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3章9話 レベリングは大切なのです

 上へ行き皆に挨拶をさせていたら日も暮れていた。

 特に過去の話とかは聞いていないけど皆、それなりの理由があって奴隷になったんだと思う。だから僕の奴隷になったからにはひもじい思いはさせたくない。


 新入りということでゾンビウルフの肉を大きめに一枚だけ一人ずつ渡す。他にはアキが作った料理がいくつか並んでいた。下準備はしていたみたいで、僕がゾンビウルフの肉を焼き終わる頃には料理は完成している。やっぱり普段からやる人は違うね。


 ご飯は大反響だった。

 奴隷の最初のご飯は贅沢に、その後は大したことがない食事になるって常識があったみたいだけど、明日からも皆が楽しい食事になるようにするつもりだ。


 男女に分かれてお風呂に入ってもらった後は全員の部屋割りを決めさせた。エルドは忠誠心からか、一番入口に近い部屋を選んでいる。敵が来たら対処出来るように、だそうだ。


 悪魔の双子、特にイルルは引っ付いてくるので一番離れた部屋にした。不満は聞き入れない。貞操の方が大切だからね。


 キャロは僕の隣の部屋だ。

 アミとシロの二人と仲が良かったので三人部屋に出来る広い部屋が僕の隣だった。僕が移ることは駄目らしい。なんでも「主が一番広い部屋にいるのが普通です」だそうだ。よく分からないよ。


 僕的に言えば地下室に一人がいい。

 ミッチェルがいいと言うのなら二人でそこで暮らしていたい。棺桶の中も悪くないね。ビバ、暗闇生活。……案の定、却下でした。


 フェンリルはキャロ達の反対側の部屋にした。キャロ達の部屋より少し小さい程度なので三人部屋でも十分なはずだ。


 ロイスとミッチェルはもちろん僕の部屋だ。一番広い部屋を一人で終わらせるなんて馬鹿げているからね。別に他の人でも良かったけど一番付き合いの長いミッチェル。というか一緒に寝ることを約束しているから選ぶしかなかった。それと弟のロイスを選ぶのは普通のことだ。


 最後の最後までゴネていたのは離されたイルルだけだ。ウルルは何回か説明したら納得してくれた。一回で納得しない辺り、やっぱりイルルの妹だと思う。


 僕はロイスを寝かしつけてから地下室にこもった。やることがいくつかあるからね。ミッチェルにも理由を話したら納得していたので大丈夫なはずだ。


 次の日、僕はロイスと奴隷四人、シロを連れて森まで来ていた。ミッチェルが来ると僕が戦えなくなるしフェンリルにはランク上げを命令している。その中で監視役として誤魔化せることが出来るシロを選ぶのは普通だと思う。


 本当は僕一人で遊びに行きたいよ。

 イフからオススメの敵とかいっぱい教えて貰っているからね。経験値狩りには十分な敵がかなりいるのに……。


「ありがとうございます! この槍でギド様の敵を屠りましょう!」

「そこまで強くないから慢心しないでね。ランクによっては武器も強くしていくから」


 エルドに渡したのはアミの前使っていた武器だ。あまり使っていないから捨てるのも勿体ないし使わせている。装備はなぜか動きづらいはずなのにスーツ姿のままだ。


「……槌ですか? 使ったことがないよ?」

「大丈夫、一番キャロに合うはずだから」

「主様がそう言うのなら頑張るの!」


 キャロは槌だ。

 両手で持つタイプの大槌を作って渡しておいた。素材は一番量の多い鉄で巻き付けてあるのもウルフの皮だから僕達ほど良い武器ではない。


「我らには武器は不要です」

「あっても戦いづらいだけだよ」

「うん、昨日聞いているから作ってないよ。武器はね。ほら」


 昨日、僕が錬金室に行くのを見つけてついてきていたんだよね。そこで武器が要らないことを話されて作るのはやめた。


 幸か不幸かキャロの武器を作ったところで寝付いていたので早々と二人の装備も作ったんだよ。


 そもそも今日連れてくる理由はなかった。

 それでもついてきたんだよね。どんだけ僕と居たいのかよく分からないけど、我慢して来なかったからミッチェルにドヤされるのは間違いない。南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏。


「……攻撃の保護?」

「我は防御の保護となっているのだ」

「うん、二人で一つって考え方で作ったんだ。まず片方が攻撃を片方が守りを担う。そうなった時に攻撃の保護は全ての攻撃を威力を高めてくれて、防御の保護はMPを使用して結界を作ってくれる」

「もちろん、中指に付けるのだ?」

「いや、指輪型だけど小指辺りにして。好きになったらキチンとしたものを作ってあげるからさ」

「承知です」


 渋々なんだか喜んでなんだか、よく分からないけど二人は小指に付けた。自動伸縮っていうのでサイズは勝手に合うはずだから問題ない。


 今回の戦いの目的はロイスとエルド、キャロのコンビネーションを見て指導すること。僕の奴隷術のスキルレベルを上げること。双子悪魔の戦いを見ること。この三つだね。


 まずはコンビネーションの前にエルドとキャロのレベルをいくつか上げないといけない。これは簡単にいくはずだ。


 ロイスは二十七までレベルが上がっているので、合わせるとしても二人のレベルは二十は必要になってくる。職業もそれなりにランクの高いものじゃないといけないしね。


 そうなると普通の敵では割に合わない。

 だから僕は奥地に飛んだ。要はラストアタックを譲れば多く経験値が入るからね。ギリギリまで削るだけでいい。特にキャロは僕が弱くすれば攻撃せずとも殺しきれるはずだ。


「……ギド兄、ここは早いんじゃない?」

「いや、僕がやられる一歩手前まで追い詰めて最後だけやらせるつもりだよ。パーティ登録だと無駄が多いからね」

「それなら……いいけど」


 倒せるかどうかというよりもイレギュラーを気にしているんだろうね。油断していないことはいいことだ。なにせここにいるのは僕とロイスとシロ。そう簡単にはやられないはずだ。


