1章1話 チュートリアル? あっ、興味なしっすか
拙い文章で申し訳ないです。
戦わないと……いやいや無理だって!
僕って少し前まで平和な国の一国民だったんだよ! 目の前の野生じみた狼でさえ無理なのに、こんなゾンビみたいなの余計に無理だって! 武器だってないのに! それに見た目サーベルタイガーですよね!
触れただけでも手が爛れそうじゃん。僕はまだ生きたいのでね。
何とか後ろに下がったけど背に壁がついただけ。あれ? ピンチじゃないのか?
「グラァアアア!」
「って、来ないで!」
僕はおもむろに手に現れた何かを使った。
感触で分かる鉄の硬い感触。そして体にふりかかる生臭い何か。
これって……拳銃?
僕が持っていたのはゲームで見慣れた、それでいてその中で愛用していたワルサーだった。
それの弾丸がゾンビ狼の頭を貫いた、はずなのに……。
「生きている……んだよな?」
まだ倒れていない。武器が現れたのも意味不明だけど何でこれで死なないんだ? 人だったら脳天を貫かれて即死のはず。
そうか、人だったらという考えをやめよう。相手はゾンビ、ゾンビだゾンビ。武器がある、やるしかないのか……。
「って、思うわけないじゃん! さらば!」
四足を撃ち込んで行動力を削ぐ。
これが僕の隠された力か。……って、あれ? 偶然にしてはよく当たったな。すぐに構え直して頭を撃ち抜いておいた。ゾンビゲームでも先に足を撃って行動力を削いでから倒すのが普通だからね。
【レベルが上がりました】
えっ、レベルアップ?
僕の目の前にステータスが現れる。でも触れても何も起こらない。一応、こんな感じだ。
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名前 【未定です】
種族 吸血鬼・真祖(人族)♂
職業 無職
レベル 1
HP 10/10(S)
MP 300/300(S)
攻撃 13(S)
防御 12(S)
魔攻 66(S)
魔防 67(S)
幸運 25(S)
魅力 95(S)
スキル 日光弱体
固有スキル
経験値上昇F
ステータス補正F
魔眼F(魅了、鑑定、偽造)
スキル創造
テンプレ
称号 魔神の加護
心器 ワルサーP38
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なぜか、魔眼とかスキル創造なんて持っていなかったスキルが書かれている。……なんで?
それよりもレベルが上がったはずなのに1って……もしかして、ステータスを持っていなかった状態だったのか? レベルを持っていなかったからステータスも見れなかったとか。
えっ、ということはこれってチュートリアルか? まさかでしょ。多分これから地獄が訪れることになるんだろうな。
あーあ、なにかナビゲーションしてくれるスキルとか取ればよかったなぁ。
意外に今からでも遅くなかったりして。
出来上がれ! 我が右腕、ナビゲーション!
……なんちゃって、
【あっあー、うん、声が出ますね。こんにちは、マスター。これからあなたをナビ、そして補助させていただきます】
「えっ? マジでなにか出来た?」
【その通りです。一応、説明係と補佐係として作られた存在です。確か、スキル創造という固有スキルを手に入れませんでしたか?】
「あっ、あります……」
【そのスキルから生まれた存在ですね。能力は『自由にスキルを作り出すこと』です】
でも自由自在にとはいかないんだろうな。
教えて! ナビゲーションさん!
