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4章107話 無類の才能

十数話前の自分

「後、二十話くらいで終わると思います!」

今の自分

「終わりが見えない……」

「ッ!」


 ギドの表情が歪む。

 結界の展開は出来ていた、だが、それを貫いて傷を負わせているのだ。ギドからすれば返された銃弾を止められるか、最悪でも角度を使って流せると高を括ってしまったのだろう。もっと言えば、内心では心器の性能に頼っていた節もあるかもしれない。今まで心器である銃を使っていて攻撃が通じないことはあれども、優位性までもを失うことは無かった。どこか、心器である銃に絶対的な信頼感を抱き、七発のうち一発や二発、本当にその程度がローフへと当たってくれればいいと思っていたかもしれない。……それが甘い考えであったことも頭の中から消して。


 その結果はどうだろうか。

 再起不能とまでは行かずとも大怪我を負うことになってしまい、いくら吸血鬼という再生能力が高く死にづらい存在であるとはいえ、何十秒という時間を作り出さなければ癒せない状況へと追い込まれている。無理やりに魔力を手へと集中させていく。ギドが今しなければいけないことは一つだけ、頭よりも先に体が危機から先行していた。


氷霧(ヒョウム)!」


 距離を詰めさせない、ただその一心でローフと自分の間に霧を作り出させる。今の状況で距離を詰められてしまっていたら負けは確定してしまう。あのワイバーンとの戦いで学んだ敗北への王手、明確にギドはそれを感じていた。


 初めて使った魔法、氷魔法と炎魔法を使えなければ作り出せないものだ。それを一瞬のイメージで展開させられるのは流石としか言えない。だが、初めての思い付きの魔法ということもあって甘い部分も多々あるのだが……それでもローフを詰めさせなかった点で言えば正解の行動だったのだろう。


「すごい回復能力だな」

「距離を取れれば、この程度は……」


 ローフが呟きギドも視線を体から他へ逸らす。

 ローフが驚くのも無理はない。十秒とかからずに頭や肩に空いた穴は全て消え去ってしまったのだ。ましてや逃げの一手で使った魔法も普通では攻めに扱うようなもの……常人では易々と出来やしない。対してギドはいつも通りの軽口を叩きニヤケ顔を見せていた。だが、内心では少しだけ焦っている。少しだけ震えるワルサーを持つ手、そして流れる冷や汗……挙げればキリがない。


 それも仕方が無いだろう。

 未だに感じる負けるかもしれないという負の感情が視界にチラついているのだ。幸か不幸か、大ダメージを負えどもローフが詰めてくることはなかった。詰められていたとすれば氷霧により時間稼ぎは出来ていただろうが、その後は……。何とか敗北はしていないものの、また同じような状況になれば次は攻めてくるだろう。それがどうしても恐ろしい。


「……全てを跳ね返されるのは想定外でしたよ」

「まぁ、そうだろうな。俺からすれば逃げで無詠唱の魔法を使ったことの方が驚きだったが。それも……詰めていれば無傷では済まなさそうなものを一瞬で作るとは……」

「氷魔法は得意なんですよ」


 ローフが眉をピクリと動かす。

 その表情の変化をギドが見逃すわけもなく不思議そうな顔をした。訝しげな雰囲気ではない、驚きと喜びが半々の変化。ギドにはそういう風に感じられた。


「おかしなことでもありました?」

「……普通は上位魔法をそう簡単に出せるもんじゃないんだが。特に炎や氷はその属性に特化しなければ手に入らないと聞くのに……見たところ、そのようなことも無さそうだしな」

「……へぇ、そうなんですね」


 知らなかったわけではない。

 ただ詳しく知っていたわけでもない。確かに上位魔法と呼ばれる炎や雷、木、氷、聖、呪の属性の中で元となる属性の練度が高くなければ使えないのは炎魔法と氷魔法くらいだ。最も聖魔法と呪魔法も元となる光魔法と闇魔法の熟練度が高くなければ覚えられないのだが、この二つに限っては練習だけでは手に入れられない、本当の才能が無ければ使うことが出来ないのだ。ましてや、呪魔法に至っては使える存在が少な過ぎて伝説のような扱いを受けている。


 雷と木に至っては二種類以上の属性を指定された魔力量を合成出来なければいけない。この二つに関して言えばイフというチートを持つギドでさえも使いたがらないほどの面倒なものだ。


 そんな扱えるだけで才能があると呼べる魔法を、いとも容易く、それでいて無詠唱で使う若者がどこにいるだろうか。……いや、ローフの目の前にいるギドを除いてどこにいるだろうか。


「生まれ持ってのものか?」

「……そうですね」

「それは最早、才能か、ギフトだな。異世界人なら話は別だろうが、見た感じ異世界人のような独特な雰囲気はないし」


 それを言われて少しだけギドの胸が痛む。

 騙しているとか、そういうことではない。心も体も日本人から異世界の存在へと変わってしまっていることが、少しだけ寂しく感じてしまっているのだ。軽く頭を振る、違う、今はそんなことを考える時間じゃない。


 なぜ得意なのか、それはギドにも分からない。

 異世界に来てから愛用していた魔法の二つである呪と氷。前者は何故かなど考えなくとも分かっている。長い間、呪いに呪って自分の不幸を嘆いていた、その表れだろうと理解出来た。だが、後者に関してはよく分からない。


 氷のように冷たい存在だったか。

 答えは否だ、多少のストレスでの性格変化はあれども大まかな部分に違いは無かったはず。誰よりも性格が良かったと自負するわけではないが人並みには優しさを兼ね備えていただろう。……というか、ギドからすればそうだったと思いたい。自分が不幸な分だけ人には自分から不幸にさせないようにしていたつもりだったのだから。


