表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
228/273

4章95話 誘惑には勝てないのです

ちょっと長いです。

後、下ネタ注意? です。

「それじゃあ、今日の訓練を終えようか」


 手をパンと叩いて全員に合図をする。

 それでもすぐに動くってことは出来ないようだ。少なくとも僕とイフ、シロ、そしてユウ以外の全員が腰をついて息を切らしている。午前の訓練を終えてから休憩時間は与えたけど、さすがに午後に入ってからの模擬戦は辛かったみたい。


 今回はいつもと違った戦い方を選んでみた。

 組み分けは五対四で、鉄の処女とエルド、キャロ対僕とイフ、シロ、ユウにしてみた。ここまではいつもと変わりないんだけど、ここからが今更だけど失敗したなと思う部分。まず一回目は不意打ちで、二回目からは露骨に、三回目からは対策を立てられて……何回も五対二でエルドを狙ってしまったこと。エルドが強いって言うのは僕が身をもって知っているからね。だから、倒しに行った……まぁ、言い方は悪いかもしれないけど圧倒してしまったよ。


 一応、僕とイフは力を押えていたし、三人以上で攻撃をしないようにとか色々と事前に伝えて制限をしてみた。それでもイフとマップの後衛支援が強すぎたんだよ……。


 マップをゆっくり見ながら指示を出すからイアとリリが封殺されてしまうし、ユウかシロがエミさんを止めてしまう。それならイフを使わなければって思ったけど僕なら同じくマップのせいで、シロは対面での戦いなら負けない、ユウはそもそもイアに隠れ方を教えた本人だから効かないって感じになってしまうんだよね。援護が無いならば流石のエルドでも二人を止めることは出来ない。本当にエルドさえ落としてしまえば……って状況になってしまったのは良くなかった。


 軽く髪をかいてイフに視線を向ける。

 午後に入ってから三時間ほど、間に休憩を挟んだけど模擬戦をしたからね。もう夕方になってしまっている。今日の模擬戦で感じたことを明日から活かしていけばいいし、これ以上、疲れた体に鞭を打たせてまで続ける理由はない。……特に制御しているとはいえ、僕やユウとタイマンで戦わされたエルドの体はボロボロだろう。やっていて申し訳なさを覚えるくらいだったし。それくらいエルドが強いから怖いっていうのはあったんだけどね。


 ただアレは……うん、イジメに近かった。

 マップの点の色に変化は無いから……いや、もっと濃くなっているから僕に対する信頼は変わって無さそうだけど……今度、何かで返すことにしよう。


「明日からは今日の悪かった点を重視していくから今日は休んでね。この後、もう少しだけ訓練をするのならしてもいいけどイフがいいって言うまでだよ」

「はぁ……私任せですか……」

「うん、お願い」


 身勝手だとは思う。だけど、イフはイフで僕から頼み事をされて嫌な気持ちをしていない。人の気持ちほど分からないことは多いけどイフは素直だからね。ちょっと口角が上がっていることとか、首に手を回すとかはイフのしやすい照れ隠しだ。


「よろしく」

「……まぁ、いいです。他の用事を早く済ませてくださいね」

「長引かせる気は無いよ」


 そう言うとヤレヤレと言いたげにため息を吐かれた。それだけでは済まず、両手を使ってよく見る顔文字のような表情までしてくる。こういう時は大概、ふざけているだけだから気にする必要は無い。どうせ、セストアと二人で外へ出るからって変なことを考えているんだろうけど……。もし、仮にイフの考えそうなことが出来るとすれば今の僕が童貞でいるわけがない。


 ……うん、自分で考えて何だけど悲しくなってきた。

 出る前に僕のいきなりの命令に従ってくれたキャロとエルドの頭を撫でておく。その後は確認しないでおく。エルドは「恐縮です」って言っていたから見ても良かったけど、もう片方の兎耳の言葉がちょっと……ま、まぁ、可愛い子が撫でられて喜んでくれているのなら僕も嬉しいけどさ。キャロのために深く考えないでおこっと。


