表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/273

3章7話 どこの世界も世知辛いのです

 紹介状は貴族や有名な人物からしか書いてもらえない。別になくてもいいらしいけどあった方が奴隷商での扱いもいいらしいからね。何人かイフからのおすすめの人もいるみたいだし時間をかけずに今日は終わらせるつもりだ。


 奴隷商の外見は綺麗だった。いくつかの小物が並んでまるで奴隷商とは思えない。中に入ると一人の男が近づいてきた。しっかりとした綺麗なスーツを着た人だ。顔はあまり整っているとは言えないけど清潔感があり嫌な気を起こさせない。


「いらっしゃいませ。何をご所望でしょうか」

「奴隷を頂きたいのです」

「……何かお持ちですか?」


 ここまで来てようやく紹介状を渡せる。

 表向きは奴隷商だということを隠しているからね。だからといって他の店には行かない方がいいとイフが言っていた。どこの世界にも処遇の悪さというものはあるらしい。


 ここは領主直属の奴隷商なので奴隷の扱いも酷くなく値段も良心的だし、なにより僕が必要としそうな人材がここにしかいないらしいから紹介状抜きでは上手く話は進まなかっただろう。書いてもらって正解だったね。


 少ししてスーツの幸薄そうな人、通称おっさんAは奥に戻って行った。手には紹介状を持っていたので偉い人に見せるのだろう。その人は重職Aと呼称しようか。


「いらっしゃいませ。長い間おまたせして誠に申し訳ありません。私がこの奴隷商を経営するゲローと申します」

「……初めまして、僕は冒険者のギドでこっちが仲間のミッチェルです」


 ゲロー……下郎かな?

 いや、名前的にダメじゃないか? 何をどう考えてゲロー? ゴローみたいな感じか?


 ゲローさんの顔を見る。長過ぎず短過ぎない髪型と平凡的な顔、黒スーツを身につけ茶色い眼鏡をかけている。どう見ても普通の人にしか見えない。……ステータスを見なければ。


 魔眼はバレていないから見えたけどゲローさん……いや、可愛そうだからゲロさんにしておこうか。……変わらないから元に戻そう。


 ゲローさんのステータスは普通よりも高い。僕達の中だったらフェンリルの三人には勝てるんじゃないかな。ちなみに三人は僕とミッチェルの次に強いからかなりの実力者だ。


 殺し合いなら負けないだろうけどね。

 その時に三人が手を抜くとは思わないし人狼の攻撃には呪魔法が自動的に乗っかるし。その状態ならミッチェルともいい勝負をすると思う。


「ご丁寧にありがとうございます。先程の従者にご不満はございませんでしたか」

「特にはありません。よく見る不潔な感じもなくこれから良くなっていきそうだ、と感じたくらいです」

「それならばようございました」


 掴みのネタのようなものだったんだろう。

 特に不満も満足げもなくゲローは作り笑いをして奥の扉に手をかけた。黒塗りの大きめの扉で受付を通らないと入ることが出来ないところに位置している。


「どのような存在をご所望ですか」


 人とも物とも言わないところが奴隷商らしいと思う。どのような存在か……。


「戦闘経験のある者でお願いします」

「分かりました」


 途中の道で横に並ぶゴロツキの奴隷達が僕を睨みつけてくる。それだけだったら良かったのにミッチェルには色目で見てきた。


 本当にロイスを連れてこなくてよかったよ。

 小説とかを読む時にはここまで酷いとは思っていなかったけど、テンプレの影響か最初に絡んできた冒険者のような人が多すぎる。


 通路の最初に犯罪奴隷を多く入れた檻を置くのはやめて欲しいよね。普通に怖いし素通りしたいよ。


「あんなガキが成功して……俺は……」

「いい女を連れているなぁ!」

「おい糞ガキ! 早く帰れよ!」


 少なくともここにいる人達に興味も何もない。それが彼らのちっぽけなプライドを傷つけたのか「無視するんじゃねえ」と怒号を上げ始める。


 アホだよ……犯罪奴隷でここにいる人達はしっかりとした罪状がついている。なのに失敗だの糞ガキだの……僕だって頑張っているってのに。


「黙れ」

「ひっ……」


 一言だけだったはずなのに静かになった。

 聞こえた悲鳴は聞き馴染みのある女性の声でついついその方向を見てしまう。……予想通りミッチェルだった。


 犯罪奴隷の人達は……全員気絶している。

 ゲローさんでさえ唇を青くして僕の方を見ていた。……僕何かしたかな?


