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4章72話 本当の成長です

これでエルドとの戦闘は終了です。

 目の前で火花が散った。

 すぐに飛ばされた刃だと気付いた。円状の刃の片方が飛ばされて結界が破壊されている。最後の結界の効力で横へと弾いてくれたみたいだ。それだけで心器の能力の高さを感じてしまう。これだけでも強いが……人の心を映した武器が心器だ。威力が高いだけで済むわけがないな。


 すぐに距離を詰めてサタンの振りを黒百合で受けて鍔迫り合いの状態に持ち込む。力なら負けることがないからそのままだと負けるのはエルドだ。もちろん、それはエルドも理解しているだろう。だからこそ、少しだけ力を弱めて鍔迫り合いのままにしてエルドの心を揺さぶる。弾いたところで縮地で逃げられるのがオチだからね。


「ギド様」

「ん? なに?」


 いきなり話しかけられて動揺した。

 力は抜いていない、それで力が抜けるほど油断はしないからね。エルドの力を見くびっていないからこそ、動揺しても力が抜けなかったんだろう。


「俺は先輩を尊敬して槍を使っていました。今でも主の最愛の仲間であるアミ様には遠く及ばないと理解しています。少しでも距離を近づけたいと思っています。……でも、これが俺の心が選んだ得物なんだと思います」


 距離を離して形状変化した見た目は大鎌だった。

 よく見てみると刃の長さも持ち手についていた時よりも長い。チラリと横を見てみると投げ飛ばした刃が消えていた。今の一瞬で刃へと繋げているのだろう。そう考えてみるとかなりの脅威だ。簡単に飛ばせて戻ってくる刃……威力が低いのならば怖くはない。だけど、僕の黒百合の結界を破壊するだけの力があるのなら話は別だ。


「……死神みたいでカッコイイな」

「ふふ、ありがとうございます」


 黒いスーツが光を反射して、得物と相まって厨二心をくすぐってくる。青い光が魂を燃やす戦士のようで本当に成長したんだって思えてしまう。仮に自分の中で思い描く死神がいるのなら今のエルドみたいな姿なんだと思う。僕はかなり好きだな、これでも中身は男子高校生のままなのだから嫌いなわけが無い。


 エルドの欠点が一気に減らす心器だ。

 遠距離からの一撃がないために僕の結界を壊せずに傷も付けられない、そんな悪循環を招いていたのにこれのせいでより気を抜けなくなった。ここまで遠距離に威力があると縮地の価値がかなり高くなるし……おー、怖い怖い。


「ギド様、楽しんでいますか?」

「え、なんで?」

「笑っていますよ。まさか気がついていないとは言いませんよね?」


 笑っている……確かに楽しいな。

 エルドが、弟がここまで格上の人と戦って、それもチート持ちのゲームなら忌み嫌われるような存在を倒せるところまで来ているんだ。僕が気を抜いたら簡単にやられる。傷を付けたら許すは少しばかり簡単すぎたかもしれない。


 あー、嬉しいし楽しい。

 これなんだろうなぁ、ロイスが戦いをやめられない理由って。僕の場合は仲間が強くなってくれたことが嬉しくて、ロイスは自分の力を敵と戦うことで理解出来るから楽しいんだ。それでも力を測ることで楽しんでいることには変わりない。


「……はは、楽しいよ! エルド! 本気で潰させてもらう! ただ守っていれば勝つって話では済まなくなったからね! 倒してみろ!」

「……受け止めた上で倒してみせます!」


 一気に距離を詰める。

 僕の黒百合もエルドのサタンも、どちらも刃が長いからこそ攻撃範囲も広い。その代わり振ってしまえば隙も大きくなるけどね。それに槍とは違って絡め取って弾くとかの技は使えないだろう。さて、どこまでやれるかな?


 刃をぶつける前に軽く振って炎の斬撃を飛ばす。

 それを簡単に振って弾いたエルドの腹めがけて黒百合を伸ばした。ダメだ、長い刃先で受け止められて回転することで躱された。長いからこその利点を上手く活用している。すごいな……ここだとデメリットも少なさそうだし戦いやすいだろう。その光も自身のステータスを増加させるものだとすればこれだけの高レベルな動き方は納得出来るな。


「すごいよ! そんなことが出来るなんて!」

「受け流すことで精一杯ですけどね! 本当に一撃が重すぎます!」


 嘘じゃなさそうだね。

 逃げたエルドの額には汗が流れていた。刃先だけで攻撃を止めることはさすがにエルドには無理だったみたいだ。それでも直撃を回避して流すって行動が取れるだけすごい。槍なら確実に今の攻撃で終わっていただろう。いや、心器だけで対処出来ていたわけではないだろう。


