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4章129話 兄としての誇り

「……本当に規格外ですね」

「大袈裟だなぁ、少しでも魔法に精通していれば誰だってできるようになるさ。この程度で規格外だなんて本物の規格外に失礼だろ」

「強固な結界を一撃で破壊しておいてそれは無いと思いますよ。……俺達との戦いでは本気では無かった事がよく分かりました」


 うーん、それは正しくて間違いだ。

 あの時の僕は間違いなく本気で戦っていた。人として出せるだけの力を出した、というべきだね。今回の一撃だってローフに撃ったところで簡単にいなされている。だから、あの時には使わなかっただけの事だ。ただ、そう素直に言ったところで納得してくれるわけでも無さそうだし……。


「手の内は明かしすぎない、冒険者としては普通の事だろう」

「なるほど、主としての風格が無いと言ってしまいましたが大きく間違っていたみたいです」

「あまり褒めないで欲しい。照れてしまうだろ」


 その冷や汗は僕が発した威圧のせいだろう。

 一瞬だけ、本当に一瞬だけ本気で威圧をかけただけだ。怒っている怒っていないとかの話ではなくて当然の事だと伝えたかっただけ。まぁ、吸血鬼の中でも最上位の真祖の威圧を耐え切るシードも大概だと思うよ。普通はショックで腰を抜かしている。


『イフ、他メンバーの配置は完了済みか?』

『問題ありません。各々、指示されている場所で陣を張っております』

『それなら上々、時期に戦闘が開始されるだろうから構えだけ取らせておいてくれ』


 今回の作戦はミッチェルが核となっている。戦闘を行いながら各区間の情報をイフ越しに伝えてもらう。指示は随時、ミッチェルの判断で動かせるという殆どを任せ切った過労死待ったナシの仕事量だよ。


 戦いながら正しく状況を把握して伝える……普通の人なら確実にできないだろうけど、それを僕はミッチェルに頼んだ。僕の仲間の中でそれができるのはイフとミッチェルだけ、それでいてイフは僕の想定外の保険として必要だったとなれば頼むしか無い。同じことをできる僕も最前線で戦う手前、余裕は少しも無いし。


 でも、きっと彼女ならやり切ってみせるはずだ。

 正門にはミッチェルとシロがいる部隊、そしてフェンリルがいる部隊がある。手が足りなくなれば援護は可能だから多少の余裕は作れるはずだしね。問題は……裏口にいる幻影騎士の四名と鉄の処女だ。前者はエルドの不在、後者は模擬戦における傷が完治していないという状況でどこまでいけるか……不安を出したらキリが無いよ。


 だけど、やらないという選択肢は無い。

 今回のメインは僕がディーニを潰すのではなくエルドが前を向けるようにする事だ。言わばエルドのためだけに作り上げた状況とも言える。それが僕の仲間達を抜きにして可能なら幾らでもやっていたけど……まぁ、できるわけが無いよね。


「エルド、覚悟はできているね」

「はい! もちろんです!」

「それならいいんだ。じゃあ、先に伝えていた通り僕達が先陣を切る。同行者はスケイルとローフ、加えてエルドとイフのみだ」


 イフが五つの水の槍を飛ばして門を破壊する。

 これで突撃するためのルートは完成した。もとから待機していた兵士達が現れたけど……悪いね、ディーニの味方をするのであれば生かしてやる義理は少しも無い。恨むのなら自分が選んだ仕事に対してして欲しいものだ。


「死ね」

「ま、待ってくれ!」


 シードが止めている気がするけど知らない。

 さっさと一人で門へと突撃して近くにいた兵士達を火達磨にする。大丈夫、人殺しならドリトルの時に慣れた。それでも殺す時にはできる限り苦しまないようにしてやろう。僕が与えられる最期の祝福だからな。


「さすがにギドのクランにいるだけの事はあるな。俺達が追えない速度についていけてやがる」

「……本当に俺達と戦う相手を選んでくれていたのでしょうね。あの速度が普通だとすれば、そして得物の振る速度が当たり前なら確実に勝機はありませんでした」

「俺でも勝てるか微妙だぞ。あそこにいる貴婦人は確実にギドと対等以上の力があるからな」


 うーん、仲間が褒められるのは嬉しいですねぇ。

 片方は僕の分身とも言えるイフだし、片方は僕の大切な弟のエルドだ。もっとだ、もっと褒めてあげて欲しい。特にエルドはどれだけ褒めても認めてくれないからさ。第三者の評価が確実に必要なんだよ。


「僕だけを見ろよ、ハウンドハウル!」

「……本当にエグいなぁ」

「アレが普通ですよ。あの程度であれば大して苦にも感じておりません」

「さすがは……SSSランクの領域に至りそうな存在だよ。ローフさんが負けるのも納得できる」


 高々、十数人を引き付けて叩き切っただけ。

 それのどこがSSSランクの領域に至れるって話になるんだ。そもそも、ハウンドハウルだって魔力に対して多少の知見があれば戦士職であっても可能な技でしかない。叩き切るのはステータスが高ければ誰だってできるよ、うん。


 ってか、イフならハウンドハウル抜きで魔法を使えば一瞬だし。あの子を見ていたら僕なんてまだまだ過ぎて逆に欠伸が出るよ。まだまだ具合で言えばまだまだまだまだまだまだまだまだまだみたいな感じでラッシュができるくらいだ。漫画なら見開きで二ページは軽く追加できるよ。