【無意識に威圧をかけていたのでしょう。この中で一番強いミッチェルでさえこれです。それよりも弱い人ならどうなるかお分かりではありませんか】


 あー、ライオンに追い詰められた人みたいな感じかな。でもさ、僕悪くないよね。……いや、ゲローさんには悪いか。


「ゲローさん、すみません」

「いっ、いえ、かまいません! 悪いのはこちらです! ですので暴れるのだけはご勘弁を!」


 あらら、この一瞬で嫌われたな。

 ……だけど過失割合でいえば奴隷の管理が行き届いていない奴隷商に非があるよね。それにキレた僕も僕だけどさ。


【実際、このような奴隷商を来る人は貴族ばかりで活きのいい犯罪奴隷を弄ぶ人が多いです。つまりは元気があればあるほど虐め甲斐があって売れやすいということです。売れなければ鉱山行き、売れてもサンドバッグ。ここにいる人達に未来などありませんから】


 設計上仕方ないのか。

 ……人を人として見ない世界か。僕がここで生まれていたらどうなっていたんだろうね。良い親に恵まれていたか、もしくはここにいる人達見たくなっていたか。


 幸も不幸も紙一重だね。

 下手をしたら僕もこうなっていたのかもしれないって戒めておこう。


「ミッチェル、ごめんね」

「……こんなことで悲鳴をあげるなんて……不覚です……」


 そこかよ! てっきり怖がられると思ったわ!


「なぜですか? 私がギドさんを嫌う理由などありません。大切な存在からの心の傷であればいくらでも耐えられます」


 DVを受けている人かよ……。

 そんなこと言われても嬉しくないんだけどな。


「それに」

「うん?」

「それにギドさんから頂けているのは傷ではなく幸福です。こんなことで嫌う理由なんてありません。私の事で、怒ってくれたんですよね」


 どうだろ……無くはないかな。

 独占欲がないといえば嘘になるし、ミッチェルが奪われたり変な目で見られるのも嫌だ。あー、だからかな。


「そうかもね」

「断定しない辺り、とても可愛いです」


 嬉しくないね。

 可愛いよりもカッコイイ。それが男性の心のうちに思うことだ。女性の言う可愛いは脈無しのサインだからね。そうでなくても言われ慣れているから好きじゃない。


 先程とは違い急ぎ足で僕達を広い場所へと案内してきた。早く帰らせようとしているのか、もしくは上客だと判断されたのか。僕には分からない。


「こちらがご要望を満たす存在になります」


 ズラズラと女性が並べられる。

 あのー、僕の魔眼がおかしいんですかね。なんか処女とか非処女とか分かるんですけど。後、二番目の人。胸にパットを入れているの魔眼でバレバレですよ。


 男性がいないのはさっきの件で僕の方が発言権があると判断してだよね。そして男性だとミッチェルに対して犯罪奴隷と同じことをしかねない。なるほど、あの一瞬でよく考えている。


【どうやらゲローから上客だと判断されたようですね。女性達を見た瞬間の目の変わりようが変態ではなく、その価値を見出そうとしていると判断したようです】


 それなら僕がゲローさんがどうして女性を連れてきたかを、見抜いたこともバレているかな。どっちでもいいけどこの中に欲しい人はいないね。


「どうでしょうか」

「いえ、特に必要性を感じません。他にはいないのですか?」


 もしテンプレが働いているのならアレだよね。いや……出来ればそれは見たくない。奴隷の中でも信者になりそうな人達が多いから。


「すいません、ここにいる存在で全てです。他に戦闘の才能がある存在はいませんし、どうでしょう、代わりに観賞奴隷を見て頂くのは?」


 イフいわく奴隷は主に三つに分かれる。

 一つ目に最初に見た犯罪奴隷で、この人達は例外なく何か重犯罪を犯し犯罪者の印を押された者達だ。この人達は例え解放されたとしても元犯罪者として見られ、冒険者や商人などのギルド登録は出来なくなる。


 それ自体少ないというのに売れることも少ない。売れたとしても最初に教えられた通り貴族の玩具にされるのがオチだ。売れなければ女性なら娼婦に、男性なら鉱山へ死ぬまで働かさせられる。女性の方なんて客がつかなければ非人道的なことをされるらしいからね。


