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4章71話 我儘同士です

少しだけ書き直しをするかもしれないです(未定)。

「それでは箱庭を作らせていただきます。もちろん、理解されているでしょうが殺すことは極力しないようにしてください。死にそうな一撃ならば私が外へと飛ばしますが念の為に」

「大丈夫、死ぬ手前に追い込むだけだから」

「……普段なら心強い主の言葉がここまで恐ろしく感じる日が来るとは……ですが……舐めていただいても困ります。俺は俺で成長していることを示させていただきますよ」


 心強い僕の言葉か……。

 いや、違うね……僕がエルドの言葉で気にとめなければいけないのは、僕に対してここまで強い言葉を吐いたことだ。安心させるためか、自分を鼓舞するためなのかは分からない。それでもエルドが自信を見せてくれたことがなかったから、これもまた成長なのだろう。


 今回はイフの力は借りられない。

 万が一にも殺しかけた時に助けてくれる人としてイフとシロがいるからね。シロは戦闘を見てイフの魔力が切れた時に補充したりと重要だ。これは本当に僕一人のエルドとの戦い。黒百合を肩に担いでワルサーを構える。僕でエルドの壁になれるかは分からない。下手をしたら一瞬で終わってしまうほどにエルドの覚悟は脆いかもしれない。だが……その時はその時だ。


「飛ばします!」

「かかってこい、エルド!」

「はい!」


 その声と同時に見知らぬ森へと飛ばされた。

 これがイフの考えた試練の場所なのか。


「黒百合、展開しろ」


 地面に突き刺して魔力を流し込む。

 一切の配慮も何もない。本気で殺しにいくのだから黒百合だって何だって先に使わせてもらう。心器の形状をワルサーにしているのだって連射速度や縮地によるダメージを考慮した上で、だ。エルドを弱いとは思っていないからね。こちらの方が殺しやすい。


「赤壁」


 ワイバーン自体に炎の力が纏われている。

 中に銀も混ぜ込んでいるのだから魔力循環もかなり高めになっていて扱い易い。そのため少しの魔力消費で炎魔法の力を自由に使えるところが黒百合の魅力だ。もちろん、それだけで済ませるのなら大したことがないけど……。


「今は自己強化の時間を稼がせてもらう」


 周囲を確認しているだけで自己強化がなされているみたいな普段の僕とは違う。イフがいないのだから何かをする度に時間を稼がなければいけないからね。その点で言えば黒百合は守りに徹することの出来る最高の武器だ。いや、もっと言えば攻めに徹しやすい僕だからこそ、瞬時に守りに徹することの出来る武器を作ったって言うべきかな。


「さすがに……縮地で攻めには来ないか」


 前回のことを踏まえて戦っている。

 でも、それだと僕の強化を指をくわえてみているだけになってしまうぞ。それが成長だとは言えるわけがないね。攻めていてたとしてもぶっ飛ばしていただろうけど。とりあえず黒百合を抜いて一薙して炎の壁を破壊する。触れてくれれば赤壁の能力も分かるというのに……って、それはエルドを馬鹿にしすぎか。


「燃えやすそうな場所だ」


 場所を確認するために周囲を確認したけど木ばかりで他には何も見えない。一撃だけでいいと言った手前、不意の一撃の価値が高いことは明白だからね。開幕での縮地をしないということはそれを狙っている可能性が高い。というか、場所を考えた場合にそれが一番やりやすい。


 まずはそれを消す。

 少しも手加減はしないって決めたからな。


「燃えろ」

「ッツ!」


 息を飲む音が聞こえた。

 やっぱりか、黒百合で回転斬りを行って木々を燃やしたらどこかにエルドが隠れていたみたいだ。みたいだって言うのは視認が出来ていないから。研ぎ澄まされた耳が音を確認しただけで場所の特定までは出来なかった。


