4章133話 神の想い
どうにか書けましたので投稿します。
「なるほど、これは心装と呼ぶのですね」
「チッ……話しながら攻撃しないで欲しいものね!」
フワリと浮いたミッチェルの前から数百にも及ぶ光の槍が現れる。それらが一気にミミへと飛んでいき、そして当たるのと同時に爆発霧散した。一つが爆発すると横にある光の槍も連鎖し、最終的にはミミのいた空間には大穴が空く。
だが、当のミミは大穴の中で立っており、その体には掠り傷一つ付いてはいない。それでもミッチェルの表情は美しい笑みで包まれており、対してミミの表情は強ばり冷や汗が流れていた。
分かっているのだ、彼女の心装の力を。
そしてその異質さや使われた力がお遊び感覚の一撃でしか無い事も理解している。だから、ミミは初めて得物を召喚した。……何度も見たギドのワルサーと似た何か。分からない事が多い中で一つだけ確信できるのは……ミミもまた異質な力を持つ存在である事のみ。
「空間歪曲ッ!」
「ギドさんと同じ技ですか……」
細かな魔法陣の数々、まるで頑強な結界が張られているかのようにミッチェルは動けずにいた。いや、それは違うのかもしれない。ミッチェルという一点に向けられた弾丸、それらが右手の一振で全て掻き消されたのだ。
「浅く、甘いですね。その程度でギドさんの一部でも真似出来たと思っているのでしょうか」
「まさか、これは第二陣を整える時間稼ぎ。私の場合は心器が多過ぎて出すのに苦労するの」
その言葉通り、即座に第二の矢が飛ぶ。
同じく銃弾による一撃ではあったものの先程とは比べ物にならない数であり、その弾全てが操られているようにミッチェルの視界を隠すものとなっていた。それら全てを対処するために心装を操る事で対処している。
「……私の心器ですか」
「ええ、私が出せる心器の中で今の状況で一番に有用なのがコレなのでね。貴方はまだ扱い切れていないようだけれど……まぁ、どうでもいいわ」
視界が開け、ミミの姿が映った。
白と黒の対になったレイピア、ミッチェルの心器が両手に持たれ、その威圧も一層と強くなっている。それを理解した瞬間に一気に距離を縮められるが、その瞬間に帯によって押さえられてしまう。そのまま目で追えない速度の連撃が行われ始めるが全て届きはしない。
帯の両端、二つの先のみが忙しなく動く。
それをただミッチェルは目を閉じ静観し、ミミの連撃が止まるまで続けた。……五分はその攻防が続いただろうか、ようやくミミが大きく下がって一気に距離を取る。その額には明確な汗が二つ程流れており、対するミッチェルは薄く瞳を開いた。
「酷く揺らぎが無いです。平穏、安寧……そんな言葉が生優しく思える程に世界は美しく感じ、そして汚れている感覚に襲われます。それなのに全てに対して無関心な私もいます」
「心装に取り込まれたのかしら。だったら、私には勝てないわよ」
「取り込まれる……なるほど、そのような捉え方があるのですね。でしたら、元より私が求めるものはギドさんの笑顔だけです。それ以外の全てに興味が無いだけです」
静かに笑みを浮かべ、帯がミミへ向かう。
それを白のレイピアで弾き、もう片方の得物の先を向けたまま突きを行った。だが、帯の反対によって掴まれ空中へと投げられてしまう。どうにか体勢を整えようと身体を動かしている中で弾かれた帯の先から数十もの細い帯がミミへ向かった。
その攻撃が白のレイピアによって弾かれる。
いや、細かく言えば白のレイピアによって作り出された結界によって弾かれたというのが正しいだろう。その隙の中で黒のレイピアが引き抜かれるが帯の反対側の動きを見て一気に下がった。
「私の思い通りに動ける、全てを動かせる……ギドさんの願いとは真逆の力……さながら、神の名を取って『ノルン』とでも言うべきでしょうか」
「……悪くはないわね……。その力は確かに戦いにくい気持ちの悪い攻撃よ。でも、その程度で運命を名乗るだなんて軽口にも程度があるわ」
その言葉と共に再度、距離が詰められる。
同時に放たれた黒のレイピアによる突きはミッチェルが羽織る羽衣すらも貫いた。それでも即座に反応したミッチェルによって身体への一撃を与える事は出来ていない。引き抜くまでの数秒間、その時間すら大きな隙になると感じたのか、黒のレイピアが霧散する。
そこを帯によって攻撃するものの、それらが結界によって弾かれてしまう。その一撃でミッチェルは強く理解した。ミミの言う通り、自身の心器への理解度が極端に劣っている……だが、それを聞いてミッチェルは満面の笑みを浮かべた。
「いきなり笑って何。気持ちが悪いわよ」
「あははは……ごめんなさい。今のでよく分かっただけですよ。私はどこかで慢心していたって……こんなにも強くなれる要素があったというのに見て見ぬ振りをしていた、とね」
「……心装と心器の同一展開。なるほどね、確かに言葉通り、貴方は掴み始めているのね……」
身に纏う羽衣は依然も美しいままだ。
