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4章106話 ただの馬鹿達

少しだけ短めです。また前回と前々回を書き直しさせて頂きましたので、未だ読んでいない方は先に読んで頂けるとより楽しめると思います。特に前々回の書き足しは4章に強く関わる部分ですので読んでもらえると助かります。

 両者の大剣が強くぶつかり合う。

 その力はまさに互角のようで少しも形勢が変わりはしない。いや、少しだけギドが余力を残しているといったところか。単純な力ではまだ本気を出しきってはいない。それは魔力の流れを直で見ているローフが一番に分かっているだろう。体全体に流れるはずの魔力が腕には少しも入っていない。つまり腕への身体強化は一切、無いということだ。


 手を抜いている……わけではない。手を抜いているのならばもっと分かりやすい……それこそ、数多の戦いを勝ち抜き戦闘慣れしているローフの勘を騙すことは出来ないだろう。無理やりに押し飛ばして構え直す。さすがに鍔迫り合いを行い続けてもローフに得は無い。予想通りというべきか、すぐに向かってくることは無い。


「どうした? 来ないのか?」


 安い挑発、だが、返答は鼻で笑われるだけ。

 馬鹿にされているはずなのに、その反応を求めている自分がいるようにも思えた。表情は変えない、変えてしまえば虐められるのが好きだと捉えられてしまうような気がして、ローフは無理やりに我慢していた。


「分かっているはずです。相手の力を完全に理解しているわけではないのに攻められるわけが無いでしょう」

「……可愛げがないな」

「ええ、よく言われますよ」


 口元を隠して楽しげに笑う。

 それにつられてローフも笑みを見せた。戦うことが大好きなローフ、自分と似た存在を見つけられて心の底から嬉しいのだろう。我慢しようとするが止めることが出来ない。


「それに反論をするのであれば、弾いてからすぐに反撃に転じれば良かったのでは」

「こんなに楽しい時間だぞ。終わらせるのを早めてどうする?」

「……違いないですね」


 当然だ、と言いたげに首を傾げる。

 少しだけギドも面を食らったようだが、すぐに笑みを戻して武器を構え直した。そこまで見た上でローフも下ろしかけていた武器を肩にかけて目を鋭くする。一瞬、そこからは正に瞬きをして直ぐに火花が散った。


 今度は腕まで魔力を通した一撃のようで咄嗟に得物でガードを取ったが、簡単にローフは後方へと飛ばされる。それでもまだ予想の範囲内だったようで体勢までは崩されていない。小さく息を吸い込んだと思うと飛ばされた距離を、地面を一蹴りして詰める。


 鍔迫り合いが起こる。だが、数秒とかからずに両者共に得物を振りあった。ガツンという鈍い音がしたと思えば、カンっという鋭い音が聞こえる。一回、二回……徐々に両手剣とは思えないほどの振りの速度へと変化していく。十数秒はぶつけ合い振り遅れることなく綺麗な音を鳴らし続けた。


 それでも両者の表情には明確な違いがある。

 片や未だに余裕を見せるギドと、片や冷や汗を流し続け息切れを起こし始めたローフ。このまま振り合い続けても、どちらが勝利するのかは例え戦闘を行わない人であったとしても簡単に見抜けるだろう。戦っているローフなら尚のこと分かっていた。このままの振り合いでは……いきなり縦に強く振り下ろす。


 流れが変わった、それでもギドの体勢は崩れない。そこは流石と言うべきか、小さくフッと笑いローフの一撃を大きく弾いた。勢いに任せてローフも強く地面を蹴り距離を取る。どちらにせよ、振り合いやぶつかり合いでは圧倒的に勝ち目がない。傷一つ負わずに力量を測れただけローフからしたら御の字だ。


 その分、額からは猛暑日のサラリーマンのごとく、いや、それ以上の汗が流れ続ける。膝も少しだが震えてしまう。それは恐怖から来るのか、はたまた武者震いか……正解は分かりはしない。だが、何故だろうか。ローフの口元は笑みを零したままだ。


 再度、距離を詰め直す。

 今度は連続での攻撃を避け大振りをギドに受けさせてから、また距離を取って両手剣を構え直した。額の汗が多くなる、今の一撃は本気の一撃だった。だというのにバランスの一つも揺るがすことが出来ない。自分が思っていた以上の相手が目の前にいるのだ。そして微かな違和感。少しの油断すらも出来ない。


「それが本気か?」

「本気ですよ」


 未だに余裕を残したままの顔。

 表情を見る限りでは言葉通りだとは少しも思えやしない。短い期間だとはいえ、それなりに鍛えられたギルドマスターとしての人を見る目は並以上のものだ。その目がギドはいくつかに分けられた枷の一つを外したに過ぎないと、警鐘をならしている。


「逆に聞きます。そちらは本気ですか?」

「分かっていて聞いているな」


 ローフの返しにギドは笑みを浮かべる。

 本当に透かした若者だ、とローフは内心、舌打ちをした。それでも嫌な気はこれっぽっちも湧きやしない。単純にお互い似たような状況なのは分かっていると言われたような気がしただけだ。ローフに人を見る目があるように、ギドはギドで培った悪意や本気の目を見分ける力がある。


「さあ、次はどのように来ますか」

「……悩むな、ぶっちゃけて言えば真正面からの殴り合いでは勝てる気がしない。速度も一撃の重さもギドの方が上だ」

「……否定はしません」


 ギドには分かっていた。

 戦うと分かった瞬間から手は抜かない。魔眼でステータスを見ることはしなくとも、今の戦いだけで大体の能力値は理解している。もちろん、ローフを弱く見ているなんてことは一切ない。だが、ギド以上の強さがそこにあるわけでもない。心器を出さずに戦っているとはいえ、それはローフも同じだろうと考えていた。仮にローフの両手剣が心器ならば何度もの打ち合いで能力を使っているだろう。


