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4章88話 求めるものです

「これからどうするの?」

「……体調不良も回復したので用事を終わらせようと考えています」

「へぇ……」


 用事を聞くのは簡単だけど出来やしない。

 それなら遠回しに聞いていって予想を立てていくことしか出来ないだろう。もしくは無理にでもついていくとかかな。どちらにせよ、話をするのが最優先だ。言いたくないことは聞かないのがポリシーだからね。


「本音で話せばセストアを向かわせるのは反対するかな。回復したと言っても一時的だよ。睡眠欲だったり過度な魔力消費は睡眠を取らなければ完治することは無い」

「それでもです!」

「うん、そう言うと思っていたよ」


 何がセストアを急かすのかは分からない。

 聞くって言うのは僕には出来ないけど、みすみすセストアが危険に晒されるかもしれない予感を放置出来るわけもない。ここまで焦った顔を見るのは初めてだ。だから、セストアを少しでも否定するような言葉は出さないようにしないと。


「僕もついて行く」

「関係の無いことです!」

「そうだね、僕には関係が無いかもしれない。でもさ、僕はセストアが何をするのか分からない。つまり、セストアが関係無いと思っているだけかもしれないってことだ」


 こう見えて口だけは達者だからね。

 幼馴染と口喧嘩した時に七割の勝率を誇るほどの言い訳力、良い言い方をすれば閃き力があるってことだ。アイツに口で勝てるのなら大体の人に口喧嘩で勝てるからなぁ。それだけ頭が良くて運動神経もいいって言う存在だし。


「屁理屈を」

「別に暇だからね。倒れられるよりはついて行く方が気持ちが楽だし」

「……勝手にどうぞ」


 ふいと顔を背けられる。

 最初からそうすればいいのに。話したくないのなら聞こうとはしない。だけど、それで僕がどう動こうが勝手だろう。普通の、日常の中でセストアを見たのならここまではしない。でも、今回ばかりはそうも言っていられないかな。


 また走り出したセストアに簡単な強化魔法をかけて隣を進む。さっきよりも速いことはセストアも分かっているみたいで、一瞬だけ驚いた顔をしたけどすぐに僕の顔を見て納得したみたいだ。何も言わずに走り続けている。チラリと見たセストアの表情はまだ焦りを残しているけど、一人で走っている時よりはマシになっているみたいだね。疲れを取ったからか、すごく呼吸は安定しているし。


「ちなみに」


 話しかけたつもりだけど無言。

 ちょっとだけ悲しいけど仕方がない。


「どれくらいで着きそうなの?」


 返答は未だに無し。

 まぁ、わざと無視しているようには見えないから考えているんだろう。そう思わないと僕の心が持たないからね。……はぁ、いつも一緒にいた仲間たちとは違ってセストアとは、どこか距離がある。上手く踏み込めないなぁ……。


「……そこまで遠くないです」

「えっ?」

「二度は言いません」


 そっか……って、そうじゃない。

 やっぱり、返答を考えていたんだ。もしかしたら僕のことが嫌いで、そんなことを考えている時間があるのなら……とかマイナスな考えが浮かんでしまっていたよ。本当に……うん、良かった。


「分かったよ、教えてくれてありがとう」

「……いえ……話さなかった私のせいです」

「そんなことは無いよ。勝手についてきた僕に説明しておく理由はないからね」


 こういう小さなことでセストアの優しさが垣間見えてくる。少しでも疑ってしまった自分が恥ずかしいよ。……僕がセストアとの距離を掴めないようにセストアも僕との距離が掴めないんだ。所詮は冒険者の先輩後輩、受付嬢と会社員って感じでしかないからなぁ……。自分で考えていてなんだけど悲しくなってきたよ。


「……もう少しで村に着きます」

「村……?」


 村か……いや、僕が転移してきてからイフに教えてもらった地図ではそんな場所はなかったはず。あるにはあったけど今いる場所よりも街に近かったはずだし……つまりは……。


「廃村ってことかな?」

「……はい、前は大きめの村があった場所です。今ではオークのコロニーへと変わってしまったようですが……」


 なるほど、コロニーか……。

 でも、待てよ……オークを潰すことがセストアを焦らせているとは思えない。廃村に何かがあるってことはセストアの大切なものがそこにあるはず。大切なものになり得そうなのは人、物、思い出くらいだから……とりあえずは物は無さそうだ。セストアが愛用していたのなら残り香のように近しい魔力を感じられるはずだからね。


