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4章124話 演説(前編)

お久しぶりです! 仕事が忙しくて書く時間が取れませんでしたがようやく書けたので投稿します!

「本当にいいのか」


 ローフは戸惑いながらギドに聞いた。

 それは今から起こることがデメリットだらけの間違った行動のように感じられるからだろう。事実、その行動をするように話されたギドも最初は困惑していた。何故そうした方がいいのか、しつこくセトに聞いたくらいだ。


 だが、意地悪なセトだ。

 その理由を説明してくれるわけもなく、イフでさえ意図を教えてくれはしない。全知に近く無限に感じられるような情報を全て扱い切れる頭脳を持つのに分からないわけはないだろう。でも、ヒントの一つすら教えはしなかった。答えなんて分からない、昨夜のうちに長く悩んだからこそギドはローフの言葉に「さあ」と笑って見せる。悩んで悩んで答えを見つけられなかった結果、ギドは二人を信じるという選択肢に行き着いた。


 もちろん、行動のメリットがゼロというわけではない。頭ごなしに行動を否定するわけではないが反対にデメリットも多くあるのだ。でも、イフは止めなかった。それは自身を強く想うイフのことだ、意味なくということはありえないだろう。そう考えるとやめる理由が見つからないのだ。それならばどうするか。


 決まっている。


「もし辞めたくてもお膳立てしてくれた後ではもう遅いですよ」

「確かに……そうだが……」

「まぁ、心配なのは分かります。でも、これをしなければいけないんです。だから」


 そう言って自分を鼓舞する。

 ギドは一度、大きな呼吸をして目を開いた。その眼差しを見詰めるローフの顔は少しだけ心配そうだ。ギドはそれを見てフッと笑みを見せる。その不安を多少でもかき消すために。


「本気で殴りあった僕を信じてください」


 詳しく言えば二人を信じた自分を信じろ、か。

 フッと自信のなさは変わらないかと自嘲して見せ、ローフに視線を向ける。そんなギドに何も言えずにローフは首を縦に振って返した。止めても今となっては所詮無駄なのだ、ならば、望むようにさせるしかないだろう。願わくばその選んだ道が修羅ではないことを祈りながら進み始めたギドの背中を追った。


 騒がしい扉の向こうへ、気にした様子もなく早足で高台の上まで歩く。眼下にはガラの悪い男達がズラリと並びギドを睨みつける。とはいえ、直前にイフ達に幾つか頼み事をしていた甲斐があったのだろう。ローフが横に立った瞬間に荒々しさは残せども真剣な眼差しへと変わり高台に立つ二人を見つめている。


「お初にお目にかかります」


 静寂に響いた息を飲む音。

 荒くれ者の集団と呼ばれる彼等が見ているのは漆黒のローブを羽織った若き青年だ。チラリと見えるのは冒険者と呼ぶには相応しくない端正な顔立ちと、それでいて物腰柔らかく朗らかな笑顔。ローフでさえも、易々と買えるものでは無い代物であることは見る目の無いものであっても明白だ。だからこそ、普段ならば彼等はこう言うだろう。


『若く調子に乗った男だ』


 だが、今回は誰一人として口にはしない。

 分かるからだ、教育を受けることも出来ずに腕っ節だけで生きていた彼等には嫌という程。生きるために強くなり、奪い、時には助けあってきた彼等だからこそ、目の前の青年の恐ろしさが本能的に感じ取ってしまう。怒り、それでいながらも威圧することなく笑みの奥深くに隠している魔物のような風格。そこにはローフと戦った時の騎士のような品性は少しもない。


 ランクの低い者は体の言うことが聞かず。


 Bランクの男は笑顔を引きつかせ。


 隣に立つローフでさえ冷や汗を垂れ流す。


 ただ辺りに満ちるのは威圧に似た何かだ。

 形容するのも難しい感覚を無理やりに言葉にするなら……そう、誰もが目指すAランク、そして人外の入口とされるSランクに達する者、その力の片鱗を彼等は身近に感じている、と言うのが一番に正しいのかもしれない。痛いなどの話では済まない。気を抜いてしまえば一瞬でショック死してしまうかもしれないほどの存在感。ローフは強く感じていた。


