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4章134話 神をも凌ぐ刃

 その考えは確かに間違っていない。

 近距離に強いショットガンが相手とはいえ、それは引き金を押し込めればという行動があって成り立つ結果だ。つまりは、そのような時間さえ与えなければミッチェルにも勝機はある。


 だが、それを簡単に許すわけもない。

 動きが見えたと同時にミミは軽く後方へと蹴り出しながらアサルトライフルを乱射した。その雑な発砲は当たれば御の字、威嚇にでもなればいいとでも思っていたのだろう。当たり前ではあったが全てミッチェルから外れ、地面を穿っていくだけだった。


 いや、外れたという表現は間違いだろう。

 十発の中の一発程度、それらは確かにミッチェルへと向かっていた。ただ、目の前で何かに弾かれて当たらなかっただけだ。とはいえ、その結果がミッチェルを焦らせたのは紛れも無い。


「少し雑になったわね。どうしたの、怖いの」

「ええ! 貴方を殺してしまわないかね!」

「その強がりは彼から学んだのかしら。……でも、貴方は彼には届きはしないのよ」


 踏み込みが一瞬だけ早かったに過ぎない。

 それが失敗だったともミッチェルは気が付けないままに左腕を吹き飛ばされた。即座に下がった事で追撃は免れたものの未だに情報は追い付きはしない。……それが大きな隙となった。


 その美しい彼女が銃弾に貫かれる。

 視界に映る景色は確かに変わらない。目の前にいるミミは何もしていないというのに……その弾丸は撃ち込まれていた。そこまで考えに至ってノルンの片側を吹き飛んだ左腕へ巻き付かせ、反対側を胴体へ回す。


「へぇ、さすがに分かるのね」

「ええ……貴方は確かに私よりも遥かに高みにいる存在です。でも、その武器への理解度はギドさんには少しも及びませんから。その攻撃だってあの人の真似事でしかありません」

「……傷を負った運命を操作でもしたの。確かに貴方の心装は侮れない能力よ。それに理解度も真似事も間違ってはいない。……で、だから、何」

「付け入る隙が多過ぎる、ギドさんなら楽しみながらそう言います。やっぱり、私に運命を操る力なんて価値は無いのだと思いますよ。だって、どうであっても私は───」




 心装がミッチェルの体から離れていく。

 空中に浮かんだまま、揺蕩うだけの姿は見た者をただ魅了するだろう。だが、相手は心装を操るミッチェルすらも完封するような神。だからこそ、その帯をミッチェルは操作した。大きく手を振り上げた瞬間に地へと向け、叫ぶだけだ。


「あの人のようになりたいだけですからッ!」


 帯の両端が地面へと刺さり、消えていく。

 普通ならば好機だとしか思えない状況、だが、ミミの表情が一気に歪む。同時に大きく下がって地面へとアサルトライフルを撃ち込むが遅かった。数万にも及ぶ枝分かれした帯がまるで茨の結界を張るかのように周囲を包んだ。


「何、この程度で」

「予想通り、乱射した銃弾を空間魔法で集めて意識外から放っているだけ。この程度だけならギドさんは様子見で放つでしょうね。それで、その後は何をするのですか」

「チッ……馬鹿にするのも大概に───!」




 背後を撃ち抜かれた時点で気が付いていた。

 それを口にせずに待っていたのは同じ行動を取るのを待っていたからだ。別にギドとの言葉はブラフになればいいとしか思っていなかった。結果としてミッチェルは自身の求めていた最高の運命を手繰り寄せる。


「それを待っていたんです。近接戦ではショットガンを使おうとする。能力は知りません、知るために動く気もありません。でも、理解度が低いのなら出来ると思いました」

「ヒグライ……ッ! 最初からそれが狙いでッ!」

「ええ、私の心器なら貫ける自信がありましたから」


 心装を貫いたショットガンの弾丸。

 折角、張った帯すらも簡単に破壊する姿にミッチェルは確かに理解したのだ。だからこそ、今のような行動を取れていた。ミッチェルは自分に対して自信を持ってはいない。だが、敵であるミミの言葉とギドの言葉に関しては自信を持てた。