 思い出は……行かなきゃ分からないから後回しで考えよう。人は……ああ、これっぽいかな。明らかに人の魔力がいくつか感じ取れた。人を救うことが第一の目標じゃなかったとしても助けるのは冒険者ギルド職員としても、冒険者としても重要な仕事になり得るからなぁ。


 ただ……救うのは難しそうだ。

 近くにオークもいるのはマップで確認済み。オークの上位種もいるみたいだから自然な交配で産まれたとは思えない。もしも自然な交配で産まれたとすると、もっと早くに冒険者や騎士に対処を迫っていたはずだ。魔力溜りは……不思議と無いから産まれた理由は分からないな。


「人かな」

「……さすがの探知能力です。ということは……私の目的もバレバレということでしょうか」


 カマをかけただけだったけど正解か……。

 どうする……転移して中の人達を救うのは難しくは無い。……でも、もし救う人の中に信頼出来ない人でもいたら……転移の稀有さを知る人がいたとしたら……人質を取られて奴隷になることを迫られる可能性は十分にある。それにコロニー発現の理由が分からない分だけ罠がある可能性があって怖い。


「……それは分からない。それに教えてもらいたいとも思わないかな。今は救うことを優先したいし」

「……了解です。本当に……不思議な人ですね」


 僕に言えるのはこれくらいだ。

 無理に聞かない、それに聞きたい理由が無いなら話す雰囲気を壊しておきたい。雰囲気に流させてセストアが理由を語り始めても、それはセストアの意思では決してない。自分が心に傷を持っているように誰が傷を負っているのかは分からないからね。自分がされて嫌なことはしたくない。


「雑魚を狩る。大物が出た時の準備をしておいて欲しい」

「……分かりました」


 これから僕がやることはただの虐殺だ。

 それでも何が待っているか分からないのならば全てを殺すつもりでやるしかない。目の前に広がるオークの数をセストアが一人で倒すには酷だろう。その点で言えば付いてきた僕の判断は正しかったってことだ。元高ランク冒険者とはいえ、戦闘力には限度があるからね。


「アイシクルランス」


 得意な氷魔法で外に出ている雑魚を狩る。

 計二十発を全て当て切ったとしても倒しきるまでには至らないだろう。マップでは……点の数が百を遥かに超えている。下手したら二百を超えている可能性だって無くはない。だから、広範囲で敵を狩れる僕が滅ぼしていく。セストアの戦闘力を測りきれない分だけ()()()()()()()()()()ことが今は必要なことだ。


「ワルサー」


 拳銃の装弾数は八、ドラグノフのような狙撃銃型を考えたけどリロードの面倒臭さからやめた。それに反動が大き過ぎて雑魚狩りには向いていない。個人的にはショットガンやマシンガンのような弾をばら撒ける方が雑魚狩りには向いているけど、まぁ、都合良く持っているわけではないからね。


 弾をセストアのいる背後以外の三方向へばら撒く。

 僕へのヘイトがかなり高まっているから自分から近付かなくて良くて助かる。弾が切れたらリロードをして撃つ、そしてリロードを繰り返すだけで済むからね。本当に魔力を流すだけで弾が補填されるのは楽過ぎる。……ただ中にはレベルが高いせいで当たりどころによっては耐えてくる個体もいて面倒臭さはあるな。まぁ、そんな個体でも頭を撃ち抜かれたらさすがに耐えきりはしないけど。


「オークナイトが出るよ!」

「了解です」


 ワルサーを撃つ横を通り過ぎる何か。

 それを撃たないように配慮しながら、まずはまだ残っているただのオークを撃ち続ける。さすがはセストアと言ったところか、キチンとオークナイトの首を跳ねて一撃で倒し続けている。まだ知能のない敵だから倒すのは難しくないけど油断は出来ない。


