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4章97話 てめえは俺を怒らせたです

 また長い沈黙が訪れた。

 僕からしたら寝耳に水のその言葉はどうしても僕の頭が簡単に聞き入れようとしてくれない。休む期間を伸ばすとか、受付復帰が厳しいとかを話すのではなく辞める……どうしてかが納得出来なかった。


「なぜ、と聞いても?」

「受付として働く理由が無くなりました。その一点に限ります。前までは強くなる必要性を感じませんでしたが今は違います。強くなりたい理由が出来てしまったんです。場合によっては完全に冒険者と無関係の活動を始めるかもしれません」


 こちらをチラッと見て逸らす。

 まさか僕が……と思ったけど、それは違うだろうなぁ。どちらかと言うと僕と一緒に助けたサクラのためにだろう。頬がまだ赤いけど……これは手を繋いであげているからだろうし。ただ離そうとしたら逆に掴まれたから、まだ勇気を貰いたいらしい。


「……覚悟を決めたということか?」

「はい、今ならギドさんやミッチェルという頼れる人が出来ましたからね。前みたく無理やり同じパーティに入れられる、と言ったことは限りなく減るでしょう」

「そりゃあなぁ……この街じゃギドの仲間に手を出したら性別を消され……いや、何でもない」


 変なことを口走りそうになっていたので笑顔を向けてあげた。なのに、なぜ、そんなに明確に動揺しているのだろうか。分からないなぁ、単純に僕の仲間へ手を出そうとした人達が、偶然、立て続けに男から女にされているだけだと言うのに。


 だから、ニッコリを笑いかけてあげたというのにジオはなぜ、股間に手を当ててプルプル震えているのだろうか。本当に分からないなぁ。


「それに……守ってくれると言いましたから」

「ほう……良かったじゃないか」


 僕のことを見ながらそう言ってくるけど……。

 守るって言った記憶が無い。守る、守る……コロニーに入る前の言葉かな。それ以外で言った記憶が一切ないしなぁ。まぁ、守って欲しいって言う気持ちの表れでもあるんだろうし、嫌じゃないのなら守らせてもらうつもりだ。サクラもセストアの両方をね。


「まさか、ただの惚気を言って終わりか?」

「ええ、そうです」


 ジオの言葉にセストアが満面の笑みで返す。

 ジオのその表情……うん、気持ちがよく分かるよ。僕もやられたら本気で怒りそうなくらいには腹立たしい言葉だし。そんな純粋な笑みで返されても嫌なものは嫌だ。


「はぁ……惚気を聞かされる俺の気持ちを考えてくれ……」

「一人がいいと言っていたではありませんか」

「そうだが……話を聞いたら羨ましくなってしまうんだよ……」


 ジオが俯いてしまう。

 それでも本当に嫌なわけではないのか、セストアを見る目はどこか優しさの篭もるものだった。これはアレだ、ようやくセストアにも……みたいな考えが詰まっている視線だね。……一切、セストアとはそういう関係ではないというのに。


「……それならば少しだけ書類を書いてもらう。もちろん、この身勝手なことをした分だけ他のことで補ってもらうからな」

「はい、今のところは冒険者としてまた活動するつもりなので難易度次第ではしっかりと受けます」

「それでいい、何度もお前には話したが無理をしてまでやる仕事では無いからな。ただ辞めたとしても顔くらいは見せてくれよ、寂しくなる」


 何とも言えない居心地の悪さ。

 二人だけの秘密というか、空気があるのだろうと静かに部屋を後にした。あの空気感は恋人同士というよりは親子間、親子の中に無関係の自分が入るべきではないだろう。冒険者ギルドの受付の一席に腰を下ろして安価な酒を頼む。そこまで美味しくないのは分かっていても時間潰しには丁度良かった。


 運ばれてきたジョッキから口に少しづつ流し込んで飲み込む。本当に不味い、何でこんなものを皆は美味しく飲んでいられるのかが不思議でしょうがない。まだ間違って飲んだビールの味の方が美味しいぞ。


「はぁ……」


 どうしても出てきた通路の方を見てしまう。

 内緒で外へ出たけど正解だったのかが分からなかった。積もる話もあるだろうし、僕がしたかった話はセストアが言っていた。自分の思っていた内容とは少しばかり違っていたけどね。だから、気にする理由が無いんだけど……それでも、どうしてか、ため息が出てしまう。


