4章83話 小さなイチャイチャです
少しだけ短いです。
「……ようやく意識が覚めましたか?」
優しげな声が聞こえてきて咄嗟に声のする方に顔を向けた。柔らかな感触が顔にあって手を伸ばしてしまう。すぐに引っ込めたけど何の感触なのかは分からない。……変な声が聞こえてしまったから何となくアレなんだなって冷や汗が流れた。
「マスターは……変態ですね……?」
「ご、ごめん!」
不意に額に感じる冷たくて柔らかい何か、ひんやりとしていて気持ちが良かった。その何かのせいで頭を上げようとしたのに出来ない。ただ見えたイフの顔を見てそれが正しかったんだって悟る。思い出してみれば確かにそうだった。今、僕はイフに膝枕をされているんだよね。頭を上げてしまったらイフの顔に僕の頭がぶつかっていた……。
「ふふ、冗談です。私のお腹はどうでしたか?」
優しげに笑いながら言うイフ。
安心しながら、どこか残念がっている僕がいるのはイフにはバレバレなんだろうなぁ。でも……感触だけで言えば程よくお肉がついていて触り心地が良かった。キャロの耳をずっと触っていられるようにイフのお腹をずっと触っていたいと思えるくらいには気持ちが……。
「やっぱり、変態でしたね」
「……否定はしないよ」
変態なのは自他共に認めているからね。
逆に僕から変態を取ってしまったら何が残るって言うんだろう。……九十九パーセントが変態成分で出来ていしまっているから、見えないところでしか残るものがなさそうだなぁ。ってか、変態じゃなかったら作ろうとしていたアイテムを紳士用に作ろうだなんて……いや、やめておこう。
フフフと見ただけでは清楚に笑うイフに何も言えなくなってしまって口を噤む。早く話題を変えたいなぁ。このままだと変態って言葉で弄られるだけだから僕が優位に立つことは出来ないし。……後者は出来なくてもいいけど、せっかくの機会だしイフと話しながら今の状況を楽しみたいしね。
「そう言えば何をやっているの?」
「回路を繋げているんです。腰にとめられるようにベルトのような留め具は付けましたからね。さすがに針を使うので、その時ばかりは渋々ですが膝枕はやめていましたが……」
手が淡く光っているから魔力で何かをしているのは分かったけど……よく見えなかったから何をしているのかは分からなかった。ベルトを手に持っていないから寝転んだままだと完成形は見えない。だからといって体を起こす気にはなれないけど。
「……多分、これでいいはずです。マスター、この棒を右に倒してみてください」
「……これを?」
「はい!」
渡された道具は何の変哲もない、普通のスイッチのような箱だ。上に伸びている棒が一本だけある以外に何もおかしなことは無い。多分だけど動作確認をするんだろう……イフも手にベルトを一枚持っている状態だし。
何かを企んでいる……にしてはすごくいい笑顔だからなぁ。こういう時に勘繰ってしまう僕はあまり良くないよね。……それにしてもスイッチに触れているけど魔力が吸い取られる感覚はないな。付けている人の魔力を吸って動作するとかかな。
まぁ、そこら辺はやってみたら分かるだろう。
「ひゃ!」
「は?」
「ふ、ふ……焦らしてから……つ、使うなんてマスターらしっ! ……ですね……」
コ、コイツ……既に付けていたな……。
その手は一切、頭に無かった。油断していたよ、もう付けていたという時のことを考慮しないなんて愚かだった。僕のような変態で悪戯なイフが何もしないなんてするわけがなかったね。……まぁ、いつもすましたような顔をしているイフの表情が崩れているのを見るのは気分が良い。……あれ? つまりはそういうことだよね?
