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4章91話 なりたくない自分です

「……ああ、やっぱりか」


 想像していた通りだった。

 僕に何かを投げてきた存在、それこそが少女の顔を奪ったオーク。継ぎ接ぎとは少し違って上手く貼り付けられたような見た目だが、コイツ自身が投げてきたナイフのせいで皮膚がめくれている。……まだ息はあるみたいだが……僕には関係がない。


「覚悟をしろ」

「操られろ……!」


 しゃがんだ瞬間に顔に何かをくっつけてきた。

 このタイミングで、死んだフリをしてでも僕にやりたかった秘策なんだろう。……でも、悲しいかな。僕にそんな力は効かない。その程度の、呪魔法の下位互換のような力に操られていたら、イルルとウルルに良いようにされてしまうよ。勝ったと思っていたのか、表情が一気に暗くなっていく。一度も失敗したことがないんだろうな。切り札を使ったみたいだけど……僕からすればその程度でしかない。


 刺さったナイフを抜いてオークの顔の筋肉の部分へ刺し込む。ナイフには呪魔法をかけておいたから通常の痛覚の比では無いだろう。代わりに出血は抑えられるが……虫のように目の前の外道には痛覚は無いかもしれないから血を流させた方が良かったかもしれないな。だが、それすらもどうでもいい。僕がやりたいのは本格的な仕返しだし。


 オークの割に小さな屑へ跨る。

 動きたいんだろう、だけど、出来ない。先にコイツの腕と足をナイフで切り落としたからね。大量出血で殺すつもりも無いからまだ死ねない苦しみを味わうことになる。簡単に逃がすわけが無いだろう、簡単に許すわけが無いだろう。僕はそんなに優しくはない、良い人では決して無い。


「幼子に手を出したことを後悔して死ね」

「イギ……ガッ……」

「うるせぇよ」


 どうやら痛覚はあるらしい。

 まぁ、無いわけないよな。最下種ならばまだ無くても不思議がらないけどコイツは新種だ。オークアサシンとか言う初めて聞いた魔物。能力は操作と施術、隠蔽とか言うスキルを持っているくらいだ。新種なだけあってステータスは高めだけど防御が極端に低いからね。こんなボロナイフでも簡単に傷をつけれるみたいだ。


「て……めぇ……」

「転生者だろ、お前」

「な……!」


 魔眼のせいか見たくないものが見えてしまった。

 コイツは明らかな同族、どこの生まれかまでは分からないけど不思議な感覚からして日本人のような気がする。というか、自然に、こんな不自然なステータスが作られるとは思えない。どこに攻撃値が平均で二万を越えて防御値が平均で千のやつがいる?


 攻撃を受けなければいいとか言う甘えた考えを持つ存在が作ったとすれば納得出来る数値だ。もし作られたとしたら異世界人よりも日本人の方がロマンだ何だと選びそうだし。……別に生まれがどこだろうと僕にはどうでもいいか。少女を虐めた、セストアに酷い目を会わせた報いを与えなくちゃ。


「残念だったな、ハーレムも何も得られなくて」

「まさか……おま」

「もういいや」


 舌を引っ張ってナイフで切り取る。

 ハーレムに疑問を投げない時点で当たりだ。この世界じゃそんな言葉は通じない。ゆっくりと刃を立てて綺麗に顔を取っていく。死なないように軽い回復魔法をかけているから狂いたくても狂えないだろうね。何度も顔を振ろうとしているけどナイフから染み始めている呪のせいで出来ないだろう。


「気分はどうだい?」

「ンン!」

「睨めばいい、それで助かるといいな」


 こういう残虐性が消えていない時点で僕は真っ当な優しい人間ではないんだろうなぁ。それでも、同族だからこそ許せない。自分の利益のために幼子の顔を無理やり取るなんて……想像しただけで本気で殺したくなってくるよ。でも、まだだ。少女もセストアも目が覚めるまで少し時間がある。それまで殺してしまっては面白くない。


