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4章114話 申し訳なさの極み

遅れて申し訳ありません。プライベートの方が忙しくなり書く時間が取れませんでした。

「それで……どうして、また無茶をしたのですか?」

「ええっと……」


 泣き止んですぐジト目でミッチェルが聞く。

 どうして無茶をしたのか……予想していた質問だったが一言で返せる理由では決してない。それに理由の大半を占めるのは彼自身のワガママに近いだろう。尚更、ここまで心配していた愛しの存在の気持ちを逆撫でするような発言は出来ない。


「……そこまでする価値があったからかな」

「価値……?」

「うん、価値」


 男のロマンだ、などを話すつもりは無い。

 ギドからすれば戦うことに意味があったのではなく、本気を出したことに意味がある。最初こそ領主を倒すための説得の手段でしか無かった模擬戦ではあったが、戦ううちにそれだけで済ませられないほどに大きくなってしまっていた。


 自分のために限界を超えた三人。

 人としての本気を出しても良い強敵。

 魔物が相手ではないからこそのヒリつく空気感。


 全てが戦うギドの心を興奮させたのだ。そして興奮だけでは飽き足らず勝ちを作り出すために色々な手を考えた。どうすれば勝てるのか、どうすれば隙を作り出せるのか……そう考えたのはローフという存在の能力も然ることながら、使う技が遠距離で戦うギドには火と水と言っていいほどに相性が悪く、そして強かったからだろう。


「ワイバーンが相手であっても、どこか安心感はあったんだ。呪魔法が効く相手だったからね。でもローフの時は違う」


 勝てば全て良し、それは間違いない。

 でも、今回の戦いにおいて同じ考えで挑もうとは思えなかったのだ。弱いからと舐めているわけではない、呪魔法の稀有さと忌々しさから使おうとは思えなかった。そして例えそれがクリアされていたとしても、使えば判断を誤った瞬間に相手が死ぬ。即死ではないが並大抵の回復では治せない厄介な力だ。


 果たして、そんなチートを使って勝つ戦いが楽しいだろうか。楽しくない……とは思ってはいないだろう。どんな力を持っていようと勝ちは勝ちだ。それでも決まれば必ず勝つことが定まっている出来レースへと変わってしまうことには変わりない。命の取り合いの中では死ぬよりはマシだろうが詰まらなさを感じてしまうのも明白だ。


 その力に驕っていた、その節はある。

 いや、終わった今だからこそ明確にギドは断言出来た。自分の持つ力を最大限に引き出して勝とうとはローフ相手で無ければ思わなかった、あの苦戦したワイバーンでさえ一番に頼ったのは呪魔法だったのだから魔物相手では必ず先出しして戦力を弱めていただろう。そして、ただの強い冒険者などであってもあんな気持ちを抱いてもいない。


「何と言われても受け止めるよ。皆に心配を……特にアキには心配をかけさせたようだしね」

「い、いえ、そんなことは……」

「隠そうとしなくていいよ。後で何かで返すつもりだから」


 アキをチラッと見て笑いかける。

 それだけで少女の顔は赤く染っていた。恋焦がれていると、いや、誰よりも必要としていると言ってもおかしくない姿に内心、ギドの心がドキリと強く鼓動する。可愛い、その言葉以外が頭に思い浮かばない最悪で最高な状況がギドを襲う。


「ごほん」

「あ、ごめん」


 大きな咳払い、わざとだろう。

 そこでミッチェルを放ったらかしにしていたことに気が付く。どこか甘い空間に酔い浸っていたのだろう。だが、その反応はギドが見たことがない珍しいものだ。小さな呼吸をしてミッチェルの頭に手を置く。


「もちろん、ミッチェルにも心配させただろうから何か返しはするつもりだから」

「いえ、それはいいんです。それに……確かにギドさんの目が覚めなくて一番に動転していたのはアキでしたのでイチャつくのは大目に見れます。ただ……」

「うん、ミッチェルを差し置いては良くなかったよね。本当にごめん」


 いじらしくも嫉妬しているのだろう。

 仲間内であれば何が起こってもいいと、ギド相手ならば気にした素振りを見せないミッチェルが、こうもアキを羨んでいるのだ。余計に愛らしさを覚えてしまうのも無理はない。漂う甘ったるい雰囲気、ギドからすれば少し恥ずかしい状況だ。