 さっきまでの攻撃なら確実にエルドは倒れていた。これが成長、これが天才の戦い方。二つの能力を組み合わせることで格段、上の存在へと昇華したんだ。これが本当の成長、僕では出来なかったことだ。いいね、僕だって生まれた時からそんな才能が欲しかったよ。もしもそこまでの才能があれば……いや、その後に続けようとしている言葉はエルドを冒涜する言葉だ。絶対に思ってはいけない。


 天才だから楽だなんて凡人の甘えでしかない。それをエルドが教えてくれたんだ。今のエルドは僕が環境を整えたおかげで翼を羽ばたかすことが出来た真の姿。ここから僕が考えている以上の力を見せてくれるんだ。僕が与えられなかった世界を皆に与える……それが一つの成長への第一歩。成長した仲間と戦うことで僕も成長へ繋がる何かを見つけられる。


「不足なし、行くぞ!」

「ふっ!」


 また刃を飛ばしてきた。

 今回は一直線での詰めを理解していたからこその行動だろう。でもね、それだけなら簡単に躱せるんだよ。まさか本当にこれで倒せると思って攻撃はしていないよね。天才のエルドが甘えると思うな。躱してからの行動が……。


「はっ!」

「ッツ!」


 まさか……これを狙ってか?

 普通に振って飛ばしてきた斬撃が投げた刃の後ろから飛んできた。いやいや……これだけなら誰でも躱せるだろう。……いい、それなら先に攻撃を与えれば済むだけの話。


「喰らえ!」

「反響!」

「は!?」


 エルドの声が聞こえてすぐに結界を背中に張る。

 嫌な予感が後ろからしたんだ。そしてそれは間違っていなかった。魔力を多く注ぎ込んで作り出した結界、それが一回で破壊されてしまった。すぐに横へ飛んで距離を離す。嫌な汗が止まらない。額と背中から流れる多数の汗、もしあれを食らっていたなら……もしも少しでも魔力をケチって結界を作っていたら……怪我だけで済む一撃では決してなかった。


「……決め技だったんですけどね」

「うん、気を抜いていたら簡単にやられていたと思うよ。……なるほど、飛ばした刃から攻撃を反射させられるって感じか」

「さぁ? どうでしょうか」


 笑いながらまた刃を飛ばしてきた。

 次は大鎌じゃないし鎌の状態でもない。槍のようなフォルムで刃までも真っ黒になっていた。攻撃範囲も前の得物より広そうだ。今飛ばした刃にも注意が必要だな。前に飛ばした刃も残っているからいつでも飛ばしたり、反響させたり……ん? 反響……そう言えばエルドは反射じゃなくて反響って言っていたな……。


 分からないけど言葉の間違いだとは思えない。


「ふっ!」

「今度はかき消す!」


 槍になったせいで振りやすくなった。

 つまり大鎌のフォルムの時とは違って斬撃を飛ばしやすくなったってことだ。それなら斬撃を躱すよりも消してしまった方が確実に隙が減っていい。


「ここだ!」

「効きません!」


 全面からの攻撃を簡単に流された。

 すぐに斬撃を飛ばしたけど躱されてしまったので後ろへ下がってエルドを見る。冷や汗を流しているな。大鎌の時よりも一撃が重く感じられているのかもしれない。受けたり与えたりするダメージとかの量は大鎌の方が大きいみたいだ。その代わりに隙が大きいって感じかな。何度も何度も放たれた斬撃は小さな結界で流せるし背中側にさえ、斬撃を飛ばさなければ反響も脅威ではないからね。


「さすがに……重い……!」

「兄より優る弟なんていないんだよ!」


 動かないところを見ると理解しているんだろう。

 余計に動いてしまえば隙を作るチャンスになってしまうって。それなら僕の後ろに刃がある今の状況を維持した方がワンチャンスを掴める。僕でも同じようにするだろう。何度も剣を振ってエルドを下がらせていく。


 最初は縦の斬撃、それを槍を振って弾いて、次に回転して流れで行った斜めへの一撃も槍の持ち手で流される。よく分かっているな、心器は壊れたりなんてしない。それを理解しての持ち手でのガードだ。普通の武器ではないということが分かっているだけで選択肢は増える。


「早く逃げた方がいいんじゃないか?」

「まだ! その時じゃありません!」


 よく分かっている、逃げても追われるだけだ。

 縮地の後に即座に縮地は放てない。これが最強ランクのスキルである縮地の最大の弱点だからね。そして逃げるにしても長距離を飛ばすことは出来ない。魔力消費もあるのだから転移より距離による魔力消費が少なく、飛べる距離や連続性がないスキルだ。躱しながらも僕の背後に刃がある状況がエルドの最後の希望、つまりは僕が動かなければ逃げることも出来ずにやられるってだけ。