「エルドは右の通路にいる兵士を対処! イフは左側だ! 倒し次第、先に進む僕達に合流!」

「はっ!」

「簡単ですね! ですが! 褒美は頼みますよ!」

「ああ! めいいっぱい抱き締めてやるよ!」


 エルドはすぐに袋小路へと突入する。

 つまり、大して時間もかからずに合流が可能なはずだ。代わりにイフの合流は時間がかかるだろうな。探知した感じ左側にはユウに鍛えられる前のイアと同程度レベルの猛者がゴロゴロといる。いや、それはディーニがいる前方も大して変わらないか。


「ふ、攻めてくるだけの事は!」

「話している時間があれば攻撃しろよ、雑魚」


 いきなり姿を現して演説とは随分、余裕だな。

 ってか、防御の一つや二つはして欲しいものだ。適当に黒百合で切ったら左右で真っ二つになってしまったぞ。前言撤回、イアの方が確実に強い。コイツらは自己肯定感の低いイアよりも数百倍弱いクソザコナメクジだ。


「き、貴様には戦士としての意地というものは!」

「悪党に払う意地はねぇよ。僕の弟に手を出した時点で戦士だとは思ってもいねぇ」


 デカい口を叩けるのならただ振っただけの黒百合を弾いて欲しいよ。本当に……口だけの弱い者イジメしかできない野郎共だ。イアごめんよ、少しでも同等扱いしてしまって。君の方が数千倍強くて可愛いよ。


「……すみません、俺のワガママのせいで」

「何が、だ」

「俺がワガママを言わなければディーニを含めて屋敷を更地にできたでしょう。馬鹿な意地のせいでギドに要らない面倒事を押し付けたように感じたんです」


 それは最初に放った火球の事を言っているのか。

 いやいや、アレはそこまでの火力はないよ。確かに屋敷を更地にしろと言われたらできなくはないけどさ。それでも目の前にいる殺した雑魚共すら倒しきれていなかったと思う。ましてや……。


「勘違いだね。もとからエルドのためにディーニを瞬殺する気は無かったからさ。対象を最初から殺さなかったのなら手間とかは何も関係がない話だよ」

「……本当に君は優しいねぇ。俺が女だったら確実に惚れていたよ。いや、だからこそ、君を慕う女の子が多いのかな」

「シードには既に良い子がいるだろ。僕なんかに縋らなくともきっと大丈夫さ」


 この一言はシードを傷付けるかもしれない。

 でも、軽口を続けて僕の心を土足で踏んだシードには良い罰だろう。それに……僕みたいなイレギュラーな転生者がいるんだ。少しだけ愛の力というものを信じてみたいじゃないか。


「……ありがと、俺も大丈夫だと思っているよ」

「なら、尚更、死ねないよな。スケイルとしての意地を見せてくれよ」

「ふっ! 言われなくとも!」


 シードはそう言うと指を無作為に振った。

 いや、無作為に感じたのは第三者である僕だからか。他の二人、加えてローフは意図が分かっているのか、すぐに体勢を整えていた。主にガルとローフが僕よりも前に行き、守りの体制を取ってシードが僕の横に、ウルは最後方で杖を構えている。


「ガルはいつも通り前衛を張れ! 漏れた攻撃は俺が対処する! ウルは横から狙う遊撃隊の処理だ!」

「俺も前衛を手伝ってやるよ!」

「師匠と弟子の共闘ですか……悪くない……!」

「もう……これだから男臭いのは嫌なのよ!」


 そう言う割にはウルの表情は悪くないね。

 何だかんだ言って……二人はお似合いなのかもな。多少の年齢差はあったとしてもウルが見ている先は殆どローフの方だし……ああ、早く倒してミッチェルに癒してもらいたいな。


「遊撃の手伝いをするよ」

「……ああ! 助かるよ!」

「なに、大掃除を終わらせるためだ」


 それに前衛を張ってくれる人がいるのなら無駄に魔力を消費せずに済む。これよりも先に僕が想定していたよりも強い存在がいたら……その時には些細な魔力すらも勿体なく感じてしまうからね。


 自身にかけた強化を一気に解いて得物をワルサーへと取り替える。もとからワルサーでの戦闘は後衛というよりも中衛よりも戦い方だった。前衛をミッチェルに任せて僕は狩り漏らしを潰す、本職に戻っただけの事だよ。


「すごいな、本当に楽に進める」

「ああ、アレが俺を倒した化け物の強さだ」

「本当に……心強い!」


 ただ中衛でワルサーを撃っていただけなのに。

 本当に……僕の転職はここらしい。いやはや、僕の分身とも呼べる誰かさんのせいで前衛を無理やり張らされていたからなぁ。やっぱり、ここが消費も減らせて楽でいいや。


「もう少しで目的地へと到着する!」

「分かった! 殴る準備をしてやる!」

「ぶっ殺してやるよ! クソ野郎!」

「あの子の仇……!」

「……殺すッッッ!」


 反応は四者四様、でも、結論は一緒だ。

 クソ野郎はぶち殺す、僕はその手伝いをしてやるだけ。まぁ、先の部屋にいる一人だけは殺せないけどね。……でも、他の奴らは殺してしまっても問題は無いだろう。


「弟に手を出した事を後悔しろ」


 開幕の一撃は最初から決めていた。


「カース、ランスッッッ!」

小話、実は明確にスケイルの強さは定まっていてシード>ウル>ガルです。実は三名の中で戦闘の才能が一番に無いのがローフの愛弟子であるガルなんですよね。もちろん、他冒険者と比べてしまえば明確に才能のある部類なのですが……。


ちなみに開幕のギドの一撃ですがウルも放つ事が可能です。ただ万全の状態で五分程度の準備時間を持ち、尚且つ満タンのMPを全て吐き出してようやく同じ火力が出せます。一応、ウルも非凡な秀才という扱いですが魔力効率もギドに劣るので必要な魔力は四倍ほどかかるでしょうか。


以上、小話(本文に書かない裏設定)でした。


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