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4章89話 することとしたいことです

ちょっとだけ書き足しはするかもしれないです。ただ書き足したとしても大して変化はないと思います。

「……さすがです」

「武器の性能に頼っただけだよ」


 放った一撃は綺麗にオークナイトの命を刈り取ってくれた。ドレインの状態だったら倒しきれなかっただろうけど今、僕が使っている黒百合はそれの進化版。オークナイトさえ倒しきれなければ素材に使ったワイバーンが泣いてしまうよ。同じランクでも上位と下位の差が激しい。だけど、元がCランクの下位であるオークナイトと、Sに届くワイバーンでは勝つのがどちらかなんて目に見えている。


「それよりも最後の部隊が来る。構えて」

「私など居なくても勝てそうですが……ええ、任せてください」

「こう見えても魔力を剣に通さなきゃいけないんだ。それ以上は言わなくても分かるよね」


 セストアは馬鹿じゃない。

 みなまで言わずとも僕の言いたいことは分かるはずだ。確かに僕の一撃はセストアとは比べ物にならないかもしれない。それでもイフのいない今の状態では魔力を武器に通す時間、たかだか数秒間を稼いでくれる人がいなければ一気に狩ることは難しい。武器と心器を組み合わせれば出来なくはないけど、それの方が魔力の消費量が大き過ぎる。


 小さく頷かれたのを確認してから氷の槍を飛ばしていく。魔法の構築に集中出来るから撃っては、作り出してを繰り返せる。それだけじゃなくて誰に当てるかも狙って撃てるからね。セストアも安心して戦っていられるみたいだ。


 数は目に見えて減っている。

 最初はどこぞの黒い悪魔みたいに倒してもゾロゾロと出てきたオークが、今では数えられる量しか出てきやしない。横目でセストアを見ているけど疲れは無さそうに見える。万が一の数に負けるってことは無さそうだ。……何気に高ランクの、それも短剣使いの動きをじっくりと見るのは初めてかもしれない。フウの時はしっかりと見ることは出来なかったからね。


 ミッチェルとは違った戦い方、腰に下げた少し短めの剣を使わずに短剣二本で駆ける姿は美しいとしか言えない。強化なのか不明な煙も花火を散らばらせる前の、上空へ浮かぶ際のそれのようでセストアの美しさをより際立たせている。……だけど、一つだけ分かったことがあった。セストアの攻撃に氷系の強化が入っている。これは僕のかけた強化にはないから十中八九、あの白い煙は氷に関係する何かだと思う。だから、


「綺麗だ」


 そんな言葉が漏れてしまったのは仕方が無いと思うんだ。まぁ、それが耳に入ってしまったのかは分からないけど明らかにセストアがオークナイトの攻撃を受けそうになって笑いそうになってしまったけど。ただ、それは僕が結界を張って守っている。傷を付けさせる気なんてサラサラないし、仮に僕の言葉のせいなら守るのは当然のことだ。


「チッ」

「えっ!? 舌打ち!?」

「気のせいですよ」


 そう言ってセストアは最後のオークナイトの首を跳ねた。綺麗に飛んでいく首を片目にマップを確認しておく。大丈夫、まだ動く気配はない。恐らく待っているんだ。ここまで来て人質を動かすことも無く同じ場にいる理由はそれくらいしかない。


 一応、落ちているオークナイトとオークを回収しておく。ぶっちゃけ、お金には困っていないから拾う必要も無いんだけどね。ただ、こういう素材から突然発生した理由とかが分かるかもしれないから拾っておいて損は無いだろう。後は頑張ったセストアとか人質のために使えるってくらいか。


「……何でそんなに早く回収出来るんですか」

「うん? セストアの心労を作らないためかな」


 冗談めかして笑ってみる。

 事実そうだ、人質第一のセストアからしたら素材回収という短い時間も作りたくは無いだろう。だから魔力は使うけど土魔法で一気に集めて回収したわけだしね。地面を軽く動かすだけならロックウォールを作る要領とさして変わらない。


「早く行かないと」

「待って」


 逸る気持ちは分からなくはない。

 そして、そこまで焦った顔をしたり嫌な表情をするのも分かる。あまり好きではない僕に肩を触れられるのは不快なのかも……って、そういう卑下はどうでも良くて!


