4章77話 シリアスを書く力が足りないのです……
サブタイトルは自分の気持ちです……。
「それじゃあ、始めようか」
鉄の処女の三人とユウの戦いは少しだけ楽しみだったりする。ユウのことだから出来る限りの手加減はするだろうし、僕が舐めてかかるなと三人に言ったから本気でやるだろう。どこまで食らいついていけるか次第で教えることも減っていくし。模擬戦の戦い方でユウだけじゃなく僕やイフの教えることも変わってくる。楽しみになるのは仕方がないだろう。僕が戦闘狂とかなわけでは決してない。
「殺すのは一切なしだ。ただ鉄の処女の三人は本気でやっていい。それだけユウは強いと僕が肌で感じているからね。もしも鉄の処女だったりユウだったり、どちらかから致死的な攻撃が行く場合は僕やイフが止める」
「死んでなければ治しますからご安心を。では、飛ばします」
四人の反応は見ていない。
鉄の処女の三人からしたら自分達よりも圧倒的に年下の子を重要視した発言は気分が良くないと思うからね。だから自分達の肌で感じて欲しい。ユウの戦い方は見たことがないからそこら辺も見ておかないといけないな。まぁ、本気の姿は見られやしないだろうけど。
木製の模擬戦用の両手剣を投げる。
同じ武器を使う者として僕やシロも勉強になるだろうな。逆に両手剣ならではの行動に対する間違いや甘えは指摘出来るだろう。まぁ、受け取って僕に飛ばした威圧、もとい雰囲気は僕よりも死地をくぐり抜けてきたものだ。背中から一筋の冷や汗が流れてきたし。飛ぶのがもう少し後なら顔にまで目に見えて現れていただろう。
「……頑張ってくれよ……」
二つ椅子を取り出してシロを膝上に置く。
もう片方はイフが座るから少し距離を置いて出したのにわざわざ近づけてから座ってきた。別に嫌じゃないからいいんだけどさ、そこまで近づけて片腕を取ってまでいたいものかって思ってしまう。エルドとキャロは来てから出せばいいから今はいい。
小さな画面を四つ作り出して見る。
箱庭を外側から見ることは出来るけど割と空間を凝縮させて場所を作るから、どうしても外側から見ると中の人が小さく見えるんだよね。一人一つの画面を作った方が動きが見やすいからこうしておく。これ自体は氷で作り出した画面に空間を繋いで映像を透過しているだけだから難しくはない。
「……始まったみたいだね」
ユウの画面を見て表情を歪めてしまう。
明らかに木剣は淡い白色の光を纏い、それを握るユウの口元はニヤついていた。一応、黒百合を出しておく。僕と同じ考えを思いついたみたいでイフもアクセラレータを出していた。それだけ今のユウを見ると異質さを感じてしまうってことだ。一言で表すと怖い、それに限る。
そしてユウのしたことは見えない速度の薙。
扇状に百メートルの木々が薙ぎ倒されている姿はどうしても小柄なユウに出来るようには思えない。それにそんな芸当を行った武器が木剣っていうのもおかしな話だ。あの淡い光はおそらく武器を強くさせるものだろうけど、そうだったとしても……。
「遅いです」
一瞬、目を離した隙にユウが相手を捉えていたみたいで距離を詰めていた。狙いを定めた相手はイアのようで逃げの姿勢を見せているが、一瞬で距離を詰められるだけの速度だ。近接よりは遠距離で魔法を放つイアが逃げられるわけもない。
「……分かりやすすぎます」
「ガッ……」
横から殺意ダダ漏れで詰めたエミさんの縦切りを身を翻して躱してから、後頭部を小さな手で掴んで勢いのまま地面へと叩きつけていた。見ているだけで痛々しい行動だったけどさすがだ。一切、手を抜いていない。軽く横を見た後、イアが一気にへたり込んでしまう。ユウの威圧を近距離で強く受けてしまったからだと思うけど……というか、それ以外に何かしたようには思えない。
「盾役だということは分かりますが」
「ハッ!」
何かを言おうとしたユウに対して地面に倒れながらもエミさんが笑う。そこで何かを察したらしいユウが薙をしたが振り切ることが出来ない。明らかに途中で止まっていたからエミさんの結界か何かだろう。二秒も持たずに壊れてしまったがユウの表情を変えるには十分だった。
「そこだ!」
「そんな速度じゃ……!」
躱そうとしたユウの顔がまた暗くなる。
