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3章12話 迎える日常なのです

 今回のゴブリンのコロニーはかなり大規模なものだ。自分達で決めた枷でどこまで戦えるのか興味があるし、多勢に無勢な三人はどうやって魔物を倒していくのか。僕ならドレインで薙ぎ倒すだけだけど皆ならそうはいかないし。


 まぁ、そこら辺は皆に任せよう。

 単純に興味の方が強いけど三人はどう戦うのかな。僕が手を貸す場面はあるのかな。本当にどうするんだろ。


「……場所は廃村のようですね」

「どうしようか……ギド兄が敵の少ないコロニーを三人で潰させるわけがないし、広範囲であると考えていいよね」

「かなりの数の人がここで死んでいるみたいなの。……呪いの密度が濃すぎるから勝手に魔物が吹き出しているみたいなの」


 ロイスとエルドは見た感じの敵の拠点の情報を、キャロは的確に拠点の立地について理解しているみたいだね。うん、確かに闇を司る人達にとってみればここは天国だ。闇を司るってなんかカッコイイね!


 こんな時に呪魔法を使わないって言わなかったら強化されていたんだけどね。辺りの嫌な気を操ることも呪魔法ですることが出来るみたいだし。そう考えると死人の考えを踏みにじっているようにも考えられるね。嫌な魔法として捕えられているのはそのためかな。


 ぶっちゃけイフから聞いただけでやった事はないし、どれだけ忌み嫌われている魔法なのかも知らない。キャロがこの魔法を持っているだけで嫌われる、みたいなことは言っていたけど詳しくは聞いていないし。


【とても嫌われていますね。大きな犯罪を犯す者は大概この魔法を得意としています。説明するのなら霊感に近いものでしょうか。霊感が強ければ強いほど霊からの干渉は大きいのと同様に、呪魔法を持つものはどこか闇を抱え呪いの影響を受けやすいのです。マスターの庇護下にあるキャロは無事ですが犯罪を犯す呪魔法を使えた者達は全て、このために自分の求めていることとは違うことをしてしまうのです】


 ……僕やキャロ以外にも呪魔法を持つ者はいるんだ。でも不遇だね。そんなことを知っていたら誰も呪魔法を持つ人を責めないだろうに。


 いや、数が少ないのかな。

 そもそも多いのなら呪魔法耐性とかを持っている人がもっと多くていいし。一番最初にイフも珍しいっていうくらいだから本当に数少ないんだろうね。


「……っていうことにしようと思う」

「少し汚いですけどそれが最善ですね」

「魔物との戦いに汚いも何もないの。生きるか死ぬかの弱肉強食の世界なの」


 僕が考えているうちに三人は作戦を決めたようだ。草むらの中に隠れていた三人は外へ出てゴブリンの前に立った。


「ファイアーボール!」


 ロイスの立てた作戦は至ってシンプルだ。

 数が多いのなら現れる前に倒してしまえばいい。幸か不幸か敵の拠点は廃村だし人質もいない。家々だって木製でよく燃える。そこで燃やしきることを考えたんだろうね。でも詰めが甘い。


「ストーンウォール」


 と思ったけどそうでもなかった。

 ロイスは続けざまに大きな石の壁を築いて燃えている家からゴブリンを逃げないようにしていた。でもさ、これってMPを無駄に使っているだけのような気がする。


 僕なら広範囲の火魔法で少しずつ削っていくかな。ロイスの技は燃えやすい家だから出来たことで他の場所では出来ない可能性もあるし。それなら最初っから燃やすことを前提に攻撃をした方がいい。


「グギャギャ」

「させません!」

「その程度なら負けないの!」


 怒り心頭なゴブリンが二十体。

 ロイスは魔法を展開しているために動けないからエルドとキャロが立ち塞がっている。最初はキャロの横振りの攻撃から始まった。


 グワンと空気が揺れそうなほどの速さで七体のゴブリンを吹き飛ばし焼け付く家の壁にぶつけている。やっぱりゴブリンじゃダメだったかな。多勢に無勢なら三人の強化にもいいかと思ったけど最弱種は最弱種だ。一切、三人に脅威を与えない。


 近い魔物はキャロのフルスイングで、中距離の魔法を使える魔物はエルドの突きで、他のあまり戦いを得意としない魔物はロイスの魔法の餌食になっている。せめてコボルトぐらいは強くないといけなかったね。速度重視だけどここまで一方的ではなかったと思うし。


