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4章75話 ユウの気持ちです

書けたので投稿します。

「遅かったですね」

「キャロで遊んでいたんだよ」

「遊ばれていたの」


 食事をする場所に入る手前でイフにイヤミを言われてしまった。笑いながら言ってくるあたり誰に似たのか本当にからかわれているようで仕返しをしたくなってくる。対して言葉的には悲しむべきはずなのにキャロは胸を張って喜んでいるし。


「ご飯が冷めてしまいますよ」

「イフが温めてくれるんだろ?」

「……まあ……そうですけど……」


 想定したこととは違うことを言われてしまったのか詰まらなさそうな顔をされた。別に冷めたところでミッチェルのご飯は美味しいしイフがいるから出来たて並みの味を楽しめるからなぁ。その点で言えばイフがいないと生きていけなくなってしまったと言っても過言では無いかもしれない。


「依存されても困りますよ」

「嬉しそうに言われても説得力がないかな」


 わざとなのかもしれないけどクネクネさせながら言ったって説得力がない。キャロはキャロでまだ遊んでいたってところがツボなのか喜んでいるし。うーん、カオスだなぁ。


「さぁ、食事を済ませましょう。やらなきゃいけない事が多いんですからね」

「そうだね、いただかせてもらうよ」


 キャロとは反対側の手を取って引かれる。

 少しだけキャロと一緒によろめいてしまったけど何故か嬉しく思ってしまった。そのまま席に座って食事をさせてもらう。エルドやシロはもう終えていたようで席には座っていなかった。水の流れる音が聞こえているから皿でも洗っているんだと思う。その後でイフが調理室に向かったから確認とかしに行ったんだろうね。


「……はい、どうぞ」

「ありがとう」


 食事を持ってきたのは意外にもユウだった。

 てっきり鉄の処女の三人といるのかと思っていたけどそういうわけではなかったみたい。パタパタと何回が往復して食事を持ってくる姿はとても愛らしいな。女としてではなく女の子として可愛い。ユウがハートマークのエプロンをつけているせいで小学校の時の調理実習を思い出してしまう。小学校の時にユウがいたら恋していたのは確実だろうなぁ。


「ユウ、座っていいよ」

「……いえ……居座っている身で」

「ユウ、マスターがいいと言ったのなら座っていいんですよ。エルドやシロもそれで文句は言いませんから。ここでは変な気遣いは無用です」

「……分かりました……」


 先に僕のから、後でキャロの食事を運んできてくれたから同じ物が揃ってからユウに座るように言ってみた。まぁ、ユウの反応からして未だに遠慮はしているみたいだ。別に小さいんだから遠慮する必要なんてないと思うんだけどね。大人っぽいのもいいけど気を使われるのは好きじゃない。


「ユウはご飯食べ終わったの?」

「……先にいただいて申し訳ありま」

「怒ってないよ。食べてくれたのなら安心出来るってだけだからね」


 すぐに謝ってこようとしたけど止めた。

 遠慮なんて僕の前では不要だ。確かに僕も目上の人にはいくらかは配慮をするけど必要以上の配慮を強いてくる人とは関わらない。例え今の僕の立場が大きくても横柄な態度はしたくないからなぁ。性格悪そうな主とか仲間から嫌われそうじゃん。ユウのことはこのまま親が見つからないなら引き取るつもりでいるし仲間だと思っている。仲間に嫌われるのは絶対に嫌だからね。


「本当に……不思議な人達ですね……。先程のエミ様達もユウを休ませようとしていましたし……」

「それだけユウのことが大切なんだよ」

「……あの……撫でることは許可していないのですが……」


 撫でる……ああ、また無意識に手が動いていた。

 小さく「ごめんごめん」と謝りながら最後に一撫でして手を離した。……ふっ、見逃さなかったぞ。離した時に一瞬だけ悲しそうにしたのをね。本当にツンデレな子だ。


「……あの……」

「これで終わり。ご飯食べ終わったら今度は許可をもらってやるよ」

「……変態ですね……食事の後なら別に構いませんよ……」


 小さく笑ってくれたから喜んでいると思いたい。

 食事も美味しいし隣のキャロも静かに食べてくれているから、すごくこの幸せな空間に浸れる。こういう日常が続いてくれればいいんだけど、このテンプレとかのせいでそれは束の間だろうなぁ。捨てるには惜しいだろうけど、逆に持っているには面倒なことが多すぎるよ。