 サイコパス野郎にはサイコパスな仕返しを。

 日本の甘えた教育が産んだ化け物は化け物が何とかしなくちゃいけないだろう。コイツは魔物、僕は吸血鬼……ただその性に甘えて行動すればいいさ。絶対にセストアには見せられないけどね……。


「楽しんでくれよ」


 都合良く顔を切り取った瞬間に絶命した。

 もう少し生きていたのなら話を聞こうと思っていたんだけど……まぁ、分からないけど十分に罪を与えられただろう。ただ……終わってから思う。僕は幼子のためと言いながら自分の気持ちを優先していたに過ぎない。だから、見せられないと思っていたんだ。それを自分の言いように履き違えたりしない。自分の嫌いな都合の良い小説の主人公に何てなりたくないからね。


「……何やっているんだろうなぁ……」


 ポロッと本音が漏れてしまう。

 血塗れで、腫れた顔の少女に同情でもしたか。そんな事をしたオークアサシンと親を重ねたか……だとしたら僕もまだまだだ。何も変わっていない。心の傷が癒え始めたと思っていたのは僕だけなのかもね。


 それでも……少女の顔のイメージは掴んだ。まだあどけない可愛らしい見た目、それのイメージのままで治していけばいいからね。僕にでも助けられる人がいるって思いたい。こんな残虐な僕でも、同じような傷を負わなくて済むようにしてあげたい。


 少女の元へ向かう。

 自分でも分かる、いつもより小走りだ。焦っているんだろう。早く起きて自分の顔を触ったり、見られたりしたら一環のおしまいだ。少女が起きる前に何の違和感もないくらいの顔を治してあげないと僕のしたいことが出来たとは言えない。……だから、焦っているんだろう。


 一番、楽なのは普通に回復魔法で顔を治療することだ。回復魔法を使えば剥き出しになってしまっている顔の筋肉の上から、想像した通りの顔を作り上げることは出来るからね。顔の原型を知らなければ皮膚の再生だけで、必ずしも同じように治すってことは出来ない。今は治すための顔のイメージも見たから出来なくはないんだけど……でも、それだと分からないことが多すぎる。


 例えば成長した時に通常通り顔が大人びていくのかとかが分からない。本当は大人っぽく変わっていくはずの顔が幼少の時のままならば、本人が勘づいてしまう可能性はあるし、コンプレックスになってしまう可能性もある。だから、一概に簡単だから回復魔法を、とは言えないかな。


 他には……取られた顔の皮膚を貼り付け直すとかも手段としてはある。けど……まぁ、あんまり良いイメージは無いなぁ。難易度が難易度なだけにズレてしまうかもしれないし、これも同じようにどんな弊害があるか分からない……。こんな時に限ってイフはいないんだよなぁ。つまり、やりたいと言うのなら自分で責任をもって治療しなければいけないってことだ。


 完全な正解が分からないからこそ、すごくプレッシャーがかかる。でも……それをやらなければ他の人に笑わられてしまうな。自分が強制していたワガママを、自分が責任を負うとなった途端にやりたくないなんて人としてどうだって話だし。


 少女の隣に座って顔を見つめる。

 こんなことなら人間の体について、しっかりと学んでおくべきだったね。医学生とかなら成長による筋肉の変化とかも詳しく知っていただろうし、僕一人でもすぐに治すって考えになっていただろう。……ウダウダ考えていても仕方ないか。このまま時間を食っていても無駄でしかない。


「覚悟を持たなくちゃな……」


 顔に手を触れて腫れを治していく。

 予想通り血の通う皮膚の無いだけの顔に数秒で回復した。後は皮膚の再生だ。取られた顔の裏側を除菌してから上に一度、被せる。どんな顔になるのかって言うのも頭に入った。一応、イフのスキルの一部は使えるから写真に撮って視界の片隅に置いておいた。


 一度も大きな失敗出来ない、そう思えば思うほどに手が震えてくる。武器作成とかの失敗したらやり直せばいいみたいな事は一切できない。この子の未来が僕にかかっているようなものだ。筋肉の状態に戻してから再度、回復魔法をかける。これで簡単な除菌が出来たから治し始めて良くなったな。


