4章81話 それはきっと誰かのため、です
「遅かったな」
「気のせい気のせい」
戻ってすぐにそんなことを言われる。
僕の中ではあまり時間は経っていないと思っていたのだが、自分で考えているよりも長い時間を使っていたのかもしれない。もしくはエミさんが十数分という短い時間を長く感じただけか。……多分だけど前者だと思うな。
それにしても……気がつかないうちにユウとイアはかなり仲良くなっていたようだ。いつもならエミさんと駄弁っているだろうイアがユウと顔を見合わせて話している。それも満面の笑みだからイアからしてもユウの性格は良いと感じたんだろうね。兎にも角にも仲が良くなってきたみたいで親のようにうれしい気持ちにさせられるよ。
「皆、聞いていると思うけど一度、休憩にするよ。個々個々の班によって疲れ方は違うと思うし、疲れていないと思うかもしれないけどそれで倒れられたら元も子もないからね」
「……気にしすぎだと思うんだけどな」
……言ったら悪いけど半分は言い訳だ。
本当の狙いは作りたい道具が出来てしまったことだから何とも言えない。ただこれ以上に良い言い訳が思いつかないからどうしようもないんだよなぁ。こういう時には勘が鋭いエミさんは……そう、嫌いだよ。
「まぁ、これは私達にギドが提案してくれたことだからね。好意を無碍にするのは私達らしくないとは思わないかい?」
「そういう……もんか?」
「優しいギドならではの表現だと思えばいいさ」
やっぱり頼れる人はリリなんだよなぁ。
言い訳が思いつかない時に良いように考えてくれるのはとてもありがたい。エミさんのためにやるとは言っても作るって言ってしまえば多分だけど、気が引けてくるとか色々と支障をきたす可能性があるからね。自分の作ってあげたいという願望を感じ取れずに申し訳なくされたくない。
「それじゃあ、外に出させるよ」
全員が近くに寄ったのを確認してから転移する。
距離に合わせて転移する時の魔力消費量は変わってくるから、そこまでの痛手はないんだけど……それでも普通の人達からすれば消費量は多い。スキルレベルとか修練度のおかげもあるのかもしれないけど少しだけ具合が悪くなるのは慣れないな。
「おいしょっと……」
「……すごいですね……」
「ふふふ、もっと褒めてくれてもいいよ」
大きなテーブルと全員分の椅子を出す。
ユウの前でもやったことがあるんだけど慣れはしないみたい。まぁ、日本にいた時の僕が同じことを目の前でされたら「ジャパニーズ・マジック!?」かって動揺すると思う。何も無い空間から物を出せるんだからマジシャンとしては売れるだろうね。タネがないマジックなんだから。
「後、これね。お茶はエルドに入れてもらって」
「何から何まで悪いな」
「別に、この程度なら大したことないよ」
ミッチェルに作ってもらって貯めておいた、お菓子をテーブルの上に並べておいた。ちゃんと「ギド様専用ですからね」って取り分けておいてくれた焼き立ての物だから美味しくないわけが無い。大きくて綺麗な皿に並べられているのを見るだけで涎が出てくるよ。
「……普通は甘味……高いはずなんですが……」
「それだけ稼いでいるってこと。環境が僕に適しているだけで自慢出来ることじゃないんだけどね」
「よく言えたものだな。ポーションや武器を作って売ったり、冒険者ギルドの高難易度な依頼を遠い場所であっても一日で済ませるだけの腕がある。それのどこが環境が適しているだけなんだか」
うーん……言葉だけならそうだけどさ。
僕の素性を包み隠さず知っている人なら誰でも同じことを思うはずだ。ステータスが高くなる真祖の吸血鬼という体で、スキルを簡単に手に入るチート能力と言いたくはないけどテンプレによる保護、もっと言えば加護があるってだけで他の人よりも運が良いのは間違いない。
これがさ、何も無い状態から作り出せたのならば話は別だよ。それこそ「なろう系」みたいに俺強いから無意識に何でもこなせてしまうんですけどねって言えるんだけど……チートで俺強いを作ってしまっている時点で僕の能力ではない。ミッチェルはそれすらも僕の力だって、頑張ったからこそ手に入れたものだって言ってくれるけど認めてしまえば僕の成長はそこで止まってしまうんだよなぁ。チートのある僕としての力ではなく、本当の僕としての力がそれ以上、伸びはしない。
「……はぁ、それでいいや」
納得は出来ないけど認めたフリはする。
意味が無いことをダラダラと続けるのは少しだけ違うし、もし話をするのならもっと違うイチャついた話をしたいからね。……ただ本当に僕の運の良さは誰よりも勝っているとは思う。僕に才能があるとすればこの誰にも負けない「運の良さ」くらいしか認めないかな。
「……おいしい……」
「今度、ミッチェルに感謝してあげてね。それはミッチェルが作ってくれたのを取っておいただけだからさ」
「……本当におかしな人ばかりが集まっているんですね……。このお菓子だけで……メイドのような仕事をしなくても稼げますよ……」
うん、それは僕も思う。
ミッチェルのような才能の塊が、天才がいち給仕で済むのは不思議な話だ。だけど、ミッチェルが離れようとしないし、何より僕も離そうとはしない。自分の仲間として入れた迎え入れたあの時から僕はミッチェル無しでは居られなくなっていた。それこそ依存関係に近いのかもしれない。悪い意味で依存って捉えられがちだけど僕の場合はそうじゃないと思う。ミッチェルがいたから頑張ろうと思えたし生き残ろうと思い続けられたんだ。
