3章5話 脱線とイチャイチャは紙一重のようです
抱負を書いていなかったので書こうと思います。
今年は百二十話まで話を書いて総合評価を五百越えしたいです。応援よろしくお願いします。
「よくご無事で……」
「お兄ちゃん……」
なんで入ってすぐに抱きしめられているんですかね。僕は迷子の子供か……。少なくとも僕はそう簡単に死なないと思うんだけどな。あれ? 信用ナッシング?
……でもこの感触は悪くない。いや悪くないとかじゃなくてとってもいい。ふにゃりと凹む胸の感触が僕の二の腕を刺激して脳汁を分泌させて、そして、
【さすが変態ですね】
僕は悪くない。
こんなことをする皆が悪いんだ。
つくづく思うよ。僕だって強制して抱きつかせたりしていないんだから、抱きつかれなければ普通のジェントルマンとしていられるさ。
【自分をジェントルマンと呼称する辺り信用出来ないですけどね】
全く持ってその通りですね!
いつから変態=紳士なんて言われ始めたんだか。僕はただの思春期のお兄さんだ。紳士でも変態でもない。
「あの、主……?」
「うん? どうかした?」
「ジェントルマン乙、だそうです。……これってどういう意味ですか?」
うわー、アキにまで弄られた。
ってか、イフの差し金じゃん。アキも意味分かってなさそうだし。イフめ、どこまで僕を弄るつもりなんだ。……もう怒ったぞ。この後、僕の写真を撮るのは禁止にしてやろう。
【それはやめてください!】
いや、禁止にしたから。
【わっ、私はただ! この世界を!】
一時期有名なったネタをやってもダメだからね! 不覚にもクスッと笑ってしまったけどさ! ネタが古いよ!
一応、一週間の写真禁止令を出しておいた。罪には罰を与えないといけないからね。……いじられてイラついたわけではないですよ。嫌だなー。
さて、本題だ。
「皆には黙っていたけど昨日は久しぶりにやりたいことをしていたんだ」
「……夜の街に繰り出したってことなのかー?」
「……いえ、ギドさんから未だに童貞臭がします。他の女性の香りは……セストアさんくらいです。そのようなことはないようですね」
「なら安心なのだー」
「いや! ちょっと待って!」
童貞臭って何! それにセストアの匂いって!
確かにあったよ! でもギルドで依頼の達成とか、そういう話をしただけだよ! その短時間で匂いがつくとは思わないんだけど!
それに! 今、皆が抱きついたから他の匂いもついたよね! その中から嗅ぎ分けるとか犬以上に嗅覚が良すぎませんか!
「……そんなに臭いかな」
「臭いわけではありません。芳醇な良い香りです」
「……そういうことにするよ」
これ以上は突っ込んではいけない。
絶対に僕の恥ずかしいこと、もしくは信者の力を発揮して変なことを言い始めそうだからね。
「はい、いつものお礼」
「……あの、これは?」
「ああ、炎光剣っていうんだ。炎光剣の……銘はどうしようかな。……炎光剣イチゴっていうんだ」
「炎光剣……ありがとうございます」
ミッチェルは微かに笑った。
どういう反応をすればいいか分からない顔だね。それもそうか、昨日何をしていたか話している時にいきなりネタばらしされたようなものだし。
「呪剣と対になる短剣だから扱いはミッチェルに任せるよ。氷と炎、光は吸収出来るから汎用性もあるし。それに長距離は心器で対応してくれればいいしね」
「……昨日はこれを作っていたのですか?」
「うん、ああ、皆の分は作っておいたよ。でも付き合い的にはミッチェルが一番長いからね」
そうは言っても一ヶ月ほどの付き合いだ。