 簡単な氷のメスを作って手から皮膚の一部を取る。

 出血が始まったり、痛みを感じる時間を短くするために一瞬で終わらせるようにした。それでも少し強ばったから技術不足を呪ってしまうよ。そのまま切り取った皮膚を鼻に貼り付ける。回復魔法を流し込めばゆっくりと皮膚の部分が広がっていくから、この後はそこまで精神的に辛い部分はない。


 手から皮膚は取らなくても良かったかなと、やってから少し思ってしまう。ただ首筋から皮膚を回復させていくと時間がかかってしまうからなぁ。回復魔法を続けるにしても顔の中心である鼻からやった方が時間短縮になるし、回復魔法も均等に広がっていってくれる。起きられるリスクがかなり減るからこっちにしたけど……まぁ、痛みとかは感じなくて済んだだろうから、ちょっとだけ後悔。


 少ししたところで貼り付けた皮膚を指で押す。

 顔の完全回復が目的なのに皮膚が浮いてしまっては元も子も無い。一分ほどしか経っていないけど上唇のところまでは皮膚が回復してきた。もちろん、空いた左手で軽く上唇を持って口の中と上唇の皮膚が結合しているかも確認している。


 軽く吹いた風、それすらも腹立たしく感じる。

 こういうのを許してしまうと上手く治せないかもしれないからね。かもしれない運転はやっておいて損は無い。少しのミスも許されないから、こんな難易度的には高くないことで精神的に疲れるんだ。本格的に僕は医者には向いていなさそうだ。顔を治すことが、命の重さよりも軽いというのなら僕は絶対に後者を背負うことが出来ない。


 結界を作り上げて風が起こらないようにする。

 そうやって追い詰めれば追い詰めるほどに自分がわからなくなってくる。僕は何をやっているんだろうか、何で息をしているんだろうか……この呼吸のせいで皮膚がめくれてしまえば僕は……。


 そこまで来て考えを改める。

 こんなことを考えていても意味が無い。セストアが目覚めた時に見られずに済むから結界はあっても良いだろう。僕の呼吸だって、僕がいなければ治療なんて出来ない。治す理由は無い、だけど、自分がやりたいと決めたからこうやって疲れるのは承知でやっているんだ。そんな考えが浮かんでくる僕は愚かにも程がある。


 逆に考えろ、目のところまでは僕の力で治したんだし、顔の下も顎までは到達した。同じ要領でやり続ければいいんだ。疲れたとしても神経質になってはいけない。僕を……僕のチートを信じてやり遂げよう。


 一時間はかかった……と思う……。

 詳しい時間は分からない、測ってもいないし始めた時間も覚えていない。だけど、こうやってスヤスヤと眠る少女を見ると成し遂げたんだって気持ちで押し潰されそうになるよ……。何度も失敗しそうになった、浮かんできた皮膚を押して筋肉を傷付けてしまった時もあった……それでも対処して治しきれたのは僕自身の力だ。


 結界を破壊して少女を膝枕する。

 怖かったのか、頭を膝に置いた瞬間にお腹に抱きついてくるのを見て助けて良かったと心から思えてくるよ。最初は僕のワガママでしか無かったけど、少しも治療をしたことに対する後悔はない。治療中にやった事の後悔はあるけどね。……まぁ、結果オーライってことにしよう。マーキングもしたから随時、顔の確認とかも出来るだろうし。


 ……あれ? 本格的なストーカーにジョブチェンジでもしちゃったかな……?

最近、後書きが祝いのことばかりになっていますね。今回も同じです! 総合PVが900,000を超えました!もうそろそろで1,000,000という大台に届きそうでドキドキしています! 飽きられないように頑張らなければ……。


次回は少し書けているので水曜日に出す予定です。

良ければ見てもらえると嬉しいです。ブックマークや評価、感想などもよろしくお願いします!

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