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4章90話 苦い勝利もあるのです

少しだけエグい表現があるので苦手な方は気を付けながらお読み下さい。最後ら辺なので雰囲気が変わったと思ったら覚悟の準備をよろしくお願いします。

 オークキングの縦振りの一撃。

 それを結界で流してドラグノフを構える。ダメだった、また首を横に振って躱してきた。初撃で駄目なら二回目をするなと言う人もいるだろうが、近距離でなら躱せるわけがないと高を括っていたんだ。そして、簡単とはいかなくても躱されてしまった。


「シネ!」

「嫌だね!」


 さすがに一撃も弾速も桁違いな武器だ。

 輪がなくても撃った後にこれだけ、蹌踉させる程に反動が大きい。ワルサーで撃つ方が、もしかしたら正解だったかもしれないけど火力不足が怖すぎた。今だって黒百合を併用して危機を回避しているんだ。ドラグノフだけだとどれだけ自分が脆いのかよく分かる。


 何度見ても自分の鋼の斧が空で止まるのがオークキングにとっては不思議なようだ。結界に刺した後に手元に戻しては小首を傾げている。銃弾を躱すくらいのスペックの癖に結界には対処が出来ていないみたいだね。もしかしたら……危機回避能力が高いだけなのかもしれない。


「キュゥ!」

「ウザイゾ!」


 この数回の攻防でいくつかの弱点は見えた。

 速度自体はオークジェネラルよりは速い方に入るだろう。そして動きも悪くない、けど、最善じゃない。それに僕のような体の大きさならば攻撃を当てられるだろうが、細かい攻撃が出来ない分だけカルデアに一撃当てられていない。


 今だって何度も斧を振ってカルデアに躱されているし。一撃は確かに重い、それこそ刺さってすぐに斧を引き戻さなければ簡単に結界を壊せるくらいには強い。何となく慣れない力に振り回されているようでもある。これだけの弱点があればセストアが戦っていれば倒すのは……ギリギリ出来そうかな。まぁ、それは傷付くのが見えているからさせる気は一切ないけどね。


「これならどうだ?」

「ガフッ!」


 少しだけカルデアが稼いでくれた時間。

 その間に銃弾を通常の魔力弾に変えた。どちらかと言うと長距離運用よりも、アサルトライフルのような運用方法だ。それに今までスコープを一瞬でも覗いていたのが良くなかったのかもしれない。結界で銃の下を結界で固定させてから横に流すように、腰打ちで撃ち込んでみた。これでよく分かったよ。


 コイツは目の前の敵の視線で何をしようとしたかを予想している。ましてや、ドラグノフに付いているスコープは遠距離狙撃に向いているもの。近距離運用で、加えて反動を増加させる火炎弾での運用は一撃重視とは言えアホ過ぎた。わざわざ的が大きな敵に、速度が遅くて連射した二発目を躱せないオークキングには魔力弾でいい。その分だけ精度は落ちるけど当たらない方が問題だし。


 まぁ、前回ドラグノフを使った時に火炎弾をセットしてから変えていなかったってだけなんだけどね。反動さえ、少しでも抑えてしまえば連射の問題は解消される。それに銃口の固定でリコイルも横に流れていくだけ。躱した方向に銃を向ければいいだけだから、さっきよりは一段と戦いやすくなった。


 少しだけロマンを追い求めすぎていたみたいだ。見た目はドラグノフと一切、変わらないものだけど僕が映し出した武器だ。何もかもが一緒だとは限らないだろう。それにドラグノフ自体が狙撃にも、連射にも向かない武器として知られているからね。本来はこっちの方が上手い扱い方なのかもしれない。


 そもそも連射速度は明らかに、アサルトライフルよりも格段と早い。撃ち込んだ銃弾が即着に近いっていうのも評価しやすい。見つけて撃ち込んでさえしまえば、放たれた銃弾が少し落ちるだけで敵を貫く。反動とリロードの面倒臭さが無ければワルサーよりも扱い易いくらいに強い武器だしね。


 使ってみて分かったけどワルサーのように触れながら魔力を流せば弾を作る。そんな感じで弾を作るっていうことは出来るには出来る。ただ、弾の大きさや武器のスペックによって威力が変わるように、ワルサーの弾をドラグノフに無理やり詰めているだけに過ぎないから威力は格段と下がってしまうんだよね。カブトと戦った時に思いの外、ダメージが薄かったのはそのせいだった。


 イフがいつか言っていた武器の知識の深さ、それ次第では僕の心器はいくらでも強くなるだろう。弾の大きさだったり使い方だったり、僕もまだ成長段階なんだ。……今は出来ればいいな程度でやって成功しちゃっただけなんだけど。まぁ、そのせいで怖いけどね。もしも弾の大きさを調節して火炎弾で撃ち込むとしたら……その反動を僕は抑えきれるのかな。いや、抑えてみせればいいだけの話だ。