 流れるような人の波。

 仕事を終えた冒険者や商品を卸しに来た商人が行き交う。中には満員になったギルドの席のせいで酒を飲みたかったとボヤく人もいる。それはそれで座っていて申し訳ないと思うけど席を譲る義理もない。ただ静かに酔えもしない不味い酒を飲みながらセストアを待つしかないんだ。


 そんな中で明らかに冒険者や商人とは一風変わった男が入ってきた。白衣のようなものを身に纏い腰に片手剣を差している。それでもギルド内の喧騒は止みやしなかったから無視していたが、受付で話した言葉でそうも言っていられなくなった。


「セストアは帰ってきたか」


 受付の人は複雑な顔をしている。

 さっきセストアが奥へ行っているのは見ていたはずだ。だからこそ、まだギルドマスターの部屋から出てこないセストアを呼び出していいのかと悩んでいるんだろう。チラチラと僕の方を見てきているしね。


「セストアに何か用ですか?」

「君は誰かね」


 誰かね……話す必要性は無いだろうに。

 視線で困っていたであろう受付の人に奥へ行くように合図する。伝わったかは分からない、だけども奥へ行ってくれたってことは話をしに行ってくれたんだろう。


「セストアの友達ですが? 話したのですからそちらも名乗ってもらいますよ」


 まぁ、名乗らずとも分かるけど。

 フードのようなものを被っていたせいでよく見えなかったが、真正面から見たおかげで誰なのかは分かった。エボル、僕の大嫌いな教会の神父の一人だ。


「……教会の者だ。セストアは教会の孤児達と仲良くしていたのでね。孤児やセストアの生死を確認しに来たに過ぎない」


 そう言う割には……笑みが黒く見えるが。

 仮にエボルの話したことを全て信じたとしよう。それならばサクラが教会に行きたくないと言う理由が分からない。果たしてエボルの言葉をどこまで信用するべきか……。


「貴方の言うことが信用出来ない」

「信用しなくても結構です。私達は私達なりにやらなければいけないことをやるまでですので」


 ジロリと睨みつけてくるような目。

 やらなければいけないことの中に、セストアやサクラの気持ちが組み込まれていなければ意味が無いだろうに。それに気が付けない癖に自分のやることは正しいとばかりに他者を蔑む、本当にいけ好かない奴だ。


「セストアのことを知らないのであれば消えていただけますか? 邪魔です」

「知っているが」


 睨まれた返しとして強い威圧をかけながら笑って言う。知らないとは一言も話していないだろう。ましてや、酒を飲んでいる冒険者の中でもセストアが奥へ入ったのを見ている人はいるはずだ。だけど、話そうとしない。


「なら、話してもら」

「二度も言わせないでくれますか?」


 小さな舌打ちが聞こえる。

 無理に聞く、なんてことは出来ないだろう。レベルは並よりは高いだろうが僕以下、加えてステータスで見てしまえばアリ以下に感じられるほど低い。威圧感で無理に、が出来ないのは体が認識しているはず。来るのなら……潰すだけだ。


「どうすれば話してくれますか? 金を与えれば言うことを聞いてくれるのでしょうか。ええ、ええ、今までもそうでしたからね。きっと身なりの良さから女性を落とすために服へお金をかけているはずです。金貨を出しましょう。それならば話していただけ」

「ふざけるな」


 金のため? 女性を落とすため?

 そんなことのためだけに生きているわけでは決してない。ゼロではない、だが、そんなことよりも大切な人達と笑いながらダラダラするために僕は頑張っている。身なりだって何だってミッチェルが僕のために作ってくれただけだ。


「ならば、女性でしょうか。安心してください。うちの孤児から好きな存在を連れていっても大丈夫です。齢が十七までなら用意が可能ですよ」

「……はぁ」

「それに加えて武器などはいかがでしょうか! 並の冒険者では得られない武器を与えて!」

「黙れ」


 どうしても我慢が出来なかった。

 本当はやってはいけないことだと理解している。それでも制御したいと思えなかった。本気の威圧感を目の前のエボル目掛けて放ってしまった。後悔はない、だが、漏れてしまった威圧を他の冒険者達にぶつけてしまったのは申し訳ないと思っている。後悔があるのならそれだけだ。


「黙ったな。いいか、よく聞け。僕が欲しているのは女や金といった物じゃない。僕が欲しいのは大切な友達であるセストアだ。そしてセストアが大切だと思うものも同様に大切なんだ」

