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4章78話 欠点は成長へと変わるのです

 庭に飛んですぐに全員分の椅子を出す。

 普通の椅子、とは言っても日本にいた時の僕からすれば少しだけいいものだ。クッション性に長けていて長い時間、座っていたとしても腰への負担が少なくて愛用している。……けど、イフが新しい椅子を出してしまったせいで一個しまうことになってしまった。


 椅子を出し終えてニコニコしていたから何か企んでいるなと思ってはいたけど……こういうところで誘導してくるんだな。普通に隣に座るように言えばいいのに遠回しだ。これで恥じらっていれば乙女なのに……いや、いまさら演技しても遅い。そんな考えを持ちながらイフに笑い返しておく。


 仕方ないので少しだけ痒い頭をかいてからユウを持ち上げて用意された椅子に座る。他の椅子よりもかなり大きくて玉座とかにはさすがにないけれど、貴族が来賓用で使っていたとしても何ら不思議ではない椅子だ。ファーのように肘掛に毛皮を使っているみたいで座るだけで温かさを感じられる。


 座ってから膝上にユウを置いて背中をつけた。

 シロやイアには悪いが今はユウを膝上に置いた方がいいことが多い。もしも誰かが間違って地雷を踏んだ時に近くにいた方が止めやすいからね。そこも考えていたからイフには隣に座ってもらいたかったから……こんなことをせずとも隣に座るのはイフには変わりなかったんだよなぁ。


「……なぜ、ここに……?」

「愛でるため、それに近くにいるって言ってしまったからね。それを否定しなかった自分を悔やんでくれ」

「……よく分かりませんが……嫌じゃなければ好きなように……」


 嫌じゃないからそのままにする。

 それに遠慮がちなユウが僕に背中をつけている時点で嬉しいからね。何となくさっきの暴走といいユウは何かを怖がっているように見えるし。それが何なのかはいくつかの予想は出来るけど断定が出来ない。そしてこの予想が外れていた時に取り返しのつかない失敗に変わりかねないからね。あまり考えないでおく。


「ああ、言い忘れていた。エルドもキャロも空いた場所に座っていいよ。今から鉄の処女の三人の総評をユウにしてもらうから立っていたら疲れてしまうだろ」

「失礼します」


 僕は笑いながら言ったつもりだけどエルドとキャロは酷く真面目な顔をしていた。エルドの返事にキャロは小さく首を縦に振って家に一番に近い椅子に座った。逆に僕の隣はシロが座って空いた席に三人が座るって感じだね。不思議と空気が重いように感じられる。


「まずは本題から入ろう。鉄の処女の三人が感じたことを先に聞きたい。圧倒的強者と戦ってみてどう思ったかとかね」


 全員が座ったのを確認しながらエミさんに聞く。

 笑いながら言ったけどエミさんも真面目な顔で数秒間、沈黙をしてから口を開く。それでもすぐに言葉には出来なかったようで最初は「あー」とか「うー」とか言ってまとめようと頑張っているように見えた。


「……一番に感じたのは恐怖だ。イアが隠れたというのに木々を焼いて少しずつ場所を減らす。そして逃げ場を失った時に距離を詰める。本当に予期せぬことだったせいで対応が遅れてしまったことだな」

「なるほど」


 予期せぬか……ただ木を燃やしていたように見えていたけどそういうわけではなかったんだな。そこはユウの探知能力の高さを褒めるべきかな。淡々と追い詰められたら見てる側は分からなくても、やられている側からしたら恐怖を感じるのは当然。


 エミさんが恐怖と言った時にユウが小さく震えた気がしたから、少し前屈みになってユウの背中に胸をくっつけた。エミさんと話しているわけで目を逸らすのは失礼かなと思ったし、頭を撫でたとしても他の人には分からないくらいに小さな震えだったからユウの心の乱れを露呈することになるかもしれないと思うと、こんな遠回しで分かりづらいことしか出来なかった。