 再度、小さく呼吸をする。

 イチャつくのは今じゃなくてもいいだろうと無理やりに、頭から甘美な考えを消し去るために他のことを考えた。完全なる脱線、それを食い止めるためには……。


「まぁ、結論から言うといつものワガママさ。死んでもいいとまでは思わなくても、死ぬ手前にまでならいってもいいと思えた相手だったんだ。自分でも馬鹿だと思う、だけど……後悔はないかな」


 元の気持ちを素直に伝えるしかない。

 笑顔で本心を伝えるギドに、ミッチェルもすぐには返答出来なかった。何を返せばいいか、そう考えているうちにミッチェルの頬が赤く染ってしまう。変なことでも考えているのかな、とギドは思ったが口には出さないようにした。だが、小首を傾げて反応を促しはする。何も返ってこない、そう思い俯くミッチェルの顔を見ようとした時だった。


「……卑怯です。ワガママと言われたら何も言い返せないじゃないですか」


 待たされていた返答が来る。

 ミッチェルはギドのことを愛している。だからこそ、ギドのしたいことはさせたいと思えてしまうのだ。それこそ惚れた者の弱みだろう。ワガママ、傍から見れば自分勝手に思える行動理由だが、ミッチェル相手では何ものにも負けない言い訳になってしまう。


 そんなミッチェルの気持ちが分かっている。

 だからこそ、ギドの胸の中には申し訳なさだけが募ってしまった。どうすれば贖罪になるのか、そんな甘えた考えが浮かぶが払った。これはギドの悪い癖だ、甘えた考えに浸っていつの間にか流されてしまう。ワガママな点もそうだろう。


 ーーもうやらないよーー


 口ではそう簡単に言えてしまう。

 だが、本当に簡単に治せるとはギド自身も思えやしない。と言うよりも、言葉一つで治せるのであれば今ではもう、そんな癖は無くなっているはずだ。ならば、どんな返答をすればいいのだろうか。


「愛しているよ、ミッチェル」

「嬉しいです……が、最低ですね……」


 本当に最低な一言だろう。

 それでも他の言葉が思いつきはしなかった。何を言ったとしても都合の良い女としてミッチェルが当てはまってしまう。例えギドにはそんな気が無くても、だ。そんな事になるくらいならば曲げた言葉にせず心からの気持ちを伝えた方が良い。例えそれが最低な一言であろうと……ギドは一呼吸してからまた口を開いた。


「嫌いになった、かな?」

「……分かっているじゃないですか。それとも私の口から分かりきったことを聞きたいんですか」

「……それは夜に取っておくよ」


 ミッチェルの返事を聞いて少し時間が空いた。

 それは今更ながらに部屋の中にユウがいたのが見えたからだろう。カッコつけていた癖に女性相手に最低な行動を取る、そんな姿が教育上、良いわけがない。アキにメールを送ってからギドはミッチェルの顎に手を当てた。


「愛している」

「……私も、です」


 軽く口を付けてから愛の言葉を囁く。

 ユウは……アキによって瞳を隠されていた。さすがにキスする姿も見せられはしなかったのだろう。見つめ合う二人、それを邪魔したのはパンという手を叩く大きな音だ。


「はい、こんな辛気臭い雰囲気は無しです」


 少しだけ羨望の気持ちはあった。

 邪魔する……気はゼロではないイフが手を叩いて場を和ませる。その顔は満面の笑みでギドのことを一心に見つめた。数秒の空白、その間に口を開く者がいないのを見て再度、口を開く。


「確かに倒れたのは最悪ですし、今回の言葉もいつにも増して最低な言葉だったと思います。それでも元気なら良いじゃないですか。元よりマスターが居てくれれば私達には他に必要なものは無いはずですよ」


 それを否定する人はいない。

 一人は奴隷から救ってくれた恩人で、一人は魔物から進化させてくれた存在、そして一人は親という存在に縛られ固まりきった心を溶かしてくれた存在で、一人は死ぬ手前から救い自身のために狼煙を上げてくれた存在……他の皆にもギドに対する愛情はあれど憎しみなどは無かった。愛情が故に心配してしまった、ただそれだけの事だ。