「作戦を話しておきたいんだ。行くべき場所も知らずに進むのは馬鹿げているよ」

「私には学などありません。ですが、長年の勘くらいはあるんですよ。それに廃村があったことも知らなかった貴方に何が分かるというのですか」


 声を荒らげることはしない。

 だけど、その少し小さく話した言葉を僕は否定なんて出来なかった。それでも前のオークキングのいる場所に迷いなく進もうとしているのは、明確に人質を連れて行ける場所がそこか、もう片方の、それでも少しだけオークキングのいる場所より小さな家くらいしか無いからだろう。オークキングという強大な敵がいることは察してはいないだろうね。巧妙に隠しているんだから。


「人の気配を感じ取れるって言ったら信じる?」

「場所は分かっています。貴方よりも明確に」

「知っているよ、オークキングのいる大部屋の横の小部屋だろ」


 また無言だ、口を開けようとはしない。

 どう聞けばいいかは分からない。今まで聞きたくないことは聞こうとしなかったからね。それは見方によっては都合のいいこと以外には耳を塞いでいたって言えるかもしれない。傷付けたくないって思っていたのは建前だけだったのかもしれない。だから、こういう時にポンっと良い言葉が浮かんできてはくれないんだ。それでも聞く、ただ未確定な状況で傷付いて欲しくないから。


「中にはオークジェネラルもいるよね。まさかさ、そこまで分かっていて突撃をする気だったの?」


 首を縦にも横にも振らない。

 この感じ……知らなかったわけではなさそうだ。セストアの性格上、聞かれたくないことには反応をしないってやり方をする。もし、これがどちらかに首を振ったり、声を発していたのならば知らなかった可能性を考えたりはしていた。


 何で知っているのか、それを僕が知ることは多分だけど出来ないだろうね。そこまでの信用を僕は得られていないし聞けない。知ることが出来るわけがないんだ、なのに知っている。僕の見えているステータスとは違う何かがあるのは確実だ。……それでも後で聞く機会はあるだろう。これで守る理由が増えてしまったなぁ。


「一人じゃないよ。セストアのことはよく分からないけど僕の強さは僕がよく分かっている。それに今はセストアよりも冷静だからね。進むだけで勝てる相手じゃないのは分かるだろ?」


 反応は無しか……それなら大声を出さずに、怒りもせずに淡々と話すだけ。今回の着いてきたのはセストアが大怪我を負わないようにするっていう、大切な目的があるからだ。あの時のような起こってから後悔するなんて事はしたくない。圧倒的な無力感と自分を責めるしかない状況、自分の生まれたい環境ではないにしても血を分けられてしまった親が行った外道なやり方は今でも許せない。


「君じゃ全部を倒せはしない」

「っ……私は……」

「だから、足りない部分を補う僕がいる。よく見ていなよ、僕の本気は誰かと一緒に戦ってこそ発揮されるんだ」


 顔を俯かせるだけで反応はしない。

 勝手に動くっていうのも手としてはあった。それでもさ、隠し事はしたくないだろ。こう見えても初めてギルドで対応してくれたセストアには感謝しているんだ。後は……すごく可愛いからかな。これ重要なことだよね! まぁ、ブスだから守らないとかは一切ないけど、やる気が変わってくるよ。心に嘘はつけない、少しでも助けたいと思える気持ちが無ければ動こうと何で誰もしないだろうし。誰でも助けようとする人はただの正義を翳したいだけの馬鹿だ。僕にそれをするだけの力がないことは知っている。でも……。


「大丈夫、僕が守るから安心して」

「……はい」


 ちょっとだけ頬を赤くしたのは僕に対して好意を持ってくれたってことかな。……それで告白をして勘違いしているんじゃねぇよとか言われるんだろうなぁ。そして同じクラスの女子達から嫌われて、無事青春が壊れてしまうってわけだ。そこまで酷いことにはならなかったから良かったけどさ。もしかしたら、あの子に告白をしていれば死ぬ直前までは陽キャに……いや、あるわけないか。


 そうだよ、僕は勘違いはしない。

 強くなかろうとセストアを守るくらいの(チート)はあるんだ。


「部屋に入ってすぐの、扉横って言った方がいいかな。そこにオークジェネラルが構えている。完全な初見殺しだから、それに対して僕が攻撃をする。セストアにはそれを終えてから隣に向かって欲しいんだ」

「……ええ、信用しますよ」


 おっと、言葉を先取られてしまった。

 これはアレかな、僕がいいそうなことを予想して言ってみたって感じか。それでも僕が言わせた信用ではない分だけ嬉しい。……いや、嬉しいで済む話じゃない! 内心ではすっごく嬉しい!


