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4章98話 分かっていても聞きたいのが女心らしいです

 椅子に腰掛けて天井を見る。

 少しだけ、お腹が減った。まだ食事を終えて二時間も経過していないというのに……今日はやけにお腹が空きやすいな。酒のせいで胃でも膨張していただけだったのかもしれない。きっと、それのせいだ。


「まだかなぁ」


 つい言葉が漏れてしまう。

 食事を終えてすぐの約束だったから、早く来れないのは分かっている。だけども、今日は話したいことがあるからね。僕は馬鹿だからどうしても他のことを考え始めると、ポンっとその話したかったことを忘れてしまうし。


「ふふ、もう来ていますよ」

「え?」


 振り向くとニコニコのイフがいた。

 最初からこれが目的だったのかと思ったけど、もう遅い。表情を引き締めようとしても一瞬、見せてしまった驚いた顔を視界の中に貼り付けられて煽ってくる。……僕の顔の中にミッチェルやアキの着替えの写真があったのは見なかったことにしよう。


「うん、普通に入ろうか!?」


 ドキドキと強く活動する胸を抑える。

 もう視界の中にはない……けど、どうしても大きなアレが頭から離れない。色々な意味で強く動いてくる心を落ち着けるために、いつもよりも大きめな声でイフに言った。


「次から、頭の中にその教えが残っていればやってみてもいいかなと思います」

「思うだけかよ……」


 長々と言っておいて最終的には不確定。

 コイツ……本当にバツでも与えようかな。せっかく二人っきりにしてあげたって言うのに。いや、この考えは良くないか。イフの好意を弄ぶような言い方だし。……でもなぁ、可愛くても、いくら好きでも少しだけムカつく。


「はにょ……ひはひへふ……」

「ムカつく、本当にムカつく」

「にゃんへ……にゃんはほほっへひはほほひはひはふぅ……」


 イフの言葉なんて聞く気は無い。

 ムニムニと赤ちゃんの頬っぺたみたいな柔らかさを誇るイフの頬を左右に抓る。餅並みとまではいかないけど、僕よりはすごく伸びるな。もっと触っていたい気持ちが強くあるけど……我慢しないと。


 左右に思いっきり引っ張ってから離す。

 さすがのイフでも伸ばしきられた頬が痛いらしく、両頬を手でさすっていた。嗜虐心がどうしても湧いてくるよ。可愛い子が痛がる姿……ちょっとだけ来るものがあるなぁ。


「ほら、痛がっていないで座って」

「誰のせいだと思っているんですか……」

「え? イフが驚かしてきたせいでしょ?」


 ベットに座りながら涙目で責めてくるけど残念、僕からすればイフが驚かしてこなければこんなことをしなくて良かったんだ。僕だって好きでこういうことをしているわけじゃない。そう、これはイフというイタズラっ子を改心させるための躾みたいなもので……。


「DV男が言いそうな言い訳ですね」

「……うるさい」

「まぁ、私はマスターの所有物なのでいくらでもお好きなようにしてください。今であればその昂る心を静めるために私の体を使っていただいても構いません。それどころか」

「僕がイフを呼んだのには理由があってね」

「ガン無視ですか!?」


 当たり前だ、これ以上、続けてしまったら放送禁止用語満載のイフの妄想が垂れ流しになるだけだろう。聞く分には良いけど、その願いを叶えられるわけではないのだから無視が安定だ。それに無視された癖に嬉しそうな顔をしているんだからそういう対応を待っていたんだろ。……ド変態が。


「ごめんね、後で続きは聞くからさ」

「別に構いません。そのような性格だということは理解していますから」


 うん、胸を張って言うな。

 僕の性格は良くないって言われているようなものじゃないか。話を聞かない馬鹿みたいな……否定はしないけど。すごく性格がいいとは自分でも言えないしね。甘んじて受け止めておくか。