「はっ!」
「……ふふ、気付くには遅過ぎたね。どうせ、また童貞だって弄ろうとしたんだろうけど、こうやって僕に優位を与えてしまったんだ。イフ……覚悟してよ」
「あ、あの……ひっ! いっ……うぅ……!」
このスイッチでイフのお腹に巻かれているベルトを作動させられるってこと、それはイフが僕に対して自由にしてくださいって言っているようなものだからね。十分に楽しませてもらわなきゃ。こうやって涙目でプルプル震えているイフを見るのはいいなぁ。
「布を噛むのはダメ。服が傷んじゃうよ」
「で、でもぉ……」
……耐えろ……変な気持ちになるな……。
これで変な気持ちになってしまえば負けだ。何に負けたのかはよく分からないけど、そんな気がするから心臓の高鳴りを押えろ……。気持ちを隠すように噛まれていた服の袖を取って口を解放させる。頬が若干、赤くなって目元が緩んでいたのを見てスイッチを切った。
いや……えっみたいな顔をしないで……。
これ以上はしたいと思わなかったんだよ。こんな顔をするってことはもっとしてもらいたかったって事なのかな。……嫌よ嫌よも好きのうちって言うらしいけどこういうのでそれを知っても……。
「……もう……終わりですか……?」
「うん、狙ってかは分からないけど動作確認は出来たからね。これ以上やる必要はないように思えたからやらない」
まぁ……それだけだとは言わないけどさ。
バレていたとしても本心は隠しておく。それに言ったことはあながち間違いじゃないからね。必要性のないものを続けるほど、今の僕に無駄な魔力は残っていないし。それならもう少しだけ回復に回しておきたい。スイッチに自分から魔力を流せば少しだけ効果を強められるのを知れただけ良しだ。他にも使える要素とかはあると思うけど……後回しでいいや。
「ところで気分はどうですか? 目を開けたままで意識を失っていたみたいですけど」
「えっ? そんな感じだったの?」
「はい、時々、何をやっているのかって聞いていたんですけど、答えても反応がありませんでしたからね。どうせ、意識も記憶もないのだろうと思っていました」
「……それはごめん」
目を開けたままでか……日本でもやったことのない、聞いても信用出来ない話だなぁ。ただこの世界でなら何をやってもおかしなことはないし、イフの話を疑う理由も特にないからね。
「いつになく素直ですね」
「イフのことだから寂しいって思ってしまいそうな状況だからね。別に僕が悪くなくてもイフを寂しがらせたのは僕だろ?」
「……わ、笑ってはいけません……こ、これでもマスターはか、カッコつけて……くっ」
「本音と建前が逆だよ」
そんなにクサイセリフだったかな……。
えっと……寂しがらせたのは僕だから……一言一句、思い出してみたら恥ずかしくなってきた。腹が立ったので一瞬だけスイッチをつけて切る。イフも予期していなかったみたいで「ひゃっ」とか可愛らしい声を出していて……少しだけドキッとした。
「……本当にマスターは私のことが大好きなんですね」
「いきなりどうしたの?」
「いえ、確認しただけですよ。大好きじゃなければこうやって悪戯してきませんからね。好きな子に悪戯をしたくなるのは誰だって一緒です」
なるほど……でも、それってさ。
「つまりイフも僕のことが大好きなんだね」
「否定しません」
まぁ、嫌いな人には膝枕なんてしないか。
ましてや、嫌いな人の子供が欲しいだとか言うのはありえないか。異世界では僕は割と地位やお金がある立場だから、それ目当ての人が寄ってくることはありそうだけどさ。それでもイフとかの裸も見たことがあるような関係の人達がそれだけで子供がとかは言うわけがないか。
というよりも、嬉しいか悲しいか分からないけど僕の元を離れたところで仲間が全員稼げるわけだからね。わざわざ嫌いな僕のもとにいるくらいなら自分で稼げばいいってなるだけだろうし。その時点で嫌いならって可能性は一切、思い付かない。そういうことを考えてみると……うん、やっぱり僕って恵まれているなぁ。
「……ねぇ、今って休み時間に入ってからどれくらい経っているの?」
「一時間ぐらいですね」
うーん……微妙な時間だ。
これ以上の休みは弛む原因になるし、それに僕がただイフとイチャつきたかったって考えられてしまう危険性もある。……話したいことは多くあるけど一旦はお預けかな。明日からまた話す時間は多くあるだろう。
ビキビキと嫌な音を立てながら動く体の節々を無理やり言うことを聞かせて起き上がる。些細なことだけれど起きようとしている時に、軽く背中を押しながら回復魔法をかけてくれるイフに感謝だ。
「……ありがと、もう大丈夫だよ」
「危なければ休んでください。一応、私の魔力を少しだけ流しておいたので楽にはなると思いますが、それでも無理をしていい理由にはなら無いですからね」
何も言い返せない、本当にド正論だ。
今回の冒険者ギルドとの模擬戦には命はかかっていない。だからこそ、わざわざ命を危険に晒してまでやることではないって言いたいんだろう。まぁ、いっつも無理をするというか勝手な行動をする僕がそうする前に止めようとしているってことかな。
「ポーション飲んでいい?」
「素材さえあれば作れるのですから勝手に飲んでください。それとも口移しで飲ませますか?」
「それは要らないよ。さすがに自分で飲める」
笑って言うと「残念です」と軽く指を鳴らして笑い返してくる。ポーションの瓶を二本だけ飲んでから部屋を後にした。まだ少しだけ気分は良くないけれどベルトを使った時のエミさん反応を考えれば全然、我慢出来る。……イフに睨まれたけど楽しみなのは本当だから隠せないよ!
四月の始まりですがあまりよくないことばかりが起こりますね。色々な苦労があると思いますが皆さんも頑張ってください。体調管理、気をつけてください。
すいません、最近、スランプ気味で作品を書けません。作者自身の体調(普通の風邪です)だったり意欲だったりが湧か無いので次の投稿まで感覚が空くかもしれません。四月の中間までには必ず投稿しますので待っていただけると助かります。本当に身勝手で申し訳ありません。(ちなみにエイプリルフールのネタではなく本当の話です!)