4章122話 動くための覚悟
新年、あけましておめでとうございます!
注意喚起ですが新年明けに合わない表現がございますので苦手な方は飛ばすべきかもしれません。ですが、ちょっとだけ物語にも関わってくる部分もございますので個人的には読んでいただきたいな、と思っています。
異変があった一年と少し後。
ギド達と出会う数年前……ちょっとだけ記憶が曖昧なのは許して欲しいかな。一つの出来事の印象が強過ぎて覚えきれ無かったんだ。もしかしたら忘れたかっただけなのかもしれないけど……まぁ、そこら辺は無視して欲しい。伝えたいことはそれじゃないからね。
その頃には色々と変わっていたっけか。
ガルやウルは俺が思っていた通り急激に強くなって、そして俺も心器の扱いが上手くなってきた頃だ。全員が悪夢のような出来事を糧にしてそれぞれで強くなっていたよ。悪い出来事ではあっても何も得られなかったわけではなかった。スケイルはBランクまで進みミラルの商売も軌道に乗っていた幸せの絶頂期。
そんな中で突然、ラメが失踪したんだ。
日付は忘れていない、その時に感じていた幸福と同じくらいに寒さが最高潮に達していた十二月の十二日。その日の朝から彼女はギルドへ来なくなった。何の前触れも無く……本当にいきなり、ね。『魔神の気まぐれ』なんて言葉を初めて信じた時だったよ。
一日目はさ、三人とも体調が悪いのかと考えた。
俺達は仲が良かったからね。大半は口先だけでしかないけれど俺達の場合は完全に違う。四人が、いや、ミラルも含めた五人が死を共に経験したことで掛け替えの無い絆を得たんだよ。……少しだけ口に出すのは恥ずかしいけど俺は本気でそう思っている。
二日目は病気になったのかと考えた。
それならばと三人で相談をしてケイさんに話を聞きに行くことにしたんだ。ケイさんの情報量はとてつもないからね。でも、何も教えて貰えなかったんだ。それだけラメの病気は重いものだったのかと考えたからさ、三人で治療費の話とかをしていたっけ。
三日目、見舞いに行きたいと思うようになった。
でも、その時には薄々と感じていたんだ。誰も何も知らない状況、そして焦り……その全てを俺達と同じようにケイさん達も感じているんだって。いつからか、彼女は来ないのだと悟り始めた。誰も知らない場所へ彼女は消えてしまったのだ、と。その後もずっとラメを探し続けたよ。
消えてから一週間後。
ようやく彼女は見つかったんだ。ちなみにさ、どこで見つかったと思う? 分かったのなら、そうだねぇ……ご飯でも奢ってあげるよ。……ごめんね、やっぱり普段通りを装おうとしても無理みたいだ。思い出すだけでもイラつきが、殺意が芽生えてしまうよ。
ラメは、アイツはさ……。
貧民街のゴミ捨て場にいたんだ。服はボロボロで肌は真っ黄色に染まっていた……だけならまだ良かったかもしれない。見つかった場所のせいかもしれないけど如何にも行為した後みたいに、それも抵抗したように体はアザだらけで……見るに堪えない姿だったんだ。
どうして見つけたか。
まぁ、そこは俺やガルのやってきたことのおかげだろうね。いや……貧民街に関しては俺のおかげかもしれない。あそこに関しては俺の縄張りみたいなものだからね。昔、助けてやった奴からの知らせで……誰よりも早く彼女を迎えに行ったんだ。早朝だったけど運ぶ姿が見られないように強化もして家の屋根を飛んだし……色々と配慮をしたんだ。
俺じゃ何も出来なくて……。
年甲斐もなく泣きじゃくりながらケイさんの場所まで運んで……直下の病院で見てもらって……。運ぶ最中もさ、アイツ……小さい声で俺の名前を呼んでいて……助けてって言っていたんだ。都合のいいように考えて動かなかった自分を呪ったよ。
まぁ、分かるよね。
ラメをボロボロの……女の子としてのラメを奪ったのは領主であったディーニだ。何で分かったのか、は……あまり聞かないで欲しいな。俺達だって真っ白な正義の味方というわけではないからさ。全てを知るために何でもしたからね。
もしかしたらケイさんから聞いていないかな。ディーニは婚約者のいた女性を攫うようなクズだって。君の表情を見る限り驚いた素振りを見せないからもしくはって思ったんだけど……正解そうだね。ラメってケイさんの姪だったからさ、皮肉で口にするかもってちょっと思っていたのもあったんだ。……ああ、その眉の顰め方からしてばれていそうだね。そう、だったんだ。
もうラメはこの世に居ないよ。
俺さ、ラメのことを本気で愛していたんだ。愛しているからこそ体も心も壊れたラメを長い間、介護し続けて……何回もケイさんから「お前は若い」ってラメを忘れるように言われて……それでもずっと一緒にいるってワガママ言って何度もケイさんと喧嘩して……。でもさ、ギドなら分かるよな。大切な人が傷付いたからって簡単に忘れられるか?
