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4章118話 不穏な影

前回の話で(前編)と書いていましたが後編にしてしまうと話が長引いてしまうだけなので消させていただきました。最初は前回の続き、後半はある人の視点で話が進みます。

 驚くのも無理は無いだろう。

 出された条件は良すぎるもので、ましてや悪条件であるはずのギド側が契約書まで作成している現状に不思議がるのはおかしくない。何度もチラチラとサインするか悩む素振りを見せギドとイフを見るが二人は笑うだけ。戦って相手を知っているとはいえ、少しは騙されているのではないかと思うのは普通のことだ。


 その悩む時間が長過ぎたのだろう。

 近付いていたケイにその紙を見られてしまった。ギドからすれば何も無いのだから胸を張ったままでいるが、ケイもそうはいかない。商人としての才はミラルから聞いていた通り『ある』のだとケイは思っていた。そして無償で物品を貸し出すことも不思議なことではない。だが、契約の条件が余りを返してもらうというのは聞いたことがない話だ。


 安いポーション、それならば在庫処分だと理解も出来るがそんなことは無い。では、契約書は偽物なのか、それもまた違う。作る側のケイの目を誤魔化せるほどの細工はローフの持つ紙に施されてはいなかった。尚更、ケイの表情が複雑になっていくのも無理は無い話だ。


「……本当にこれで行くのか?」

「ええ、別に作れますから」


 ケイの再確認にギドは表情変えず返した。

 嘘をついている……そんなことは汗を舐めずとも有り得ない話だと分かっている。視線を逸らさずに真っ直ぐにケイの目を見ながら伝えることは意識をしていても難しいのだから。となれば、ケイの疑問は一つだけだ。


「何の目的がある?」


 それを聞いてギドは俯いた。

 何を言えばいいのか、その答えが少しも思いつかないのだ。なぜか、そんなのは恩を売る以外に特に無い。一緒に信頼も得られればと思っていたくらいだ。それだけギドの契約に出したポーションは大した価値の無いものだった。


 例えばこれが最愛のミッチェルを出すのならば話は別だろう。まぁ、そのようなことがあるわけが無いのだが仮にあったとすれば契約書に書くとしても法外な値段を書くに決まっている。ケイ達とギドとの間には商品の価値が大きく違うのだ。では、それをそのまま話すのか?


 答えは否だろう。

 もしそれで納得してくれるのであれば今の契約だけでも話は済んでいた。ポーションなんて作れば良いとギドは先程、発言していたのだ。話していないなら思ったことを口に出していただろうが理由なんてもう言っている。だからこそ、悩んでしまうのだ。


「……何が悪い考えでもあるのか?」


 長時間の思考、それは悪手だった。

 見ていたケイにもたらされたのは不穏な空気、何かを発言していれば話は変わっていただろうがギドはそれすら出来ない。反論しようか、いや、それはもっと悪手だ。悪い考えを反論したとしたのならば余計に変な勘繰りを入れられかねない。


 ギドが選んだのは数十秒の沈黙。

 ケイの表情はより険しくなっている。未だにギドの本心を測りかねていると言った感じだ。だが、もう一人のミラルは優しく見守っていた。分かっているのだ、自信が認めたギドという天才ならばこの状況を打破する発言をする、と。


 そして時は来た。


「恩を売るのに理由がいりますか?」

「なに……?」


 若干、馬鹿にしたように話すギド。

 ケイは嫌な顔をしたがギドは気にしない。


「僕は要らないんですよ。そんなものは作ればいいし、もっと良い物を持っています。それで恩を売って危ない時に助けを求められる方が僕からすればいいじゃないですか。それにローフという存在ならば悪い使い方はしないと思っていますからね」

「それは……」


 早口に話すギドの気迫にケイは息を飲んだ。

 確かに商人としてその考えに不審な点は一切ない。恩というものがどれだけ価値があるか分かりはする。それでも、とケイは考える。本当にこの高品質な物に要らないと言いきれるのか、と。確証がないために裏が無いとはまだ言いきれないのだ。


 対してローフは未だにサインを渋っていた。

 書きたいのは山々なのだが……踏み切れないものが彼にはある。これだけの物をタダも同然に貰うとして、命を懸けてギド達が戦うとして自分が出来ることは何か。そして話さなければいけない理由があるのでは無いか。チラチラとシードを見ながら悩んでいる。


 そんなローフを無視して二人の話は続く。


「命を預けろとは言いません。ですが、この話の発端は自分の配下が誘拐されたことです。その怒りからワガママを通そうとしたというのに色々な面で支援をしないでどうするのですか? それも僕はこう見えてAランク冒険者という上位の立場を持っているんですよ? 示しがつかないではありませんか」