 黒百合単体に炎の属性が備わっているからこそ出来た芸風だけど、こうして見ると戦う場所は限られてしまうな。一回だけ回転斬りをしたのに木々を連鎖的に燃やしてしまっている。もしこれが普通の森の中だったら……さすがにその時は魔力供給を切って扱えばいいから考え過ぎか。


「また隠れてもいいが……それじゃあ、遅延にしかならないよ。それに広がっていく火にエルドは耐えられるのかな。僕のように耐性があるわけじゃないだろ?」


 ワイバーンとの戦いで得た炎への圧倒的耐性。

 それがこの場面でも活躍するとは思ってもみなかった。というか、僕の得意な属性は氷なのだから普通は苦手なはずだし。それを言えば回復魔法でしっかりと回復出来ていることも吸血鬼という観点から考えておかしいんだけどね。……チートに感謝するしかないや。少なくとも僕が頑張ればなんとか出来たって言える自信がないからね。天才であるエルドを追い詰めることが出来ている今の現状を作ってくれた新しい自分の体に感謝をしておこう。


 少し気を逸らしていた時だった。

 ガギンと背後から音が聞こえた。今度はしっかりと視認出来たぞ。エルドからの一撃が背後から迫っていたんだ。それでも縮地は残していたようで引くために使っていたけれど。なるほど、攻めに転用出来なければ守りに使えばいいってことか。攻撃は最大の防御とはよく言われているけれど、逆に防御は最大の攻撃ともなりえるってことだね。


「良い攻撃だったよ」

「やはり何か仕込んでいましたか。……褒められて嬉しいですがそれは関係がない事です!」


 何かが飛んできた、ナイフだ。

 それをまた見えない壁が弾いてくれる。やはり防御に徹した武器っていうのは使い勝手が良い。本当はワイバーンのような敵と戦うために作り出した武器ではあるけれど。こんな小さな攻撃を勝手に防いでくれるだけでリスク管理が出来るからね。こんな弱い攻撃じゃ僕の作り出した結界を壊せやしない。


「攻め倦ねているようだね。それも仕方の無いことだろうけど」


 小さく呼吸をする。

 僕は圧倒的なヴィランとなる。それがエルドの成長を見届ける術だ。僕が敵役になってエルドはどうするのか、壁を壊せなければエルドの覚悟は無駄になるだけ。それでも壁を壊そうとして成長して見せろ。あの時に見せた氷柱、それをまた作り出して見せろ!


「こんな弱いエルドじゃ。誰も救えないね」

「うるさいです!」


 そうやって素直なところは好きだ。

 だけど、こういう時には馬鹿だとしか思えない。


「反射」

「グッ……!」


 ダメージを食らってすぐに縮地はアリだ。

 だけど……そこを狙われたらおしまいだぞ。


「焔斬」

「ッ! まだ、だ!」


 ……へぇ……やるじゃん。

 無意識に手を叩いてしまった。武器の性能差があるというのに槍で弾いたんだからね。ダメージは受けていてもかなり小さくさせている。さすがは天才だよ……でもさ。


「二回目は? 三回目は?」


 連続で斬撃を起こす。

 火を伴う斬撃だ、ただの飛ばした斬撃とは違って熱を持っている。普通に受けるだけじゃ死へと向かうだけだろ。ここでも僕は近付いて攻撃をするとかはしない。する意味が無いからね、それで一撃をもらうくらいなら最低限の攻撃だけでいいんだ。普段の無駄な動きをする僕だと思うな。


「縮地は確かに強いよ。でもさ、ここまで開けてしまったら隠れることも出来ないでしょ」


 エルドが隠れたとしても延々と燃え続ける木々に焼かれていくだけ。縮地は距離を詰められる最高のスキルだ。それでもそれだけでしかない。連続で使えない時点で使う場面は考えておかないいけないからね。


「逃げるか? それでもいいよ。いつまでも逃げ続ければいい。だけど、それで後悔するのはエルド自身だ。こうやって燃え続ける木々に焼かれていくだけの、蝋の翼を溶かされていく英雄でしかない」


