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2章12話 男にはやらなきゃいけない時がある、です!

書き上げられました…


 重厚そうな扉、その周りには龍の顔のようなものが描かれている。中から漏れてくる空気はすごく不穏で僕の背筋を凍らせた。それ以外に扉の情報はない。


 手に持つワルサーを強く握りしめ扉を軽く押す。本当に力は入れていなかったのに、まるで開くのが当然というように勝手に前へと消えていく。


「ミッチェル、ここからは本気だ。本気で僕もやる。戦い方にこだわる必要は一切ないから」

「……私も援護します。危なければ私を囮にーー」

「それはしない。危なければここから飛べばいいからね。……そうだろ、イフ」


 イフからも大丈夫との返事が来た。

 空間魔法のレベルはあまり高くないとはいえ、ここから外に出ることは出来る。普通は出来ないけどイフがダンジョンの結界をこじ開けておいてくれるそうだ。だから安心して戦える。


 ダンジョンから外へ出ることは普通は出来ない。普通というのはダンジョンに張られた誰も破ることの出来ない結界があるから。それを破ることは容易なことではない。特に感情を持つものにとっては。


 結界とかの魔法には何かしらの属性が付与される。ファイアー系なら炎、カース系なら呪のように。そして結界に張られた属性は呪の、それも幻影というピンポイントなものだ。名前の通り幻を見せるもので破壊しようとする人の過去のトラウマを穿る。それにその人の一番嫌うやり方でだ。


 例えば上げて落とすみたいなものらしいけど、確かに僕なら壊せないだろう。ミッチェルでも無理かもしれない。過去はどうでもいいと言いながらも、僕がいなくなればミッチェルは壊れてしまうだろうからね。


 その点、イフにはそういうものはない。未発達な感情であっても機械のようなスキルには効かないと思う。


 ただ僕は反対はした。

 スキルであろうと大切な僕の何かなのだから。それでもイフはやることを決めてしまった。それなら早く倒してしまうしかない。今、頑張って結界に穴を開けているイフのために。


 最後の一撃の時に永遠とも覚える苦しみを与えるのなら、余裕を持つためにそれが発動する一歩手前でダンジョンマスターを殺す。


 大丈夫と言われてからイフからの返事はない。頑張ってくれているんだ。だから僕だってやるしかない。


「行くぞ!」

「はい!」


 足を踏み出し入ってすぐに魔法を撃ち込む。

 使い慣れたアイシクルウォールとアイシクルソードを同時に出し、十二本のうちの半分のアイシクルソードをぶち込んだ。


 ガギン。


 そんな小説によくあるような擬音が聞こえてからそいつは姿を現した。


「……手荒い。我を呼び覚ますものよ」

「黙れよ。こっちも余裕はないんだ」


 老人の姿を象る男に連続してカースボールとアイシクルソードを撃ち込む。影に速度の早いカースランスを隠した上で。


 大丈夫だ、イフから敵の情報は聞いていた。


「チッ! ……小癪な……」

「吸血鬼、だろ? それなら僕の十八番だ」


 吸血鬼。

 それも階級としては一番下の雑魚だ。僕の真祖には到底及ばない。呪属性の耐性も持っていないみたいだしね。


 それでも魔法を魔法で打ち消すあたり、ダンジョンマスターと呼ぶにはふさわしいかもしれない。それまでといえばそれまでなんだけどね。


「なっ……そういうことか!」


 忌々しげに僕を睨みつけてくるけど手加減する気はない。こいつと僕の違いといえばレベルがかけ離れていることと、生きてきた年数くらいだ。レベルが違うからと言って真祖の成長率と最下級を同じにしてもらいたくはない。


「……貴様! 人じゃないなァ!」

「答える義理はない。待ち人がいるんでね」


 先程までの人の良さそうな顔は醜くなり口は三日月形に割れる。顔元も若さを取り戻し目付きを鋭くさせた。


「チッ! うぜえ!」

「させない! 舐めるなよ!」


 吸血鬼は指を切り血をミッチェルに飛ばしたが、僕のアイシクルウォールの前に止まる。魔力面での差がここに来て現れた。それにミッチェルからすれば躱せる範囲内だったと思う。念の為は重要だからね。


「それよりいいのか?」


 僕から視線を外して。

 ワルサーの引き金を引き土手っ腹に銃弾を七発打ち込む。全て魔力を大量に入れ込んだ特注品だ。僕でさえもいいダメージを食らうものを、さて僕と同等クラスの敵がノーダメージで耐えられるかな? 僕の呪いも刺さっているんだよ?


