閑話 不穏な影
お待たせしました! いや、お待たせし過ぎたのかもしれません! 短めですが書けましたので投稿しますー!
ーーああ、また迷惑をかけてしまったなーー
ギルドを出たエルドの内心は不安でいっぱいだった。ディーニへの恐怖では決して無い。あるのは主であるギドを思うからこその不安。ディーニとの争いのせいでギドに心労を与えてしまった。ましてや、ギドはそれをキッカケにディーニと戦う事を決め、あまつさえ、街そのものを味方にしてまで完膚無きまでに叩き潰そうとしている。その姿は間違いなく規格外だった。
一介の冒険者程度であれば成し遂げられるはずも無い妄言に近い世迷い言を口にし、その準備をしっかりと整えてしまった。これらがただのギドのワガママであればエルドも不安に思わなかっただろう。
それら全てが自身の生い立ちのせいで計画されているのだ。自身を弟として迎え入れ、名前すら付けていただけた主……それがもしも、此度の戦いで傷つく事があったのならばエルドは死んでも死にきれない気持ちに悩まされるだろう。ましてや、ギドから前線へ出ることを認めて貰えたからこその不安もある。
「大丈夫……だよな……」
未だに自信は持てていない。
心器は出せた、他の人にはできない縮地だってできる。それでも……自身の周りにいる人を見れば胸を張って自身が強いとは言えない。単純なステータスではキャロ以外には圧倒され、槍の技術面においてもアミには勝てないのだ。
自身を才能が無いと卑下したことは一度も無い。仮に自身に戦闘の才能が無いのであれば他の冒険者は無能未満の何かということになってしまう。加えてエルドのように広い視野で戦闘を行える存在がいることによって、ロイスが怪我を負うことなく戦えている事は自覚していた。
それでも自身が底辺にいるという非現実的な世界に置かれている現実に変わりは無い。だと言うのに、たかだか奴隷の一人でしかない自分への待遇も普通では無いのだ。……その恩義に報いたくとも叶わない現実に表情が強ばる。
今いる場所を守りたい。
過去との決別を果たしたい。
そして……強くなりたい。
エルドの口から白い息が漏れる。
気温の低さのせいか、少しだけ悴む両手を軽く擦って流れ行く景色に目を向けた。領主討伐の計画が立てられている裏側とは別に、普段通り何も変わらずに進む街。人が行き交い、ナンパする人がおり、そして恋人と共に手を繋ぎながらどこかへと向かう男女がいる。
少しも羨ましいという気持ちは無い。
下手な女を選ぶくらいならば手元に残さない方が楽だったからだ。それに……。
「はぁ……本当に駄目な奴だな……」
脳裏に過ぎるのは一人の少女のみ。
自身を最後まで愛し、自身が最後まで愛した掛け替えの無い女の子。それを思い出したせいか、エルドは顔を顰めた。思い出したくない訳では無い……ただ少女を思い出すという行為そのものが過去に囚われている行為と同義だと分かっているだけだ。折角、与えてもらったエルド・カミヤという名前も過去に囚われたままでは何の意味もなさない。
「ふむ、黄昏ているようだね」
突如、聞こえた声に戦闘態勢を取る。
最初はやり過ぎたかと考えたエルドではあったが、その声の主を知り正しい行動だったと悟った。構えた槍を突き刺してしまおうか、そう考えはしたが今いる場所は往来の多い街道。そこで殺生となれば主への迷惑は今まで以上になってしまう。戦闘態勢は解くものの槍を手にしたままでエルドは男を睨んだ。
「何の用でしょうか、フィーラ殿」
「大した理由は無いですよ。ただ貴方が一人になるのを待っていただけです」
その言葉に一瞬だけ身構えるもののフィーラが動く気配は無い。それを見て警戒は強めるもののエルドは構えを解いた。辺りにフィーラ以外の敵がいないのも構えを解いた理由だろう。
「ずっと話をしたかったのですよ。でも、貴方はいつも私を避けていましたよね」
「ええ、貴方以上に信頼できない人はいませんから」
吐き捨てるようにフィーラを睨む。
その目にフィーラは一瞬だけ身震いした素振りを見せるものの、エルドは小さく舌打ちをして威圧を強めた。何度も見たフィーラの道化のような行動、身震いもただの演技でしかないと分かっているからだ。