「ですので」


 笑みを浮かべたままのイフがギドに近付く。


「私はこれで許します」


 より口角を上げて顔をギドに見せるイフ。

 そして……ギドの頬に紅葉が出来上がった。真っ赤に染まったそれはどこからどう見ても秋を感じさせて……はさすがに来ない。だが、オーバーに痛がるギドを見て笑うイフに……他の皆も自然と笑みが零れていく。


「今日だけは無礼講です。ビンタをしたい人はいくらでもしていいですよ!」

『おお!』

「いや、待って……死ぬから……!」


 ざわめき出す室内に対し情けない声をあげるギド。

 それもそうだろう、彼の目に獣化して本気で叩こうとするアキが映ったのだ。ステータスに関しては差が縮まっているし、何より弱っているギドにはまた倒れるほどにアキの一撃は重く感じられてしまう。


「待ってください」

「ミッチェル……!」


 そこに助け舟を出したのは愛しの人だった。

 瞳が合った瞬間にニコリと笑みを見せギドを安心させる。そして……。


「叩くのであれば私の番では?」

「え……」


 いきなり素振りを始めた。

 ヒュンヒュンと小枝を振る時のような音が室内に響く。アレをもろに食らったら……そんな想像だけで冷たい何かが背中を伝った。甘んじて受け止め無くては……そう思っても少しだけ助けて欲しかった気持ちが勝ってしまう。


「嘘です」


 首を傾げて笑うミッチェル。

 その瞬間にギドの口に柔らかい感触が伝った。本当に瞬きのような時間、だが、何ものにも変え難いほどの大切な時間だ。何かを発しようとするギド、その口を人差し指で制するミッチェル。


「嘘をつくなんて私も最低ですね。これでギドさんと一緒です」

「……いや、最高だよ」


 ガッツポーズを作り心の底から喜ぶミッチェル。

 そんな姿を見るとやはり自分には勿体ないほどの存在だ。ギドはそう思って目元を少し潤わした。自分が苦手な太陽、まさにミッチェルはそれに近いのだ。手を伸ばしても届かない、なのに、いつも自分の近くにいてくれる。涙は流さない、嬉しさを涙で表すのはしたくないのだ。今、感じられる幸せを悲しみに使い続けた涙で表したくない。


「まぁ、それでも三日も眠るまで戦うのはどうかと思います」

「うん、それも……って、え? 三日?」


 涙目で喜ぶギドを見て恥ずかしくなったのか。

 ミッチェルはそう笑って茶化してみせた。そしてギドが知った自分が寝ていた期間、三日という長い時間を眠りに使っていた衝撃の事実。幸せな時間が一転して焦燥の香りを匂わせ始める。


「……領主の話は」

「それは大丈夫です。今はローフ様もケイ様も準備の最中ですよ」


 口元を隠して教えるミッチェル。

 この子には叶わないな、とギドは苦笑を浮かべて頭を撫でてあげた。やらなければいけないことは多いが仲間は仲間で動いてくれていた、そんな分かりきっていたはずの事実がよりギドの心を弾ませる。


「やっぱり……僕は皆が大好きだ」


 ギドは顔を上げて笑みを見せた。

 本心から出た言葉、皆が嬉しそうな顔をする。








 そしてーー。








「ひでぶッ!」

「あ、すいません」


 大きく吹き飛ばされた。

 そんな事象を起こしたのは……イフだ。


 まるで裏切られたような顔をするギド。

 無視するようにイフは続けた。


「勝手に美談にされても困りますよ」

「……ハハ、ソウデスネ」


 再度、室内に大きな笑いが起こった。

遅れて申し訳ありませんでした。プライベートの方がいきなり忙しくなり一日十数分しか書く時間を取れませんでした。またそれがまだ続いているため少しだけ投稿周期が空くかもしれません。頑張って来週の日曜までには出せるように頑張りますが遅れてしまった場合、「またコイツ遅れているよ」と笑ってもらえると助かります。


次回は予告していた通りのことを書きたいなと思っています。後数話だけ準備の話が続く感じですかね。期間は来週の日曜までにしておきます。小説を書くコンディションが高くて、そして休み……土日はそんな日だと信じています! もし良ければブックマークや評価などもよろしくお願いします! 日頃の励みになります!

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