 挑発をすることは僕の本意じゃない。

 だけど、もしも死ぬことがないと思っているのならそれは違う。例え大切な弟だろうと本当の覚悟を持ったという戦士に、僕は手加減をするなんて愚かなことは出来ないからね。最悪は死ぬかもしれないが死ぬ手前ならイフがいればなんとかなるのだから気にする必要は無い。


「所詮、その程度だったってことだ」

「そんなことはない!」


 うおっ、結界の一部が欠けた。

 距離を詰める時に縮地を使ったのか。それに僕が自己強化をかけている時間もエルドは有効活用していたようだし。なるほどね、速度だけに強化を全振りしたのか。それならこれだけの速度は分からなくはない。うん、だけど……。


「二度目はない」

「ガッ!」


 傷の入った結界に一撃を加えようとすることは予想が出来ている。破壊しなければダメージを与えることは出来ないからね。そこを解除して顔を殴っただけだ。切る必要なんてない、撃つのなんて以ての外だ。もし躱されたらって言う時のリスクを考えるとこっちの方がノックバックもあるし、相手の予想に反した攻撃にもなる。


「同じ攻撃をする、エルドの悪い癖だ」

「クッ!」


 地面に倒れ込むエルドの腹を蹴る。

 悪いね、ここまでしてでもエルドを止めたいって気持ちもあるし、何より成長に繋がるとすれば僕はなんだってする。心は痛いよ、傷が癒えたのにまた傷つく。そして今度は傷付けるのは僕なんだから。


「僕はね、生まれつきの才能があるんだ。だからこうやって天才である君を圧倒出来る」


 僕はただチートを振りかざすだけの、言ってみれば虎の威を借る狐でしかない。自分の力ではないのにも関わらず自分の欲望を満たすために翳す雑魚でしかないんだ。だけど……エルドは違う。この子は本当に優しくて天才なんだ。分かって欲しい、気付いて欲しい。些細なことがエルドの成長に繋がるって。


「雑魚はいつまでも雑魚なんだよ」

「ァ……」


 何かを叫ぼうとした時に頭を踏みつける。

 口を動かす暇があるのなら自分の心配をしろ。普段の僕だと絶対に思うな。僕の根底は吸血鬼という悪魔の一種だ。人の道を逸れるつもりはないが人によっては僕は人として捉えられやしない。


「勘違いするな。僕はいつでも君を殺せる。エルドだけじゃない。キャロだって誰だって。お前の大切なロイスの指でも持ってきてやろうか?」

「な……ら……」

「聞こえないな」


 髪を掴んで頭を上げさせる。

 こんな僕に何を言いたいのだろうか。僕に精神的な攻撃は効かない。例え僕が悪魔になったとしても、エルドに嫌われたとしても壁になって。


「なんで……泣くんですか」

「は……?」


 泣く……泣いていない。

 違う、これは違う! 涙じゃなくて汗でしかない。そんな僕を憐れむように見ないでくれ。僕はエルドの壁にならないといけないんだ。そのためにはいくらでも悪役として……。


「攻撃の度に……悲しそうな……顔をしないでください。確かに……俺は雑魚です。それでも……ギド様が悲しむ必要はないんです」


 どこかへと飛んだ。

 きっと縮地だ。このまま傷をつけられて。


「こんなことで勝ちたくないです。本気で来てくれるのは嬉しいですよ。それでもギド様らしさを捨ててまで戦って欲しくないです」

「……うるさい!」

「遅いです。普段なら強化が切れていることは理解しているはずですよ」


 確かに言われた通りだった。

 僕の速度はエルドに負けて攻撃が空を切った。もしこれをさっきやっていたなら……簡単に傷をつけられて負けていただろう。あんなにも隙が多すぎると感じてやらなかった黒百合での攻撃を僕はしていたのだから。それも結界を作らないで特攻したのだから救いようがない。