 二つ目にゲローの話に出ている観賞奴隷で、この人達は見目麗しい男女がほとんどだ。借金とか奴隷になるしかなかった人達で、絶対に戦闘は出来ないと判断された者達だ。


 主に貴族が他の令嬢などに子供を身篭らせないよう買い与えるらしい。逆に正妻になれないとしても愛人にはなれるから、観賞奴隷達は貴族に買われるために頑張るらしい。


 言ったら悪いけど美しかろうとミッチェル達に叶うとは到底思えない。それに僕がしないだけでエッチなことをさせてといえば許してくれそうだしね。全然、必要性がない。


 三つ目に僕達の見た戦闘奴隷で、この人達は元冒険者とか騎士の人がほとんどだ。だいたいは商人とかが護衛役として買う。


 これも僕とか仲間達の方が断然強いから要らないね。ちなみにだいたいこの区分けらしいけど観賞奴隷の中にも戦う人はいる。主の命令ならやるらしいから、そこも店主と話をしておかなきゃいけない点だよね。観賞奴隷だからといってちょっと綺麗なだけの人とかもいるし。その人達を職員として買おうと考えていた。……待っていても自由はなく妥協して妥協して、最後は売れない者は鉱山行きらしいからね。


 そしてこの三つに入らない存在。

 僕があまり見たくないと思っているテンプレ的な奴隷と言えば……アレしかない。


「……欠損奴隷を見ることは出来ますか」

「……いいですが安く買って高く売る算段を取っても売れませんよ。治すのでさえ年に一個か二個、オークションで売られるエリクサーぐらいです。大金貨千枚は下りませんよ」

「教えて頂いてありがとうございます。ですが、そのようなことをするつもりはありません。見るのは無料のはずです。よろしいですか?」

「……そこまで言うのなら」


 通常は欠損奴隷なんて買わないからね。

 もし買ったとしてもすぐに死ぬような人ばかりだし。買っても驚かないのはそんな小説を読んでいる日本人くらいだ。まずもって奴隷と聞くだけで外国人は忌避するだろうし。


 ゲローさんだってそんなのを買う人はイイ趣味を持っている人としか思わないだろう。もちろん、比喩表現だから良い意味では使われない。


「変なことには使いませんよ。企業秘密のようなことをするだけです」

「……信じます」


 商人目線なら売れない存在を売れる格好のチャンスだから手放すわけがないよね。僕としてもイフが言うオススメはここにいると思っている。


「ミッチェルはここにいて。本当に見せられないから」

「……分かりました」


 真剣な目で言ったからか、ミッチェルは快諾してくれた。


「こちらです」


 付いていくと欠損奴隷の部屋は最奥だった。

 扉を開けると異臭というか、死臭というか、あまり嗅ぎたくない臭いが漂う。イフに風魔法で鼻だけガードしてもらう。さすがに僕には耐えられそうもない臭いだ。


 中に檻なんてものは無い。何人もの人が壁際で腰を下ろし目に生気はない。それもそうだ、いつ死ぬか、それだけが問題なんだから。


 そしていた。

 イフの言うオススメであろう男女を。


「あの四人を買わせてもらえますか」

「よろしいですが女性三人は手足がなく、男性も手がありません。確かに全員がある程度の戦闘訓練はついていますが……」

「大丈夫です。絶対に返品はしません」

「……仕方ありません。銀貨五枚です」


 イフに言われた通りの値段だ。

 そもそも奴隷は金貨で買えるものもいれば大金貨数十枚に至る者もいる。その中で銀貨五枚、しかも四人でそれならばどれだけ安いか分かるだろう。


 わざわざエリクサーを使って生き返らせる酔狂な奴はいないからね。普通ならば。銀貨五枚を払ってゲローさんを黙らせる。


 ゲローさんは小さく「契約」と呟くと僕と四人の体が光った。次いでに奴隷術も手に入れたので好きな時に解放出来るね。


 僕は四人に体を隠せるようなフードを着させ女の子三人を担いだ。銀貨はもう払っているのでゲローさんは何も言えない。ちなみにフードは店側からのおまけみたいなものだ。


 ミッチェルを連れて外へ出る。

 足はふらついているけど男の子はまだ何とかなりそうだ。ダメなら女の子三人をミッチェルに頼んで男の子も運ばなくてはいけなかった。


 家影に入って僕は転移を使った。

 ここからは時間との戦いだ。女の子がいつ死んでもおかしくないからね。

まったりと進ませましょう

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