4章128話 小さな花火
駄目だ……書けば書くほど他のお兄ちゃんが頭を過ぎる……。
「……と、これで準備は万端かな」
「冒険者ギルドや商人ギルド、他の面々からは了承の合図が届いております。恐らく不十分でいるのはギドさんだけかと思います」
うーん、手厳しい事を言ってくるなぁ。
こう見えて色々と準備はしていたんだよ。皆の回復ポーションを作成したり、情報操作をするための包囲網の作成だったりさ。大概が冒険者ギルドか商人ギルドの人達の情報が僕に伝わるせいで休めた時間の方が少なかったし。
でも、頑張ったおかげで用意した部分に関しては少しも漏れが無い自信はある。現に多くの仲間達はセトの名のもとに手助けを確証しているし、情報の間違いもイフ曰く少しも無かった。だから、大きな問題は無いはずだ。
ただ一点だけ不安があるとすれば……。
「相手の戦力が未知数な事かな」
「それは仕方がありませんよ。未知数だからこそ、多くの仲間を募ったのではありませんか」
「分かっているよ……でも、どこまで行っても心残りはあるんだ」
皆をパーティ毎に分けてしまった。
もちろん、分ける必要があったんだ。分けなければ戦力的に穴になってしまう箇所が出てしまうからね。だけど、その分だけ各個撃破が可能になってしまったのも事実だ。僕の仲間達の良さは仲間の中でなら誰と組んだとしても戦える連携能力の高さ、それを自ら削らないといけない状況は良いとは言えない。
フェンリルは少なくとも大丈夫だろう。
あそこは何と言っても僕達と共に前線に立つ部隊でもあるからね。フェンリルに加えてミッチェルも近くにいるとなれば僕のようなイレギュラーな存在がいない限りは負ける事は無い。だから、僕の不安点は裏口を警備する幻影騎士の四人や鉄の処女の三人だ。
今回はエルドを僕と共に連れて行く。
これだけでも大きな戦力ダウンだからね。ロイスは勇者だからステータスで劣る事は無いだろうし、キャロも最悪は呪魔法が使えるから心配は無い。イルルとウルルだって魔族だから下手に負ける事は無いだろう。
だが、司令塔となるエルドがいないのはかなりの痛手でもあるんだ。どこに注視して何をするべきなのかの的確な指示出しはエルドだからできる事だろう。それがいなければ小さなミスでパーティが瓦解しかねない状態でもある。鉄の処女の三人だって……。
「心配、ですか」
「……大切な弟達を心配しないお兄ちゃんがどこにいると思う。エルドもロイスも大切な、何にも変えられない僕の大切な家族だ」
「ふふ……二人もそれを聞いたら心の底から喜ぶと思いますよ。ですが……」
言いたい事は分かっている。
二人の実力は僕が考えている以上、それに才能もあるからなぁ。パトロの街は全国で見てもかなり上位に位置するような大きな場所だというのに、そこで活躍する人達よりも強いとなると動いてもらわないと困ってしまう。
「弟離れできない兄は嫌われてしまいますよ。二人とも十分に強い人達ですからね。お兄ちゃんであるギドさんの方が笑顔で離れなければいけません」
「そうなったら……少し寂しいな」
「その時には私がいます。私がいて、アキがいて、アミがいて、アイリがいる……きっと、その数はギドさんが生きていくうちに増えていくはずです」
確かに……転生したての時にはここまで仲間が増えるとは思ってもいなかったからね。これからも増えていく可能性は低くない気がする。それこそ、平穏な暮らしができるだけの生活の基礎はできたんじゃないかな。
セトさんからの依頼が終わったら……うん、もうそろそろいいんじゃないか。それにセイラに聞いておきたい事だってあるんだ。ああ、そう考えたら心配している暇はなさそうだね。
「誰も死ななければ悲しむ事はありません。だから、作りましょう。皆が笑顔でいられるような、ギドさんが望んでいた世界を」
「ミッチェル……うん、分かっているよ」
全ては僕のワガママから生まれた集団。