「それじゃあ、構えて」

「分かりました」

「ここから先のことはナイショだよ」


 口元に人差し指を当てて笑う。

 瞬間、セストアと一緒に大部屋の前に転移してセストアだけを下ろす。反応を見る気はない。すぐに飛び直して部屋のオークジェネラルが構える間に飛び込んだ。何にせよ、人であれ魔物であれ一番に辛いのは意識外からの強襲。誰も死なせることなく戦うことが僕の目的だからね。


「はろー?」


 発音はこんな感じであっていたはず。

 まぁ、間違っていようと咎められる理由はない。うるさい英語の教師は死んだんだ。あの変態ハゲオヤジはここにはいねぇ! さぁて、ここならいくらでも暴れさせられるだろう。今まで休んで尖らせ続けていた牙を見せつけろ!


「カルデア!」

「キュイー!」


 イフに遠隔で確認はとっている。

 そうでもしないと愛玩動物と化したカルデアを外に連れ出すなんて女性陣、特に影で甘やかせているアキが許してくれない。怪我でもさせようものなら嫌われてしまうだろう。それでもカルデアに戦闘経験は積ませておきたいし、何よりも僕一人よりやれることはかなり増える。


 横一薙で扉とオークジェネラルを破壊する。

 一瞬だけ驚いたままのセストアと顔を合わせたけどウインクしたら我を取り戻したみたいだ。セストアと小部屋への一直線の結界を張っておいたから心配はない。一回だけ横から向かってくるオークナイトを躱そうとしてぶつかったけど、それで僕を見てからは理解したみたいだね。守るって言ったんだ、セストアを姫のように扱わないといけない。


「無い頭を振り絞ったみたいだが甘過ぎる」

「オマエ」


 人語を話すオークキングか。

 もしくはオークキングだから人語を話せるのか。どっちなのかはどうでもいい。しっかりと魔眼でオークキングのステータスを見る。うん、セストアだったら絶対に倒せない敵だ。鉄の処女でもギリギリ負けていたかもね。オール七千は超えている。レベルが一桁でこれだけなら早く倒さないと本当に脅威になってしまうよ。さすがは最高種……その分だけ素材も良さそうだ。


「その命、貰い受ける」

「フザケルナ」


 煽り文句であろうと冷静か。

 まぁ、オークジェネラルが三体とオークナイトが数えられる程度……これはカルデアが何とかしてくれるだろう。オークキングも自己強化をしたようだけどワイバーンには届かない。油断は出来ないが負けるような相手では決してないね。


「そうか、なら、死ね」


 ドラグノフを構えて撃ち込んだ。

 そして驚いてしまう。オークキングがドラグノフの一撃を躱した、言葉だけならそれだけ、でも、僕の最大級の一撃と速度を誇る一発を躱したんだ。驚くなと言われる方が難しい。……まぁ、それで少しだけ楽しくなってしまう僕も僕なんだけど。


 黒百合を構えて距離を詰める。

 右手だけで持つには大き過ぎるがどうでもいい。もう片手のドラグノフを消すことなんて出来やしないんだし。どうせ、壊れない心器なんだから二刀流といこうじゃないか。駄目なら普段通りの戦い方に戻せばいい。


「楽しませてくれよ」

「シニサラセ」

祝! 総合評価2000突破です!

約二年間をかけて少しずつ自分の書きたい小説の序章まで到達しました。まだまだ本当に書きたい話の終わりが見えませんが、これからもダラダラと暇な時間を潰せるような小説にできるように頑張らせていただきます。良ければこれからも応援よろしくお願いします。


次回は来週の水曜日辺りの投稿の予定です。もし、暇であれば読んでもらえると嬉しいです。ブックマークや評価、感想などもよろしくお願いします!

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