 一応、シロの戦いは見たことがないから気になっていたりする。武器無しで戦っているから素手かもしれないし、僕の知らない戦い方をするのかもしれない。


「ぶおぉぉ!」

「おし、まずは二体か。ロイスとシロは片方を足止め。エルドはこっちまで来て」


 全員の声と共に僕はドレインでオークの手足を斬った。これくらいなら簡単には死なない。自動で回復していくから早めに倒さなきゃいけなくなるけど。


「エルドはそいつの首を狙って」

「分かりました!」

「シロ! 同じように出来る?」

「任せて!」


 ……なるほど、シロの武器は僕が使うものだ。主にワルサーとドレインだね。効力までは知らないけどワルサーで手足を撃っていた。すごいことは撃ち漏らしがないこと。僕やミッチェルもないけどそれはかなり撃ち込んだからだ。僕なんてこの世界に来てからずっと使っているし。


「……初めて見る武器なの」

「お兄ちゃんが使っていた武器と同じ奴だけど……やっぱり威力は弱い……」


 真似をすることが出来るってところかな。

 でも代わりに威力が低くなるとか。それがシロの能力ならワルサーを出せるのは理解出来る。ミッチェルの場合、心器がレイピアとワルサーの二つだったし。


 それならシロは他にも心器が出せるってことかな。すごく強くないか? ……いや、デメリットはあるはずだから必ずしも強いとは言えないか。あるとすれば……マスターである僕の心器とか得物の模造しか出来ないとか。


【ほとんど正解です。ただしダンジョンの主であるマスターの武器を熟知していれば威力も弱くなりません】


 だから悔しそうなのか。

 イフから銃の構造とかを教えておいてよ。戦力アップは純粋にありがたいし。


【分かりました】


 後はあれだね。

 イフの体とかも作れるようにならないと。そうすればもっと戦力が上がるし行動力も増える。


【……私も頑張らせていただきます】


 うん、頑張ろう。

 そのためにも今日の用事を早く済ませないとね。オークの肉は家で消費出来るし多ければ売ってもいい。なんなら最近フェンリルがよく討伐するから売値が下がっているらしいけどね。


 ダンジョン産は美味しくないと聞くから、ダンジョンのある街で売り捌いてもいい。倉庫の肥やしになるかな。


 シロに四肢の自由を奪われたオークは簡単にエルドに首を叩き切られていた。一応はレベルが二十近くになればオークとの戦闘を行わせるつもりだ。……職業は本当にどうしよう。


「……よくやったね」

「ありがたき幸せ」


 頭を撫でると頬をふにゃりとやわらげる。

 信者の特徴なのかな。僕に触れられることが嬉しいとか。まぁいいや。別に減るもんじゃないし。


 オークのいる場所を見つけてはシロに自由を奪わせトドメをエルドが刺す。その間にエルドのなれる職業にメドを立てておいた。後もう一体でレベル二十という所でやめておく。最後くらいは自分でやって喜びを噛み締めてもらいたいからね。


 その時に弱めるとかいうことはしない。

 槍の性能を戦いで理解して倒してもらう。甘々で通る場所じゃないことは理解してもらいたいからね。……危なければ助けるけどさ。


 ちなみにキャロとエルドのファーストジョブにつけるようになるレベルは二十だ。セカンドは三十でサードは五十。少しだけつけるのに時間がかかる。職業には早くつければつける分だけ戦いに有利だからね。これも才能の差なのかもしれない。


 次はキャロだけどこっちは少し特殊なやり方をさせてもらう。


「キャロはオークコロニーを潰してもらう。なんでか分かるよね?」

「……呪魔法と闇魔法を持つからなの……」


 そう、この子はステータスの伸びがいいだけじゃなくて固有ジョブ『呪術師』を持っていた。これは呪いに近いのでファーストジョブは確実にこれになるだろう。教会に行かずとも勇者になっていたロイスと同じようにね。


 これが理由で買うことを決定したりしている。


「僕も持っているんだ。悲しそうな顔をしなくてもいいよ」


 少し悲しそうな顔が一瞬で晴れる。

 やっぱり異世界の常識では怖がられるよね。普通の人がこんな魔法を持っていたら。でもなー、僕はかっこいいと思うんだけどな。


「……キャロは滅ぼしてみせるの」

「手助けはするけどほとんどキャロの手でやるんだよ。エルドにも期待しているけどキャロにも同じくらい期待しているんだ」


 エルドにフォローを入れながらもキャロを鼓舞する。キャロは元々弱くないからね。それにMPもかなり高いから魔法を撃つ面では全然困らない。


「小さなコロニーにするけど首領はオークキングだから。絶対に油断は出来ないよ」


 僕がキャロに滅ぼさせるのはオークが七体とオークナイト五体、オークキングが一体の生まれたての拠点だ。だからこいつらがいる場所も洞窟で戦い方は一筋縄ではいかない。


「……エルドはこれからこういうことを出来るようになればいいんだよ」

「ロイス様……はい、お任せ下さい。貴方様の隣で俺はより強くなりましょう」


 なんかカッコイイね。

 槍の先と剣の先でカツンと音を立てていた。男の盃を交わしあっているみたいだ。いいことだよね。これから共に戦う同志としては義兄弟みたいに信頼しあえる仲なら背中も任せやすいだろうし。


 僕達は全員で洞窟の手前まで向かった。

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