 台所までゆっくりと進む。

 時間的にはこの時間帯だろう。息を殺して台所へ入ってから周囲を確認する。小さな椅子に座って本を読む女性、コトコトという鍋の音に紛れて背後から軽く抱き締めてみた。


「どうかしたんですか?」


 本をパタッと閉じて俯いたまま聞いてくる。


「ミッチェルを驚かせに来た!」

「ふふ、本当に可愛いですね。えっと……わ、わぁ! ビックリしました!」


 大根役者もいいところだよ……。

 それでも振り返って驚いたように見せてくれるのは素直に嬉しい、それに可愛い。意識してやってくれているって分かっていても嬉しいな。今までは無意識にやっていたと思っていたけど、ある程度は可愛さを上手く使ってやっているのは知っている。僕以外にこうやって、その場のノリみたいなので反応している姿を見たことがないのが証拠だ。


「ところで、本当はどんな理由で来たのですか。触れ合えること自体は……私からしたら嬉しい限りなんですが」

「え……」


 何で……と聞かれても理由は無い。

 純粋に最近は触れ合うって時間が少なかったからこうしたわけだし。……依頼を受けるまでは一日の半分以上は、それこそ寝ている時も一緒だったから寂しくなっただけなんだけど。


「特に理由は無いよ」

「そうだったんですね。……てっきり、セストアさんの話でも聞きたいのかと思いました」

「セストアと話をしたの?」


 小さく首を縦に振った。

 いや、それを聞いていないのにセストアから聞いた話を、なんて思いつくわけがないよ。それになぁ、他者から聞くにしてもセストアの重そうな過去の話を聞きたいわけじゃ……。


「ギドさんの良さを語り合いました」

「……何それ」

「ふふ、そのままの意味です。セストアさんは自分の気持ちに疎いですからね。後はギドさんから教えてもらったユビキリ? をしてずっと友達でいるって約束しましたよ」


 セストアの気持ち、ね……。

 ミッチェルと語り合えるくらいだから本当に僕がいたら赤面待ったナシの話だったんだろう。それに対応出来るってことはセストアは僕のことを好きって……あ、でも、命を助けたんだから絶対ないとは言いきれないな。二十パーセントくらいの可能性で有り得そうな話だ。ただ、まぁ……。


「指切りはそういうことでは使わないよ」

「え! そうだったんですか……?」


 小首を傾げてくる、可愛い。

 ちょっと悩んでいる姿、可愛い。

 うん、結局、可愛いな……。


「元は遊女が恋したお客にした、命懸けの約束事の時に使うものだったんだよ。まぁ、偽物の指を作ったとかって話も多かったらしいけどね」

「ということは……セストアさんと付き合う約束をしたってことに……」


 プルプルして困っている姿、可愛い!

 どうしても再度、抱きしめてしまう。さっき以上に強く優しく、ミッチェルは僕以外の人と結婚する気がないって知っているからね。お嫁さんをたくさん貰うことになろうとも、ミッチェルは絶対に第一夫人になってもらう。それは決定事項だ。


「同性だったら違うんじゃないかな。僕のいた世界でも大切な約束の時に使うって感じになっていたし」

「なるほど……」


 あれ? 少しだけ悲しそうにされた……。

 僕の言ったことが何か嫌だったのかな。


「勘違いさせてゴメンね?」

「あ! 違いますよ! あの……奴隷だった時に指切りをしてくれていたので……その時から私のことが好きだったのかな、と勝手に勘違いしていただけなので……」


 ううん……何だこの可愛い生物……。

 もうなんか可愛いを通り越して……そうだ、これが尊いって感情か。触れようとか、そういう欲望に近い気持ちが消されて……そう、寒い時に暖めてくれる太陽のような大切に思えてしまう気持ちが芽生えてくる。……あ、浄化されそう……。


「ずっと好きだよ。指切りをしてから数日後だったけど、その時からずっと」

「あの……えへへ、知っていても照れくさいですね……。あ、で、でも! わ、私はユビキリをした時からですから私の勝ちです! 私の方が長い間、ギドさんのことを愛しています!」


 あ……死にそう……うん、死ぬわ……。

 そんなことで胸を張って笑顔を浮かべてくるなんて……これは絶対に無意識だ……いや、意識してやっていてもいい。……駄目だ……可愛い以外の言葉が出てこない。


「……何かしてほしいことある?」

「ギューしてください!」

「了解」


 その程度なら全然、いい。

 というか、僕もしてあげたいと思うから頼んででもさせてもらいたい。何なら、それ以上のことをしたい。このままセストアとの約束を忘れて二人でデートしたりとか、一緒に布団にくるまったりとかしてダラダラしたい。この笑顔を間近で見ながら幸せを噛み締めていたいよ。


