4章116話 攻めたことの無い兵士
引くほどに下ネタが多いです。苦手な方は是非とも飛ばして貰えると助かります。
「……上手くいかないなぁ」
作り始めて数分が経った。
だというのに、ギドにとって満足な品質のポーションは数えられる程度しか出来ない。焦りは特に無いようだが、少しだけ心配はしているようで口角が下がっている。いつも笑顔を浮かべているギドらしからぬ表情だ。
「いえ、普段と変わらぬ品質のポーションを作れるだけ良いかと思いますよ」
「そうかなぁ……」
暖かな視線を向けてくるイフの言葉が懐疑的に思えてしまう。一本ずつ作るように仕向けたイフの考えは間違いなかった。それでも自分の体のことだからこそ、簡単に「はい、そうですね」と信用することは出来ない。一定量以上の魔力を流そうとするだけで暴れ馬のように魔力の流れが逆になったり早くなったりと変化し始める現状、それが長引けば戦闘に参加できない可能性もある。
そうなれば元も子も無いな。
別に任せるのも手ではあるが自分が発端である以上、動かないというのは道理に合わない。魔法抜きの自分でどこまで戦えるのか、と自分の体を心配してしまうのは仕方の無いことだろう。
「暴れ馬は言い得て妙ですが、その暴れ馬は別に途中から現れているわけではありませんよ。最初から魔力の流れは変化しています。それを無意識に一定量まで制御しているのは流石としか言いようがありません」
「ふーん……そんなもんなんだ」
「まぁ、私ならば関係なく制御出来ますけどね! 人ではありませんから!」
無関心なギドに大きな胸を張り押し付ける。
最初こそは何も考えてなさそうにしていたが徐々に柔らかい感触を察してか、顔が赤くなっていく。
「さすがはマスター、童貞マスターですね」
「童貞で何が悪い。ってか、僕は完全な童貞じゃなくてやろうと思えばやれるけどやらないだけの童貞だから」
「はい、ムッツリで勇気のない童貞でしたね」
「よろしい」
よろしいのか……と思ってしまうが、ギド本人からすればどうでもいいのだろう。未だに胸を押し付けられたままだがギドは表情一つ変えずに作業に戻った。慣れたのか、もしくは普段からやられているから最善の方法を知っているかのどちらかだ。
「それでさ」
「なんでしょうか」
「他の人達は何か言っていたのかなって」
少しばかり言葉足らずな質問。
他の人達が仲間を指すのか、起きた人達を指すのか分かりづらい質問だ。だが、マスターであるギドの心を読めるイフにはそんなことは些細なことでしかない。少しばかり考えた素振りを見せてから小さく笑みを見せる。
「さすがは大所帯をまとめる存在だ、と」
「そう、他には?」
「後は……あ、それは魔力を入れすぎです。もう少しだけ絞る感じで」
話の途中であれども作業は続く。
感覚を取り戻すためにポーションを作っているが未だに失敗はしてしまう。指摘に対しては一切の間違いがない適切なものだ。それを知っているからこそ、ギドは嫌な顔一つせずに「ありがと」と言って耳だけをイフに傾け再開した。
「そうそう、起きたら話したいことがあるとも言っていましたね。領主に関しての話があると言っていましたよ」
「領主に関しての話……って、やっば」
「あらら」
また魔力を注ぎ過ぎた。
そのせいでポーション瓶から中身がボコボコと沸騰した水のように溢れてしまう。そして悪かったのは作っていた場所だろう。いつも眠るベットの上、そしてより詳しく言えば自分の膝の上を製作場としていた。
だから……。
「あの……どこ触っているんですか……?」
「拭かなければいけないじゃないですか。シミが出来ればミッチェルが苦しみます」
「あ、そうですよね……はい、存じております」
何往復も股間の上を布で拭われる。
感触があるわけではない、いや、感触はあるが触られているような変な力はない。本当にズボンの上を拭いてくれているだけ……だが、ギドからすれば綺麗な女性にされている今の状況がとても辛く感じられた。