それは何もミッチェルだけじゃない。
チート持ちだからとか、強いからとかで仲間を選んだつもりは……あ、エルド達はそれに近かったから抜きにしよう。まぁ、それだけで仲間を選んだりはしない。そして仲間にした後に、同じ時を過ごしたからこそ必要な存在となってしまった。変態双子であっても助けてくれるからね。
「僕のワガママに付き合ってくれるんだ。僕のかけがえのない人達だよ」
「……そう……ですか……」
「今はユウも大事だけどね。ほら、話してばっかりだとシロに全部、食べられるぞ」
「……いただきます」
声を大きくはしない。
それでも笑みを浮かべながらお菓子を手に取るユウは可愛らしい。まだまだユウに関して知らないことは多いけれど、それでも今の見ているユウだけならば拾ったことに後悔はない。ただなぁ……ユウは強いから拾ったとか言われそうで嫌なんだよなぁ。別に弱かったとしても親元ぐらいなら送り届けようと思っていたし。……ただここまで長い時間を共に過ごすことになるとは思ってはいなかったけど。
「シロ、口いっぱいに食べない」
「ほふはほほはひほ」
「次やったらお菓子抜きだから」
シロもこういう時には年並のことをする。
比べるべきではないんだけどさ……ユウのように清楚で美しさを醸し出すような感じで食事をしてもらいたいものだ。少なくとも口に食べ物が入っている時に話そうとはしないで欲しい。
「……分かったから、お菓子抜きにしないからゆっくり食べて」
「……うん……」
すっごく絶望的な顔をされた。
あんな顔を見てお菓子抜きを止められない人はいないと思う。……ミッチェルが計算し尽くしたお菓子だからカロリーも抑えめだし、シロが太るとかもあまり無いかな。ご飯一杯分の方が中皿に盛り付けられたお菓子よりもカロリーが高いくらいだし。
「と、悪いけど席を立たせてもらうよ。やらなきゃいけないことを思い出しちゃった」
「私も同行します。キャロ、任せましたよ」
お菓子に釘付けになり始めたのを見計らって席を立つ。少し後ろをイフが付いてくるのを気配で確認しながら地下室へ向かった。色々な構想が頭の中を駆け巡っていくけど、それの大半は今のエミさん達に使うタイプの効力ではない。どちらかと言うと販売した時に必要なことだったからすぐに顔を振って違うことを考え始めた。
「また、ですか?」
「いや、今回はそこまで深く考えていないよ。そんないつも考えているみたいな言い方はやめてほしいなぁ」
「事実じゃありませんか」
否定はしないけど……さすがにいつもでは無い。
それに考えないよりは考え込んだ方が僕らしいし人として重要なことだと思うし。今、考えようとしていたこともエミさん達のためになるかもしれないと思うと少しも疲れない。疲れるどころか楽しくなってきてしまうよ。
「僕の元に戻って」
「……仕方ありませんね」
「うん、今回は早く終わらせたいし精密な動作よりも、精密な魔力操作の方が欲しい。それなら二人でやるよりも一人の体でやった方が効率的だからさ。頼りにしているよ」
「ふふ……マスターの望むがままに」
あ、失敗したな。
こういう時のデレ顔を見てからスキルに戻せば良かったとちょっとだけ後悔。……それを見せないようにしていた節もあるから意識していても見れなかった可能性はあるけどね。俯いて手の平にキスをしてから光となって消えたわけだから。
「……やりますか」
ベットに腰をかけてテーブル上に素材を出す。
確認確認……えっと、鉄の在庫は少なくなってきているな。鋼とかの素材はあるから代用は可能だろうけど……今はいいや。あ、よくよく考えてみればアルミとかの素材がないな。……って、魔力が流れやすければいいわけだから日本のような科学的な構造は考えなくていいか。魔力の流れやすい銀の在庫はまだまだあるから……とはいえ、多くはない。作れて数点って感じかな。鞣した皮とかの素材は全然あるからそっちの問題は無い。
「何個までなら作れそう?」
【マスターの頭の中にある道具を作るのなら……そうですね、五つまでは可能です。ただ五つは銀を全て使った上での量ですし失敗する可能性もあるので勧めません。……銀を少し多く消費して三つにするのであれば機能面でも良いものになりそうですが】
「それなら三つで」
素材を少なくするつもりは無い。
量産するつもりなら話は別だけど今回は大切な人達に使ってもらうための道具。わざわざ失敗だったり効力の薄い駄作を作るくらいなら、使えるだけ使って最高品質なものを作りたい。
【それならまずは皮の内部に魔力が伝わるように銀を使います。個体上の銀では扱いづらいので溶かし始めてください。その間にミッチェルが鞣した皮を出してください】
「了解」
さて……一肌脱ぎますか。
書けば書くほどに先が見えなくなってきますね。章の終わりに近づいてくるとそんなことを思ってきます。……来月の目標は4章を終わりの一歩手前まで進ませることです。頑張ってタイトルの伏線くらいは回収しなければ……。
もうそろそろで投稿期間を水曜、土曜の週二投稿に戻そうと思います。ですが、もし時間があって書けた場合は投稿するのでよろしくお願いします。なので、次の投稿は土曜日か日曜日です。もしよければブックマークや評価よろしくお願いします。