「俺だって少しは自己回復は出来ます。ギド様が言うように天才なのかもしれませんね。皆様から教えられてこうやって成長しているのですから。だからこそ、普段の楽しみながら戦うギド様と戦いたいんです!」

「……馬鹿か……」

「ええ、馬鹿ですよ。命をまた助けられて名前も授けてもらって、ワガママをしても弟だと言ってくれる主を大切に思ってしまう馬鹿です。きっと俺の覚悟を見定めるために動いてくれたんだと思います」


 笑って槍を構えた。

 ポロポロと欠けていく。きっと限界が来たんだろうね。あれだけの攻撃をした後だ。ここまでもったのはさすがはシマさんの武器なだけはある。武器もなく僕を諭す、それでも余裕を見せているエルドがよく分からない。


「やっぱり、俺にはこうやって俺の話をしっかりと聞いてくれるギド様が大好きです。これが俺の本当の忠義、人と違う気持ちでいい。大切な主に捧げる能力です」


 構えたままの腕に何かが現れる。

 何かがエルドの中で定まったのかもしれない。僕が今、見ているものは本当の成長。もしかしたら僕がさっきの戦いのままだったらこうなってはいなかったのかもしれない。それは分からないけれど……美しい武器だった。


「サタン、俺の試練を意味する言葉です。無理やり作った試練じゃギド様は何も見えなくなりますよ。俺を本当に大切に思うのなら無理に作ったギド様はやめてください」

「……言うようになったね……」

「はい、心器を出せたということは成長したという証ですから。それに見てください。この淡い光は新しく得たスキルです」


 これが……エルドを助けて死の手前まで送ったスキルか。その割には美しくて、儚い光のように感じてしまうけど。淡いブルーはエルドの心を表しているのだろうか。


「なんとなく……あの時とは違う感じなので多分ですがディーニと戦った時のスキルとは違いますね。使っていて自分の命の危機を感じたりはしませんから」

「そんなのはどうでもいい。成長しようがなんだろうが僕に傷を付けなければエルドの負けだ」

「分かっていますよ。だから、笑っていてください。今の笑顔のまま戦ってください。喜んでいるギド様と戦いたいんです。嬉しそうに戦うロイスを稽古するように……俺の本気を感じてください!」


 本当に……言うようになったな……。

 無理に作ったか、またイフに怒られそうだね。仲間のためにって思ったことがまた仲間を心配させる結果になったのだから。そう言えば僕が戦う時に殺意を刃に込めることは少ないような気がするな。ワイバーンの時だってなんだって誰かを思って戦って……いや、まさかね。


 それを分かっていて話していたのなら僕なんかじゃなくエルドが兄になるべきだ。笑えてしまう、調子に乗って兄だって言わなきゃよかった。そうだよね……僕が僕らしくいなくてどうするんだ。僕は確かに悪魔だ、吸血鬼だ。だけど、それでも人だと思って接してくれている皆がいる。僕が僕を悪魔に変える必要はないよね。


 よく分からない形状のエルドの心器。

 一本の槍並みに長い持ち手の端から伸びた扇形の端をなぞる様な刃。一言でいえばフラフープのように刃が円状にあって、その中に持ち手があるって感じかな。刃の間にエルドが入っている形だから扱いにくいとしか思えない。……そうだ、楽しもう。エルドがどうやって戦うのかを楽しんで見させてもらおう。確かに僕は悪役になってでもエルドを成長させたい。だからこそ、エルドの成長に繋がった要望には応えてあげないとね。


「来い! 返り討ちにしてあげるよ!」

「行きます!」

次回でエルドとの模擬戦は終了です。その後は軽い話を出してから冒険者ギルドとの戦闘ですかね。こんな感じで章のタイトルの伏線を回収していきます。早く本タイトルの伏線を回収したいですね。


次回は水曜日までには投稿します。

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