重いと言われればそれまでだし要らないと言われれば僕が使う。一人は怖いけど一人でいられないわけではないしね。それに……それに、ミッチェルが僕を拒絶するわけがない。
「……約束を破ったからその罪滅ぼしも兼ねて、かな。今日からは一緒に寝られるよ?」
「……分かりました」
喜んでいない……わけではないようだ。
ここに来て感情を外に出さない理由が分からないな。嬉しいなら外に出せばいいのに。
「……あの……?」
「いっつもありがとう。これからもよろしくね」
「はい! ……抱きつく理由は分かりませんがこれからもよろしくお願いします」
近くまで行って分かった。
ミッチェル寝てないわ、これ。よくよく見ればロイス以外、目の下にクマを作っているし。どれだけ心配だったんだよ。夜ご飯の時に健全な姿を見せたでしょうに。
「そして、これね」
「えっと……ギドとミッチェル、ですか?」
「そう、使える人を制限したの。この武器を使えるのは僕かミッチェルだけ」
せっかくの贈り物を売られるとか嫌だからね。売るってなったらかなりの値段になるだろうから本当にやめてほしい。だから僕も使えるようにしたんだけど。……まあ、鑑定したら僕が作ったってバレるから目は付けられるだろうね。逃げるけど。
【大金貨百枚はくだらないでしょうね】
そこまでするのか。
ふーん、ミッチェルに渡すと考えればいい感じじゃないのかな。
「……これって素材も取ってきたんですか」
「あー、一応ね。誰も知らない穴場で鉱石をたくさん取ってきて昨日、作っておいたんだ。ミスリルとか使っているからぁっ」
「嬉しいです!」
ようやく気持ちを行動で表してくれた。
やっぱりハグっていいよね。これこそウィンウィンの関係だよ。
「あの……贈り物はとても嬉しいのですがミスリルを使うことの意味って理解していますか?」
「えっ? 何かあるの?」
【プロポーズですね。だいたいは銀か金で済ませますが貴族になるとミスリルの武器や防具、アクセサリーで永遠の愛を誓います。もちろん、ダイヤモンドでも同じ意味になります】
あれー、全然そんな意味なかったんだけどな……。ぬか喜びさせたのか。だから武器を見せた時に喜ばなかったんだね。というか僕の考えが読めなかったのか。
「ごめん、そういう意味ではないかな。全員のことは大切だけど、もう少しだけ安定してからじゃないと」
「……いえ、気持ちがあるのならそれだけでいいです。その時には全員で」
「当たり前だよ。そのためにもメイドとかも雇わないと……って、脱線しそうだった」
危ない危ない。
先に皆に装備を与えて鼓舞しておかないと。
「ミスリルは強いらしいからね。これからも僕の隣で力を発揮していて欲しい。僕の愛するミッチェルには」
「分かりました。私がギドさんの盾となり矛となります」
「死なない程度に、ゆるーくね」
最後に首元にキスをしておく。
僕の大好きなことだ。少しだけミッチェルの口元がつり上がったのはよく分からないけど、喜んでくれたということにしておこう。
「じゃあ、次はフェンリルの三人だね」
「私達ですか……」
「昨日のギルドでもフェンリルの話は多かったよ。ランクが低いながらにオークを簡単に討伐、魔物から逃げる時にも群れを討伐してくれて助かったってさ」
「それはアミのおかげです」
「うん、でも遠距離で怪我を負わせないように牽制をしたアキも、回復を施してあげたアイリも十分すごいでしょ。僕に言っていたわけではないけど誇らしかったよ」
三人とも照れ始めた。
下を見て顔を赤くするのはいいけどさ、ここからが本番なのにもう退場しそうなんですけど。まだプレゼントもしていないんですよ?