「最後なの!」

「……ふぅ、こっちもほとんど全焼させました」


 うん、なんか三人の方が侵略者みたいだね。

 家を燃やして民を殺して現れた兵士を瞬殺する。まぁ、この世界では普通のことなんだけどさ。少しだけ日本の小説の文化に慣れ切った僕は違和感を覚えるよ。


 こういうことをしてもいいのなら僕もするつもりだ。変な倫理観よりも仲間の方が大切だからね。転移者特有の固定観念のようなものだし。


 もし三人に称号を与えるならなんだろう。

 燃やし尽くす者、ロイス。狂った騎士、エルド。血塗れの化け兎、キャロかな。なんかカッコイイね。僕も欲しいかも。


【変態ロリコンマスターでいいのではないでしょうか】


 前言撤回、二つ名は要らないです。


「素材は……討伐証明だけを持っていくか」

「右耳ですね。それならロイス様は家の中のゴブリンを、キャロは吹き飛ばしたゴブリンをここまで運んでくれませんか? 俺が右耳を取っておきます」

「役割分担なの」


 手際よくロイスとキャロが集めてエルドは右耳を取っていく。残ったゴブリンの死体に用もないからか、ロイスは火魔法で燃やしていた。これが冒険者なりの弔いなんだろうね。


「右耳は預かっておくよ。この後の戦いに少しの体重差が響いてくるかもしれないし」

「……そうですね。ギド様の手間となってしまいますがよろしくお願いします」

「これくらいなら手間だとは思わないよ」


 手助けのうちには入らない。

 普通はこんな短期間に何個も何個もコロニーは潰さないから。やったとしてもそこら辺にいる野良のオークをたくさん倒すフェンリルスタイルぐらいかな。でもあっちには空間魔法があるし。


 錬金術以外にも付与術とか欲しいな。

 よくある魔法の袋とかがあれば三人にも楽をさせてあげられるだろう。あまり楽にさせすぎるのも良くないけどさ。時には薬草を大量に取ってくるように命じることもあるだろうから、やっぱり必要なものになってくる。都合よく付与術を持っている魔物と出会えればいいのにな。


 結果、ゴブリンキングのところまで行きましたがゴブリンジェネラルもゴブリンナイトも付与術を持っていなかった。キングでさえも持っていなかったので結構レアなスキルなのかもしれない。うーん、ますます欲しいね。


「ゴブリンキング、貴方の首を頂こう」

「ギド兄の命令だからね。悪く思わないで」

「……ぶちのめすの!」


 一度たりともロイスの暴走はなかった。

 いわくそうするまでの強い敵がいなかったらしい。オークと戦わせた時はオークの力を知らなくてつかっていたけど、ゴブリン種に使う必要性はないと感じていたみたいだ。


 ここまで三人とも使わないと言っていたスキルなどは使っていない。ゴブリンキングに対しても使う気はないようだし本当に勝てるのかな。


 最初はキャロが走り出した。

 次いでロイスとエルドが走り出しているけど本気で行くようだ。ロイスの手にはナナシとプロがあるからスキルを使わないことはそのままで武器だけしっかりと使う。今まで魔法で倒していたからかなりの変化だね。


 キャロの一撃をゴブリンキングが剣で止める。僕からすれば両手剣だけどゴブリンキングからすれば片手剣の武器。それでキャロの大槌を跳ね飛ばして攻撃を加えようとしたところで、ロイスが盾のプロでそれを跳ね返した。


 追撃のチャンスでロイスは攻撃をしない。

 ロイスが聖剣ナナシで攻撃すればゴブリンキングを簡単に倒せることを理解しているからかもしれない。そこも作戦のうちだったのか、盾のプロで受け止めている間の攻撃はキャロが務めていた。エルドは中間でちょうどいい塩梅にヘイトを自分に向けさせないようにする。かなり連携の取れている戦い方だ。


 ゴブリンキングじゃ役不足だったかもなぁ。コボルトのコロニーかオークのコロニーの方が良かったかもしれない。でも今更、後の祭りだし……。


 仕方ないか、一肌脱ぎましょう。


【マスターがやる気に充ちている……】


 それも何かのネタかな?