「君は本当に暴れ馬だ。あの時も、そしてその前からずっと」
「貴方に暴れ馬と呼称されるとは甚だ侵害ですね。ディーニの元へつき、自分勝手に動いていたのは貴方の方でしょう」
「……それが私の仕事だからね」
フィーラは一瞬だけ悲しそうな目を見せたが、すぐに道化の顔を取り戻し笑顔を見せる。まるで悲しみすらも演技だったと言いたげな顔付きだったがエルドには分かった。全てがフィーラの望む行動では無かった、と。
とはいえ、だから何かが変わるわけでもない。
フィーラが行動を起こしたことによってエルドが望む全てが否定された。執事やメイドが自分のために死に、愛する少女すらも犠牲となった。自身の四肢が消えたことよりもその結果がエルドの胸を締め付ける。
「君は本当に……私の気持ちを理解してくれないようだ」
「それはお互い様でしょう。貴方がディーニのために動く時点で私とは相容れません」
「あのクソ野郎のために動いたことなど一度もないさ。汚名など着せられたところで気にするつもりはないが、そこだけは私とて許すつもりは無い」
フィーラなりの本気の威圧。
エルドはそれに一瞬だけ怯むもののギドの顔を思い出し睨み返すだけだった。初めて見る感情を露わにするフィーラの姿に多少の動揺はある。話したいことだって少なくは無い。それでも行動に移さないのはフィーラがどこまで行っても敵でしかないからだろう。
「机下」
「……何だ」
「そこに君宛ての手紙を貼っていたんだけどね。その様子では読んではくれなかったのか。まぁ、いいさ。最初からこうなる事は目に見えていた」
一気に威圧を解いたフィーラがエルドの目を見詰める。悲しそうな、それでいて嬉しそうな目だ。その目がエルドのトラウマから作られた傷を広げていく。だが、そこで怯むような姿勢は見せない。
二つの大きな深呼吸が聞こえた。
「一つだけ教えておこう。君のお爺様やお祖母様はご健在だよ。まぁ、君達が負ければどうなるのか……覚悟しておくといい」
「その時はお前達が死ぬ時だから覚悟する理由も無いな。悪いが俺は、主はお前達程度では敵う相手では無い」
「ふふ、楽しみにしているよ」
そう言うとフィーラはどこかへ消えた。
人混みの中に消えたのかもしれないし、何かしらのスキルで飛び去った可能性もある。だが、エルドからすればどうでもよかった。エルドには負けられない理由が一つだけ増えてしまった。
一つ目に今いる場所を守るため。
二つ目に過去との決別を果たすため。
三つ目に強くなるため。
そして……フィーラから真意を聞くため。
「エルド、大丈夫か」
「あ……ギド様……いえ、何でもございませんよ」
「……そうか、なら、良かったよ」
なんでもないわけが無い。
そんな事はギドにもよく分かっていた。何も無いのにエルドが強い威圧を放つわけが無い。ましてや、エルドとは別の威圧もあったのだから誰かと会話をしていたのはギドにも分かる。
それでも追求しなかったのはギドなりの優しさからだった。そしてエルドもそれをよく分かっている。だからこそ、エルドは両頬を強く叩いてギドに笑いかけた。
「頑張りましょう。全ては主の望む世界のために」
「はは、そこまで大層な目標は立てなくていいよ」
ギドは優しくエルドの頭を撫でた。
何となく書く気持ちが薄れてしまってからダラダラと執筆をやめてしまいましたが、今日から少しづつ書いていこうと思います。楽しんで読んで貰えると幸いです!
ただ不定期投稿であり、他の作品を書きながらなのであまり期待されると潰れそうなので期待せずにユルユル読んでください! それとブランクのせいで間違いが多いかもしれません(設定など)がそこも暖かい目で見てください!(ここぞとばかりの予防線)
次回は閑話としてスケイルの話を軽く書く予定です。その後で本格的なディーニとの争いですね。タイトルの回収はディーニ達との戦闘ら辺でされると思います。ではでは、次回をお楽しみに!
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