 逆に今の力が本気だとは思えない。

 それは冒険者として生活を送り始めてきたことによって培った、簡単に見ただけのものを信用しないという一番に重要なことだ。何より今のローフを見る限りでは本気を出したウルよりも強いとは思えない。ただ直情的に殴るだけが強さならば荒くれ者の多い冒険者をまとめあげる事は出来ない。


「それなら、これはどうですか」

「……ッ!」


 ギドが取り出したのはワルサー。

 ローフはすぐにそれを理解することは出来なかった。初めて見る物体、何をするのかさえ分かりやしない。だが、すぐに攻撃方法を理解する。ダンっと言う大きな銃声と共に右肩へ鈍い痛みが走っていく。貫かれはしない、ギリギリで肩を逸らすことで軽傷で済んだ。


 ギドが構えていた両手剣よりも小さく、それでいて火力も無さそうな見た目であるにも関わらず、当たりどころによっては致命傷を与えられるような武器。尚更、簡単に自身を倒せただろう武器で躱しやすい場所を狙った理由がよく分からない。チラリとギドを見る、無表情でローフを見つめるだけだ。


「それが本気か」

「いえ、()()()()()()()では無いですよ」


 その言葉は先程までの戦いは遊びだと言いたげなものだった。だが、遠回しな言い方であってもローフの心を少しだけ安心させるものでもある。物理的なステータスでの本気がさっきまでのギドだった。つまりは対処出来ないレベルではないということ。


「次は……殺しにかかります。死なない限りはいくらでも治してあげますので安心してください」

「……おもしれぇじゃねぇか!」


 舐めているとは一切、思わない。

 その言葉に負けないだけの力を確かに少年は持っている。今の数回のぶつかり合いで確かに感じられた。そして、これからは殺しに来るつもりで、つまり少年の本気をぶつけてくれると明言したのだ。それが分かると……どうしても笑顔を止める事が出来ない。


 もしかしたら同じことを感じているのかもしれない。そう感じたのも満面の笑みを浮かべてギドは銃口をローフの頭へと移動させたからだ。撃てないのではなく撃たないだけ、戦いを楽しむ場面において初見殺しをしたくないギドのワガママだというものを今ので理解した。もしも、倒すことだけが目的であれば回復魔法を撃ち込んできやしないだろう。それもローフでさえ、撃ち込まれたことに気が付かないほどの練度の高さだ。


だからこそ、ローフからすれば嬉しい。

そんな馬鹿がローフは大好きだった。目の前の少年は蛇のように頭を回して人を貶める存在ではない、それだけで力を貸す理由にはなる。だが、そんなことを自分の思い一つで決めることは出来ないだろう。ローフは大きく深呼吸をしてギドを強く睨み付けた。


「本当の馬鹿みてぇだな!」

「否定しませんよ」

「だが! それが面白い!」


 ローフの目が赤く充血し始める。

 ギドには分かっていた。その充血はローフが意図的に行っているものだということを。魔眼によって分かる魔力の流れはローフの目へと集中していることを。それはつまり……ここからがローフの本気だということは明白だった。


 ワルサーを構え直す。

 今度は腕を狙うなどということはしない。頭目掛けて放たれた銃弾が綺麗な線を描きながらローフへと向かっていく。……だが、ローフへと当たることは無かった。代わりに当たったのはギドの足元。ガズッという聞いたことの無い音とともに地面を抉っていく。


「そちらも手を見せてくれたのだ。こちらも見せなければいけないだろう」


 ニコリと楽しげに笑う。

 そう、ギドが馬鹿だったようにローフも同様に馬鹿なのだ。戦闘に関しては両者共に恵まれた才能がある。だというのに、楽しみたいという大きな目的のためだけに不意打ちを自分から拒んでいる。もちろん、理由の中には皆の意志を継いでいるために負けられないというのもある。だが、それであっても楽しめなければ二人からしたら意味が無いのだ。だからこそ、ギドも笑みを深めてしまう。


「俺を殺しにかかるのならば俺はお前を殺しに行く! 来いよ! 俺の無形流を見せてやる!」

「ええ……行きます!」

「無形流・流風(ナガレ)!」


 飛び込むギド、ローフの体を風が包む。

 ローフの体はしっかりと視認出来る。風が自分の姿を隠すための存在では無いことは、それだけで理解出来た。ワルサーを構える、撃つ、一発や二発ではない、連続で残り弾数である七発を全て。そして……ギドの肩と頭へとそれらは突き刺さった。

少し遅くなり申し訳ありませんでした。私用自体は七日辺りであらかた片付けたのですが、不幸なことが多く続き持ち前の豆腐メンタルのせいで書こうという気になれませんでした。大分、メンタル面では回復し始めたのでまた投稿を再開しようと思います。個人的にはもうそろそろでカクヨムの話もまた書こうと思っています。


無形流に関してはポンっと思い付いたので付け足した感じです。もしかしたら技名は変わらずに流派の部分だけ変える可能性はあります。ローフの強さを今回の戦いで書ければな、と強く考えているので楽しんでもらえると嬉しいです。


次回は十九日までには出します。もしも面白いや興味を持ったという方がいればブックマークや評価、感想などもよろしくお願いします。「ここがよく分からない」や「こうして欲しかった」などの意見があれば感想を頂けると、こちらも書き直す時に意識して行うことが出来、助かるので送っていただけると嬉しいです!


最後に七月の目標であった総合評価2300越えが出来たのですごく嬉しかったです! このまま伸びてくれると嬉しいなと内心、期待しています!

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