『ああ、私との戦いは本気ではなかったのか』


 それは嘘であり真だ。

 人間としての本気を出したギドではあっても、吸血鬼としての本気は出してはいない。ギドの本心を知らないからこそ、勝手な考えが浮かんでしまうのだが……例えそうだとしてもローフからすれば何処か一抹の悲しさを感じてしまう。


 それと同時に感じたのは恐怖だ。あそこまでの人外とも呼べる気味悪がっていた力を持ってしても互角、仮にギドが本気を出していたとすればどれだけの強さを彼は有しているのか。そして未だに笑みを崩さずに沈黙を貫いているのもまた不穏に感じられる。


 爽やかな笑顔の下に隠しているもの。

 それを知ることが出来ない限りは小さな恥と大きな恐怖を拭うことは出来ない。そんな中で大きな咳払いが響く。フイとギドの顔を見たローフは納得した。事実、ギドは幾度となく先をローフに促しているにも関わらず続く気配は無い。それを察したギドは肘でローフを小突く。


「あ、ああ……すまないな」

「いえいえ」


 恐怖を隠すように笑って見せる。

 それでもローフの笑顔は引き攣っていた。そんな顔を見て気が付かない人は鈍感レベルの話ではないだろう。人差し指で頬を軽く掻いて見せたギドは続けた。


「こちらこそ、すいません。少しばかり怒りを制御することが出来なかったみたいです」

「いや……当然のことだ。気にするな」


 とはいえ、表情は変わらない。

 ギドも少しだけ悲しさを覚えはしたが、それでも限りある時間を今は使いたくなかった。仕方ないと万能な考え方を無理やりし、視線を段の下にいる人達へと向け返す。転生したてのギドが抱いていた冒険者像そのままの、荒くれ者にしか見えない人達がそこにはいる。


「今回、集まって頂いたのには理由があります。とはいえ、名や顔を聞く者達もチラホラ見えますからね。勘が鋭い貴方方のことです、恐らくは何故に集められたのかも分かっているのかもしれません」


 普段の冒険者ではなく商人としてのギド。

 尚更に彼等の背筋が冷たく、凍り始めていく感覚に襲われてしまう。笑いながら言う青年の目は反対だったのだ。冷たく凍っているといったものではない、蔑んでいるというわけでもない。そう、間違いなく値踏みをし個々の価値を見つけようとしている。それが彼等に嫌悪感を抱かせてしまう。


「酷い世辞だな」

「そう捉えられてしまいましたか」


 隠そうとする化け物のような力。

 それでも先程の畏怖が未だに尾を引いてしまう。冗談交じりに返す青年がどうしても恐ろしく感じてしまう。声を出した荒くれ者の男は勇気があると言えるだろう。下手をすれば青年の機嫌を損ねてしまう可能性のある言葉を声を振り絞って出したのだから。


 もちろん、ギドはそんなことを気にしない。

 得意な愛想笑いで場を和ませようとしていた。それが余計に彼等の恐怖を煽っていることには気が付けていない。笑みを引かせることもせずにギドは一つ咳払いをしてから続けた。


「本心で言ったつもりなんですが……まぁ、いいでしょう。察しているかいないか、どちらにしても説明は必要ですからね」


 笑みが一瞬で消える。

 美しい花が散るように、瞬きしてすぐに。


「私はディーニを消す」

『ッツ!?』


 彼等は酷く驚いた。

 その言葉の意味がどれだけに重いかを彼等は知っているからだ。知的で才能のある青年への評価が正義感に駆られた馬鹿な存在へと変わった瞬間だ。今までだって消そうとする人を何人も、いや、何十人も見てきたからだ。ならば、その人達はそれを成し遂げられたか。