俺の考えって貧民街のヤツらソックリだからさ。
生き恥を晒してでも生き残る。幸せに執着して、それを破壊したり妨害したりする奴らは残虐に殺す。普段から敬語を使うのだって、私なんて慣れない言葉を使うのだってそれが露見しないようにするためだ。知っているさ、俺の中身は人間なんかじゃない。だからこそ、貧民街の人達と仲良くなりやすかったしね。……ケイさんと対立することが多かったのはそのせいかもしれない。
ラメが見つかって少ししてからローフさんはこの街に来たんだけどさ、初めて話した時にも言われたよ。真面目な顔をして「お前は自分のことばかりの我儘な悪魔だ」ってね。今でもラメのことを思い出すとそんな本質が顔を出してくるよ。汚い存在だと思うけど……それを否定する気は無い。
自分のことばかり……そう、そのせいで。
アイツは突然、鋏で首を断って死んだ。おかしいよな、俺がラメのために片付けた部屋に金物なんて一切ないのに……目が覚めたらラメは血塗れになって死んでいたんだぜ。ご飯も、トイレすらもままならなかったのに……。
まぁ、それはいいさ。
どうやったかは分からなくても遺書が一枚だけあったから……ラメの気持ちは軽く理解しているつもりだよ。理解はしている、認めるつもりはないけどね。だって、グニャグニャの字で苦しいことと俺の未来を思ってって書かれていただけで……俺の知って欲しかったことは少しも書かれていなかったんだから。寝る前に何度も悪夢を見るラメを宥めたのだって、何度も呟いた「愛している」だって彼女には届いていなかったんだ。だから、許しはしない。ガキだ何だって言われたとしても、ね。本当に俺は……我儘な悪魔だよ。
今でも思い出して考えてしまうんだ。
ラメにとっての俺はなんだったんだろうって。
俺はさ、どうなっても生きて欲しかった。
四肢がなかろうと、生き恥を晒してでも生きて欲しかったんだ。それだけが俺の戦う理由になっていたからね。もしかしたら、ラメが死んでいなかったのなら俺はここまでディーニを恨んでいなかったかもしれない。生娘なんて貴族ぐらいしか求めない価値基準だ。俺からすればどうでもいい。
だってさ、おかしいじゃないか。
そこら辺にいる、一般的に幸せと呼べる人達が添い遂げると決めた相手。その人達が初めてを散らす瞬間なんて絶対に一生を共にする存在とは限らないだろう? 俺からすれば初めてなんて付加価値でしかないんだよ。
気持ちが悪い? 汚い?
だから何だっていうんだ。俺はラメが好きだっただけ、誰と何をしていたとしても、例え体を動かすことすら無かったとしても居るだけで良かったんだよ。心さえ汚れていなければ、例え壊れていたとしてもそれで良かったんだ。一人だと自分すら支えられない愚かな存在だからさ。……でも、ラメはそれを望まなかったんだ。
今でも考える、何が正解だったと思う?