 さすがに何度もカルデアから攻撃を受けていたら、そこまで威力が無いと分かったみたいだ。攻撃してはいないがカルデアに結界でサポートをしていた僕に一振を浴びせようとしてきた。まぁ、カルデアを軽視していないようだから集中力が散漫している。思いっ切りの一撃とは思えないほどに遅いから極端に躱しやすく感じるよ。


 こういう命の取り合いだからこその考え、新たな戦い方や使い方を知れるから戦いは良い。もし僕の本性が戦いを好んでいるとしたら成長に繋がるからこそだろう。ただ殺しが好きだからだとは自分でも思いたくない。


 はぁと小さくため息を付いてから黒百合を構える。

 それを見たからか、カルデアが風魔法で注意を引いてくれたみたいだ。心が繋がっているのかは分からないけどありがたい。僕が本当にやって欲しかった行動だ。


「疾風」

「キエッ!」


 カルデア並の速度を一瞬だけど使って背後を取る。黒百合をオークキングの背中にぶっ刺すための行動、前のカブトとは違う感触。あの時のような岩を手で殴るような感覚はそこには無い。ただの分厚い肉に切れ味の悪い包丁を刺し込むだけの感覚だ。


「ハナゼ!」

「ああ」


 腕を回して僕を振り払おうとしたみたいだけど関係が無いね。そもそも黒百合を差し込みさえすれば僕にとってはオーケーだ。黒百合の元となるドレインは吸血鬼を強化させる武器だった。そして血を吸い込む不思議な武器。今だってオークキングの血を吸っているのは作った本人がよく分かっている。


 心器とは違えど僕と繋がっている武器だからね。動かずとも貧血と僕の強化、デバフとバフの両方をかけられるように作っていた。まぁ、元のドレインの能力をより強化させただけだから僕の才能とは言えない。僕が誇れることはこれっぽっちもないんだけどね。


 血を吸いさえすれば後はやることが無い。

 動いていれば勝手に死んでくれるし、僕が傷付けられたとしても血のせいで自己治癒される。黒百合が壊れるか、引き抜くかのどちらかをオークキングがしなければ死ぬまで続くんだ。わざわざ僕から攻める必要は無いね。


「さて、これで終わりだ」

「シヌカ!」


 明確に死が目前に迫ってきたからか、最初に声を発した時とは違って怒号に近いものになっている。だけど、その怒号がオークキングの何を助けるのだろうか。プレッシャーをかけてくるにしても意味が無さすぎる。ワイバーンとの戦いやカブトとの戦いの方が圧倒的に辛かった。そして威圧感も大きくて気を抜いたら吐いてしまうほどだった。


 ドラグノフを構えて足を撃ち込む。固定していないせいで反動は少し大きく感じるけど火炎弾の時の比ではない程に軽い。それでも、ワルサーに比べればかなりの反動なんだろうけど、両手で撃っていたからそこまで大きくは感じられなかった。


「さようなら」

「タスケ」


 醜く生き残ろうとする人語を話す何か、それを見ているだけで見苦しさを感じてしまう。もし仮に生き残らせてしまえば僕がオーク達を狩り殺したようにコイツも人を多く殺すだろう。だから、生かしてやる道理は一切ない。身勝手だろうが何だろうが関係が無いね。ドラグノフの引き金を指をかける。


 瞬間、目の前で血飛沫が舞った。それがオークキングの首から放たれているのは頭では理解している。だけど何でこんなことをしたのかはよく分からない。すぐに後ろに飛んで距離を保つ。目に見えて正常だとは思えない。


「セストア……?」


 返事は無い、さっきまでの性格から来る無視とかではない。……いや、少しして返事はきた。両手に持つ短剣二本での一撃が。距離を保っていたから氷壁を作って躱せたけど異変を無視していたら……首を跳ねられていただろうなぁ。それで死ねたら僕も楽に死ねるんだろうけど。


 多分だけど嫌な予感はこれを予期していたんだろうね。人を操れる存在がどこかにいた、そうじゃなければセストアが僕を襲う理由がない。内心、嫌われていたんだろうか……だったらハッキリ言って欲しかったよ。……こんな考えが浮かぶだけ僕はまだ冷静かな。


「はは、操ったら僕を倒せると思ったんだ」

「ガッ……」


 僕へ接近していたセストアが凍り付いた。

 速度を主体として戦う人から冷静さや思考能力を奪ってしまえば脆くて弱い存在に変わってしまう。フウだって、ミッチェルだって頭が良いからこそ立ち回りがとても上手い。こんなバレバレな地面の氷を踏むことは無かっただろう。……ってか、後者ならかかったとしても凍り付く一瞬で躱していた可能性も高いし。