内心、笑っているイフに気が付いているのに言い返せないのは、やはり馬鹿にされる童貞の心のせいだろう。無理やりに変な気持ちを理性で押し付けて無心でポーションを作る、それしかギドには出来なかった。
嫌な汗が流れ着ている服達がより濡れていく。
イフも気が付いており「あらあら」と笑うだけだが、それすらもギドには届いていない。あの男性特有の現象が起こらないようにするだけだ。他に目的なんてものはない。
無我夢中と言えばいいだろうか。
無心を貫き、ようやく作り上げたポーションを未だに拭いているイフに押し付ける。そのおかげかイフもポーションを手に取り、股間を拭くというご褒……もとい、屈辱的な行為が終わった。
すぐに微かな魔力で風魔法を展開するギド。
目的は体を乾かすことのみ、対してイフは何も言わずに作られたポーションをまじまじと見つめているだけだった。ある程度、服が乾き汗も引いたところでイフが口を開いた。
「これは……良質なポーションですね」
「え?」
沈黙が長かったせいか、はたまた体を乾かすことに集中していたせいか……ギドはイフの突然の言葉に、素っ頓狂な声をあげることしか出来なかった。何度かポーションとイフを交互に見た後にまた首を傾げる。
「そんなに良いものだったの?」
「ええ、過去最高傑作です」
「え、ええ……」
嬉しそうなイフに何も言えないギド。
それもそうだ、今まで本気で作ってきたポーションよりも変な気持ちを抑えるために作ったポーションが勝っている。ポーション作りに自信があったギドからすればプライドはズタズタにされたも同然。まさにオデノココロハボドボドダと言えるだろう、知らないが。
ギドは少しだけ考え込しまう。
今なら薬師ギルドの話も少しだけ分かる気がするな、と。簡単なものを作る方が楽ならば、努力が簡単に報われないのならば下手なものを多く作る方がいい。そして堕落していったのだろうが、それでも自分が作るポーションの方が価値は高いだろう。頑張る意味はあるのか、とどうしても思ってしまった。
だが、その考えはすぐに改められる。
「普段から頑張っているからこんなにも良い物が作れるということですよ。魔力の流れがおかしいのも吹き出したことも偶然です。つまりはマスターが努力を続けて偶然という工夫さえ何とか出来れば、こんな道具も、より良い道具も作れるということです」
「そうだけどさ」
「時折、自分が作れる最高のポーションをと努力したから、このように良い物が作れます。私が思うにこれは今のマスターが作れるであろう最高品質ですからね。努力を怠れば最高品質がこれ未満になってしまいますよ。それに」
何かを続けようとするイフ。
それを止めた理由が分からずにギドは顔を見詰めた。話そうか悩む顔だ、すぐにギドに見詰められたことに気がついて頬を赤くするが見られた後では遅い。
「それに?」
「いや……あの……」
「そんなに深刻そうな顔をするっていうことなら話せない内容なんだろうけど……僕は聞きたかったからさ」
普段は調子の良いイフの珍しい表情をどうしてもスルーすることは出来なかった。だから、先の話はイフに任せることにしたのだろう。数秒間だけイフは悩む、話していいのか、話さない方がいいのかを天秤にかけている真っ最中だ。
ギドは思った。
ギドはハッピーエンドやネタバレなどを嫌っている。それは何もそれらが嫌いだからでは無い。現実世界で生きているからこそ、運命という名の逃れられない何かがあると思いたくないのだ。ネタバレだって何だってそうだ、天上界に神がいてどんないざこざがあろうと自分が関わっていない以上は知らなくても良い。だからこそ、出会いたての時だって話すなと返していた。
面倒事に巻き込まれるのは避けたかったから。
ただ今のイフなら少し違う。ギドからすればイフは大切な相棒であり彼女に近い。そんな存在が浮かない顔をしているのならば話の一つや二つは例えギドの『ネタバレ』に属する話だろうと聞く気はあるのだ。その考えがイフにも読まれたからか、重い口をようやく開けた。
