3章16話 異変は突然に、です
区切りを考えて少し短めです
「それにしても、魔物が多いね」
「おかしいです。オーク種は強い分類に入りますしゴブリンと同じく女性の敵ですので狩っていたのですが、これは異様です」
「……私達もよく倒している。稼ぎとしてもいいし。でも、これは……」
【魔力が不自然に溜まっていますね。第三者が行っている不自然な渦です】
だよね、よく分からないけどこれだけの数が異常なのは理解出来る。初めてこの森に来た時よりもオークが増えているんだ。異変を感じない方がおかしい。
魔眼なら魔力の流れも見れるし。そう考えると誰がいつ魔法を使えるか分かるし結構強いんじゃないのか。レベルも極端に上がりづらいしね。
【魔力溜りですね。ダンジョンのように魔物が発生しやすくなってしまいます】
ゲームで言うところのリポップゾーンみたいなものかな。魔物は生殖だけが子孫を残すやり方じゃないみたい。……でも、それなら永遠と人対魔物の構図で人が勝つことはないんじゃないのか?
ふとした疑問に少しだけ背筋が凍る。
例え扱いは魔族だとしても心は完全に人族だ。肩入れするなと言われる方が無理だね。ただ敵だったらその類に入らないけど。
【人は魔物を狩ることで生きる糧を得ます。家畜を飼うよりも効果的なので、マスターの言うウィンウィンな関係に含まれるのではないでしょうか】
そう言われると何とも言えないな。
それにしても永遠に戦い続ける世界か。なんか嫌だね。魔力溜りも人為的なものならばやる意味も絞られてくるし。
「……どうしてこんな所に」
「魔力溜り、だね。それにしてもいきなり現れるのはおかしいから誰かがそうしたんだ」
「ギド、よく知っている。付け加えるのなら魔族でもない。魔族ならもっと用意周到にする。それにもっと優しくて……いや、何でもない」
そこまで言ってイアは言葉を濁した。
まぁこれ以上は魔族を庇っているように捉えられるし当たり前か。にしても、魔族に思い入れでもあるのかな。
魔族扱いの僕からすれば嬉しい限りだけど。
魔族じゃないとすればテンプレ的に考えられることは誰がいるかな。……勇者とか異世界の組織? それにしては扱いが雑過ぎないか? 勇者なら王国も関わってくるだろうし。
「とりあえず目的のオークのコロニーに向かおう。魔力溜りの話は帰ってからだ。これは少し準備をしないといけないかもしれない」
「早く気がついた分だけ楽。気がつくのが遅れて地図から消えた街も多いから。……王国かな」
「分からない。ちなみにそう考える理由は何?」
「ついこの前、勇者召喚に成功したらしい。これは高ランク冒険者には伝達された話。でもジオが言うには逃げた勇者も三人いるらしいから可能性は高い。単純に王国がバレないように領土拡大を狙った線もあるし」
イフは理由は知っているんだよね?
【……すいません、これに関しては分かりません】
イフが知らない……?
それならスキルを作る何かが関わっていることは確かになるし。神とかかな。……あー、もう! 考えるのはなし! 頭が痛くなる!
逃げた勇者が三人ってことは妹と幼馴染ってことはないはずだ。それなら二人だけのはずだし。……いや、逆か。二人が逃げて他にも一人が逃げた。最高で三人が、最低で一人が敵に回ることになる。
もし妹が来たのなら絶対に妹の能力は僕に関することだ。これは断言出来る。固有スキルとか心器とかは心を写したものだからね。あいつが考えそうなことが能力に投影される。僕の場合は近接戦が怖いからワルサーになったくらいだ。
幼馴染に関しては本当に分からない。
でも守ることを目的とする能力だと仮定しておこう。いつも僕を守ることを生きる目的にしていたくらいだし。
それだけ分かれば今は十分だ。
覚悟だけは持っておいた方がいいからね。アイツらのことだ、来るとしても未来を考えずに動くはずがない。勇者召喚が少し前に行われたとしたら来るまでに時間もかかるはずだからね。……ここまで分かっている自分が腹立つ。
準備をするだけで心に余裕が持てるからね。心に余裕がないと綺麗な女性にはモテないよ。……余裕を持てるだけに。
【史上最悪な程につまらないですね】
反応してくれるだけイフは優しいね。
あの……照れるのは分かるんですけど真っ赤な顔を視界に貼り付けないでください。結構、前が見えないのは辛いんです。
「まずはオーク狩りに専念しようか。魔力溜りがあることが分かっても巧妙に隠されているみたいだから探せないし」
「うん、分かった」
話が一度止まった。
僕もドレインを片手にイアを下ろす。さすがにイアを担いででは十全に戦えないし。それに片手剣扱いで戦っているけどドレインは元々両手剣だ。両手の方がそれだけ威力も上がる。
「……ギドは魔族って嫌い?」
下ろして少し経ってから後ろで聞いてきた。
振り向いてはいない。だからどうして聞いてきたのかも知らない。でも返事は決まっている。
「イアは僕のこととかフェンリルの三人が嫌いか?」
「……好きだし信用している」
「それと一緒だよ。嫌いじゃない。それに差別をしない女の子とか僕の好みだよ。イアはそのままでも僕達が受け入れる。僕達をイアが受け入れているみたいにね。なんでそんなに好んでいるのかは分からないけど」
「エルフは共感する種族。共感する相手には尽くすのが当たり前。それにハーフと聞いてもギドは嫌な顔をしなかった。今だって私のことを気遣う。それが好きになる理由だよ」
「その期待にも応えるために頑張りますか。アキもオーク狩りをしよう。初めての共同作業だよ」
共同作業って言葉に二人が生唾を飲み始めた。そこまでの事なのかな。ただ焚きつけたということには代わりなさそうだし、うん、良かったということにしよう。
「アキはイアを守りながら隙を見て矢を撃って。ヘイト……じゃないや、相手の攻撃とかは僕が受け続けるから」
久しぶりの最前衛だ。
近場にコロニーがあるみたいだし、そこからまずは潰していこう。久しぶりの戦闘なのに結構ハードだな。……あれ? 僕の一番したかったことって薬草採取だったはず……あれれ?
