3章14話 薬草が切れたのです!
お久しぶりです!
ようやく用事が終わりました!
「あっ、終わった……」
「消費が早いですから仕方ないですよ」
いちいち倉庫から貯めておいた薬草類を取り出してポーションを作っていたのに、ついについに尽きてしまった。商人ギルドに入ってからちょびちょびとは言っても消費し続けていたしなぁ。
今日はフェンリルが休みなので僕の近くに来ようとしていた。実際、気が散るので一人だけ選ばせた結果、勝ち上がったのはアキだったけど。ポーションを作っている最中は楽しそうにしていた。
商人ギルドに入ってから一月の間、僕はポーションだけを流し続けていた。さすがに武器を流すのはやめておいた方がいいからね。そのうち自分の店にアクセサリは置くつもりだけど。
ミッチェルとかとたくさん取った薬草もフェンリルに集めてもらった薬草も全部が尽きた。ついにすっからかんだ。食い扶持がなくなるってこういうことを指すんだね。
「仕方ない……久しぶりに休むとするかー」
「最近、主は休み無しでしたからね」
存外休むことは悪くないと思う。
テスト前の一週間くらい、その位の頑張りを一ヶ月ぐらいは続けていたからね。もう一月と半月前にこの異世界に来たんだよ。どれだけ馴染めたかな。
人差し指で空中をくるくるなぞってから椅子から降りる。念の為にと置いてくれたベッドに腰掛けて隣を叩いてみた。こうすればアキはすぐに隣に来るからね。
「今って何時?」
「まだ朝食を食べたばかりですよ」
そんなに時間は経っていないのか。
てっきり体力回復ポーションを四十本作っていたので結構経っていると思ったんだけどな。ここは僕の腕が上がったと思っておこう。日に日に生産速度が早くなっていく実感はあったしね。
会話だけを考えると縁側で日向ぼっこをする老夫婦なんだよなぁ。いいなぁ、日向ぼっこ。でもそれをするとシロがお腹に乗ってきて眠りづらいし。最悪はアミも乗ってくるからね。体勢を崩せないのはちいとばかり辛い。
「……膝貸してくれない?」
「主は膝枕がお好きですね。いいですよ」
子供の耳掻きをするかのように膝をポンポンと叩いて手を差し出してきた。そこに頭を置くとゆっくり膝まで運んでくれる。僕の膝枕担当はミッチェルかアキだから慣れたものだね。時々、反対もあるけど。
「……気持ちいいな」
「主を喜ばせることが従者の役目ですから」
「従者じゃないよ、仲間だよ。いや、家族かな。どちらにしても心の離れた言い方は悲しいからやめてね」
「……はい」
嬉しそうに頬を染めて首を縦に振ってくる。
アキの照れ顔って珍しいな。激写しておきたいけどカメラもないし今度でいいや。ってかカメラは作っておこっと。薬草使い切ったから全員で休みを取ってハイキングでもいいし。
僕の家に住む以上、家族や従者、奴隷であっても等しく従業員と変わらない。要は休みは必要だよねってこと。よく女性に仕事を押し付ける夫とかがいるけどそれにはなりたくないからね。ブラック反対、ホワイト歓迎だ。
「もふもふ」
「……尻尾を触られると心地よくなってしまいます。私も眠ってしまいますよ?」
「アキの寝顔は珍しいから全然いいよ」
ゆっくり時間が流れる感覚は嫌いじゃない。
でもなぁ、働き詰めだったせいかここで大きな休みとか癒しを得ると仕事をしたくなくなりそうだしなぁ。
「……人をダメにするアキ」
「褒め言葉でしょうか? 嬉しいです」
「気持ちが良すぎて何もしたくなくなるよ。何かすぐに復帰できる手段とかないかなぁ」
「……気晴らしに外に出てみてはいかがですか? 薬草の貯蔵をしておけばいつでも仕事の再開が始められますし、少しずつ始めていってもここまで働いていれば文句は言われませんよ」
