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4章67話 好意は血の繋がりさえ超えるのです

話の区切り上、少しだけ短いです。

「ありがとうございます」

「いいよ、ゆっくり食べな」


 二十分程度あけていたから戻ってくる頃にはエルドは泣き止んでいた。それでも泣いたであろう跡が目に残っていて時折、僕を気にしたようにチラチラと見てくる。色々な考えが頭の中でごちゃ混ぜになっているんだろう。エルドは責任感が強いからね。自分でしたことの意味くらいは理解しているだろうから。


 僕が気を使っているのが分かっているんだろう。

 しっかりと食べながら、それでいてゆっくりと胃の中へ粥を流し込んでいる。「美味しい」って小声で呟くのなら大きい声で教えるように言ってくれた方が嬉しいんだけどね。こうやって美味しそうな顔をされると助けられて本当に良かったって思えるよ。


「気分はどう?」

「寝たので……楽ですね。寝すぎたせいで体が固くなっているように感じますが」


 軽口を叩けるのは元気になった証だ。

 微笑みながらそういうことを言ってくるけれど顔は強ばっている。まぁ、怒る気もないから……それは言いすぎたけど。本気でクビだなんだって言うつもりは無いから頭を軽く撫でて、肩に手を当てて回復魔法をかけておいた。


「……気を使わせて申し訳ないです」

「配下を大切にしない主に価値なんてあると思うか? それに生き残ってくれただけ貰い物だ」


 日本にいた僕ならきっとそう思わなかった。

 命があっても苦しければ意味が無い。こうやって笑いかけて励ませるのは、本当に生きていることが嬉しくて、エルドが生きていて喜べているのはガンがいなくなったからだろうね。誰も知らない世界に来たから僕は色んな考えに触れられた。


 仲間が大切だ、それはずっと漫画とかアニメだけの話だと思っていた。命を捨ててまで殿として戦ったりとか、仲間のために罪を背負うなんて僕には一生、共感出来ない話だって思っていたけれどそんなことはない。


「……本当に……優しい味です……」

「そりゃあね、僕がエルドを思って作った料理が美味しくないわけがないだろ」

「ええ……そうですね……そう……ですよね……」


 さらにゆっくり粥を口に運んでは俯いている。笑いながら食べては飲み込んで食べては飲み込んでという、普通のことを何分もかけて粥を食べているのを見ると何とも言えない気持ちにさせられてしまう。……噛み締めているのかな。


「……こうやって……本当に優しくされたのは久しぶりだったんです……。食事も……勝手をしても笑って許してくれる……」

「当たり前だろ。エルドは弟みたいなものだ。仲間だったり配下だったりする前に、エルドは僕の弟であって、ロイスの兄なんだよ。血の繋がりとかよりも大事な人だと思っているんだ」


 本当の気持ち……恥ずかしくて言う機会なんてなかった言葉達だ。普段からこんなことを言っていると言葉の重みが薄くなるからね。言うとしても配下として大切だとかその程度だ。弟だと思っているなんて言えやしない。


 でも……今となっては普段から言っておけばよかったって少し後悔しているよ。こうやってエルドが泣き始めてしまうと……本当に嬉しかったんだって思ってしまうから。エルドが喜んでくれることが僕にとって嬉しいからさ。


「……う……っ……」

「大丈夫だ、誰もエルドを虐めない。泣き止もうとしなくていいよ。僕の前ででもいいのならいくらでも泣きな」


 泣くことは感情のリセットに繋がる。

 我慢の限界とはいえ、エルドは僕の前で泣いてしまったんだ。それを見ないで済ませようなんてする気はないさ。こうやって頭を胸に押し付けて泣き続けているエルドを見ると、僕の考えていた男としてのプライド以前に本当に色々なことが頭の中でグルグルと回っているんだ。


 それを僕は受け止める。

 それが主として、兄としての役目だから。


 辛いよな、苦しいよな……。

 この腕を掴む力が僕に教えてくれる。


「……教えて欲しい……」


 返事はない。

 こんなことを聞くのはガラではないけど……。


「一人で抱え込んでいても何も変わらないさ。気持ちを抑えてからでいいから、僕に、兄貴にエルドの過去を教えて欲しいんだ」


 出来る限り優しく言ったつもりだ。

 それでも啜り泣く声だけが聞こえてくる。


 話したくないよな、過去に暗さを持つ人は皆が分かっているんだ。僕もそう、過去を話しても第三者からしたら不幸自慢にしかならない。それ以上に分かろうとして接してくれる人なんてひと握りいるかどうかだ。それは自分でも分かっているから、不幸自慢なんてしたくないから話そうとなんてしない。


「……俺の……っ……過去なんて知ったらっ……嫌いになってしまいます! だからっ! だから嫌だ!」

「……そうか……」


 ここで僕に自分の気持ちを教えてくれたのは勇気が出ないからだ。エルド……君もそうだったんだよな。僕と同じように拒絶しないと分かりながら勇気が出せなかった大馬鹿野郎だったんだ。頭を軽く撫でてやる。