ラメのやせ細って息すらしない肉の後を追うことが正しかったのか。いや、そんなわけないよな。遺書にそんなことは書かれていなかった。幸せになって欲しい何て……苦しみながら書いていたんだからさ。
なら、これからしようとしていることか。
ディーニを殺し血祭りにあげ、その首をラメの墓で掲げることか。……いや、それは平和を望んでいた彼女の願いを汚すことになってしまう。本当は分かっているんだ。ラメはディーニを殺すことを望んではいないんだって。街に混沌を齎す可能性のある戦いを彼女は望まない。
……でも、俺は、俺らは止まらない。
ラメの望む未来じゃなかろうと……俺はこの戦いで答えを見つける。彼女だけの問題ではないんだ。もちろん、こうして何かをするってことは何かを失う覚悟もあるさ。それが俺を人たらしめる何かだとしても……捨て去る気でいるよ。
俺さ、決めているんだ。
こうやって……アイツを血祭りにあげたら一人で旅をするって。ずっと前から……ずっとずっとラメの墓で誓っていたんだ。生きている間に見つかるかどうかなんて分からないよ。だからって、それで動かないわけにはいかない。これは俺なりのケジメなんだ。
ごめん……要領を得ない説明だよな……。
でも、聞いて欲しい。この戦いの始まりは俺達の領主を、ディーニを殺すために計画されたものだったんだ。もし仮に少しでも殺すことを悩んでいるのなら最後は俺達に、俺に任せて欲しい。全てを君達が背負わないで欲しいんだ。
俺達は君に唆されただけかもしれない。
それで良かったんだ、きっと、こんなことが無ければ俺達は口だけで動かなかった。ローフさんはラメが死んで荒んだ俺を、俺達を強くさせると約束してくれたのに……動かなかったと思う。いや、正確に言えば動けなかった、かな。それだけ領主に牙を向くって危険なことなんだよ。それが例え住民全員の総意だとしても国からすれば関係はない。
成功すれば国は何も言わず。
失敗すれば国家転覆の大罪人。
まさか知らなかった、とは言わないよね。動くことを決意させたのは君だ。これで動かないなんてことは許さ……って、その顔は一切そんなことを考えてはいなさそうだ。少しばかり脅しただけだよ。やるとなれば失敗なんてさせない。そのためのケイさんやローフさん、そして君達だ。どこにも負ける要素なんて無い。
◇◇◇
そう言ってシードはギドに微笑んだ。
今にも涙が流れてしまいそうな、彼自身が操る風一つで崩れてしまいそうな笑み。深い説明などは無かった……だからこそ、ギドの心には申し訳なさが残ってしまう。
思い出したくもない記憶。
それを無理やりに口に出させてしまったのだ。忘れ去ることは不可能な心の傷、ギドはその痛みや重みを重々と承知している。なのに、彼は勇気を出して表にしたのだ。そこにどれだけの覚悟がいるのか……苦虫を潰したように口元を歪める。
「申し訳ないと思っているよ。もっと前に動いていれば君達が被害を受けることもなかった。パトロに住む人達も同様、同じ苦しみを持つ者も少なく出来たかもしれないというのに」
「いえ、それは仕方ないですよ。……本来は仕方ないで済ませてはいけないでしょうが」
最愛の人が無惨に死ぬ。
そんなことは日本で生きたギド、いや、イツキからすれば現実味のない話だ。確かにそのような体験をする人はいるだろう。それでも監視されたような世界の中で、一度でも過ちを犯せば更生など出来ない世界で同じことをする人は歴史上で数十人程度。でも、それでも痛みが分かってしまうのだ。
「過去は変えられませんよ。いくら足掻いても不可変なんです。あの時に戻る手段なんてありません」
変えたい過去が無いとは言わない。
ギドの頭の中に一つの思い出が蘇る。忘れ去りたい過去……では無い。その時に出来る最善の選択だった……と、ギドは思うしかないのだ。それでも思い出す度にギドの心を蝕むのは後悔があるからだろう。思えば、とギドは頭の中で自分を嘲笑った。
あの時から未来の話って嫌いだったな。
ハッピーエンドは嫌いだ。
幸福な未来が最初から決まっているから。
未来の話は嫌いだ。
考えれば考えるほどに自分に嫌気がさすから。
自分自身を嫌いになる、それは何もネガティヴだからだけでは無い。過去を何度もやり直したがり、未来を美しいものにしたがり……それでも解決出来なかったからこそ、今のギドがいる。ワガママに、自分勝手に生きたがるギドがいる。