アキにしては良い意見だね。
僕の仕事に関しては休んでいて欲しい派だから「ヒモになっていていいんですよ」みたいな事を言われると思ったんだけど。
「気晴らしにか……悪くないかも。冒険者の資格が取り消しになるのって何ヶ月くらいだっけ?」
「目安は三ヶ月です」
三ヶ月か。それなら簡単な依頼を受けつつ薬草類を取るのも手だよね。それにしてもここまで目をキラキラさせるアキは久しぶりに見たな。僕の服を洗う時ぐらいしか目を輝かせないし。それはそれで恥ずかしいけどね。
「休み返上になるけど、どうする? ちょっと依頼を受けるのと一緒に薬草を取りに行こうと思っているんだ」
「もちろん! ついて行きますよ!」
「まぁ一休みしてからだけどね。朝にミッチェルが残してくれた昼ご飯もあるし。お昼を食べてから依頼を受けにでも行くか」
それまでは寝よっと。
寝るならやっぱり膝枕もいいけど抱き枕もいいよね。そのままお腹を頭で押し続けてアキを横にさせた。このベッドは僕専用とか言ってデカいからね。こんなことをしても外に出ることはない。
「あの……主……?」
「アキも久しぶりの休みだろ。一緒に寝ようよ。普段はミッチェルとかロイスに譲っているでしょ。……それとも嫌かな」
「嫌なわけがありません。それならばご一緒させてもらいます」
本当にチョロ……おっと、素直な子だ。
この考えもイフに届いているから変な事を言われてしまうし。うん、早く実体を作ってイフに考えを共有されないようにしなきゃ。メリットもデメリットも大きいし。
アキを僕の方ではなく反対側に向かせて後ろから抱きしめたままで瞳を閉じる。何となくだけどアキって胸にコンプレックスを持っている節があるからね。僕が大きい胸が嫌いだったら戦闘の邪魔ですし好奇の目に晒されますし要らなかったです、ってはっきりと公言するくらいだ。
だから胸を感じて寝るのもいいけど今日は柔らかい背中と、アキの陰では自慢で手入れを怠らない尻尾を楽しめる寝方にする。それにこっちの方がアキはドキドキして良い顔をするしね。……絶対に今の僕はゲスい顔をしているんだろうな。知ったことか。ふはーは、この尻尾は僕だけのものだ!
「……少し恥ずかしさを覚えますね」
「生きている証だよ。僕にとってはご褒美だね。今日の今日まで頑張った甲斐があったよ」
「……私にとってもご褒美です。こんなに幸せでいいのでしょうか」
「うーん、いいんじゃないかな。僕のモットー……いや、生きていく鉄則の中にウィンウィン、つまりは両者が得をするっていうやり方が一番なんだよね。幸せに感じるのなら僕も嬉しいし」
右手でアキのお腹に巻きついた尻尾を弄って左手で抱きしめながら頭を撫でる。元の身長なら無理だったな。転移か転生か分からないけどこの体でよかった。
「極楽極楽」
「……すいません、眠くなってきました」
「いいよ、寝ても。……ふぁ……僕も眠いや。このまま……一緒に……」
「はい……おやすみなさい……」
アキの寝顔は見れないけれど微かに聞こえる寝息が僕を安心させて眠気を増幅させてくる。微かな寝息が妙に愛おしい。尻尾を弄ることをやめて右腕をアキのお腹に回す。
「……アキ……おやすみ……」
返答か分からないけど尻尾が僕のお腹に巻きついてきた。クスッと笑みが漏れてしまい僕も眠りについた。
起きた頃には昼過ぎだった。
とはいっても十二時半くらいで寝過ごしたわけでもない。スヤスヤと眠るアキの鼻をすすっと撫でてみるとくしゅんとくしゃみをする。どれだけ可愛ければ気が済むのだろう。
くしゃみをした反動かアキは薄らと目を開けて擦りながら僕を見つめてくる。うーん、悪戯心をくすぐられるね。
「おはよう」
「おはよう……ございます……?」