「言っただろ? ユウは強いんだ。命を失わずにそんな感情を覚えられてよかったね」

「……そうだな、敵だったら確実に命を落としていたと思う。頭を掴んで地面に叩きつける程度で済むわけがないよな」

「そうそう。感謝しろとは言わないけどさ、その時に感じた恐怖は覚えておいた方がいいと思うよ」


 ただの敵から感じた恐怖はトラウマにしかならないけれど、味方から感じた恐怖は成長への糧へと繋がることもある。それは日本にいた時と大して変わらないと思うな。友達と自分を比べて腐らずに頑張れば成長へと繋がるだろう。この世界の味方や仲間というのは友達と似ているのかもしれない。


「リリはどう言うことを感じた?」

「私は……最後に体が動かなかったことに驚いたな。今まで強い敵と戦ってきたつもりだったが程度が知れているものだったというわけだ。動きが鈍くなることなら何度もあったが完全に動けなくなったのは初めてだった」


 ……それがユウの能力かな。

 リリは威圧とかで動けなくなったと思っているようだけど、もしそうなら最後のユウの言葉に違和感が出てしまうし。もしくは動けなくなるのとは違ったデバフとかがあって、それが僕やイフにはかからなかったって可能性もある。何より「なぜ効かないのか」と本心から不思議がっていたあたりステータスの高さとかで済む話でもなさそうだ。考えれば考えるほどにユウに対して疑問が湧いてくるな。これを聞くことが出来れば簡単だったんだろうけど。


「イアは……言わずもがなかな」

「……そう……怖かった……」


 至近距離で威圧を受け続けたイアはそれしか思い浮かばないだろうなぁ。イアは確かにAランクの冒険者だけど、それにしても物理面ではかなり弱すぎるんだよ。それも長所であるはずの魔法面でも最近では伸び悩みし始めている。エミさんやリリが長所が伸び続けているのとは違ってイアだけ弱点に近い形で取り残されているように見えてしまう。


 まぁ、そこは少しずつ改善させていけばいい。ステータスやレベルに関しては戦い方一つで変わるものでは無いからね。それに魔法に関してはイフが確実に手助け出来ると思うから終わる頃にはネックになる部分が変わってくるだろう。


「それじゃあ、ユウの話を聞こうか」


 皆の息を飲む音が聞こえる。

 今更だけどそれだけ静かだったってことだ。僕は僕で違うことを考えていたせいで全然、気が付かなかった。


「……まず一番に聞きたいことがあります。……三人は死にたいのですか……?」


 儚い笑顔、強さを否定されることで怒るような幼さはそこには見えない。そして自分にも、導き出した考えにも自信を持っているだけの力がその目にあった。でも、言われてみれば確かに模擬戦の時の動きが三人とは違っていたように思う。


「……冒険者としての職業のせいでしょうか。明らかに対人戦の戦い方ではありません……。もっと言ってしまうと……攻撃を受けてもいいと思っていることが見え見えです……」

「それは……」


 エミさんが言葉を詰まらせてしまう。

 言っていることに一切の欠点がなければ言い返せなくなるとは当然だ。それにエミさんやリリが苦々しい顔をするあたり思い当たることがあるんだろ。三人とも大人だ、幼い子に諭されて嫌な気持ちになって、それを怒鳴って対処しようとは思わないはずだ。


「隠蔽能力の低さ……遠距離を担うものとして欠けてはいけないものです。……動きは良かったと思います。逃げ道を増やす経路……ですが、根本的に欠けていれば意味がありません……」

「……その通りだと思う」

「……魔法を撃てないのなら足でまといのなにものでもないです……」

「裏を返せばそこが出来ていれば脅威に変わるって言いたいんでしょ?」


 ユウが大きく首を縦に振った。

 よかった、カバーが間に合った。明らかにユウの一言は他人を馬鹿にするような捉え方をされても仕方の無い言葉だった。思ったことを口に出すのはいいけど伝えたいことを聞いてもらえなかったら、それはただの悪口になることだってある。