【はい、お教えします。簡単に取れるスキルならば一週間周期で、少し修練を積まなければいけないものは一月ほどで、簡単に手に入らないものは半月ほどです。詳しく言うならばスキル自体が魔力を溜め込み、保有している魔力を消費してスキルを作りだすような感じです】
「えっ、じゃあ何でナビゲーションは作れたの?」
【スキルを持たせた側からの配慮ですね。実際はマスターの持つMPを足しても、三十年待ったとしても作ることが出来ないクラスのスキルですから】
とても誇らしげに聞こえてくる。
そっか、作って正解だったみたいだね。少しだけスキルを持たせた側の配慮ってところが気になったけど……別に今は知っていても知らなくても大丈夫だろう。先に聞かなければいけない事だったり、やらなければいけない事が多すぎるし。
「おー、なるほどね。じゃあ、こっちの取ることを強制していたテンプレは?」
名前的にいい予感がしないんだけど……。
【いわゆる主人公補正ですね。ただしこちらの方が能力補正が高いです。詳しく分類すると『ステータス補正・極大』、『戦闘補正・極大』、『スキル補正・極大』、『ラッキースケベ』、『テンプレに巻き込まれやすくなる』ですね】
「うん、最初の三つはすごくありがたい。でもさ、後の二つはなに? いや、嬉しいよ。異性に困らなさそうだし。たださ、最後のは絶対に要らない」
静かにしたいのに! 静かに生きたいのに!
僕が何をしたっていうんだ!
【でも、このスキルは元々持っていたスキルのようですよ? 妹さんも同じようでぶつかりあった結果、発動しなかったようですけど】
まさかのMOTOMOTO!
要らない! けど、ここであいつに救われていたとは……今だけは感謝しておく。
【後、主人公補正と呼ばれる勇者特有のスキルならば『ステータス補正』、『戦闘補正』、『スキル補正』、『ラッキースケベ』、『厄介事を抱えやすい』ですね。まあ要らないですね。極大ほどのレベルアップ時のステータス上昇率はありませんから】
やっぱり強いんですね。
……ないよりはマシと思うしかないかなぁ。
【ステータス補正単体スキルにはランクがありますが統合スキルにはつきません。これは魔眼にも言えることです】
「ちなみにこの魔眼については?」
【吸血鬼の真祖が持つ固有スキルです。マスターが吸血鬼になったのは魔神の加護の影響ですね。詳しいことは管理者権限に引っかかるためお教え出来ませんが】
何か怖いことを言われた気がする。
僕って何で魔神の加護を持っているの? 無神教だよ、僕は。
まあ、このことについては置いておこう。今はそれよりも必要なことがある。
「心器ってなに?」
【その人個人に大きく関わる、神器のようなものです。持てる人も少ないですし戦えば戦うほど武器が進化します。その中でも拳銃なのは珍しいですね】
そうか、ならいいや。
ワルサーが僕の愛用していた物だから納得出来るし。それ以外なら後は何があるかな。
「どうすればスキルって使えるの?」
【魔眼でしたら目に血を集めるイメージをすれば使えるはずです。魔法やスキルはイメージが大切なので私とマスターの心を繋げれば、使いたい時に使用しますよ?】
「それは助かるよ! やったことないから加減がわからないしね!」
なんかナビゲーターの人に溜め息をつかれた気がする。
【確かに魔力面では困りませんもんね。魔神の加護のせいで】
「……こんなにステータスのばらつきがあるのは加護のせいなのか……」
魔神、グッジョブ!
名前的に少し嫌な予感がするけど。ただ邪神みたいな怖そうな名前ではないしな。そこまで悩む必要は無い、ましてや良いことを作り出してくれているのだから、今のところは感謝しか出来ない。
【それに魅了状態にさせた魔物、つまり一時的とはいえ配下にした魔物が倒した敵の経験値も、マスター側に恩恵として得られますしね。マスターが考えているアイデアは悪くないかも知れません】
「そっか」
薄らと考えていたアイデアだけど褒められるとは。
僕が作り出したスキルだからこそ、僕を褒めたたえてくれている可能性はあるけど……素直に嬉しいな。どちらかというとライトノベルとかを読んでいるからこそのアイデアだったし、普通の女子からしたら気持ち悪がられてもおかしくないアイデアだったからなぁ。
【そのため配下が出来た時のためのネットワークに近いものを作ることを推奨します。マスターの考えからして時期に仲間を必要とするでしょう】
「そうだね……一人だと出来ることは限られてしまう。分かった、それで繋げるにはどうすればいいの? それにナビゲーターさんの名前も決めないと」
【お名前を頂けるのですか! それなら勝手に繋がせて頂きます。マスターと繋がる、甘美な響きがします】
「あっ、じゃあそれをしている間に名前を決めるね。えーと」
【接続完了しました! それでお名前の方は?】
早! 名前まだなんですけど?
