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2章20話 成長と進まないもの

久しぶりにステータスが書かれます。

話は進まないです。

「申し訳ありません。……服をぐしゃぐしゃにしてしまって」

「構わないって。僕が好きでやったことさ」


 ひと心地ついたのか、ミッチェルはそんなことを気にしていた。服なんて洗えば済む話なのにね。


 ミッチェルは元通りだった。暗い表情もなく優しく僕のことを見てくる。ドリトルを殺したことで何か吹っ切れたのかもしれない。僕としてはこのまま一緒にいれることが嬉しいんだけどね。


【……ご飯……ありがとうございました……】

「ああ、そっちも構わないよ」


 シロの主食は生物の遺体というよりも魔力だ。例えば人の遺体ならそこに残っている魔力を喰らって成長の糧にしている。ただエコな点としては遺体すらも、化学記号を無視して魔力に変えてしまうことかな。だからダンジョンに子ども捨てる親なんかもいるらしい。


 ダンジョン都市と呼ばれる、ダンジョンを囲う街は街で闇を抱えている。領主の子どもがダンジョンに認められなかったら、その後は認められた違う家の子どもが領主になったりとか。


 だからわざと奴隷を殺してダンジョンの、声は聞こえないにせよ、認めて貰えるように行動するらしい。基本的人権なんてどこにもないね。先の利益のために殺人をする、イフに多少の慰めにでもなればいいですがと言われながら教えてもらった。


 逆に僕の場合はそれを魔力で補おうと思っている。人よりも多いMP量であれば軽い食事程度の腹ごしらえは済ませられるからね。害のない人を殺す理由はないし、デメリットも大きいし。何より人を殺したいとかいう欲望はないから、多分、吸血鬼としての考えもあるけど、人としての考えも残っていて混同しているんだと思う。


 その後は遺品整理というか、冒険者達の装備を整理した。ボロボロで捨てなければいけないものを除けば革鎧が人数分とちょっと残っている。もちろん、余っていても使い道がないので売ることで決定した。


 それと合わさってドリトルの着ていた防具も見てみたけど、これがどっこいお宝だった。自動調節と常時清潔のスキルがついた防具で防御力もそれなりに高い。最初は速度メインのアミとミッチェルを除いた二人で、どちらが装備するか考えたけど、二人とも清潔なのは分かるけど着たくないと断られた。


 命令なら着るって言っていたけど、確かにあんなデブの着た服なんて要らないよね。それを聞いて僕も着るのをやめて倉庫の肥やしにすることにした。


 倉庫にしまうのと同時にステータスをチラ見してみる。




 ____________________

 名前 ギド

 種族 吸血鬼・真祖(人族)♂

 職業 1.魔導師 2.

 レベル 34

 HP 1538/1538(S)

 MP 8245/8245(SS)

 攻撃 751(S)

 防御 697(S)

 魔攻 1265(S)

 魔防 1059(S)

 幸運 855(S)

 魅力 938(S)

 スキル

 料理D

 解体F

 剣術C

 固有スキル

 経験値上昇B

 ステータス補正E

 魔眼D(魅了、鑑定、偽造)

 スキル創造

 テンプレ

 ナビゲーション・イフ

 血液操作

 全属性魔法C

 耐性

 聖C 呪B

 称号 魔神の加護 絶滅種の主 洞窟王 苦痛に耐えた者 ダンジョンマスター 防衛者

 心器 ワルサーP38

 ____________________




 僕は二度見した。

 だけどステータスは変わらない。あれ? なんでこんなに強くなっているんだ? ファーストジョブの魔法使いも魔導師に変わっているし……。


【魔法使いの上位ジョブですね。四属性魔法、つまり火、水、風、土のスキルレベルがCをこえ、魔攻が700を超えていた場合に魔法使いから魔導師に変化します】


 あー、なるほど。

 だからステータスも増大しているのか。……というか、MP横の成長率がSSになっているんだけど?


【それは吸血鬼特有の血液摂取量が一定値を超えたためです。一つの秀でたステータスの成長率を一段階上げるのですが、S以上になるのは初めてのことだと思われます。それにデバフ効果である日光弱体も消えましたしね】



 あっ、本当だ。……全然気が付かなかったぞ……。

 明らかに桁が違うからね。八千越えってことはカースボールを八百は撃てる計算だし。それだけじゃなくてシロの餌にするにしても三千あれば充分だしなぁ。


 なんだかんだ言って元々のスキル自体もレベルが上がっている。これは多分、ドレインの効果とレベルアップによる恩恵だろうね。ただ僕の振り分けたいスキルに振り分けられるわけではないから、ここが弱点かな。


 称号の話も聞きたいんだけど補正がかかるものってある?


【ダンジョンマスターはダンジョン内でのステータス上昇が、防衛者は自分に害あるものを倒したことで得たスキルで、盾聖になる権利が得られます。仲間を背後にした時のノックバック無効や防御力の増大がメインですね】


 盾聖はそれ以上の力を持つのか。

 ……それよりも賢者の方を目指したいからどうでもいいや。あって悪いことはないけど、別になくてもいいし。


 そんな感じで夜まで五人で洞窟でくつろいでいた。仕事も終えたのでミッチェルにゾンビウルフっ娘に対して常識を教えて貰っている。とはいえ、人のものを奪わないとか本当にごくごく普通のことだけど。