「……エミ様は自分を顧みなさすぎです。あの時に飛び出すのは蛮勇……結界を使えるのであれば意識を逸らすことも簡単に出来たと思います。……わざわざ距離を詰める必要はありません……」

「……盾役として離れすぎていたと思ったんだけどな」

「時には囮にすることも必要になります。大切なのは分かりますが……一人の犠牲が二人になってしまえば反撃の機会さえ無くします……」

「……おう、その言葉は重いな。心に刻んでおく」


 仲間を重んじるパーティだからこそ、仲間を囮になんて出来るわけがないんだろう。そしてユウはそんな考えを捨てろと言っている。確かに正論ではあっても感情が肯定出来ないのは仕方がないか。それを回避するためには……。


「強くなるしかねぇか」

「……はい、気を奪う戦い方はものすごく上手だと感じました。……そして即興でやったとすればリリ様との連携もすごいものです。……なおさら、あそこでの攻めは勿体ないですね……」

「はは、言ってくれるじゃねぇか」


 エミさんが笑顔になる。

 すごく緊迫した雰囲気が少しだけ和らいだ気がした。ユウはユウなりに強くなろうとしている三人にしっかりとした助言をしたいんだなって感じられる良い言葉だ。時々、言葉足らずになってしまうけど本当に良い子だと思う。


「リリ様は……レイピアならば突きを重視した戦い方をやめるべきです。……あの時に何かをしたとだと思いますが……突きよりも斬る方が相手に痛手を負わせられることもあります」

「刺さらなきゃ意味が無い、ということだね?」

「……はい、そしてすいません。……あの時に油断したと感じてしまい本気を出してしまいました。絶対に使ってはいけない能力を……使ってしまったんです」

「気にしていないさ。可愛い子から貰えるものなら恐怖だって嬉しいからね」


 リリは変わらずリリだ。

 そしてリリなりにユウの不安を消そうとしてくれている。ユウが最後に使った能力、それをユウは本気で悔やんでいるんだ。どんな能力なのかは分からないけれど肌で感じたのがリリでよかった。こうやって優しく許してくれるリリで本当に……。


 過去やトラウマを免罪符にすることは絶対に許してはいけないことだ。ユウのやってしまったことも気を抜いてしまえばリリが死ぬ結果に繋がっていたかもしれない。それでも……僕にはユウを攻めることが出来ないかな。それだけ僕が感じたユウの闇は深くて暗い。深海で済むようなものではないと個人的には思う。


「それじゃあ、少し休んでから三人にはそこを重視して戦闘訓練を積んでもらう。エミさんは……一撃の重い僕やキャロがいいかな。リリは速度の早いシロとエルド、イアは」

「……イア様はユウが手伝います。……隠蔽ならばユウが教えやすいです……」

「それならイフとユウに任せるよ。イフは魔法面で足りないところを教えてあげて欲しい。ユウのことを任せたからね」


 ユウが自分からやると言って驚いた。

 だけど、これは良い傾向だと思う。もしもユウの隠す力をイアが手に入れられたのなら……エミさんやリリが守りを気にしなくて済むから攻撃の幅が広がるだろう。……ユウを連れてきて正解だったと思う。そして終わる頃にはもっとユウに抱く気持ちは強くなるだろう。出来ることなら……ユウは妹としてここに残って欲しいって思ってしまう。それを決めるのはユウだから何にも言えないんだけどね。

ユニーク数が100,000を突破しました!

本当にありがとうございます! 昨年のクリスマスぐらいに80,000を超えたのですごく驚いています……。このまま伸びてくれることを願うばかりです……(笑)。


次回は書け次第、投稿するので一週間以内に、早くても四日後くらい?に出せると思います。少しだけやることが増えてしまったので明日、明後日は書く時間がありません。三人に教えたり珍しい組み合わせによる会話などを書くつもりなので楽しみにしてもらえると嬉しいです。

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