 答えは言わずもがな、否だ。

 その全てが見るも耐えない姿で見つかっている。行方不明になって数日後に女であれば使い古されたボロ雑巾のように、男であれば空っぽの肉と皮だけの骸骨で。年齢も性別も違う人達の共通点は領主に対する不満を抱いていた者達だけだったのだから、彼等は禁忌として領主の話をしないようにしていた。彼等のような正義のヒーローになって無惨に死ぬくらいならば、と。


 だが、それを若い青年が口にしている。


「馬鹿な考えはやめろッ!」


 そう反論してしまったのはスーツを着た糸目男だ。

 確かに教育を受けていない人も多くいるが中には商人被れの存在も少数だがいる。その人達は少なくとも最低限の教育は受けていた。その過程で人を見る目だって育成されてきたのだ。だからこそだろう、商人としても冒険者としても才能があるように映った青年を惜しんでしまう。


「貴方は……Bランクのウェイトさんでしたか」

「あ、ああ……その通りだ」


 口を返すわけでもない青年の言葉。

 ウェイトと呼ばれた男はそれに酷く驚いた。てっきり口悪く馬鹿にされるか、攻撃されるか……どちらにせよ、悪い方向に進むと思っていたからだ。だというのに、青年がしたのは感心したように首を縦に振るだけ。それも自分よりも圧倒的に凡才な自身の名前を覚えていたのだ。それが不思議で不思議で仕方がない。


「お止めになる理由は分かります。それにこのような大人数で声を出すのはさぞ、勇気がいることでしょう。私はそんな貴方を優秀だと思ってしまいます。中にはAランク以上の方もいるはずなのに口を噤む存在が多いですからね」

「そ、それは……」

「ですが、だからこそ、何故に足を震わせ立ち止まっているのか私には分かりません。勇気のある貴方が、ランクを上げて力を誇示する人達が産まれたての子鹿のように震え、今の劣悪な環境を受け止めているのか。少しも」


 青年はそう言って笑みを浮かべた。

 今度は何かを本当に面白がるように、どこか楽しそうに、だ。ウェイトはそれを聞いて頭を押さえた。何かを言い返そう、だが、それが出来やしない。青年の口にした言葉に一切の粗がないように聞こえてしまうのだ。それはウェイトに限った話ではない。


「ああ、自己紹介が遅れましたね。私は数日前に街に来た他の町の冒険者、ギドと言います。一応はAランク冒険者と商人としての地位もありますが……まぁ、この話は些事たるものでしょう」


 当然と言いたげなギドの顔。

 図星で何も言えない、嫌な空気を変えるための発言だったのだろう。それでも、だからこそ、その表情が動くことをしなかった彼等の冒険者としてのプライドを傷付けた。そこで声を荒らげたのはウェイトではない。


「……ぬくぬくとランクを上げたお前に動けなかった俺達の何が分かる」


 体を震わせているのは怒りからか。

 だが、ギドからすれば残念なことに誇示しているはずの背中に担がれた大斧でさえも可愛く思えてしまうほどに、声を出した男の体は小さく感じられてしまう。ボロボロの革服が余計に貧相に思えた。彼の名前も小耳には挟んでいる。荒くれ者の一人であり先程、小馬鹿にしたAランクでもある存在だ。名前は……と思い出そうとしたところで止めた。


 ギドからすれば面白みを感じられなかったからだ。それこそ、勇気を出し最初に静止の声を出したウェイトの方が面白い。同じ天秤にかけるのは可哀想だろうと脱線しかけた考えを返答へと向けた。どうせ共に戦うのであれば自分がそうしたいと思える相手だけでいい。


