4章127話 子山羊の夢
どれだけの人が更新されると予測できていたでしょうか。
長らくお待たせしてすみません。少し短めですが、ようやく書けましたので続きを投稿します!
「お前なんて生まれなければよかったのに」
劈くような甲高い声。
いつもだ、いつもそんな事を言われて責められ続けてきた。顔がボヤけてしまう程に忘れてしまった母親の顔。あの時は明確に覚えていたものを僕は忘れている。でも、母はただ僕をサンドバック代わりにしたかった事だけは未だに忘れていない。
いつ僕が産んで欲しいと頼んだのだろう。
いつ僕が死にたいと思い始めたのだろう。
それすらももう忘れてしまった。
「そうだね……僕に価値なんて無いもんね」
「ああ、その自信の無さも大嫌いだよッ!」
頬を強く引っ張叩かれた。
だけど……自分よりも背丈が小さく肉すら付いていない手では大した痛みは感じない。あるのは心に来る苦痛だけだ。痛くないけど……ものすごく痛い。
「お前は何で生きているんだ?」
「……二人が産んだからだろ」
「俺はお前に生まれて欲しいとは思っていなかったけどな」
きっと、何でも良かったんだ。
ただ表向きの自分を繕うための何かがあればそれだけで良かった。僕がどうだろうとか、二人にとってはどうでも良くてストレス発散の道具として生きていれば気にしていないんだ。
殴られるのは当たり前で、抵抗したところで勝てない事が分かっている時……もしも、自分が女だったらって最悪な事ばかりを考えていた。きっと女として生まれたところでより酷い目に遭うだけなのにさ。
傷だらけ、痣だらけになろうと大人達は助けてくれなかった。父親が警察官だったから、外面だけは良かったから怖かったのだろう。自分で治していても消える事は無くて……学校で配られる相談所のカードすらもウザったく感じていた。
助けてあげる……所詮、どこも自己満足の助けてあげるなんだ。本当の意味で助けてくれる存在なんてどこにもいない。いや、助けたくても助けられないのかもしれないね。でも、それを被害者達はどうして許せるって言うんだ。
殺したかった、消し去りたかった。
だけど、包丁を手に持つ度に思うんだ。どうして殺さなくてはいけないのだろうって。コイツ如きのせいで人生を棒に振る理由が分からなかった。一つだけ分かる事は……全員、小心者だっただけって事。
高校に入って体格の良くなった僕をアイツらは殴らなかった。いや、殴れなかったんだ。やり返されて傷を負うのが怖かったから。金を払わないだのなんだのと言うだけで手を出せないような小心者でしかなかった。
大人は言う、親の言う事を聞けって。
でも、親が正しいなんて確証はどこにも無い。それなのに子供にばかり負担を強いるんだ。
嫌いだった。大嫌いだった。
親も、教師も、近所のアホ共も……目に映るものを勝手な考えで捻じ曲げるクソ野郎共には少しも好感なんて持っていない。全員、死ねばよかったんだ。
ああ、そうだ……思い出した……。
死ぬ時の僕は確かに思ったんだ。
———お前らが代わりに死ねばよかったのに———
ってさ。
「本当に汚い子だよ。どうして生まれてきたんだ」
「なら、流せば良かっただろ」
「レイプされて生まれた子だとしても流すなんて世間が許さなかったんだ。知ったような口を聞かないで。忌み子の癖に!」
痛くない、痛くない……痛くないんだ……。
そうやって自分に嘘をついていた。
「お前に何が分かるんだよッ!」
そう叫ぶシュウに本気でムカついた。
本当にまだ仲良くなれていない時のシュウの言葉。シュウについて何も知らなかった時に言われたんだっけ。……ああ、こんな時もあったんだな。
「見えなきゃ分かるわけがねぇだろうが」
咄嗟に出てきた言葉はきっと本心だった。
胸倉をつかんで本気で叫んで……それはアイツが天才だから漏れてしまった言葉。そうだ、アイツとは何回も喧嘩していたっけ。喧嘩して喧嘩して、それでようやくシュウの良さに気が付いていったんだ。
「全部、見えないから努力しなきゃいけないんじゃねぇのか。何かを得たいから得るための努力をする。何も失いたくないから失わない努力をするんだろ」
「アホか、見せる努力は努力じゃねぇよ。それはただのアピールだ」
その一言は間違っていない気がする。
だけど、明確にシュウが肯定を求めていない事だけは幼い自分でもよく分かっていた。それを肯定するって言う事は努力をしてきたシュウ自身を否定する事でもあったんだ。だから……。
「アピールだと何か悪いのか」