だったら、そのワガママを通そうとする僕が皆を守ればいいだけの事。それに僕の周りにいる人達は全員が高いステータスを持った、冒険者の中でも上位にいる人しかいないんだ。その力を信用してあげなくてどうする。
「僕は……幸せ者だ」
「幸せのお裾分けです。私がギドさんに幸せを与えてもらった分だけ、私がギドさんに幸せを返す番です。それは皆、同じ気持ちだと思いますよ」
「大した事していないんだけどなぁ……」
寝覚めが悪いから助けただけ、ミッチェルが幸せだと感じてくれているとすれば、それは僕がどうにかしたわけではなくて彼女の努力の成果だ。そう伝えたとしても認めてくれないだろうから言いはしないけど。
「おっし、頑張るとしますか。せっかく、色んな人達を巻き込む事に成功したんだ。やるからには徹底的に、それこそ皆が望んだ結果になるようにするのが僕の役目だろ」
「微力ながらお手伝いします」
「微力じゃ駄目だよ。……僕がミッチェルに対して本気で力を貸すように、ミッチェルも僕に本気で力を貸して欲しい。全ては……僕達の馬鹿な家族のために」
敵は全て殺す、それだけの覚悟を持て。
もしも、僕よりも強い存在がいたのなら……その時には人を辞める覚悟だって必要だ。街を救う事にそれだけの価値があるとは思っていない。ただそれでもエルドが前を向けるようになるのなら何だってしてやる。だって、それが兄としての役目だ。
「では、尽力します。その時は家族のためではなく愛しのギドさんのために、となってしまいますが」
「それでもいいよ。それだけミッチェルの力が重要なんだ。誰か一人でも欠けた瞬間に全てが崩れ去るほどに脆い、僕の作戦の悪い所だ」
「全てのミス無く作戦を立てられる人などおりませんよ。それは例え、神であっても不可能な事です」
神であっても、か……でも、僕が叶えたいワガママはその程度ですら、容易に行えなければ至れない世界だ。じゃあ、諦めるか、ミッチェルの言葉を否定してしまうか。……そんな事できるわけがないよね。
「なら、神になってあげるよ。全てを自分の思い通りに進ませるために、神を超えた存在にだってなってやる」
「……普通であれば嘲笑され、否定されるような言葉ですが、不思議とギドさんなら本当に神へと至ってしまいそうですね」
「僕が口にしたワガママは全て成功させてきただろう。だから、今回も叶えてみせるよ。人に疎まれてきた種族が崇められる存在へと至る、すごく面白い話じゃないか」
皆が僕を神聖視するのなら、それが間違いのない事実へと変えてしまえばいい。エルドやキャロが間違えていなかったという事実に変えてやればいいからな。だったら、尚更、負けるわけにはいかないよな。
神がディーニ程度に負けるわけがないだろ。
さっさと仕事を終わらせて皆で馬鹿みたいに笑いあう。パトロの人達と死ぬほどに酒を飲んで殴り合いを眺めるんだ。そんな微かな望みが世界を変えるキッカケになる。ああ……本当に楽しみになってきたよ。
◇◇◇
「見たところ、準備は完了したみたいだね」
「今夜のために全員が準備を整えていたところですからね。それこそ、俺達だって今日という日をどれだけ待ち望んだか」
「はは、それは僕も一緒だよ。僕の弟に関する事だからね。お兄ちゃんとして気が気だったわけでは決して無い」
ディーニに用意をさせないように短い時間しか作れなかった。一週間もあれば確実にディーニ側の戦力も測れたというのに……いや、それだけの時間があれば相手側もコチラの戦力は測れていたよな。それなら僕の選択に間違いは無い。
「シード、僕は本気で怒っているんだ。恐らく今回の戦いにおいて僕は、いや、僕達は少しも殺しを躊躇う事は無い。それは敵ではなく味方であっても、だ」
「……おおー、怖い話ですね。ですが、俺としても譲れない部分はあります」
「ああ、ディーニの最期はスケイルに任せるよ。そこに関してはエルドとも約束をつけておいた」