 ミミは確かに口にしていたのだ。




『貴方の心器が近接戦で追随を許さない力があるように』




 それはミッチェルが使っていた白色のレイピアには無い能力だった。心器の全てを知りはしないものの大まかな能力くらいなら分かる。……ならば、ヒグライと呼ばれた黒のレイピアに何かあると思うのは当然の事だろう。


 加えてミミは口にしていた。




『誰も壊せた事が無かったから壊れないと勘違いしているだけ。心器もただの魂を模した武器でしかない。だから、耐えられないだけの一撃を加えられれば簡単に壊れるわ』




 そして、ギドの事を一番に知っているイフはシロに対して銃の詳細を教えていた。心器が壊れないというのは俗説で、加えて内部構造がイフの教えた通りであれば……そこから先は最愛の人から学んだ知識を活かせば良いだけの話だったのだ。


 だから、ミミの心器へヒグライを刺した。

 ショットガンの弾を撃ち出すための空間、弾丸とハンマーの間に差し込む事によって引いたとして放てなくしている。そこから即座に帯による連撃を両側からミミへ向かわせて追撃を行った。もちろん、それを許す訳もなくミミはアサルトライフルを構えようとしたが───




「なッ!?」


 そこでようやくミミは気が付いた。

 自身の手が細く数百に分かれた帯によって止められている。アサルトライフルを持ち上げようにも手は動かず、ショットガンは使い物になりはしない。それを見て心器を入れ替えようとした……その瞬間だった。


「ええ、待っていましたよ」

「これは……イチゴ……ッ!」

「幾ら神でも呪には耐えられないでしょう。そして私の心装は……運命の力を操る」


 一本の帯で包まれた短剣、イチゴ。

 それがミミの右目へと突き刺さり、存分に力を発揮した上で引き抜かれたのだ。どうにか、ヒグライを出して帯を斬り、後退したミミであったが既に遅い。目から身体へと流れ込んできている呪は簡単に消しされるものでは無いのだ。


「長期戦は私が有利、短期戦に持ち込もうとしたとしても心装で守りを固めれば貴方の攻撃を全て流せる自信があります」

「……安い挑発ね。いえ、心装と心器の両立は必要とする精神力が普通じゃないもの。早く戦いを終わらせたがる気持ちは分かるわ」


 確かにミッチェルは少し焦っていた。

 心装と心器の両立は普通の人には成し遂げられないような神業とも呼べるもの。既に魔力やスキルすらも発動させられない程に魔力を消費したミッチェルが、二つを顕現させ続けられているのは偏に気を失いそうな酷い精神状態を我慢する事で成し遂げられていたものだった。


「乗ってあげるわよッ! 神を舐めないで欲しいわねッ!」

「舐めていませんよ……貴方の力を認めているから挑発している迄です。では、私も最後の力を出し切る事にしましょう」


 最後の最後まで頭に浮かぶのは一人の青年。

 とうに切れていた魔力を精神力で補えていたのだって見て欲しかったからだった。邪な感情だとは理解していても最初で最後の世界の何よりも愛していると呼べる最大の存在……ギドのためであれば生き残れればどうとでも良いのだ。


「貴方には感謝しています。貴方のおかげで私は数段上へと立つ事ができたのですから。加えてギドさんの凄さをより理解させられましたよ」

「それが分かってくれたのなら私も安心して貴方を殺せるわ。もう手加減なんてしないわよ。精々、その生意気な口を噤んで本気で守る事ね」


 その言葉に少しの嘘も無い、分かっていた。

 だから、ミッチェルは振り絞れる力の全てを心装と心器に注いで最後の力を顕現させる。数百にも及ぶ歯車がミッチェルの背後に現れ、それが魔力を注がれる事によって回転を始めた。


「願いなさい! 慈悲深き神よ! 終わりなき運命に欠落の無きように!」

「我が身に宿りし贖いの心よ。罪深き少女のために力を解放せよ」









転輪テンリンッ!」

副次弾メタ・バース


 周囲にはただ土煙が待っただけだった。

 ミミが何をしたかは分かりはしない、対してミッチェルが何をしたのかも誰も分かりはしないだろう。ただ、一つだけ分かる事がある。それは片方は地に倒れ込み、片方は掠り傷で済んでいるという事実だ。






