた様子を見せたミッチェルは分身で本体を守っていた。そこをリリさんが見逃さないで攻撃を仕掛けたんだけど……。
「させると思いますか?」
「……偽物だって知っていたさ」
後ろからレイピアを刺されてリリさんは顔を顰める。だけど余裕地味た表情は変えずに振り返って剣戟を加えていた。
「……この一瞬で急所を逸らすなんて……お見事です」
ミッチェルがその攻撃で沈む。
だけどミッチェルの表情はニヤリと笑っていた。瞬間、リリさんは吹っ飛んで壁へとぶつかる。僕も見えるか見えないかの速度でアキが矢を放っていたのだ。
これで一対一の構図が出来上がった。
見た感じでは近距離対中距離でアキが劣勢に見えるけど、そんなわけもない。僕はアキを信じているしミッチェルの戦いと同じくらいにいい戦いをするって考えていた。
「……攻撃をさせていただきありがとうございます」
「あいつは頑張りすぎる癖があるからな。早めに休んでもらおうと思っただけだ」
「それを主はツンデレと仰っていました。ちなみにですが意味はお分かりですか?」
「……分からねえな。ただお前との戦いはずっと楽しみにしていたんだ。いいと思わねえか。オレはすげぇ興奮しているぞ!」
「……すみませんが私も少し興奮しております。何せ主以外に本気で戦っても良い相手なんですから」
エミさんとアキは不敵な笑みを浮かべた。
アキは表情を変えることなく親指を噛んで尻尾に付ける。綺麗な毛並みが赤く染っていく姿はどうも妖艶さを感じさせてきた。
「……へぇ、お前は獣人族の中でもかなり上位の存在なんだな」
「獣人族とは限りませんよ。主のことを理解しているくせにシラを切っても無駄です」
「……ふふ、そうだな。オレは人狼、お前を、アキを倒す!」
「私は主のためにエミ様を倒させていただきます!」
大きく生え揃った毛並みはいつものような優しさに充ちたものではない。相手の攻撃を吸収するための鎧のような感じだ。現に初撃でエミさんが炎魔法を使ったのにアキにダメージはほとんどない。ゴワゴワとした毛に掻き消されて逆にアキが迫ってくるだけだ。魔法自体が悪手になる可能性が高い。
僕ならもっと高い威力の魔法で攻撃するかもしれないけど、あいにくとエミさんは完全物理型で魔法の方は大して強くない。明らかにエミさんが鋼の両手剣で倒しきれるほどアキは優しくないだろう。
「やっぱり効かねぇか! 予想はついていたから辛くはねぇな!」
「この程度なら蚊に刺された位にしか感じません。まさか大口を叩いたのにこれで終わるわけがありませんよね?」
「当然だ。リリに出来てオレに出来ねぇわけがねぇ。悪いけどオレに付き合ってもらうぜ!」
話し方はいつもの調子とはかけ離れている。
だけどその目には明らかに何かを見越しての展望があって、アキ以上に楽しそうな笑顔を浮かべていた。アキは人のことを戦闘狂だとか言えない気がするね。
「……オレの故郷ではグングニルという聖槍の話があってな! オレも昔は憧れたもんだ! だからこれはオレが求める最大のもの! オレが求めるのはギドとより強くなるための最強の武器だ! 来い! 心器、ギドニル!」
僕は盛大にずっこけた。
そのせいでシロが膝から落ちかけていたけど知ったことではない。なんだよ、ギドニルって……。これじゃあ神も殺せないよ! 殺せるのは僕の童貞マインドだけだよ!
「……それすらも潰してみせます!」
「オレも負けられねえんだよ! ここまで頑張ってくれた二人のために、な!」
リリさんはもう起きているイアに泣きながら介抱されている。「最初に負けてごめん」と悲しそうに言っているけどリリさんは気にした様子もない。まぁ、そのおかげで心器も出せるようになったし良いのか悪いのかよく分からないよね。キャロとミッチェルも同様にだった。だから本当に立って戦えるのはエミさんとアキだけ。
僕はこの後の展開を期待して二人の様子を見続けた。
なんとか間に合った……。だけど本調子じゃないです。すいません。次回できっと模擬戦は終了するはずなのでお楽しみにしていただけるとありがたいです。
少し分かりづらいかもしれないので補足をしますとキャロは物理面で強いとは言っても防御をかけまくったイアを一撃では倒しきれません。それを理解していたのでミッチェルが影で倒したのです。エミは強い人と戦いたかったのでミッチェルかアキのどちらかと戦うためにリリに消耗戦を任せました。どちらになっても戦力は拮抗しているので片方だけと本気でやり合いたいという考えでですね。よってエミはリリがミッチェルを倒した時点で休んでもらいたかったんです。長文とこのような説明を小説内に入れられなくて本当に申し訳ありませんでした。