 後ろからギュウッと抱きしめると小さく嬉しそうな声をあげて、瞳を閉じる。ミッチェルの呼吸の音だけが聞こえてきて、それでいてミッチェルから吐き出された息が自分の中に入ってきていると思うと少しだけ嬉しくなる。もっとミッチェルと一緒にいたくなる、恋しくなってしまう。


「……すいません、料理失敗しますよ……?」

「へ……?」

「……お邪魔だと思いましたけど……」


 小さく語りかけるような声。

 静かなせいで余計に聞き取りやすい。一瞬、僕もミッチェルも何も分からなかったけど、すぐに首まで真っ赤になったミッチェルが動き出した。ピーッと言う音、そして吹き出して何度も火に鍋から漏れた中の液体がかかる音……確かに火を止めないと料理は失敗するだろうなぁ……。


 そんな他人事のような考えしか浮かんでこない。もっとミッチェルと……って、思ってしまうと後悔しかないんだよね。折角の二人っきりの時間だったのにって、どうしても思えてしまう。教えてくれた人は何も悪くないのに……。


「助かりました、セストアさん」

「いえ……火を止めてよかったのか分からなくて教えたのですが……これなら私が止めたほうが良かったですね……」

「いえいえ、お客様にお恥ずかしい姿を見せてしまい……こちらこそ、申し訳ありませんでした」


 お互いが頭を下げ合う。

 何となく僕も頭を下げる。少しだけ複雑な気持ちになったとはいえ、それは僕が招いてしまったことだし、セストアはセストアで家事とかを危惧して教えてくれたんだ。……でも、もうちょっとだけ甘い時間を味わいたかった……。


「……何か、ごめんね」

「気にしないでください。……ちょっとだけモヤモヤしただけですから」


 モヤモヤ……うーん、どっちの意味かな。

 羨ましいとか、日本にいた時のリア充爆発しろ的な感じのモヤモヤなのか、もしくは自分で恋心に気が付いていないモヤモヤなのか。個人的には後者だったら嬉しいけど……いや、それはどうでもいいか。


「そっか、今度からは気を付けるよ。少なくともサラには見せられないしね」

「ええ……」


 あの子には刺激的過ぎる。

 ……でも、こういうのって歳をとっている側が勝手に思っているだけの時も多いんだよなぁ。ただサクラの健全な成長のためには見せない方がいいだろう。シロやユウなら見せたところで大人の楽しみ方、みたいなものを知っているからね。ユウは子供扱いされたくないようだし勉強したんだと思う。


「ミッチェルもごめん。時間を食わせちゃった」

「そんなことありません! 一緒にいられて嬉しかったですよ!」

「お、おう」


 食い気味で言われて、つい後退りしてしまう。

 本当に可愛いな……もはやミッチェルに対して、それ以上の言葉が出てこない。最後に頭を撫でて自分の気持ちを落ち着ける。


「外へ出てくるよ。夜ご飯、楽しみにしているね」

「はい! 任せてください!」


 握り拳を作って胸を張る。

 出会った時よりもかなり大きくなった胸がプルンと上下に跳ねて、余計に一緒にいたいと思わせてきて辛い。……主に抱きしめ続けたい、後ろから抱きしめ続けて軽く触れるミッチェルの胸を楽しみ続けたい。そんな変態願望に襲われてしまう。


「セストア、行こう」

「……なぜ、そこまで歯を食いしばっているのですか?」


 なぜって……そんなの一つしかない。

 おっぱいが……いやいや、ただただミッチェルが恋しいだけだ。それ以上でも、それ以下でもない。ミッチェルで癒されたいと思ってしまっただけだ、うん。そんな汚い考えを隠すようにセストアに笑みを見せてから先に家を出た。

ちょっとだけ書く時間があったので書きました。ですが、書く時間が増えるのはもう少し後のようです。場合によっては伸びてしまうかもしれません。伸びそうな時は次回の後書きにでも書きます。


次回は六月の半ば当たりに出したいと思っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