「グォッ……なっ、なん、でだ!」


 息も絶え絶えといったような言い方で吸血鬼は怒号を上げたが、それで許す気は全くない。


「言っただろ! 余裕がないってね!」

「ガフッ……あっ、ァァァ……」


 早く第二形態にでもなれ。

 それをさせるために時間をかけずにこうしてやっているんだから。


 本来、ここのダンジョンマスターとして召喚された相手は、俗に言うレイド戦のボスだ。二人で倒すほどの弱さではない。確かに第二形態になれば僕よりもステータスは高くなる。吸血鬼からすればそれが目当てのはずだ。


 そしてそれは起こった。

 バキバキと骨が折れるような音が響き渡り顔が歪み背中からどす黒い翼が一対、現れた。大きさも前の二倍ほどはあるかもしれない。膨れ上がった胴体から漏れ出す臭気は、とてもじゃないけど近づこうという気持ちすら削いでくる。だけどそれまでだ。僕からすればそれ以上でもそれ以下でもない。


「……すいません! 二発外しました!」

「三発当てられれば十分! 後は任せていいから!」


 ミッチェルを下がらせる。

 ここに来る前にミッチェルと話をしていた。僕はある程度の情報なら初見でも手に入るスキルがあるって。だから最前の作戦を立てた、従って欲しいと。


 ミッチェルが足でまといだとは思わない。


 それでも時間がかかってはいけないことはイフからそう言われて分かってしまった。それなら早く済む方法を行うだけだ。


 ミッチェルはすごい。


 僕の撃ち方を見て拳銃とはどうすればいいか理解していた。その結果、無理難題を押し付けても五発のうち三発を当てられたのだ。それは同じ箇所に銃弾を打ち込むこと。


 良くて二発だと思っていたのにも関わらず三発当ててしまった。頑張ってくれているミッチェルを無下には出来ない。


「死ねよ。僕の、僕達の礎になれ」


 残ったMPの九割ほどを注ぎ込んで作られた銃弾。その威力は僕にすら計り知れないほどだ。


 それが第二形態へと姿を変えた吸血鬼の、ミッチェルが銃弾を当てた場所に、吸い込まれるように撃ち込まれた。


 貫通はしない。


 その代わりに聞こえてきたのは盛大な爆発音と飛び散る血飛沫だった。僕は静かに氷の壁の内側でそれを見ていた。


【やはりお二人ならば苦戦しませんでしたね】


 勝ち誇っているようなイフの声に安堵して僕は意識を手放した。




 ◇◇◇




「……あっ、目が覚めたんですね」

「……ん? ……ああ、大丈夫……」


 少しだけ気だるさがまだ残っている。

 多分これはMPを全て使い切ったことによる反動だ。イフがよく言っていたし。……文面だけを見ればイフ、お母さんみたいだな……。


「……ずっと膝枕していたの?」

「寝顔、可愛かったですよ?」


 ミッチェルが微笑む。

 恥ずかしいな。僕の寝顔を見て喜ぶなんて。というか、あまり膝枕していたことは苦ではないのかな。……そうじゃなさそうだね。すごく頬を赤くしているし。


「それで、イフ様はどうしたのですか?」


 初見でも情報が得られるスキル、それをイフだと説明していたのでミッチェルはイフの話を知っている。僕は首を傾げながらも話しかけてみた。


【大丈夫です。どちらかというと気分がいいくらいです】


 そんな返事が返ってきた。


「大丈夫だってさ。……それにしても酷い光景だね」


 僕が目を覚ました先にあったのは洞窟に散らばる血痕と血の海に漂う三つの素材だけだった。遠目から見て一つは何かの結晶、もう一つは剣、最後に石のような何かだ。最後の石だけは本当に特徴がない。


「……ごめん、力を貸して。ちょっと反動で起き上がれない……」


 近くで見ようと体を起こそうとしたけど無理だった僕がミッチェルにそう頼むと、まるで待ってましたとばかりに頭を持ち上げ地面に置いた。


 それでも予備の服を丸めて置いてから僕の頭を移動させたので、洞窟の硬い地面に頭が接触はしていない。なんというか、すごいVIP待遇のような気がする……。


「ちょ!」

「動かないでくださいね。今、起こしますから」


 確かに僕はミッチェルの手で起こされた。


 ほぼ抱きしめられたまま上半身を起こさせ、その後に手を取りゆっくりと。この時に僕は今度ミッチェルに仕返しすることを心の奥底で決めた。


 ただミッチェルの体はすごく柔らかくて嫌な気持ちは一切しなかった。それでもやられた分はやり返すよ。あんなことやこんなことをして、ね。

割とあっさりやられるダンジョンマスター。

淡白すぎるので後に書き直しするかもしれません。

次回、ドロップしたアイテムと文字数によってはゾンビウルフっ娘が出てくるかも……。


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