「な、なぜ……!」

「なぜ? 知らないよ。ただ欲しいと思ったから欲しいだけ。セストアが僕を認めてくれている間は僕も助けるだけ」


 僕を嫌いになったら離れてくれればいい。

 ただ今はセストアが僕に助けを求めている。セストアもサクラも変な縁だけど僕が助けてしまった存在だ。別に助けてしまうことくらいなら責められる筋合いも無いだろう。調整するのが面倒なので威圧を少し弱める。コイツにはコイツなりの反論があるだろう。聞くだけなら別に構わない。


「あのような薄汚い小娘達に……なんの……情があるんでしょうね」

「お前に分からない魅力がセストアにはあるってことだ。少なくとも信用出来るし話していて心地がいい」

「あの馬鹿も大概ですが……貴方も馬鹿です」


 馬鹿か……それでいいな。

 別に僕は僕を頭がいいとは思っていない。人よりは少しだけ物覚えが良いくらいだ。興味があるものに関しては余計にね。だから、このエボルの言っていることは否定しない。


 が、コイツはコイツで馬鹿だ。

 教会はサクラを知っている。セストアの話だけをしていなかった状況でエボルは確かに小娘達と言っていた。状況的な証拠はあっても確信させられるような証拠が無かっただけに、これはとてもありがたい。二人のトラウマを回避させられる要素になるからね。


「分かって……いるんでしょうね……! 私にこのような仕打ちをしたのです! 貴方は教会を敵に回したのと同義です……!」

「……それで結構。早く消えろ」


 威圧感を一気に解く。

 何とか自立しているようだが歩くこともままならないらしい。まだ洩らしていないだけマシか。一度だけ強く睨みつけておく。すると本気で命の危機を察したのか、死にものぐるいで走り去っていった。……威圧を弱めて損をしたな。小さくため息が漏れてしまう。


 そのまま受付の方を見る。

 プロだ、足がガクついているのに表情を変えずに笑っている。僕も笑い返して台の上に金貨を八枚ほど置いておいた。小さく「冒険者や受付の人達で分けておいて欲しい。さっきの詫びです」と言っておいたから意味は分かるはずだ。それだけあれば分けたところで並の冒険者の一日の稼ぎ以上にはなるし。


 また席に腰を下ろしてセストアを待つ。

 本を出して顔を隠す。流れとはいえ、すごく恥ずかしいことを言ってしまった。どこの主人公だよって今更ながら突っ込んでやりたい。居心地の悪い冒険者ギルドから早く出たくて、どうしても受付の方をチラチラと見てしまう。そんな生地獄が数分も続いた。


「……遅れて申し訳ありません」

「いいや、お酒を飲んでいただけだから気にしなくていいよ」


 笑いかけた時にセストアの頬が赤らんだ。

 可愛い、これのためならセストアのことを守る理由になってしまう。それだけじゃなくて優しさもあるのだから余計にエボルの言葉の意味が分からないや。小汚い娘、僕だったらこれだけ綺麗な女の子に言えるわけがない。過去がどうであれ、今が輝いているのならそれでいいだろう。……これでセストア達が加害者ならば話は別だけどさ。


「さあ、帰ろうか」

「は、はい!」


 手を伸ばしてセストアを引き寄せる。

 どうせなら冒険者達にも分かるようにしておいた方がいい。セストアに手を出すということはどういう事なのかって。


 ただ、まぁ、勝手なことをしたせいで、またイフに怒られてしまいそうだなぁ……ちょっとした後悔を月の光にかき消してもらいながら、短い甘い時間を楽しんだ。

書いている最中に感じた事なのですが……もうそろそろでタイトル回収とはいえ、ここまでタイトルであるテンプレの強みを見せられないのであればタイトル変更もありなのかなと思えてきてしまいました。

作者自身が「なろう」特有のタイトルで物語の中身を全て明かすのが得意じゃないため出来る限り纏めたのですが……。もちろん、長いタイトルが悪いとは言いません。タイトルで得られる情報が多いほど分かりやすくて読みやすい等の利点があるのは分かります。ですが、見せられる強みと見せられない強みがあってこそ、話って面白いのかなぁと思っているので短いタイトルで新しく作れそうならば、もしかしたら改名するかもしれません。


後、本当にもう少しだけ遠回りしてから五章に入ります。こうなるかなや、こうなって欲しいな等、想像しながら読んでもらえると嬉しいです。地味にテンプレ等は強い能力にするつもりです。次回は木曜日ら辺にするつもりです。面白いや興味を持ったという方が居ればブックマークや評価、感想など宜しくお願いします! 小説を書くことやプライベートの意欲向上に繋がります!

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