「……確かにその通りだが」

「ポーションに価値があるのかもしれませんが僕には銀貨一枚で買って貰えれば御の字の品です。もちろん、本当に市場に出すとすれば値段はもっと高くしますが僕にはその程度の価値しかありません」


 それは嘘だった。

 銀貨一枚は事実だが、その程度の価値だとはギドも思ってはいない。偶然の産物とはいえ、その効力が馬鹿にならないほどに高いことはよく理解している。何ならば予備のポーションと替えたいくらいだが……そうするつもりは無い。それはもしもの事を考えた上でしたくないのだ。天と地ほどの差とは言えずとも、一点五倍ほどの差があるポーションでは助かる場面にも差が出てしまう。


 小さな嘘、だが、ギドの顔に曇りはない。


「それならば要らないということでいいですか。そのように捉えられるのであれば僕からすれば渡さない方が良いはずです」

「それは……待って欲しい」


 ギドの言葉にローフは待ったをかけた。

 あるのと無いのとでは大違い、ならば、貰っておきたいのだ。でも……未だにチラチラとシードを見て……目を逸らされる。全てはローフに任されているのだ。ギルドマスターとしてのローフに全ての責任が、その重圧は先程までの潔さを消し去る程のもの。


「要るのならば名前を書くだけで」

「違うんだ、俺が名前を書けなかったのはギドを信頼していないわけじゃない。あの時の戦いで良い奴だということは知っているからな。……そうじゃないんだ……」


 機嫌を取る発言……には感じられない。

 ローフの目には明らかな曇りがあった。それは信頼していないということではなく、話さなければいけない何かを口にするか悩んでいる曇り。沢山の人に騙されてきたギドには分かる。それが自身の暗い何かを話さなければいけないからこそのものだということは……。


 ならば、とギドは口を開いた。


「僕が欲しいのは信頼です。仲を短いものにしたくないから恩を売るんです。イフはそんな僕を馬鹿にはせずに手助けしてくれました。別に話さなくてもいいですよ。これからも会う機会なんてありますから」


 ギドは本心を最後にぶつけた。

 その姿を見てケイは自身を恥じる。今までの疑っていた自分が滑稽に思えてしまうのだ。確かに信用し難い部分はあったが、その目に嘘偽りは感じられない。全てが事実、とまではいかなくても関係を続けたいというのは紛れもない話なのだ。そして、その善意を踏み躙っていた。


 謝ろう、そう思いケイが一歩踏み出した時だ。


「すまない、印は押す。代わりに話を聞いて欲しい。これは俺達だけではなく、お前達にも関わるかもしれない話だ。そして……お前達を信頼するからこそ聞いて欲しいんだ」


 呟きより少し大きめのローフの声。

 それでもか細さを感じさせる、一息で消えてしまいそうなものだった。ようやく捻り出したような声、ローフの表情も未だに曇ってはいるが確かにその目に覚悟が映っている。それが見えたからだろう、ギドは何も言わずに首を縦に振った。


「では……話そう。俺達と領主の確執はシードがまだ冒険者に成り立ての時から始まる。まずスケイルには」

「いえ、ローフさん。その続きは私がします」


 ローフの言葉を制したのはシードだった。

 今まで黙りを決めていたがローフが話し出そうとしたことで何かを決意したのだろう。数秒間、目を見つめ続けていた。ローフはそれに対して「だが」と何かを繋げようとしたが、シードは一秒とかからずに言葉を止めさせた。


「俺達が領主と揉め始めたのが理由だというのにローフさんが話さなければいけない理由は無いですよ。それに一々、顔色を伺われて話されても要領を得ないですからね」

「……確かにそうだが」


 ローフにも分かっている。

 そう話すシードの笑顔に明るさはない。無理に笑っているとしか思えないシードの心の傷を開きかねないのに、果たしてそのまま話させてもいいのかと思えてしまうのだ。……シード達を部屋から出しておくべきだったとローフは後悔した。


 が、それももう遅い。


「あの屑の話を聞いて貰うためなら、アイツを殺せるのなら俺は何だってする。そのために強くなってきたんだ。ローフ、貴方にも分かるだろう。あの時に、弟子入りした時に話したことを」

「……ああ」

「なら、これも一つの試練と思うしかない。そして話して仲間として戦ってくれるのなら、これ以上にないほど力強い存在だ。だからこそ、俺が話さなければいけない」


 恨みが篭もる、目に灯るのは真黒の炎だ。

 その覚悟に対してローフは何も言えなくなっていた。確かに傷を開きかねないかもしれない、それでも覚悟して話をすると制したのは他でもないシード自身。ならばこそ、それを止める理由なんて元から無かったのだ。