 少しずつ表情が青くなってきて傷がついていく。

 弾き切れない斬撃の破片のようなもので本当に微小ながらエルドを苦しめているんだ。これを続けているだけでエルドは勝手に自滅する。自分の心器の能力に驕って最大のチャンスを不意にして負けるんだ。しょせん、成長しても圧倒的格上相手には意味などない。


「ギド様?」

「なに?」


 いきなり話しかけられて少しだけ驚いた。




 明らかに苦しそうな顔。




 それが一気に笑顔に変わった。




「これが最後の一撃です!」


 そう言って姿を消した。

 縮地だ、しょせん逃げてまた刃を飛ばすだけだと高を括っていたが、すぐに考えを改める。前方から飛んできた斬撃が向かってきたんだ。それもエルドからの一撃だと考えるには強すぎる一撃。すぐに結界を張るが簡単に壊れる。次に赤壁を張るがこれも簡単にかき消された。黒百合でガードの体勢をとる。


 重い、すごく重すぎて受け止めているだけで腕が軋むような感覚に襲われる。痛い、痛くて痛くて受け止められないと思ってしまう。ワイバーンの一撃とは比にならない。終わりが来ないような斬撃をただただ黒百合で受け止めた。躱せるだけの余裕があるのならもっと前にしている。


「負け……ない!」


 消せた……何とか消せた。

 ただ……腕がすぐに動いてくれない。見てすぐに理解した。上腕二頭筋ら辺の腕が切れかけていて骨が見えている。見るだけで痛ましい姿だ。刃の直線上から動かなかったところを見ると何か小細工をしていたんだろう。負けだった、完全な負け。僕が定めたルールで僕が負けただけに過ぎない。それなのに……とても悲しくて嬉しい。本当に不思議な感覚だ。


「……はは……エルド……よくやったね」


 さすがに吸血鬼の真祖の体だ。少しだけ動けなかったけどボロボロで千切れそうだった手が一分も経たずに完治している。もしも殺し合いならこれでエルドの死は確定だろう。地を這うように、戦闘が終わっていないと分かっているから心器を離さずにいるエルド……僕をここまで追い詰めたエルドを拍手無しでいられるはずがないだろう。


「ほら、ヒール」

「……すいません……もう少しだけ魔力があれば倒しきれたんですが……」

「いやいやいや! 本当にやられたら兄としての面目が丸潰れだよ!? 勝てて良かったって心底思っているからね!? 分かっている? 吸血鬼で本当に圧倒的格上の相手を倒しきる寸前まで追い詰めるって普通は無理だから!」


 イフがいたら話は別だっただろうけど。

 やられかけても回復をしてもらってすぐに詰めればいいし、何よりアクセラレータで逃げるための速度を補助してもらってって倒されるってことはさすがにない。だけど、それは本当に僕を超えたチートの力を借りているのだから倒せて当然の話だ。僕単体をここまで追い詰められるだけで将来有望過ぎる。これはさ……認めざるを得ないんだよね。


「エルド! 僕と一緒にディーニを倒そう!」

「……ええ、よろしくお願いします。微力ながらギド様達と戦わせていただきます」


 そんな姿を見て微力だと思うわけないね。

 本当に恐ろしくなったよ。ここまでの能力を短時間で得て考えついた天才。それが血は繋がらないにしても僕の弟として、配下として一緒にいてくれるんだから。後で僕を倒した方法を聞いておこうかな。さすがに聞きたいことが多すぎるよ。


 傷付きながらも戦った、そして今にも泣きそうな弟を抱きしめて頭を撫でた。分かるよ、苦しかったり悲しかったりして流れる涙じゃないんだね。僕を追い詰めることが出来た嬉し泣きなんだろ。……もっと強くなって僕を超える時を楽しみにしよう。その時には僕ももっと強くなっている。自然と笑みがこぼれてしまうな。気持ち悪いと分かっていても止められないや。

我ながらエルドらしい心器を作れたなって思っています。ちなみに武器の名前の由来はエルドは試練を多く与えられ生き残った→試練→土星の別名→サタン(サターン)です。悪魔の方のサタンではありません! また次回はエルドとの模擬戦に関しての解説なども含む予定です。どのようにしてエルドがギドを追い詰めたのかを楽しみにしてもらえると嬉しいです。


少しだけ忙しいので投稿感覚が少し伸びると思います。次は四日後以内には出すように頑張ります。


もしお暇があればこちらも……

つ「無能な英雄(仮タイトル)」

https://ncode.syosetu.com/n5041ga/

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