「そう言えば後で模擬戦してくれないかな」

「……力の加減が苦手なので……」

「ああ、木剣を渡すから死にはしないと思うよ。それに死んでいなければ僕やイフで治せるし」


 ユウのステータスの高さは知っているからね。

 まさか鉄の処女の三人とユウを本物の武器で戦わせようなんて思っていないさ。力加減以前にユウが本気を出したとして止められるのは本当に僕かイフかしかいないだろう。テンさんやフウなら大丈夫だと思うけど。


「悪いけど戦ってもらいたいのは鉄の処女の三人だからね。三人の戦い方の悪いところを指摘して欲しいんだ」

「……それはユウである必要がありますか……?」


 疑問に思うところがそこかぁ。

 ぶっちゃけて言えばユウじゃなくてもいいんだろうけどさ。それでも僕だと贔屓してしまうかもしれないしイフなら機械的な考え方しか出来ないだろうから、僕達が教えるのはもっと根本的なものにしたいんだ。ユウは優しい子だからね。


「ユウは強いだろ。それに僕よりも場数を踏んでいるような気がするから対等に言い合えるのはユウだけだと思うんだ」

「……頑張りますが危ないと思ったら」

「安心して、すぐに手元まで手繰り寄せる。ユウが暴走しそうだったら僕とイフで止めるよ」


 そこまで言わなきゃやれないだろう。

 最初こそ舐めていたけど、あの時に感じた痛みは未だに覚えている。その力は明らかに見えたステータスに見合ったものだった。幼いながらにそんな力を持てば強いことの否定は嫌だろうし、逆に制御出来なくて周囲に遠慮するのも仕方ないだろう。だから僕が安心させられるストッパーになる。ユウはやっぱり笑顔でいた方が可愛くて僕も嬉しいからね。


「僕の力は知っているだろ。どうせ、雰囲気で相手の力量くらいは分かるだろうし」

「……ええ、ユウでも勝てるかどうかというのがギド様で……化け物のような……人としての力を測れない存在がイフ様です……。お二人ならば簡単にユウを止められると思いますが……」

「安心してくれていい。危険な時ほど僕は強くなるからね。どんなことがあってもユウのことは嫌いにならないし助けるつもりだ」


 笑って言ってあげたら恥ずかしそうにしながら顔を背けられた。耳元まで真っ赤になっていて本当に可愛いなぁ。嬉しいなら嬉しいと言えばいいのにツンデレって可哀想だと思うよ。少しずつ自分の気持ちを伝えられるようにしていこう。


「キャロもユウのことは好きなの!」

「……ありがとうございます……でも」

「ユウ、でもとかはいらない。前も言ったけど今のユウを見ていてキャロがそう言ったんだ。根本的に性格が変わらないのであればキャロも僕もユウを嫌いになんてならないよ」

「……はい、そうですね。そう……信じています」


 否定しないってことは予想通りか。

 ものすごく力に固執しているんだ。それは良くも悪くもユウの心を蝕んでいる。……過去に何があったのかは聞いておきたいけどさすがに聞けないよなぁ。辛い思いをさせるくらいなら忘れられるくらいに幸せな時間を与えてあげればいい。後々、僕のことを「お兄ちゃん」と呼ばせるのもアリか。


「笑え、嬉しい時は笑うんだ」

「い……あい……」

「ユウ、可愛いぞー」


 頬を引っ張って無理やり笑わせる。

 撫でてあげたら嬉しそうにしているし嫌がっているわけでは決してないんだと思いたい。いや、思ってくれているさ。ユウはツンデレだけど顔は正直だからね。この一瞬だけ見える表情が本当のユウの気持ちだ。


「ユウを止められるように強くなるからな」

「……お願いします」


 いきなり笑われてドキッとしてしまった。

 無邪気なユウの笑みはあまり見ていない。それだけユウにとってこの言葉は高評価だったみたいだ。僕は英雄になりたいなんて夢は持っていない。そんな面倒そうな夢ならない方がマシだからね。だけどこんな小さなこと、それでもものすごく難しいことを出来てこそ本当に強くなるってことなんだと思う。


 気持ちを隠すために一気にご飯をかき込む。

 詰まりかけたけど何とか隠して飲み込めた。最後にユウを抱えて許可を取ってから頭を撫でる。一分にも満たない時間だったけど僕にとってはかなり充実した時間だと思う。……撫でている時に揺らいでしまった気持ちがバレていなかったかだけが気になってしまっていた。


 パッパと食べ終わった皿を戻してエルドに任せてから外へ出た。イフとシロがいなかったから先に庭にでも行っているんだろう。ユウとキャロはエルドと何かを話していたから後で合流するんだと思う。先に行って準備もしておかないといけないしね。何も場を整えるだけが必要なわけじゃない。教える側の僕や教えられる側の三人の体も温めておかないと怪我をしかねないし。