「……これでも倒せませんか」

「当然よ、彼の隣に立ちたいのならこの程度で負けていては駄目だもの。ただし、それは私が長い時を生きたから成し得た事でしかないわ」

「そう……つまり、私でも時間をかければ同じ高みに届くという事かしら」

「ええ……貴方の仲間達なら誰だって届く程度の高さしか無いわ。そうねぇ……例えるのなら富士山程度かしら。まぁ、私の本気を耐え切っている時点で貴方は槍ヶ岳くらいまでなら届いていると思うわ」

「……分かりそうで分からない例えをありがとうございます」


 心器も、心装すらも叩き壊された上での敗北。

 だが、不思議とミッチェルには恨み言の一つも浮かびはしなかった。分かっていたのだ、相手がミミであったからこそ、心装を表に出せただけだという事が。そして、その感覚を掴めたという事実が今はただ嬉しかった。


「さてと、勝った証に一つだけ聞かせて……どうしてミッチェルはギドに手を貸すの。貴方の才能なら一人でだって生きていけるでしょう。なのに、どうして彼の隣にいたいと思うの」

「簡単ですよ……強者が気紛れに与える優しさ、気紛れに与える恐怖……その両者に惹かれただけです。簡単に言えば大好きなんですよ。助けられたとかではなくてギドさんの事が少しの時間も忘れられないくらいに愛おしくて……それで」

「はぁ、それだけ聞ければ大満足よ」


 ブーっとミミは唾を吹いて小さく笑う。

 ミミの目的はミッチェルに分かりはしない。それでも求めている何かを満たしたという事実だけは理解出来た。だからこそ、ミミは指を弾いて神と呼ばれる力を発揮したのだ。そう、今ある光景の全てが一瞬で変化しただけ。


「それは餞別、覚悟があるのなら突き進みなさい。全てが終わりへと進む修羅の道へ。そして貴方が切り開きなさい。大切な存在だと思う神谷樹の突き進むべき道を……ただ只管に」

「これ……は……」


 まるで、戦いは無かったかのように───

 そう思えてしまう程、美しい状態で二人は出会ったばかりの姿へ戻っていた。だが、一つだけ大きく違う事がある。それは……心装を顕現させる事は出来ないという事実だ。ただ、ミッチェルにはそんな事はどうでもよかった。


「それじゃあ、最後まで頑張りなさい。この程度の相手に堪えているようでは先が思いやられるわ」

「……ふふ、ありがとう」

「別に気にしなくていいわ。所詮、これは貴方から時間を奪った贖罪でしかないもの。だから、見せ付ける事ね。───貴方の本当の力を」


 そう言ってミミは一瞬で姿を消した。

 魔力の残滓等はあらず、ただ一度の瞬きの中で彼女は最初からそこにはいなかったかのようにどこかへ行ってしまっている。それでも自身の両手に残った二つのレイピアがミミのいた事実だけを表していた。


「本当に……ギドさんが好きなのね」


 そうでなければ負けはもっと早かった。

 ましてや、ギドは相手の強さに合わせて出す力を定める。それこそ、少し前のローフとの戦いのように人としての力だけで戦うような、所謂、手を抜いた戦い方を好んでいた。それらがどうしてもミッチェルには重なって見えていた。


「ええ……絶対に失敗しないわ!」


 ミッチェルは自身の頬を強く叩いた。

少し長くなってしまいましたが満足の行く内容になったと思っています。強者同士の戦闘になると両者の格を落とさないように書かないといけないので大変ですね。そのせいで書き切るのに時間がかかってしまいました。本音を言えば出していい部分に悩み過ぎた結果、生半可に書けないというスランプに陥った訳ですが……。



もっと言ってしまえば戦闘描写を書き込みたいんですけどね。特にミッチェル(心装と心器解放状態)とミミ(神?)の戦いは両方とも最上位に到れる強者ですので(読んでいて分かるとは思いますが……)書き込める描写は多いのに文字数が多くなり過ぎるという悲しい現実……書き直しが進んだ時には増やそうと思います……。


ブックマークや評価、いいね等、よろしくお願いします。評判が良さそうであれば近いうちに出します。微妙であれば遠からず出します(適当)。

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