◇◇◇
オークのコロニーはとても広く外壁がないにせよ、どれだけ大規模なコロニーかは見て分かっていた。だけどやっぱりキツいものはキツいね。
「ふっ! はっ!」
「火よ集まりて敵を貫け! ファイアランス!」
「近づかせるわけがありません! 死になさい!」
思ったよりもオークが多い。
総数とかは聞いていたけどさ、何百ですって言われても実感がないじゃん。でも戦ったらよく分かる。何だこの量は……。
倒しても倒しても奥から新手が現れてくる。辛いか辛くないかと聞かれれば僕は余裕だ。だけどイアが魔法特化だから怖い面も多々あるんだよね。その分、悪いけどアキにはイアの護衛も頼んでいるし。
さすがにすぐに木々がある中で範囲魔法を使うことは出来ないし。変に森に攻撃を与えて異変を察知した他のコロニーのオークが来ても面倒なだけだ。
それならこの魔物の流れが途絶えるまで戦い続けるだけ。この中で一番にやられそうなのはイアだから細心の注意を払う必要があるね。まぁ、数に限りはあるだろうから永遠と続くなんて心配はしていないけど。
僕は浅く呼吸をしてから目の前のオークナイトの攻撃をいなしオークだけを斬り殺す。オークナイトを倒さない理由は幾つかあるんだけど。おっと。
まだ倒せない理由があるからオークナイトには防戦一方で戦う。そのおかげか調子に乗って僕を蔑んできているけどね。
アキ、わざとだからそんなに睨まんでもいいよ。
「少しだけ勢いが少なくなった! イアはMP大事にして!」
「うん!」
「アキは狙撃をお願い! 流れの根本を断てばいいだけだ!」
「分かりました! サンダーアロー!」
普通の獣人はMP量が少ない代わりに運動能力が桁違いに高い。普通ならMPを主軸にした戦い方をする武器であるライフウは使えないだろう。逆に人族なら弓を引くだけの力を持っている人も少ないし矢を放つだけで息切れ寸前に追い込まれる。だけど人狼は少しだけ違う。
人狼は魔族と言われるくらいにハイスペックだ。それこそ獣人よりもステータスの上がり方がえぐい。物理魔法両方に幅を利かせられる人狼のアキからすれば魔法の矢なんて些細なものにしか感じないだろうね。
現に武器性能も含めてだけど雷の矢だけで入口に固まっていたオーク達は外へ出てこなくなった。村にたてこもっている感じかな。外へ出ればすぐにアキの餌食になるし。
「ブギャ!」
「逃がさないよ!」
指揮官であるオークナイトが声を上げてオーク達が色めき立ったけど、何を言いたいのかなんて通じていなくても分かる。どうせ危機を抱いて撤退を始めようとしているだけだ。行動が遅すぎるって。
「アキは回収に回って! 僕はもう少しだけ残党を狩るから!」
そもそも流れが途絶えることがないように見えて辛かっただけで、オークナイトを倒すこと自体に難しさなんて何もない。入りたくてもオークナイトを先に倒せば指揮がなくなって変に行動されても辛いから倒さなかっただけで、流れが緩やかになったのなら指揮官は不要だ。
一撃で首を飛ばして倉庫にしまい近場のオークを斬る。体を蹴って他の場所に飛んでオークを狙い続ける。本当にステータスのおかげだね。普通は出来ない。
「ふんふふふーん」
一時期、流行ったボーカロイド曲を鼻歌で歌ってみたけど、ちょうど地面が少しだけ揺れた。僕のせいじゃないはず。……カラオケで五十点台を叩き出した僕が言えたことじゃないか。
「……イフ様、ありがとうございます」
アキがそんなことを呟いた気がするけど……うん、気のせい気のせい。音痴の歌ほど嫌なものはないはずだからね。……だよね……?
作者も某ボカロ曲で五十五点を叩きだしました。
苦手な曲と得意な曲って極端に分かれますよね(笑)
※一応、日曜まではストックがありますがその後は毎日投稿できるか分かりません。気長にお待ちください。