何かが変わったようには思えないがユウがリリの突きをもろに食らってしまう。……食らったように確かに見えた。だけど、服に傷がついただけでレイピアが途中で止まってしまっている。ユウもリリも焦った顔をしているから突いたのは間違いないと思うけど、すぐに戻したのかレイピアでガードの体制へと変わっていた。それこそ一瞬の攻撃のせいで確証がない。
「……効いていないのか」
「……気を抜いたわけではありませんが……狙われていたようですね……」
何かがおかしい、リリを見てすぐにそう思った。
今の状況にあるいくつもの要素からして……一番におかしなことはリリが動こうとしない。それは他の二人も同じだった。ユウが距離を置いたわけでもないのに逃げないのはおかしい。攻撃してくれと言っているようなものだ。ガードの体制と言っても力よりも速度を重視するリリなら逃げを選択するはずの状況でそれをしないのは不自然すぎる。
「……もう……死ぬわけにはいきません……!」
すぐに転移でリリとユウの間に入る。
その表情が明らかに異質だった。焦りの表情が笑みを含んだものに変わっていて……どこかネズミを狩る猫のように思えてしまう。そして、その判断に間違いはなかったみたいだ。イフが隣にいたこともそうだけど黒百合で張った結界を一撃で壊し、黒百合とアクセラレータの交差している場所に突きを放ったはずなのに飛ばされてしまうと思ったほどに衝撃が強すぎる。これをもしリリが直で受けていたとしたのなら……考えただけで冷や汗が流れる。
「……なぜ、お二人には効かないのですか」
「いやいや、十分に効いているよ。威力を消しきれていなくて足が少し痛いからね」
「……そうではありませんが……」
心底、不思議そうな顔をされた。
ものすごく悩んでいるようで逆に僕の方が何かをされたかと思ってしまう。ただ何かをしていたとするのならばリリ達が逃げなかったことにも納得出来るからね。とりあえず焦りを隠すために笑って見せておいた。ユウはユウでハッとした顔をしてから少しだけ表情を暗くする。
「……いえ、すいません。……そうじゃありませんね。……皆様は大丈夫ですか……?」
「ああ、多少の怪我はあるだろうけどイフに頼めば簡単に治してくれると思うよ」
ユウの警戒は外さないでおかないと。
もう戦う意思は示していないけれど、ここまでの力を見せつけられてしまえば話は変わってくる。別に嫌いになったりとか遠ざけたりとかはしない。それでも弱いと言われて怒ったりするユウの理性がどこで外れるかは分からない。この口振りからして本意ではないと思うんだけどね。
「大丈夫だ、少し顔が痛むくらいだな」
「一応、顔に傷がついたら勿体ないからイフに回復魔法をかけてもらってね」
「おう!」
模擬戦ごときで容姿が壊れてしまうのはアホ過ぎてため息しか出ないからね。大きな怪我自体は三人ともしていないように見えるけど……イアにはケアが必要そうだな。さすがに強い威圧を近距離で受けたせいで腰を抜かしているみたいだし。
「ごめん、三人に言わなきゃいけないことをまとめておいて欲しい。ちょっとだけやらなきゃいけないことが出きちゃった」
「……すいません、ユウのせいで」
「ユウのせいじゃないよ。逆に命を取られずに強者と戦えて学べるものも多かっただろうし。ほら、ユウのせいだと思っていたらこんなことはしないだろう」
怖いか怖くないかで聞かれれば怖くない。
こうやって申し訳なさそうに、遠慮気味に謝ってくるユウはやっぱり優しいユウだ。暴走も何もキッカケがあったからタガが外れただけ。それに今の一撃が手加減の無い一撃ならば僕でも耐えられるし止められる。僕は僕の力を履き違えたりなんかはしない。例え僕の実力じゃなくて与えられた借り物の力だとしても使えるものなら使わせてもらう。
もしも演じているのなら、こうやって頭を撫でる僕の腕を切ったりとか、振りほどいたりとかいくらでも出来るからね。本心は信じてあげたいっていう気持ちの方が強いかな。どちらにせよ、ユウは変わらずユウのままだ。……もしかしたら一番にケアが必要なのはユウなのかもしれない。
「僕は変わらずユウのことが好きだからさ。だから気に病む必要なんてないよ。本当に皆がユウを嫌いになったとしたら素直に僕も言う。ユウが悪い方へと進みそうなら、僕が近くにいる間は正しい道に進ませてあげるから」