「ギド、聞いて欲しい。俺達は仲間だ。これから話す事をよく聞けばアイツに優しさなんてものは持たなくていいと分かるさ」

「ええ、それは元から思っていますよ」

「はは、口では勝てないな」


 今度は間違いなく笑った。

 嘘笑いではなく本当に面白いと思っている笑みが零れている。だが、その笑顔も数秒と持たない。すぐに顔を切り替え真面目な顔をしてシードは再度、口を開いた。


「これはスケイルが誕生する少し前の話だ」






 ◇◇◇






 俺には仲の良い幼馴染がいた。

 ミラルもそうだが、もう一人、ラメという女の子がいたんだ。とても男勝りな性格でね、純粋のジの字もないような悪戯が大好きな奴だったんだ。色んなことをしようとしてミラルに止められて、それでも決行して、告げ口されて、ケイさんに怒られる。こんなことを何度もしていたっけか。


 一回だけ何で悪戯するのか聞いたことがあったんだ。

 そしたら何て言ってきたと思う?


「平和を実感出来るからだよ」だってさ。

 馬鹿みたいだと思うだろ。でもさ、俺からしたらどこか変わっているラメがすごく好きだったんだ。ラメが笑ってくれるなら何でもしようと思えるくらいに、ね。


 そんなイタズラっ子が冒険者になるって決めた時とかは本当に面白かったよ。皆がビックリしていたんだ。悪ガキ達が人を守る冒険者になれるのかって。でもね、それは俺達を嫌って言っているわけではないことは、幼いながらに分かっていたんだ。どちらかというと人生の先輩としてからかっているって感じだったっけ。そこに少しでも期待があったのも感じていた。


 だから、俺達は頑張ったんだ。

 ラメの求める平和のためにも死ぬ気で、俺は天才二人に肩を並べられるように努力したんだ。だからこそ、パーティ名もスケイルっていう龍の鱗から作られる鎧の名前を取ったわけだし。俺達がこの街の鎧になるんだって意味で、さ。その努力の甲斐もあってか、俺とラメとミラルの三人で二週間程度でEランクに上り詰めたんだ。その時は俺達が十歳か、そこらの時だからね。街でも異彩の三人として一目置かれていたんだ。まぁ、中でもラメの魔法の才能は別格だったんだけど。


 前衛を俺が務めて、槍で敵を狩るミラルが間に入って、そして重い一撃を放てるラメが最後尾にいる。本当に安定したパーティだったと我ながら思うよ。なぜか口が上手いからって理由でリーダーに選ばれたのだけは未だに解せないけどね。それから少し経った頃かな。冒険者ギルドにガルとウルが来たんだ。二人とも同じパーティで組んでいてね、その頃は二人とも純粋だったから……いや、今が純粋じゃないって言うわけではないよ。


 って、話が脱線しそうになった。

 純粋だったが故に騙されかけたんだ。どこにでもいる先輩面したクソ野郎共に、さ。色々な噂があった奴らだったからケイさんに頼めば一発だと思ったからね。予想通り話したら動いてはくれたよ。ただまぁ、証拠はあるからお前らが捕らえろって言われたのは今でも無茶だったんじゃないのかって思うけど。


 何で助けようと思ったのかとかの理由は特には無かったっけ。あ、でもね、二人を一瞬だけ見た以外に面識は無かったんだけど才能があるように思えたことは確かだよ。ミラルも同じように感じていたみたいだし。まぁ、君を見た時ほどの衝撃では無かったけど自分達の仲間に欲しいって思うには十分な何かだったんだ。そして、助けた。


 そこで自分達のパーティにって誘ったんだ。

 もちろん、見て分かる通り二人は来てくれた。代わりにミラルは「ケイさんは私が冒険者になることを望んでいないから」って脱退してしまったけどね。今でも一緒に来てくれていたらって思いも少しはあるよ。五人でいたらもしかしたら……って色んなことが頭に浮かんでくる。まぁ、未来を変えることは出来たとしても過去は変えられないからね。無い物ねだりにしかならないんだけどさ。

次回もシード視点で回想が続きます。恐らくですが次回は胸糞に近い話を書くと思うので苦手な方は飛ばして貰えると助かります。一応、前書きにて忠告はします。領主とシード達の確執がどのようなものなのか、またローフとの関係性は何なのか……楽しみにしていてください! 個人的にはシードはギド陣営以外(未登場キャラも含めて)で一、二を争うほどに魅力的で好きなキャラなので同じように好きになって貰えるように頑張ります! ちなみにキャラクターの中で一番に好きなのはエルドです!


次回は……一週間以内に出せるように頑張ります。少し遅くなる可能性がありますが暖かい目で見ていただけると嬉しいです。またブックマークや評価もよろしくお願いします! 作者がとても喜びます!

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