上半身を起こしたアキのお腹に抱きついて反応を待ってみた。しかし効果はいまひとつのようだ。ミッチェルなら赤面してあわあわするんだけどなぁ。
「……やばい、また眠くなってきた」
「それはさすがにダメですよ。私との約束を破るんですか」
約束って薬草採取のことだよね。
薬草採取=デートとでも捉えているのかな。それとも単純に動くことが好きなのか。どっちものような気がする。
「なら、行こ。お腹減ったし」
「……初めてのデートです」
あっ、やっぱりデート目的なんだね。
それなら薬草採取の後はどこか回ろうか。軽いものなら夜ご飯前でも食べていいしね。初めてやるけど薬草の納品の依頼を受ければいいから一石二鳥か。
昼ご飯を食べ終えた頃には一時を少し過ぎた頃だったけど、空間魔法を使えば移動時間もかからないし問題ない。
外へ出る時にある一点に目が向いてしまう。
動きやすさを重視したホットパンツから出ている大きめの尻尾だ。さっきまで僕がもふもふして楽しんでいた尻尾なんだけど……。
アイリやアミほどではないけどアキも尻尾に感情が現れやすいよね。もふもふしているけどどこかピンと張っていて気品がある。なんだろう、色気みたいな。
僕はササッとミッチェルお手製の服に着替えて外に出た。今日も修行で近くにいれないらしいから僕も頑張らないとね。
秋風が少し冷たい。
こんな時にミッチェルが作ってくれた黒コートが僕を暖めてくれる。オークキングの皮から作られたものだから防御力もある。色付けとかあまり厚くならないように出来ているところはミッチェルの腕だろうね。本当に感謝しか出来ない。ちなみに売るならいい値段します。
「今日は私がミッチェルの代わりですから」
「……そっか、ありがとう」
いつもミッチェルと繋ぐ手をアキが握ってくれる。ここまで積極的なアキは見たことがないや。
ぶっちゃけ日本だったら浮気だよね。
ミッチェルもアキも許しているから出来るけど日本なら世間が許さないし。一夫多妻制なんていつの時代だって叩かれるわ。……ロイドとかが住所を特定しそうで怖いよ。
「……イチャつきすぎ……」
「あっ、イア」
「お久しぶりです。イアさん」
途中で背中を叩かれたので振り向いてみるとフードで顔を隠したイアがいた。顔は見えないけど声音からして怒っていそう。僕何もしていないよね?
「……どこ行くの?」
「最近、依頼を受けていなかったのと薬草が尽きたから森に行こうかなって。イアとアキは知り合いなの?」
「……行き先は同じ……歩きながら話す」
「そうですね。ここでは通行の邪魔になりますよ、主?」
それもそうか。
首を縦に振るともう片方の手をイアが取って歩き始めた。……なんで僕の歩幅に合わせられるんだろう。アキなら付き合いで分かるだろうけどイアとはあまり会ったこともないし。あれかな、前に聞いた共感ってやつかな。
「一度だけ、フェンリルと一緒に依頼を受けた」
「あの時は助かりました。まさか依頼の定員人数が六人だとは……」
「いや……こっちも人数不足。ランクが高くても人数が足りなければ受けられない。……本当に世知辛い……」
「とりあえずアキ達がお世話になったことは分かったよ。ありがとう、今度なにかお礼でもするよ」
「……一日デート券が欲しい」
「それは休みがあったらね。まぁ、後々話そうか」
今はアキとのデートも兼ねているしそういう話はしたくない。女性を前にして他の女性とデートの話をするとか屑じゃん。
アキとイアがメインヒロインの話です。
穴埋めのアキとの二人デートは今度書かせてもらいます。いや、帰る前に書くことになるのかな?
ちなみに「ふはーは」の発音は「ふ↑は↑ー↑は↓」です。この文は不必要でしたかね……?