 ごめん、全然分からない……。


 いくらゴブリン種の最強種とはいっても二人の攻撃を受け続けて倒れないわけがなく難なくゴブリンキングはやられた。やりきった顔を三人はしているけど、まぁ、伸びないように僕が稽古をつけておこうかなって思っている。


 ゴブリンキングのところまで向かって倉庫に入れてからミラージュを解除した。ここまで来てこれを使う理由もない。


「ギド兄! やったよ!」

「あっ、ああ、よくやったな。でも、少しだけ僕に付き合ってくれ」

「えっ? 何かあったの?」

「いいから構えて。ゴブリンキングが相手だったら本気も出せなかったんでしょ? 僕が相手をしてあげるから」

【戦闘狂ですね】


 違います。ゴブリンキングとの戦いを見てうずうずしていた訳ではありません。なんとなく三人にはゴブリンキングなんか目じゃない人を見て欲しかっただけです。


 ワルサーを構えて三人にクイクイと来るように促してみた。頭を縦に振って三人は顔を見合わせる。いいね、本当のパーティ戦みたいだ。手を抜く気はないよ。


「行くの!」

「そっちがね」


 ロイスが間に入るより先に大槌で攻撃を仕掛けようとしてきたキャロを飛ばす。一瞬で詰めれば縮地も意味がない。一応は魔法で強化もしてあるから出来て当然なんだよな。強化なしなら少しキツイけど。


「アハ」

「一定になりすぎだ。その状態の方が恐怖は薄れるかもしれないけど攻撃は縦横の同じ行動になる」


 迫っていたロイスの聖剣にワルサーを当てて上に弾く。その間に静かに縮地で近づいてきていたエルドの肩に手を置き、くるりと回転して背後を取った。思ったよりも動けているね。僕もそうだけど三人も。


「縮地は一度でもバレれば対処されやすい。どうすれば分かりづらく不意をつけるか、そこを注意しなくちゃ自分が危険になるよ」

「……ご忠告感謝します」

「後、静かにしたとしてもバレているから」

「あっ……」


 左足で背後に蹴りを入れて大槌を止める。

 僕の好きな漫画の中で足で戦うキャラがいたけど現実離れし過ぎていた。でもさ、この世界ならそんなことも簡単に出来るんだね。僕ここまで体が柔らかくなかったよ。本当に楽しい。俺TUEEEEとかが楽しいんじゃなくて僕が僕じゃない感覚。優越感が僕を楽しませてくれる。


「それとこれで終わり」


 カチャリと音がした。

 MPを流さずにトリガーを引いたので玉は出ない。ただ一度、撃ったことを知らせるだけだ。それでも仲間間ならこれで勝負がついたことを知らせる合図になる。


 キャロすらも囮にして攻撃を仕掛けようとしたロイスの頭に、トリガーを引いて僕対三人の模擬戦は終わった。本当に強いと思う。これからに期待だね。


「……負けちゃった」

「十分だよ。お兄ちゃんらしく、それでいて主らしく三人よりも前にいないといけないからね」

「……感服します。ですがギド様の騎士になれるように俺もこれから精進しましょう」


 あっ、やっぱり騎士を目指していたのね。

 僕専属の騎士で戦闘執事ってなんかカッコイイな。官職扱いらしいけど一般人が騎士になれるのかな。職業の方でね?


「主様に惚れてしまいそうなの」

「はは、ありがとう」

「……その笑顔、反則なの……」


 キャロは耳を畳んで顔を赤くしている。

 おー、ういうい。


「余計に旦那様に惚れ込んだのです」

「イルルの気持ちがよくわかったんだよ」

「うるさい、変態共」

「扱いが酷いです!」

「扱いが酷いんだよ!」


 どうしても二人に関しては弄りたくなってしまうんだよね。これも可愛いって言う意味で捉えて欲しいや。


 帰りに双子悪魔の戦いを見てみたけど全然強い。さすがはウン十年生きたおばあさん……もとい二人だもんね。そりゃあ強いわ。


 戦い方は少し怖かったけど。

 幻影で仲間割れさせて自分達で傷を抉り合わせる戦い方だった。僕には出来ない方法でさすが悪魔だね。


 家に帰ってから奴隷紋で四人を解放から奴隷に変えて冒険者として舐められないようにしておいた。次の日に五人はパーティ登録していた。


 パーティ名は『幻影騎士』だってさ。何そのカッコいい名前……。五人が登録、フェンリルがオーク狩り、僕とミッチェルは薬草採取、シロは家で日向ぼっこ。そんな生活を2週間は続けていた。


 その間にロイス達に素材の換金はしてもらっている。セストアが相手らしいけど僕の名前を出したら苦笑いで納得していたらしい。失敬な!


 ついに僕の準備は整った。

 ポーションを五百本作り覚悟も決まっている。僕は冒険者ギルドカードとグリフ家の推薦状を片手に商人ギルドに向かった。

ようやく当初の目的に近づいてきました。

もうちょっと……もうちょっとでイベントに入れる……(バタッ)

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