 マップで見えている、ここのコロニーにはオークキングがいるってことを。キングまで進化していれば知能は高いはずだからね。恐らく今は機会を伺っているんだろう。もしそうならば……僕ではなく前線で戦うセストア狙うのは目に見えている。


「ドラグノフ」


 ここからは魔法で雑魚を狩る。

 さっきみたいに一気に二十もの氷の槍を作り出せはしなかったけど、代わりにセストアが足の速さを活かして倒してくれているから問題は無い。僕がやらなければいけないのは普段のような後衛を守る戦い方じゃない。前衛が動きやすいように戦うこと。魔法を撃ってから現状を確認、視界の半分はマップで埋まっているし普段の僕なら絶対に出来ないやり方だ。セストアにかかっている強化魔法も切れないように気を配らなければいけないからね。ただ魔法を撃てばいいというわけでもない。


 いつ、より進化した存在であるオークキング達が出てくるか分からない。セストアを見た感じではオークナイトの一体や二体では苦戦しないだろう。白い煙もセストアの何かしらのスキルだとしても僕には全貌が見えているわけじゃない。推測は出来ても当たっている確証はないしね。だから、数値だけでセストアを見る必要がある。その時にオークキングは倒せない可能性のある最悪な敵。それを一瞬で倒しきることはワルサーでは出来ない。


「結界」


 片手に黒百合を出してセストアに振りかかりそうな剣戟を流させる。さすがにオークナイトが四体も攻撃してくればセストアもどうしようもないからね。逃げる先にオークナイトがいると速度もあまり効果が無いし。もしも上手く躱せたのならば結界が無意味になるだけだ。動ける道を作ってあげることに意味がある。


「感謝します」

「気を抜かないようにね。援護はいくらでもするからさ」


 同じことの繰り返し、だからこそ難しい。

 少しでも気を抜けば数の暴力に傷を負いそうになってしまうし、マップで人質が殺されないかも確認しておく必要が出てくる。色んなことを考慮した上でサポート役として動くのは冷や汗の一つや二つで済ませられそうもないね。これをイフがいつもやってくれていたと思うと……本当に化け物としか思えなくなってくるよ。


 ようやく折り返しまで来た。オークも出てきた奴の大半は撃破済み、オークナイトも出てきた奴は殲滅している。だけどボスは出てくる気配はない。この状況になってみたら少しだけ不気味に感じてしまうよ。だってさ、知能は無いからの一言で考えをやめていたけど、よくよく考えてみれば統治する上位種のオークキングがいるはず。わざわざ戦力を減らすやり方をするのだろうか。


 ……待てよ、逆の立場になればオークキングは自分の場所へ来るように誘っているようにも感じられるな。ボロボロの家に数体のオークが、オークキングのいる家の傍にオークナイトとオークジェネラルは探知出来ている。そもそもの話が僕に探知出来るという情報があれば全力を減らすだけのように感じられるだろう。だけど、それを相手が知る由もないのだからこのやり方は納得出来る。


 何よりもオークキングがいる家こそ、助けるべき存在がいる場所だ。それならまずは罠にかかった振りでもすればいい。もしかしたら今の僕の考え自体が油断なのかもしれないけど、オークキングさえ潰してしまえばそこまでの脅威はない魔物しか残らないはずだからね。


「セストア、下がって」

「分かりました」


 少し魔力を使ってしまうけど黒百合の刃に炎を乗せて斬撃を飛ばす。魔力効率のいい氷魔法やワルサーよりも広範囲だし威力は高いけど、その分だけ魔力が多めに減るから多用はしたくない。ただの斬撃ならギリギリで耐えられる可能性があるから今は使わないといけなさそうだけど。まずは目の前の敵を全て滅ぼしてしまおう、話は……その後だ。

ブックマーク九百超! すごく感謝です!

それに後もう少しで総合評価が二千を超えます。今年に入ってから小説を読んでいただけている人が増えていると思うと不思議な気分になりますね。これからもマイペースながら楽しめるように作品を書いていくので、応援よろしくお願いします! 次回も一週間以内には投稿しますのでお楽しみに!

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