「ああ、そう捉えられてしまいますか。ですが、それは保身の言葉にしか聞こえませんよ。だって、否定しないってことは今の環境がおかしいって分かっているじゃないですか」

「だからな!」

「動けない、じゃないですよね。死ぬのが怖いから動かなかった。計画を立てるわけでもなく自分だけが生き残るために、違います?」


 鋭利な刃物のような返答。

 少しも違わない、真っ当な返しだ。彼等が口を噤んでしまうのも仕方がないだろう。確かに、正義を掲げた馬鹿達に全員で手を貸していれば、皆で挑んでいれば今の狂った状況を、領主が好きなことをするだけの街を何とか出来たかもしれないのだ。ここまで広がった権力の前であれば幾らでもチャンスはあっただろう。


「と、すいませんね。部外者である私が知ったような口をしてしまいました」

「それは……何も間違っていない」

「……それでもですよ」


 返す言葉もない男の代わりにウェイトが口を開く。

 それに対してギドは深々と頭を下げた。自分よりも圧倒的に格下な存在達に、あっさりと。彼等からすれば酷く驚くべきことであってもギドにはそれが分からない。例え自分が口にした言葉が紛うことなき事実だとしても、ギドの目的は彼等の協力を得ること。目的を達成するために演説じみた行動を取っているのだから頭の一つや二つどうでもよい。少しでも申し訳なさを感じたのであれば謝る、それがギドとしての、日本人としてのイツキの考えだった。


 だが、申し訳なさはあっても表にしたことへの後悔はなかった。少なからず彼等の心の中には今のままではいけないという【反逆】の意思が、燻りながらもある。それさえ分かれば良かった。共に戦うかどうかは別として、消えたところで何も問題が無かったことを知れたのは大きな収穫に感じられたのだ。不意に静けさが辺りに充満しギドの視線が鋭いものへと変わる。


「今から皆様には一人の青年の話を聞いていただきます。それを聞けば皆様も今のような他人事では居られないでしょうからね」


 手をパンパンと叩いた。

 長々と話すのはギドの本来の目的ではない。少ないメリットの中でギドがしたいことは多数の人間に依頼を受けさせること。一番に価値があることとすれば協力してくれる人達の士気を上げることだろう、とギドは解釈していた。それ以外にもしなければいけないことがあるのだ。無駄とは言わないが下手に時間を潰したくはない。


『僕の名前を出してもいいからパトロの冒険者ギルドで演説をして欲しいんだ』


 セトは一言、そう口にしていた。

 意図は聞いた、だが、言わなくてもいいだろうと笑うばかり。だとすれば自分なりの意図を汲み取るしか出来ないのだ。結果、ギドが考えついたのは【領主陣営の孤立】のみ。セトがどう考えているかは関係がない。自分の目的を成し遂げるために必要なことをするだけだ。そのために前日から協力は得ていた。


「……ソイツの話を聞け、と」

「ええ」


 一人の男の呟きにギドは笑みを浮かべ返した。

 台の上に立った男はギドと大して歳が変わらなさそうな美しき青年だ。綺麗な服に身を包み何の話をしたところで意味がなさそうに感じられたのだが……それは青年の言葉と共に消え去った。


「俺はギド様の配下であるエルド。貴方達が恨んでいるディーニの……元息子です」

久しぶりに書いたので納得いかない部分も多々あります。後で部分部分での書き直しはすると思います(軽い表現方法の変更などで中身は変えません)。


また新しくウェイトという男の名前が出ましたが……果たしてこの人は後々に活躍するような存在なのか、もしくはコーザのように闇に葬られてしまうのか……楽しみにしていてください。4章自体はまだまだ驚く展開があると思いますのでそこも含めて楽しんでもらえると嬉しいです!


では、次回をお楽しみに! もう少しだけ忙しい期間が続くので二月の終わりごろまでには次回を出そうと思います! その間に前までのように自分の書きたいことを書けるようリハビリを頑張らなくては……!


最後に面白いと思っていただけたのであればブックマークや評価など宜しくお願いします! PVも総合評価も増えれば増えるだけ気力と喜びに変わりますので是非是非!

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