「僕は兄貴だぞ。大好きな弟のことを嫌いになんてならないさ。兄貴は兄貴なりに苦労してきたんだ。エルドと比べるわけじゃないけどね」

「……でも!」

「バーカ、話さないで済むと思っているのか? 皆が心配しているんだ。本当のことを話さないで何て説明する?」


 過去のことなんて聞きたいと思わない。

 それは過去がどうであれ、今の僕が見ているエルドが本当のエルドだ。もしも過去におかしなことをしていたのなら変わったということ。変わったということは本当のエルド自身だったわけじゃないってことだろ。簡単に変わることなら根っこにあるエルドなわけがない。こんなワガママで頑固な男が簡単に変われたなら子供みたいに泣きじゃくったりしないよ。


「はっ……あは……ちょ……!」

「笑えよ、良いだけ泣いたんだ。今度は笑う番だぞ。僕はワガママだからね。エルドの感情も全て操ってあげるよ」

「あの……あひ……!」


 どこが弱いかとかはイフから聞いている。

 脇の少し下がエルドの弱点、だから、そこを中心的にいじめ抜けば泣いてられないだろ。いつまでも僕が泣いていいと言ったつもりは無いとか傲慢っぽい言葉を並べてみる。……うん、キャラに合わないな。


「僕に似て綺麗な顔が台無しだぞ」

「……確かに主は綺麗ですが」

「お前も大概だ。綺麗な顔で、そして綺麗な心を持っている。僕はそんなエルドの心が好きだから弟と思っているだけ。今のエルドが綺麗なんだから過去がどうだろうと嫌いにならないよ」


 息を飲む音、また泣き始めそうだったからくすぐって回避させる。泣かせるか、泣かせたら話が聞けないままで疲れて眠ってしまう可能性もあるんだぞ。せっかく目を覚ましてくれたのだから、どうせ、疲れるのなら長話をしたせいであって欲しい。


「……なんで……そんなに笑っていられるんですか?」

「えっ? 弟のことだからじゃない?」


 なんでと聞かれましても……特には……。

 理由があって動こうとかは思わなかったしな。いや、理由はあったか。エルドのことが大切だったから動こうとした。……じゃあ、弟のことだからで間違いないじゃん。もっとこの言葉に自信を持とう。


「エルド、あまりワガママを言ってマスターを困らせてはいけませんよ。バラされたいのですか、一度起きて眠ってしまったということを」

「あの……」

「ああ、言ってしまいましたね。自業自得で」

「いや、お前のせいじゃ」


 頭を手でポンと叩いてイフの顔を柔らかなベットの海へと沈める。起きていたって……こいつ、二度寝を決め込んだら思いのほか寝てしまったって口か。確かにエルドも……悪くないな。疲れていたのだから寝ていて悪い理由になんてならない。


「なんで私に!?」

「バラさなくても話をしてしまった罰だ」

「くぅ……エルド、許しませ」


 もう一度、イフの顔をベットに沈める。

 そんな八つ当たりをしている場合か。せっかくエルドと家族としてのスキンシップを出来ていたというのにコイツは……。そんな泣くフリをしたって何とも思いません。見なさい、エルドだってどうしたらいいか分からない顔をしているでしょうに。


「それ以上やったら二度と一緒に寝ない」

「はい、やめます」


 うんうん、その切り替えの早さは世界一だね。

 こういう感じでいつも素直ならどれだけ可愛いだろうか。……いや、素直じゃなくても可愛いか。うちのイフたそ本当に可愛い。やめてくれて本当によかったわ。売り言葉に買い言葉だけど一緒に寝ないとか今となっては難しそうだし。


「……ふふ……はっはっは!」

「そんな面白いか?」

「すいません、久しぶりに帰ってきたなって思ってしまったんです。そうですよね……誰も俺を拒絶しないですよね。意固地になってすいませんでした」


 いきなり笑い始めて狂ったかと思ったよ。

 まぁ、嘘だけどね。普段の僕達の風景を見て吹っ切れたのかな。泣きそうな雰囲気はそこにはないし、目には何か新しい意思が宿っている。少し青みがかっている瞳が僕の顔を見つめて……深呼吸して大きな音で吐いて。


「嫌じゃなければ聞いてください。俺の過去を」

「じゃあ、嫌だからイフに任せるよ」

「くっくっく、無理やり聞かせますよ。イフ様、手伝ってもらえますか?」

「分かったよ、バインド」


 くっ……拘束魔法を使うなんて最低ッ!

 拘束魔法シロのハグだけどね。そういうところで息を合わせて来るところが街に来る前のエルドそっくりだ。戻ってきたのか……本当に僕を喜ばせてくれるなぁ。聞きたくないなんて嘘に決まっている。笑ってエルドと目を合わせる。……笑い返してくれた。


「俺の名前はエルド……現パトロの領主であるディーニの息子、つまり本名はエルド・エレクと言います」

閑話を含めて二百話となりました!

ここまで頑張って書いてこれたのも読んでくれる皆様がいたからです! 本当にありがとうございました! これからも面白い話を意識しながら自分なりに頑張って書いていくつもりです! 応援よろしくお願いします!


そして次回、今度こそエルドの過去について書いていきます。エルドが過去を話すことでどう変わるのか、どのように物語が進むのか……お楽しみに!


次回は土曜日までに投稿する予定です。

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