 何を見たのか、何をされたのかは僕にはどうでもいい。セストアが過去に何をされたのか、したのかもどうだっていいんだ。少なくとも今の僕はそう思っている。セストアが好きだからとか俗物的な感情じゃなくて、ただ人として、セストアに笑って生きて欲しいって思った。それは変わらない、揺るがせたりなんかしない。


「治れ」


 顔に手を当ててセストアの寝息が聞こえるのを待った。そして数秒後に飛んできた何かを掴んで投げ返す。人の気配なんて無いし、魔物の気配だってない。それでも飛んできた方向に何かがいるのは明白だからね。セストアのことで四方に集中力を向けている僕に攻撃を仕掛けるなんて馬鹿だ。


 何かに当たった音が聞こえた。

 柔らかい肉に当たった音、そして地に伏す音。それらを無視してカルデアを見る。何かを察したように首を縦に振ってくれた。……悪いね、もう少しだけやらなければいけないことがある。気配の弱くなった人を助けることが今、一番に必要なことだろう。凍っているセストアのためにも……。


「ごめん、セストアを任せるよ」

「キュイー!」


 セストアにかけた氷魔法は勝手に溶けるだろう。

 今、魔力供給は切ったからね。カルデアを仲間にして本当に良かったと思うよ。カルデアとセストアを置いて小部屋へと駆け込む。途中でさっき倒しただろう魔物をチラッと見たが今はどうでもいい。……そして、着いた。同時に襲われる吐き気と頭痛……人であったそれを見ることは僕には苦だった。


 息はある、微かだけど生きている。それでもマジマジと見れる程に僕の心は出来ていない。背丈はシロより少し小さい程度、そんな子が血塗れのままで生きようともがいているんだ。それだけなら僕も目を合わせてやることが出来ただろう。だけど、一目見て逸らしてしまったのはそんな簡単なことではない。


 明らかな顔の異様さ、周囲に散らばる成人した汚い男達の遺体のように、弄ばれて殺されていたのならもっと楽だった。血が固まり黒くなり、腫れ上がって幼く小さな体に見合わない大きさの顔……それを見てあげることがどこにあるのだろうか。弄ぶとかの問題では無い、少女に手を出していただけならばもう少しだけ耐性があったかもしれない。顔を奪われる……人のするようなことでは決して無い。


 倉庫の中からモス系の鱗粉を取り出して嗅がせる。麻痺効果と睡眠効果の二種類を一度に与えられる逸品だ。配分はあったけど作ること自体は難しくない。ただ少女にどれだけ嗅がせればいいかは分からなかったから寝た瞬間に成功したか、心配してしまった。


 まずは死なないようにしなくてはいけないな。

 少女の小さな体に触れる。体力自体の回復は普通の回復魔法を使うだけで済む。これに関しては今まで通りやればいい。死んでさえいなければ傷を癒すことは僕にだって出来るさ。ただ……問題はここからだろうね。


「顔を……」


 でも、そこまで来て困ってしまう。

 普通は顔の表面に元の顔の原型が残っているものだけど、それがない。つまりは今、見えているものは顔の皮膚の下にある筋肉ってことになる。このまま直したところで出血をする前の筋肉の状態に戻してしまうだけ……この子の元の顔を知っていればイメージしながら復元を出来たようなものを……。


 そしておかしなことは他にもある。

 例えば腫れだ。それ自体は数時間で起こるようなことでは無い。……でも、それだとおかしなことが多すぎるんだ。ここに突撃する前は少女に異変なんて無かった。弱っていたってことも一切ない。おかしくないか? 顔の皮膚を取ったとすれば出血を沢山するだろう。それで死にかけてしまったとすれば僕も突撃をもっと早く考えていた。


 ということは、顔を取ったのは少し前ってことになる。凝血だって何だって短時間で行われたものだとすると……いや、今はそっちが問題じゃない。先にすべきなのはこの子の顔を探すことだ。奪ったとすれば分かりやすいはず……思い出せ……オークの中に人の顔を持っていたのは……。


 そこまで考えて、また走った。

 一つだけある心当たり、もしそこに無ければ僕にはどこにあるのか分からない。……その時は少女に要望を聴きながら顔を一から作ってあげるしかないだろう。少女が起きる前に……出来るのならば治してやりたい……。

一日、投稿が遅れてしまい申し訳ありません。私情により書く時間が取れませんでした。また急に用事が入るかもしれませんので次の投稿は一週間以内ということにします。お楽しみに!

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