 家を出る前に壁にかかる時計を見た。

 もう九時を過ぎる頃だ。確かに朝食をとるには少しばかり遅かったかもしれない。僕達、冒険者の朝は早いからね。もっと早く食べていることなんてザラにあるわけだし。日本にいた時ならこのくらいの時間が普通だったけど変わったものだ。


「……少し寒くなってきたかな」


 軽く吹いた風で冬を感じてしまう。

 だと言うのに雲から現れた日光はかなり強く照らしてきてくるのだからウザったい。寒さを感じてすぐに温かさを感じてしまうんだからね。それに少しばかり暑く感じてしまうのは僕の体がおかしいからかな。ただこれだけの温かさと日差しの強さだ。かなり動くことを想定すると熱中症も視野に入れておかないといけなさそうだね。回復魔法で完治可能とは言っても苦しいことや辛いことは極力、避けたいし。


「おはよう」

「おう」


 エミさんがいた。心器であるギドニルだったかを振って汗を流している姿は男らしい。だけど、無愛想ながらに僕のことをちょくちょくと見てくるところが普段と変わらなくて笑えてしまう。僕のせいで集中力を欠いてしまっているのかもしれない。


「他の二人は?」

「宿に挨拶に行っているよ。イア一人じゃ怖いからな。リリも付けておいた。もうそろそろで帰ってくると思うが」

「ふーん……じゃあ今は二人っきりか」

「ブッ!」


 おわ、危な。心器を手放すとか怖すぎる。

 ……まぁ、からかって言った僕に責任があるんだけどね。乙女なエミさんなら要素をチラつかせるだけで勝手に想像してくれるし。本当にこの一言で動揺するとか冒険者としてどうよとは思ってしまうけど可愛いからいいや。


「た、確かに今は二人だが……」

「何? 二人だと嫌だ?」

「……嫌……じゃない……」


 恥ずかしそうに心器を地面に置く。僕の目を見つめてきて何とも言えない表情を浮かべてくると反応に困ってしまうな。徐々に目をウルウルさせてくるから早く反応しないといけないんだけど……こういう時に一番楽な方法があるんですよ。


「……嫌じゃ……ないんだな……」

「うん、僕は別に嫌じゃないからエミさんも同じ気持ちのようで嬉しい限りだよ」


 頭を撫でてあげればいいんだからね。

 これが彼女とかならもっと違うやり方もあっただろうけど、仲間であって少しだけ立場の違う三人にどういうことをすればいいのか分からないから悪いけどこうするしか僕には思いつかないや。そのうち三人の過去も聞いて先のことも考えるつもりだけどさ。……その頃には三人とも他に良い男でも見つけてしまうかな。


「ヒューヒューですね」

「ひゅ、ち、違うぞ!」

「うん、違うらしいよ」


 イフがからかいに来たみたいだけど僕にはノーダメージだ。僕じゃなくてエミさんには大ダメージなようだけど。もしかして僕の反応じゃなくてエミさんの反応が見たくて、こんなことをしたのかもしれない。うん、イフならやりかねない。


「さぁて、準備を済ませようかな。エミさんで遊べて満足したからね」

「オレで遊ぶんじゃねぇよ!」

「うん、ごめんね」


 まぁ、もうしないとは言えないけれど。

 ってか、絶対にまたすぐにやる。虐めにならない程度にからかうっていうのが可愛い仲間をより可愛く見せられるやり方だからね。エミさんはその点で言えばかなりからかいやすいし。こうやって怒った素振りを見せながらチラチラ見てくるエミさんを見れるのなら僕は何度でも同じことをするだろう。

入れようか悩んで飛ばした朝食の中身です。ここを入れておけばユウの考えなども少しだけ分かるのかもしれません。次回はユウの模擬戦、もとい力試しをもう少し細かく書いてみるつもりです。


個人的な話なのですが総合PVが750,000を突破しました。ユニーク数ももう少しで100,000を超えそうで少しだけやる気が出てきました。本当にありがとうございます。後、PVやユニーク数のおかげで書く意欲が大きくなったので、もしかしたら明日も投稿出来るかもしれないです。ですが、躓いて書けなくなるかもしれないので、あまり期待せずに待ってもらえるとありがたいです。少なくとも土曜日までには投稿します。……もう少しだけ5章に入るための何かを書いてから4章の終わりを書きます。4章を長引かせるようですが楽しみやすく読みやすい中身にするのでこれからもよろしくお願いします。

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