「……ありがとうございます」
あんまり表情は変わったように見えない。
だけどさ、嬉しかったんだろうね。目線を合わせるためにしゃがんだ僕を抱きしめてきた。少し強めだったから顔に出せなかっただけでユウの心配の一部は消せたんだと思う。同じくらいの力で抱き締め返して最後に頭を撫でる。
「じゃあ、ちょっとだけ離れるね」
「……はい、早く帰ってきてください……」
笑って言う、前なら言わなかった言葉だ。
すごく嬉しかった。僕は僕で苦労したからね、同じように苦労したのかもしれない、傷を持っているかもしれないユウから心を許してもらえたのかと思うと僕のやったことは間違っていなかったって思えるし。僕は僕に対して自信を持てないからこういうことで自分のいる意味や自信に繋がっていく。ユウが笑ってくれるのなら尚更、嬉しい。
軽く手を振ってイアの元へ向かった。
リリは動けたようでエミさんと一緒にイフの近くにいる。未だに立つこともままならないイアを見ると抱いちゃいけない考えなんだろうけど、生まれた子羊のようで可愛く思えてしまった。すぐに首を横に振って考えを改める。
「大丈夫?」
「……そうでもない……」
うん、さすがに意地悪な質問だったか。
イアの背中に手を回して抱き起こすようにして立たせる。そのまま自分から立つのを待ってイアの足を地面に付けていたんだけど……まぁ、手を離してはくれないよね。本当に足に力が入らないのか、ただ甘えたいだけなのかはよく分かんないや。別に減るものじゃないからいいけど。
「甘えん坊」
「……怖かった……」
「はいはい、よく頑張ったね」
子供をあやすように抱えながら上下に小さく振ってあげる。いつもなら子供扱いはとか言うのに今はそういうことも言わないみたいだ。素直に胸に顔をうずめている。本当に怖かっただろうね。確かに日本にいた時の僕がユウの威圧を至近距離で受けていたら……もっと酷いことになっていたのは確実だと思う。漏らすだけで済むのかな……? その点で言えばイアは腰を抜かしただけで漏らしたりとかはしていないし。
「……ちっちゃい子に負けちゃった」
「見た目で人を測るなってことだよ。それに戦ってみて学べたこともあっただろ?」
「……また皆の足を引っ張っちゃって……そのせいでエミが倒されちゃったし……」
ああ、見つかってはいけない場面で見つかったことを悔いているのか。確かにエミさんが飛び出すにしては焦りすぎていたように思える。模擬戦とはいえ、本当の戦いのように振る舞いたかったんだろうけど無謀過ぎたし。
「泣きたいなら泣いていいんだよ」
「……服を汚したくない……」
「意地を張ってどうするんだよ。そんな小さな意地で強くなれるのなら張っていていいけどさ、我慢してまで得られるものなんてないんだ。僕が泣かれて服を濡らされて怒ると思う?」
そんな涙目で言ったって意味が無いだろ。
弱いなら今回の模擬戦はそれを余計に知れた良い機会だってことだ。弱いから自分に価値がないなんて思っているんだとすればそれは間違っている。何もしないで立ち止まっている奴らとは違って、頑張って強くなるためにもがいているのなら実を結んでくれるはずだ。
「今回の弱いと思った点を何とか出来るように教え込むからさ、今は悲しい気持ちを少しでも和らげないとダメだよ」
とは言っても……強がりは言い切るまで持たなかったみたいだけど。胸に顔を押し当てたまま声をあげずに泣き始めた。声は聞こえないけど胸の辺りが冷たくなってくれば泣いている以外に思いつかないしね。片手で抱えながら、もう片手で撫でてあげる。たかだかプライドごときで強くなったり、良い状態に変わるのなら僕だって僕を捨ててなかったさ。時には泣くことも重要だと思う。
イアがまた顔を上げたのは数分経ってからだったけど気分はスッキリしたみたいだ。イフに一応、回復を頼んでおいてユウを迎えに行った。箱庭を作り直すのが面倒なので全員で庭へと飛んで椅子を出しておく。その時にはもうエルドもキャロも庭に来ていた。
今更ですが総合評価1700越え、ありがとうございます。これからも楽しんで読んでもらえると嬉しいです。次回はやる気が湧き次第、書こうと思っているので一週間以内には出すという形にします。書け次第、投稿しようと考えているのでお楽しみに!