「どうせ、知っているだろうけど僕は教会を敵に回すことに決めた」

「ええ、その話はセストアから聞きましたよ」


 セストアから……か。

 ということは、あの時の大声がセストアやジオにまで聞こえていたってことかな。それはそれでとても恥ずかしいけど別に嘘をついたわけじゃないから気にすることではないよね。少なくとも今は気にする必要が無い。


「僕は吸血鬼だからね、そのうち対立するのは目に見えていた。またワガママに動いたとは思うけど後悔はこれっぽっちもない」

「それも知っていたことです」

「例え知っていたとしてもしても、ね。僕のせいで皆に危険が迫る可能性があるんだ。後で謝っておくよ」


 吸血鬼は迫害される、それがこの世界での常識だからね。僕が魔法国を選んだのだって差別が他よりも薄そうだったっていう簡単な理由だ。それでもゼロなわけではない。歴史的に吸血鬼のような魔族が行ってきたことは人間側からしたら到底、許せるようなものでは無いだろうし。


 だからこそ、僕が魔族であることは仲間だけだ。

 鉄の処女やセイラにだって詳しくは話していない。話しているとすれば人間という種族ではないということくらいかな。後は……異世界人であることも話せていないや。いや、今は関係がない話か。


「言いたい事は分かりますよ。マップでエボルという存在に点を打った時点で、我が家に攻めてくる可能性を危惧しているんですよね?」

「……うん、そうだよ」


 本当にイフには隠し事が出来ないな。

 そうだ、今夜、イフに話したかったことのメインはそれだ。ああいう輩の一番に怖いところは何をしでかすか読めない部分だ。それこそ放火とか暗殺とかをやり始める可能性もある。この街にも闇ギルドって呼ばれている存在がいるからね。ユウのように上手く能力の高さを隠せる人がいる可能性も否めない。


「安心してください。私が夜中も監視を続けますので」

「……ごめん、僕もその考えしか思い浮かばなかったんだ」


 最初からイフ頼りでしか無かった。

 寝なくても能力に支障をきたさず、それでいて広範囲に監視の目を伸ばせる存在は恐らくイフ以上にはいないだろう。空から覗くとか、見えない機体を操るとか、そんな馬鹿げた存在がいれば話は別だけどさ。


「その分、追加報酬はいただきますよ」

「エッチなこと以外なら別にいい」


 ……舌打ちされたんですけど。

 いや、当たり前だよね。どうせ、イフのことだから一番に頼みそうだったのが、そういう系のことだって分かりきっているし。ってか、イフ以外でも同じように制限は付けているからね。イフだけ無しってわけにもいかない。


「毎朝、毎夜、愛していると言っていただけるのであれば快く引き受けます」

「もしダメって言ったら?」

「心悪く引き受けます」


 表情を変えずにニッコニコのまま言ってくる。

 目に見えてダメって言ったら分かっていますよねと言いたげなオーラを放ってくるなぁ。どちらにせよ、引き受けてくれるのなら言わないっていうのも、ぶっちゃければアリだし。……意地悪いことを考えてしまったけど、それくらいなら減るものじゃないから構わないか。


「いいよ」

「本当ですか!?」

「うん、少し恥ずかしいから二人の時だけしか言えないと思うけどね。それでもいいのなら構わないかなって」


 何だこの満足気な顔……裏があるようにしか見えない。そこまで好きって感情を見せてこなかったわけではないと思うんだけどな。たかだか愛しているの一言でそこまで喜べるものなのか。僕からすれば好きだって気持ちが分かっているのなら愛している何て、愛の言葉は要らないから気持ちがよく分からない。


「知っていても言われると嬉しいものですよ。私も体を持つまではよく分かりませんでしたが今ならよく分かります」

「そんなものかなぁ」

「ええ、そんなものです」


 慣れてきた表情の動かし方。

 些細な笑みの変化だったけど僕には分かる。少しだけ優しくて暖かいものへと変わっていた。寝る前にやっていた鏡を見ながら指で顔を動かすっていうのも減ってきていたからね。僕がイタズラで指で表情を動かすっていうのも出来なくなってしまったみたいだ。