そうやってすっとぼけてやったんだ。
だって、アピールでも良かったから。少なからず一緒に行動を始めた事で僕はシュウの努力について学んでいった。嫌いだった努力だってシュウに何度も見せ付けてやったんだ。
「俺はシュウの努力を知っているつもりだよ。だから、シュウは俺の努力を見てほしいんだ。本当の俺を知って欲しい。代わりに本当のシュウを理解するからさ」
「……誰も俺の事なんて分からねぇよ」
「そうかもね、俺も俺の事がよく分からないからシュウの言葉は事実だ。でもさ、もしかしたら分かるかもしれないんだぜ。過去がどうであれ、未来の事までは分からないだろ」
そうか……この時、僕はこんな顔をして……。
でも……まだ知らなかったんだ。才能の無い僕が生きるには苦しい世界だったって事に。才能が無いから苦しんで、恨んで、妬んで嫌っていった。殺したいという感情すらも妬みのように感じて考えられなくなっていたんだ。
「俺だって変えられるのから生まれる場所を変えてもらっていたさ。才能だって人一倍には欲しかった。でも、その過去は変えられない。……たださ、未来はもしかしたら変えられるかもしれないだろ」
変えてもらいたかった。
才能が欲しかった。
だから……こんな力を貰ったんだろう。
「抗うしかないんだろうね。天才も凡人も定められていない未来を正しくするために」
そう言って僕はシュウの手を握っていた。まだ現実の辛さを知らなかったからこそ、シュウに伝えられていた言葉……すごく胸が痛くなってくる。
僕は前に進めているのだろうか。
エルドを助けたいと思ったのだって、シードに手を貸そうとしているのだって……きっと、僕のワガママなのかもしれない。
いや……それは……。
◇◇◇
「———はぁ……はぁはぁ……」
最低最悪な夢だった。
そうか……こんな時もあったんだな。きっと思い出したくなくて消え去っていた過去の自分、ずっとシュウとは勝手に仲良くなっていたと勘違いしていた。でも、違ったんだ。
僕が勝手に脳内から記憶を消していた。
どうして消してしまったのか……分かっているよ。僕が僕じゃなかったからだ。……まだ俺でいられた時だったから忘れてしまったんだよな。
「酷く魘されていましたね」
「……ああ、昔の夢を見ていたんだ」
暗闇の中にミッチェルの顔が浮かぶ。
優しげな普段と変わらない表情、こんな子に僕は嫌なものを見せてしまっていたのか。……すごく自分に対して嫌悪感を覚えてしまう。きっと、生きているべきでは無いんだ。それだけ人よりも劣る偽物の才能で……皆を騙しているだけの最悪な人間でしかない。
「今は一人ではありませんよ。私達がついています」
「一人……じゃない……」
不意に柔らかな感触が伝わった。
耳元に聞こえる優しげな声、それが自分より幼い少女から出されているものだと分かった。何度も何度もミッチェルに伝えた言葉達、それが僕に対して返ってきているんだ。
見せかけの偽物……でしかないのは事実だ。
だけど、それを手にしてしまった以上は何も変えられない。
ああ、そうか。
だから、僕は夢を見たんだ。
「……少しだけ、このままがいいな」
「ふふ、今日は甘えん坊さんですね」
「ミッチェルが相手だからだよ。他の人だったら弱い姿を見せられなかったからさ」
過去は変えられないけど未来は変えられる。
そうだ、だから、僕は皆を守らないといけない。どれだけ苦境に立たされようとも守れるだけの力を手に入れなければいけないんだ。
僕はもう凡人じゃないのだから……。
次回はいつになるのか分かりませんが一月経つ前には確実に書きます。仕事が軽く片付いたのと、やりたかった事を終わらせる事ができたので『テンプレ』に時間は裂けると思います。
宜しければブックマークや評価などお願いします! 総合評価3000という大台を突破した景色を見てみたいので是非! 後、総合評価が増えると単純に書く意欲に繋がるのでお願い致します!
後、こちらも読んで頂けると嬉しいです! 元々、カクヨムで書いており、やりたかった事でもある作品で『テンプレ』に負けないくらい面白い作品だと思いますので本作品の更新を待つ間の暇潰しに是非!
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『公爵家の末っ子に転生したので自分勝手に生きようと思います』
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