 なぜ得意なのかは分からない。

 だが、得意だからこそ今のギドはいる。悩むことはあれども使えるせいで不自由さを感じられたわけではない。今だって使えたおかげで逃げの一手に扱えた。武器を再度、構え直して軽く一礼して見せる。そこまで来て新しい策が思いついたのだろう。表情はまさに満面の笑みだ。


「もう一度、突撃しますよ。その技を崩す考えが思い付きました」

「ほう……来てみろ」

「……ええ! 油断はしないように!」


 別に策がなかったわけではない。

 だが、思い付いてみればこの策以上に良いものが無いような気がしていた。即座にワルサーの引き金を引く。また動かずに銃弾がギドの元へと返ってきた。ここまでは二度、体験したことなのだから変わらずに両手剣で弾をいなす。どこかへと飛んでいく弾を横目に再度、ワルサーを撃ち込む。


「ほう、だが!」


 二発、新しく撃ち込まれた銃弾はローフの顔の手前で軌道を変えてギドへと返る。また黒百合でいなす、大きなギド程の大きさを持つ黒百合をもってすれば流すことは難しくない。そして撃ち込む、返されては流す。流して流して流す、一気に三発以上を撃ち込むことは無い。二発を連続で撃ち込み続けた。


 十回はリロードをしただろうか。

 そこまで来たところで不意に撃つことをやめた。ローフの頭にハテナマークが浮かぶ。もちろん、弾を撃ち続けたこともそうだ。崩すと言っておきながらギドは流風に風穴の一つも開けられていない。たと言うのに、ギドは未だに余裕そうな顔を見せて笑う。


「ちょっとした思い付きの技ですが、これは流せますかね……?」

「は……?」


 右手を天へと掲げ一気に下ろした。

 その瞬間にローフの周囲を魔法陣のようなものが囲んでいく。十や二十では済まない、五十はあるだろう魔法陣が輝き真っ暗な空間を映し出す。ローフもそれに気が付き武器を構え直すが、そこから起こったのは想像を絶するものだった。

 合計百はあるだろう弾丸が暗闇から飛び出し中心にいるローフへ飛んでいく。ローフも流そうとするが銃弾が止まる気配はない。気付くのが遅かった、流し続けて銃弾を四分の一ほど食らったところでカラクリを理解出来た。


 今度は流すのではなく下へとぶつける。

 暗闇へ戻してはいけない、無意識に流した銃弾が暗闇から他の暗闇へと移動して向かってきているのだ。この能力が何かをローフは知っていた。有名な魔法だ、それこそその歳で氷魔法を極めたギドならば使えてもおかしくの無い魔法。


「ハッ! 空間魔法か!」

「正解です、さしずめ……空間(ファルシフィ)歪曲(ケーション)とでも名付けましょうか」


 また手を天へと掲げる。

 その顔は変わらず笑顔。


 来る、ようやく銃弾の波を全て消し去ったところで次の矢が来る。恐怖は無い、ローフの足は震えているが、これは恐怖からではない。心臓が痛いと思えるほどに跳ねている。嬉しい、全てをぶつけられる存在と戦えることが嬉しい。


「次は僕の好きな魔法です。アイシクルランス!」

「来いよ!」


 ギドの十八番技。

 数百にも及ぶ氷の槍は圧巻としか言えない。ワルサーの引き金を引いている間にも準備に準備を重ね作り出した、ギドが作り出した氷魔法の中でも群を抜いて魔力を結集させて作られた最高傑作だ。ローフの顔も更に喜びから笑顔へと変わる。無理も無いだろう、この氷の槍の数や漏れだした魔力の量は尋常では無い。これこそが本当にローフの求めていた戦いだった。今度は得物である両手剣を地面へと深々と突き刺す。何をするのかはギドには分からずとも撃ち込む以外の策は今のところない。飛んでいく、体からいくつかの血を流しているローフへと鋭利な刃が真っ直ぐと。


「無形流・流水(セキ)!」

「なっ!」


 だが、それらは飛んで直ぐに掻き消された。

 強烈な衝撃波、爆発などのレベルではない。全体へと飛ばされた全てを破壊するような風圧が氷の槍を掻き消して術者であるギドをも吹き飛ばす。何とか空中で回転して体勢を立て直すが思いの外、体へのダメージが強過ぎる。治癒こそ出来るだろうが先程の弾丸とは違って深い傷が数カ所程度の話ではない。何十箇所もある傷を癒し切ろうとすれば二分は動かずにいなければいけないだろう。


 そして、そんなことは……。


「あァァァ!」

「ぐっ……!」


 ローフが許さない。

 ギリギリで殴りかかったローフの拳を黒百合で受けるが衝撃は消せない。少しだけ傷が開いたのだろうか。口から血を漏らしている。そこからは形勢が逆転した。素手にグローブを付けたようなローフの連撃が始まりギドが防戦一方へと変わっていく。

ようやく小説の書き方を思い出し始めました。数週間も小説を書かないとここまで書けなくなるんだな、と今更になって思います。次回もローフとの戦いを書いて……個人的には長めの話を二つか、三千後半の話を三つ位で終わらせたいなと考えています。……そこからケイさんとの話やシードとの話、領主の話、そしてちょっとした話を書くので……やはり前書きの通り終わりが見えないです……。後、これからはちょくちょく厨二っぽい技を作っていくつもりなので暖かく、「ああ、小さな時に抜け出せなかったんだな」と思っていただけると助かります。


次回は水曜日に出したいと思っています。

もしも面白いや興味を持ったという方がいればブックマークや評価、感想などよろしくお願いします。小説を書くためのももちろんありますが、プライベートのモチベーションにも繋がるのでお願いします!

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