【そんな、私とは遊びだったんですね……】
えっ、めんどくさい性格だな。
って、もしかしてこれって心を読まれている?
【その通りです。これが繋がるということです。その分、何かをする際には考えてすぐに構築が可能ですし、放つ時にもタイムラグがありません】
理にかなっているから何も言えない。めんどくさいけど。
でも、それなら楽でいいな。めんどくさいけど。……それで名前か。
「あっ、仮定を意味するイフなんてどう?」
【……悪くありませんね。それでこの後はどうしますか?】
どうしますか、か。
運動は得意じゃなかったから戦いたくはないけど戦わなければ強くはなれない。仮に……イフに褒められた配下を作るのだって強くなきゃ従わせたり、慕わせたりなんて事はできっこないからね。
それなら、
【それなら右へ進んでください。こちらにいるゾンビウルフと同じ個体が数体います】
あ……言わなくてもいいのね。分かりました。でも、腹減ったな。
【良い食材がありますよ? そこにいるゾンビウルフです】
なるほど、あの爛れた狼ね……。
「いやいやいや、あれは無理だろ!」
だってゾンビだよ? ほら、あの映画でよく出てくるゾンビの見た目した狼だよ? 食べられる猛者なんて何人いるのさ!
【……あの、肉はついていますよ? 食材として高く売られていますし】
「ちなみに元の世界で言うと一キロいくらぐらいなの?」
【八千円ほどです】
高! A5ランク位は高いんじゃないのか?
【貴族がよく口にしますね。それに真祖とはいえマスターは陽の光に弱いです。血をたくさん飲んで体を強くしなければ外へも出れませんよ?】
詰んでる……食べないといけないってことだよな。……いや、まだだ。この洞窟の中にゾンビウルフ以外いるのかもしれないし。
【この洞窟はゾンビウルフしかいませんよ】
はい、詰みました。
その時に僕の何かが潰えた気がした。
そして気が付いたら僕は、自分の大きさはあるゾンビウルフを全て食べきってしまっていた。僕は……もう戻れない。
◇◇◇
食事も終えた。
味も思い出せないけど嫌な記憶はないから美味しかったはずだ、多分。
【美味しそうに食べていましたよ。生なのに美味しいと騒いでいました】
黒歴史だ。……でも、他に食べ物もないしな。……仕方ないか。
とりあえずは前にも言ったように配下を作ろう。ゾンビウルフは非常食としてあればいいし、ここを全滅させるのも悪くないかな。
【ここはマスターが強くなるために作られた場所なので構いませんよ。ただし、強くなる前に外に出るのはいけません。日光弱体は一割ほどまでステータスを弱体化させますので】
怖っ! 裏を返せば全滅させる前提でここがあるのか? そうとしか考えられないのだけど。
まあ、いいや。
って、あれは。
「グルルゥ」
「ビンゴ! 三体のゾンビウルフ見っけ」
【それでは魔眼を展開します】
そう言った瞬間だった。
体から力が抜ける。確かに目に力が入ってすぐに何かが、例えるならそう、貧血のような感覚だ。
あれ? 抜けすぎじゃないか? 瞼も重く……。
あっ、これ嫌な予感がする。
【……魔力の配分、間違えました。てへぺろ】
てへぺろじゃないぃぃぃぃぃ!
もう戻れない主人公でした。
名前は次回登場します。
予備が続く限りは毎日投稿です。あまり多くはないのですぐに不定期投稿になると思いますが……。
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