「冷静さを失わないように気付かない振りをしていたのですが……あの……わ、私のことを意識しないようにして作ったということは……つまり、この作品は私を意識して作ったってことになりますよね……?」
「は?」
何を言いたいのか分からない。
イフにしては要領を得ない説明にギドの頭にはハテナマークが大量に浮かぶ。何を言いたいのか、その意図を考えるがどうしても分からない。意識しないことが意識するとはどういうことなのか、そしてどうしてそれで喜ぶのか。ギドからすれば理解に苦しむ話だった。
「私が居たからこそ変な気持ちを起こさないように意識してって、この状態でもう私のことを意識していますよね……」
「分からなくは……無いけど……」
「……すいません、私も良い説明の仕方が思い付きません」
何を言いたいのかは分かる。
でも、詳しいことはギドには分からなかった。どうしてもボヤっとした考えになってしまうし、哲学のような難しい話になること間違い無しの一件だろう。ただ、その意識するだけなら普段もしていることだろうし、ここまで喜ぶ理由には……ギドはそんなことを思った。
「あの……それに……無心って本当に何も考えていないってわけではないんですよ」
「というと……」
「そんなことをしたいんだなぁって、思っていました」
何を言いたいのか、そして言うのを止めた理由。
それがよくギドには分かった。考えないようにしていたギドだったが、その脳内はどうしてもピンク色の何かだったのだろう。だからこそ、女性であるイフは先を話すのを止めた。とてもでは無いが話せる内容ではなかったから。
「う、嬉しいんですよ! でも……今は出来ないかなって……」
「いや! 待って!? 何を考えていたの!?」
「い、言えません! スキルの時ならまだしも体を持った私が……あ、あんなことを……」
イフの顔が茹でダコのようになる。
これまた珍しい状態だ、いつものギドなら脳内で写真を撮っていたであろうが今は無理だろう。何を考えていたのか本人すらも分からず言い訳したくとも返す言葉が見付からない。ましてや考えていないとさえも言い切れないのだ。
「だ、だから言いたくなかったんです! こんな反応されるのは分かっていましたし! 私もスキルとして無心にならないと意識してしまいそうでしたから!」
「だから乾いていたのに拭き続けていたのか……」
自身の股間を手で拭って呟く。
長時間、他の方向を見ずにただ撫でていたのは悪戯でも何でもなかった。単純にそれ以外のことを考えないように、ギドと同じような考えに至った結果だったのだ。似た者夫婦、いや、元が同じだからこその思考回路と言った方がいいかもしれない。
「……でも、どうしてもしたいというのなら今からでも……」
「うん! しないね!?」
イフの方を見ないように空瓶へと向き直す。
その後、ギドは作業中一度もイフと会話をせずにポーション作りを黙々とこなした。……幸か不幸か、出来上がったポーションがいつもより多く、そして高品質だったのは言うまでもない。
すいません、若干、深夜テンションで話を書いてしまいました。ですが、後悔は一切ありません。また説明が薄い部分があるので後々、書き足しする予定です。次回からは物語が進んでいくので多分、下ネタ回は減ると思います。
ただ下ネタやネタに関しては書いていて楽しいのでまた書くつもりです。もう少し軽い感じにして欲しいなどの感想があれば教えて貰えると助かります。読んでいる方の限度が分かりませんので、同じような重さの下ネタを書いてしまうので嫌であれば、もう少しだけ自分なりにフワッとした感じにします。
次回に関してはカクヨムでも書いたのですが私情により少しだけ遅れます。といっても、来週の日曜日には出せるようにするつもりです。次の話は真面目な話を書くつもりなので楽しみにして貰えると嬉しいです。
最後に総合評価2,500越えありがとうございます!
11月までに2,600越えをするつもりで頑張っていくので応援よろしくお願いします! またブックマークや評価などもよろしくお願いします!