「確かに過去は変えられませんね」
ポツリと聞こえたイフの声。
ハッと現実に戻され、また自分の世界に沈んでいたと恥じる。「ごめんごめん、話の途中だったね」と笑って口にはしたが続きが思いつかない。このような時にも自分勝手に動いてしまうのかと何度目かの自己嫌悪に陥りかけた時に……軽く小突かれた。
「でも、よく言うじゃないですか。過去は変えられなくとも未来は変えられる、と。そのように後悔するのは勝手です。それでも、その後悔を減らそうとするのであれば動く以外の選択肢はありませんよね」
軽くウインクして見せた。
わざとらしくギドに向かって……それにギドは何も言えなくなる。そう言えば、とギドは思い出した。イフは自分の分身であり、考えも何もかもがバレバレであった、と。
イフの口にした言葉。
それは一つの自分自身の見つけ出した答えなのだろう。そしてイツキは、ギドはそれを無意識に考えて動いていた。ミッチェルを助けたのだって、ロイスを助けたのだって同じような後悔をしたくないからだったのだろう。
「人は所詮、我儘で自分が惜しいんですよ。それでも動こうと決めたのです。四の五の言わずに準備をしましょう。今、この時にも同じ傷を負う人がいるかもしれません。早く動いて助ける、一人の人を助けられなかったのなら二人の人を助ける気でいないといけませんよ」
ギドは何も口にすることが出来ない。
それはギドと同じく過去の傷に打ちひしがれていたシードも同じだった。全てが晴れることは無くとも、何処か二人の求めていた答えに近かったのだろう。
「その通りだ」
小さな拍手と共に響いた声。
全員がその方向を一斉に見る。声の主は変わらずに凛とした表情を浮かべ腕を組むケイだ。どこか責められたような気分になりシードの表情が曇りを見せる。が、それを気にしないでケイは続けた。
「シード、いつまで浮かない顔をするつもりかな。折角、仲が悪くなってしまった私達の間を持つ存在が現れたのだ。また互いに啀み合う関係に戻りたい、と言いたいのか」
シードはすぐに首を横に振って返す。
何かを考えた素振りも見せずに「久しぶりに話せた時は嬉しかったですよ」と口にしてすぐに……何か枷が外れたように涙を浮かべた。自分の愛の大きさと同じくらいにラメを愛し、そして自分達を陰ながらに支えてくれた存在。ギドがしたことははからずも離れた二つの何かを繋げる結果になったのだ。それを理解しているからこそ、シードは人目を憚らずに泣き続けた。
それを可哀想と感じてか。
ケイはシードを引き寄せ胸元を貸す。愛しい我が子をあやすかの様に頭を撫でながら「大丈夫」と囁き続けた。
「リーダーが泣き虫だとお互い苦労しますね」
「ええ……全くです」
イフの言葉にウルは笑って見せた。
どこか優しい目をするウルにローフも笑う。
その後、すぐに次の日程を定めて会議はお開きになった。
シードのことを考えてという口実でイフがそうしたのだが、言わずもがな、一番の目的は違う。それを遂行するべく邪な目をしたイフは帰った途端、ギドを強く抱き締めた。それはもう、ケイのハグを羨ましく思うくらいに、ギドの腕の骨が嫌な音をたてるくらい熱烈に。
ギドはもう二度と弱音を吐かないと心に誓った。
腕の痛みを胸に刻み、涙ながらに……。
新年明けに合わない胸糞な話でしたね。最初は詳しく書いていたのですが作者自身が「うわぁ……」と嫌な気持ちになってしまったので全カットです! それはもう酷い話を書いていました……。
それで話は変わりますが……2021年の豊富を決めました!
2020年に入りたての時は総合評価が1500位で、終わり頃が2600程でした。一年毎での伸び方が倍々なのと! 目標は高く! ということで今年は総合評価5000越えを目指そうと思います!
これからテンプレの本来の話に入っていくのでもっと沢山の人に読んで貰いたい、という気持ちも含めての期待値ですね! 出来れば六章に入るか書き切るかまでしたいとも考えていますし、個人的には文章力も高めていければと思っています! 後はエルドとギドの模擬戦の話も軽く書き直ししたいとも思っていて……やりたいことと叶えたいことが山ほどです!
何卒、今年もこんな馬鹿みたいに高い目標達成のために『テンプレは異世界最強のようです』を含めて! どうぞ、よろしくお願い致します! また、いつもの事ですがブックマークや評価なども宜しくお願いします!