 僕は微笑ましげに皆を見てからダンジョンコアのところまで向かう。シロから連絡というか、来て欲しいと言われたので向かっているだけなのだけど。


【待っていました、よ】

「いやーごめんごめん。仕事が多くてね。それでどうかしたのかい?」


 輝くダンジョンコア。


 光の屈折とか反射とか、そんな簡単な理由だけでは説明出来ないくらいに綺麗だ。そこに片手をつけて上下にさする。何となく撫でているイメージでやってみたけどシロから【……どうか、しましたか?】と聞かれたので心地良いとかの感触はないのだろう。単に僕の撫でがお気に召さなかっただけかもしれないけど。


「いんや、ちょっと気になることがあっただけだよ。すべすべして気持ちいいな」

【……それはなにより、です。……それよりもマスターに話したいことがあったのです。今回の戦いのおかげで……私は大きくなれました。……本当にありがとうございます】

「僕の事情でやろうと思ったからね。あんまり考えなくてもいいよ。それにシロがいる時点で僕は大きくなる姿を見てみたかったし、結果オーライかな」


 ダンジョンコアが少しだけ薄赤く染った。

 照れているのか、喜んでいるのかどちらかだろう。こんなに人間らしい無機物とか初めて見たんだけどね。


【……生物は生きながらに体から魔力を放ちます。それを吸うことでダンジョンは大きくなるのです。死んだものはご飯として魔力に変えられて……生物の元は魔力です。私が大きくなるためにマスターが手を貸していただけるのであれば、これ以上に頼もしい言葉は……ありません】

「赤ん坊が母親の乳を飲むのと一緒、ってことだよね」

【そうです。……もう少しで私は】


 そう言ってシロは黙ってしまった。

 ダンジョンコアの赤みは薄くなり少しだけ青みが増えてくる。イフが何かを言っている。僕に対してではない、シロに対してだ。


 小さく深呼吸するかのようにダンジョンコアが軽く震えた。その振動は大きくなり光が淡くなっていく。雨に打たれて削れるように少しずつ光は元通りに変わっていき、そして、手元に一つの小さな透明な石が現れた。


「……これは?」

【私は……ついていけません。……ご飯を貰うのに適した環境が……欲しかったので……私の本体をそちらに移しました。……マスターの魔力は美味しいのです】

「ダンジョンコアの……本体か……すごいね」

【それにそれだと……見てもらった方が早そうです……】


 ダンジョンコアの分身が輝いていく。

 僕の手から離れるためにか、ぴょんと軽く飛んで宙に浮いたまま、光は四肢を象るように足から順々に固まっていった。両足が固まってから次は手を、そして顔を作り始め、最後に長い白い髪が現れる。


 可愛いというよりも綺麗な、それでいて白髪に負けないほどの肌の白さと身長の低さが特徴のようだ。目の色は茶色で少しだけ吊っているのが綺麗さを増大させる。


「この姿なら……外を見れますから……」

「……え?」


 非現実的すぎて頭が追いつかない。

 ……ここはファンタジー、そう、ファンタジーなんだ。……そう考えて無理やり心を落ち着かせよう。


「これが地面……足……触感……変な感覚です」


 僕の手を無理やり取って自分の頭の上に乗っける。シロは悦に浸るような表情を浮かべてから瞳に僕を映した。


「私を作っていただきありがとうございます。この体ならば何か役に立てるかもしれません。どうか……これからも……よろしくお願いします」


 小さく少女は笑った後に瞳を閉じて僕の胸へと枝垂れかかる。抱きとめてから僕はシロの頭を撫で続けた。「気持ちいいです」と言い始めるシロを見て頬っぺたを指で上げる。


「これからはもっと楽しい生活にしてあげるよ。だからシロも頑張ってね。シロみたいな小さな子には笑顔がお似合いだからさ。それを失わせないように僕も頑張るよ」


 シロはこくりと頷く。


「それなら……よろしくです。お兄ちゃん」


 胸の奥がズキンと痛む。

 トラウマではないけど、あまり呼ばれたくない言葉だった。僕はシロのことは嫌いではないし、実妹である心も嫌いではない。


 ただ心の言動は明らかにおかしい。

 それを思い出してしまう。


「……お兄ちゃん……呼びは嫌でしたか」

「いや、頑張ってくれたのは分かるよ。ちょっと考え事をしていただけ。シロの好きなように呼んで」


 シロと心が違うのは理解しているけど、それでも二人で話をしている時にお兄ちゃんと呼ばれると、むず痒さと共に胸の痛みも感じる。


 自分の心のことを無視しながら雑談をして、洞窟の整備をイフとシロに任せることになった。魔力に関しては共にいるシロ経由で何とか出来るらしい。


 そしてやることも終え僕達は洞窟を後にする。帰ってこないわけではないけど少しだけ寂寥感というか、小さな悲しみが心の奥底にいるのを感じて転移を開始する。


 最後までシロのお兄ちゃん呼びは止まらなかったけど、この気持ちは時間が経つにつれてなくなっていくはずだ。そう信じていたい。


 外はまだ日が登りかけている最中だったけど、それがなんとも綺麗で僕の心を暖めてくれた。きっと日光を克服したからに違いない。


「誰も傷つけさせない」


 僕は小さく仲間に対して決意をして門番にグリフ家の紋章を見せた。これで誰も省かれることなく中に入れるはずだ。


 門番さんの狼狽える姿が少しだけ面白くて笑ってしまう。僕の笑顔に対して「頑張れよ、男は甲斐性だ」と言われてやり返されてしまったけど、いい人だったので握手だけしておいた。


 そのままの足取りで冒険者ギルドに向かう。

 シマさんの所へは簡単な依頼をクリアしてからで構わないだろう。武器の扱い具合とかをゾンビウルフっ娘にも感じて欲しいからね。

どっかで閑話を挟むかもしれないです。

次から話が進み始めると思います。どのように進ませるかはまだ決まっていないですけど(汗)


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