「それならば俺達は何も言う事はありません。それに共に城へと攻める事を許してくれた件、その恩を忘れる事はありませんよ」
スケイルの同行を許したのは三人の戦力が確実に必要になるからだ。感謝をするのなら強い自分達に対してして欲しいものだけど……まぁ、言ったとしても気持ちを変える気はないだろう。それなら何と返すべきか……そうだね……。
「だったら、その恩返しとして是非ともグリフの街に来て欲しいね。その時はそれなりの歓迎をさせてもらうよ」
「……はは、君は本当に主としての風格が無いねぇ。ギルドで演説をしている時とは大違いだ。二つの大きな神輿の片方だという自覚は無いのですかねぇ」
「常時、威圧していては弱い者達を怖がらせるだけだろ。僕は敵にならないのなら戦わずに済む選択をしたいんだ。少しでも情がある相手なら多少は長生きして欲しい。そんな馬鹿な男の子だよ」
「その優しさが強さの秘訣なのでしょうね。……だからこそ、俺達も一緒に戦いたいと思ってしまうんです。良かったですよ。貴方が俺達の街に来てくれて」
今のはシードなりの軽口なのだろう。
それを僕に言うという事は多少なりとも信用をしてくれたからか。だとしたら、僕としても嬉しい限りだな。彼等は若くしてAランクまで上り詰めた言わば才能のある人達。その人達と強い関係性を築ければ確実に将来のためになる。
「俺達の時間は止まっていたんです。どれだけ成長しようと、強くなろうと秒針が進む事はなかった。それを動かしたのは……馬鹿な一人の男だっただけです」
「……じゃあ、その馬鹿な男のために命を懸けてくれよ。もちろん、馬鹿なりに命を懸けてやる」
「ここまで心強く思う言葉はありませんね。ええ、皆様の援護はお任せ下さい」
そんな声と共に闇の中に多くの炎が飛ぶ。
その炎が現れたのは一箇所からでは無い。十数カ所から発生した炎の玉が一箇所へと飛んでいき、爆発四散していく。夜闇に映る姿はまるで花火のようで一種の美しさも感じられるけど……まぁ、そんなものは祝日でも無い日にあるわけが無い。
炎が攻撃をしたのはディーニの屋敷だ。
それに見ていた感じ傷付ける事はできなかったみたいだしね。僕達が準備できていたように、ディーニ側も準備はできているだろう。王国側からの援護は受けられないだろうが非合法な場所からの援護は受けられるだろうしね。……そうでなければ困る。それすらも破壊して倒さなければ大掃除は完了しないんだ。
「結界……相手方も本気みたいですね」
「あの程度で本気なら大した事が無いさ」
「違いありません。……俺達を馬鹿にしすぎだ」
誰にも聞こえないように言ったであろう一言。
だけど、その一言が聞けて僕としては嬉しかった。彼等は本気で命を懸ける覚悟があるんだ。それなら奮い立たせた僕が本気を出さずにどうする。ましてや、どうもこの怒りはディーニにぶつけないと済みそうにないからなぁ。弟を傷付けられた兄の気持ち、簡単に癒せると思うなよ。
「さてと……始まったな」
「ええ……長い夜の始まりです」
本当に長い夜になるだろう。
そして、先程の炎は後世ではこう伝えられるはずだ。暗闇に咲いた無数の美しき花だと……そうやって笑って言える街にしてあげないといけないよね。この街は僕の弟が生まれた場所なんだ。小さな理由ではあるけど手を貸す意味には繋がる。
「では、行こう。全ては夜明けのために」
僕は正門に向けて大きな火球を飛ばした。
少しだけ書きたい意欲が高くなったのでOVL大賞9をやっている期間だけ、この作品をメインに書こうと思います。毎日投稿は不可能ですが週二回程度、投稿していくつもりですので、よろしければ応援のほど、お願いします。
後、個人的に総合評価3000超えを目指しておりましたので良ければブックマークや評価などもお願いします。12月に入るまでという期限付きではありますが本気で書きたいと思います。
ギド「どけ! 僕はお兄ちゃんだぞ!」