「お好きな時にやっていただいても結構ですよ」

「いいや、やらないかな。代わりに他のことでイタズラすればいいだけだし」

「ふふ、そういう方でしたね」


 口元を手で隠しながら上品に笑う。

 すごく頼もしくて、それでいて楽しい。もしもう少しだけ早く出会えていたなら、死ぬ前からイフと話が出来ていたのならば日本でも幸せに、あんな地獄すらも楽しむことが出来ていたのかもしれないな。本当に僕のツボというか、好きな返しをしてくれるよ。うん、なら尚更ね……。


「愛しているよ、ミッチェル以上とは言えないけど同じくらいに好き。自分の分身みたいな存在に言うのも癪だけどさ、自分でも笑ってしまうくらいに大好きだ」


 目と目を合わせてとはいかず、さすがに口に出す時には顔を俯かせてしまった。だからこそ、返事がまだ来ない今の状況が少しだけ怖い。ドクンドクンという小さな音、呼吸の音、ベットの軋む小さな音……どれを取ってもイフが関係してくるせいで少しも他のことを考えられない。


「……あの……本当に言われてしまうと照れてしまいますね……」


 声がしたので反射で顔を上げてしまった。

 そこには顔を真っ赤に染めて僕を暖かく見つめてくるイフがいる。それ以外には何も見えない。日本にいた時だって人並みには恋をしてきたし、こういうことで喜んでくれる人も確かにいた。だけど、その時とは比べ物にならないほど胸が熱くなってくる。普段ならイラつくような鼓動の早ささえ、心地良いと思えるくらいにすごく嬉しい。


「イフはどうなの?」


 恥ずかしさを隠すために言ってしまった。

 もっと自分が恥ずかしくなってしまうことが分かっていても、一瞬だけでもいいから楽になりたいと口が、頭が勝手にそれを喋らせてしまう。イフだってまだ恥ずかしいのか、すぐに返答しないで口をモゴモゴとさせてくる。チラッと目が合った、でも、恥ずかしさで逸らしてしまった。


「えっと……」

「う、うん……なに?」

「……好きじゃなかったらマスターの体の中に入ろうとしません。これ以上はちょっとだけ……恥ずかしいです……」


 もう無理だった、その一言でもっと顔が見れなくなった。

 口に出したのがそれ……反則以外のなにものでもない。


「……すごいですね……こうやって面と向かって言おうとすると……ここまで恥ずかしいものだとは……」


 それは僕もそう思う。

 僕の体の中にいた頃や体を得たての頃は恥ずかしげもなく言ってきたくせに……今更になって僕の心をくすぐってくる方法を取ってくるなんて。今なら分かっていても愛していると言われたい人の気持ちがよく分かるよ。……ああ、可愛い、可愛すぎる……。アダムとイブが知恵の実を食べた時もこんな気持ちを得ていたのかもしれないな。


「ほ、ほら! 僕は寝るから早く部屋を出て!」

「は、はい! しっかりと探知しておきます!」


 綺麗な敬礼をしてから小さく笑いかけてきた。

 逃げるように部屋を出たイフの背中をじっと眺めている。それに気が付いた時にはもうイフは他の空部屋に移動した後だった。まだ微かに残るイフの匂いのせいでベットに横たわったけど眠れそうにない。……こんな時だけ部屋に突入して来ないシロを恨んでしまうよ。

もしかしたら後で書き足しするかもしれないです。空いた期間中に次回の構成を練っていたのですが上手く繋がらなかったので、キング・クリムゾンによって時間を飛ばすことになると思います。この話と次回の繋がりが薄いように感じられれば、98・5話として後で加えるかもしれないです。


次回は土曜から月曜の間くらいに出したいなと思っています。

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