「それで、まずはアキだ。フェンリルのリーダーにはしっかりとした判断力が必要になってくる。だからより判断材料を増やせる武器を作っておいた」
「ライフウ……ですか? あまりしなりがありませんね」
「撃つのにすごく力がいる。だからアキ達にしか使えないし、それにこれはかなり使い勝手が難しいんだ。アイシクルウォール、あれに撃ってみな」
訝しげに弓を見ながらアキは弓を構えた。
瞬間、糸が現れ矢がかけられアキが引く。
そして氷の壁はバラバラに砕けた。半分まで貫いたところで気がついて矢は殴って破壊しておいたけど。
当然アキはその光景にぽかんとしていた。
「分かった? 威力も効果も桁違い。遠距離で一掃するにはいいけど味方がいるのなら使いづらい、そういう武器だから扱いが難しいんだ」
「裏を返せば……主は私なら扱えると考えてくれたわけですね」
「正解、これよりも良い武器を作るけどこれよりも高火力にするにはかなりの手間がかかる。アキにはこれを扱えるだけの人になって欲しいんだ」
「分かりました! 必ずご期待に応えてみせましょう!」
最後に弓の根元にギドとアキと彫って完成だ。クールビューティなアキだけど喜んでいるのは分かる。尻尾がめちゃくちゃバタついているからね。……アイリよりも尻尾の振り幅が大きいんじゃないのか。
いや、アイリの場合、まだかまだかと尻尾が左右に揺れていた。焦らすよ、一番最後にしてやろう。本当は次にしようと思っていたけどさ。
「次は私よね、主様!」
うぇー、なんか割り込んできたんですけど。
……はいはい、アイリにしますよ。仕方ないな……。
「そんな悲しそうな顔はしないでください! 嫌なら戻ります!」
「冗談だよ。ほら、これ」
「魔槍レーガ? 変な名前ですね。……別にいらないとは言っていませんからね」
「はいはい、本当に魔槍ってなっているな。まぁ、いっか。これは……これも使ってもらった方がいいか」
さっきの氷の壁の残骸をもう一度、生成し直して氷の壁を作り直す。これでも高等テクニックらしいから人前では出来ないね。やるなら相当追い詰められた時だけだ。……そんなことを今するなよとは思うけど。
「……とりあえず突いてみます。しっ!」
「……伸縮と湾曲かな。これは考えていなかった」
すごいな、突こうとしたら槍が折れ曲がって背後から攻撃していた。考え方とかイメージ次第ではかなり強いんじゃないか、これ?
でも、これって素晴らしいよね。
中衛ならどれだけ間合いが広くてもいいし、アミをすり抜けて攻撃も出来る。考えて作っていなかったけどかなり強い武器だぞ。
「これは……すごいですね」
「だろうな」
尻尾が今までにないくらい左右に振れている。引きちぎれるくらいに激しく左右に触れて耳もパタパタと畳まれたり伸びたりしている。なんだこれ……。
「ひゃっ」
「僕にも褒美は必要だろ」
「で、ですがぁ……あっ」
やっぱり耳を触るとかっていいね。
……って、また脱線しそうになった。脱線ダメ絶対! ……でも至福の時間だ……。
「あっ……」
「後でまた触らせてね」
少し名残惜しげに僕の方を見ていたけど我慢だ。まだ半分しか来ていないのに終わるわけにはいかない。ケジメとして武器に僕とアイリの名前を彫って終わりだ。
「次はアミだよ」
「分かったのだー。どんな装備が来るのか楽しみなのだ!」
「うん、アミの場合は最前衛だ。つまり後ろに誰かを入れてはいけない。分かるね?」
「当たり前なのだ。だから剣で弾いてアキの援護を待っていたのだ」
「それが少なくなると思うよ。とりあえず見せるわ、ほい」
手から魔力を流す。
大丈夫だ、十数もの刃が辺りに現れ自由に動かせられる。皮を巻いてもそこは変わらないようだ。
「……すごいのだ。これなら単純に手数が増えるのだ」
「魔剣ドギの名はダテじゃないからね。……ってドギ……?」
おい、待て……僕が付けた名前とは違うぞ。
僕は確かレヴァティーンみたいな元からある名前にしたはずだ。ドギってギドの反対みたいな恥ずかしい名前を普通はつけないぞ。
「……念じたらそうなったのだ。アミだけのギド様なのだー!」
「……まあいっか。大切にしてくれよ」
地球でいた人の名前を使っている分だけ、その人の顔が現れて強く出れないな。嫌われていないのならそれでいいし、アミが喜んでいるのなら別に名前ぐらいいいか。
最後に定番の名前彫りをしておく。
ちょっとだけアミの耳を楽しんでから三人に一言だけ言う。
「この力を使って僕を楽にさせてくれよ。全員で働かなくても済むような毎日を過ごそう」
これが僕の最後の目標だ。
ずっとイチャイチャするだけの生活とか楽しみすぎる。まあランクのことも考えて絶対に働かないってことはしないんだけどね。それまでは誰かとそういう関係になるとか、結婚とかは考えられない。
「僕の大切なフェンリルの皆は死なないように精進するように、いいね?」
『はい!』
全員の声が重なった。
それを見てから僕はシロを手元まで呼んだ。……疲れ始めてきたから椅子に座ってシロを膝に座らせる。
一話に収めるはずだったのに……また長くなってしまう……すいません。次か次の次には進ませられれば嬉しいんですけどね。
ちなみに首へのキスは執着という意味です。
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