だが、その両手に持つ対照的な色を持つレイピアは明確に光に満ちており、未だにどこか余裕を見せていたミミの口元を少しだけ歪ませる。その一瞬の表情の動き、その中でミミにも負けない速度でミッチェルが距離を詰めた。
その一撃はいとも容易くミミを貫いて見せる。
ミミが今までの速度と高を括っていたのもあっただろうが、一番は今のように心器を正しく扱えなかった姿を見ていたからだ。ミッチェルの心器は光と闇を宿す、端的に言えば守りと攻めを併せ持つ稀有な力であった。
故に能力を扱えなければ意味は少しも無い。
ミッチェルの攻撃では例え心装の力を無理やり発揮したとしても傷すら与えられないのだ。だというのに、この短時間の中で心器の本来の力を行使してしまっている。それがミミには想定出来はしなかった。
「さすがは……あの方の想い人ね。彼の力の一部でも手に入れていなければ担えない重い役職なのを忘れていたわ」
「確かに……ギドさんに想われている存在は多いですからね。人の恋心というのは容易く冷めてしまうと聞きます。だからこそ、私は彼の目から外れる訳にはいきませんので……」
「ええ、貴方は異端だもの。樹様を含めて数人程度の中に含まれる数少ない存在……そこを見落としていたのは私の落ち度よ。だから……いや、いいわ。気にしないで」
静かに地面に足を着き、心器を霧散させる。
戦う意思は無い、だが、その得物を振るえば確実に切り刻まれてしまう。それだけの何かが今のミミにはあった。いや、今までは遊んでいたに過ぎないのだろう。だからこそ、ミッチェルはただ得物を振り下ろした。
「今の貴方になら任せてもいいわ。あの人はどうしても」
「ええ……どこかで見守っていてください。もしも、私でも止められない時に……助けていただければ今回の事は許しますよ」
「ふふ……ばーか、私はあの人に幸せになって欲しいだけなのよ。言われなくても助けてあげるわ。でも……これはただの私のワガママ、そう、自分を許せないから貴方に力を見せただけ」
そう言ってミミは二つの銃を出した。
片方は漆黒に染まり、片方は燻んだ黒の中に幾らかの茶色の装甲が付いている。似た見た目をしてはいるものの同じものでは無い事だけ、ミッチェルは理解した。そして、その二つがギドでさえも解放出来ていない心器である事も同時に頭の中に叩き込む。
別に勘が外れていても良かった。
だが、最悪には最悪を予想した方が動きやすかっただけ。ましてや、その二つを出した瞬間からミミの表情は一気に光悦とした笑みに変わる。その顔をミッチェルは知っていた……そう、戦いを楽しむギドと同じものだ。
「最後くらいは本気で戦ってあげるわ。それを持って知りなさい。あの方の隣に立つためにはどれだけの力が必要なのか、を」
「……胸を借ります」
気等抜いていない、油断なんて以ての外だ。
だというのに、ミッチェルが言葉を口にした瞬間に大きく吹き飛ばされた。どうにか帯を地面に突き刺す事によって壁へと激突する事は回避したものの、それでも今の一撃で負ったダメージは相当なものだ。
「あら、今ので気絶させるつもりだったのに。本当に貴方達は普通では無いわね」
「……もちろんですよ、私達にはギドさんから与えられる加護にも近しき恩情があります。それらを返せないままで敗北に甘んじるわけもないでしょう」
「向かってくるなんて……本当に馬鹿ね」
帯による一撃を手に持つ銃で止められる。
それに合わせて帯の先を数十にも分かれ、受け止めたミミへと向かい始めた。それを一瞥したかと思うともう片方の漆黒に染まった銃が構えられ、引き金が押されたかと思うとミッチェルは再度、大きく吹き飛ばされる。
「これはショットガンと呼ばれる武器よ。近距離でしか火力を出せない代わりに近ければ普通の敵なら一撃で殺せてしまう代物。対して……」
「くっ……! これは……!」
「こっちはアサルトライフル、簡単に言えば中距離相手なら幾らでも致死的な一撃を与えられるような最高の武器よ。貴方の心器が近接戦で追随を許さない力があるように、この二つは事、心装相手には化け物のような力を誇るの」
その言葉の意味も、真意も分かりはしない。
それでも今の一瞬でミッチェルは強く理解した。ただ近距離へと迫って攻撃するだけでは、ましてや普段のように相手との距離感を測りながら動き回るだけでは少しの勝機は無い、と。故にミッチェルは心装を展開したまま、その両手に二つの心器を手に持つ。
「それならどちらも使えない状態に持ち込めばいいだけですね」
そう言ってミッチェルは一気に距離を詰めた。
閲覧頂きありがとうございます。どうも、この作品に関しては書こうとするとすんなり書けませんね。どのキャラも出せるだけの情報が決まっており、その量を見誤ってしまうと一気に話が瓦解してしまいます。それが理由で書く事を拒んでしまう自分がいるようです。ちょこちょこ、書き直しを行っておりますので、それらで作品を書くモチベーションでも高めていこうと思います。
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