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4章62話 イフの怒りです

少しだけ読み直しをした時に書き直しするかもしれません。

「イフ、三人は何て言っていた?」

「早いなって怒られましたよ」


 それは仕方ないよね。僕もそう思う。

 ただそう言ってられない事情があるからミッチェルではなくイフに頼んだんだ。ミッチェルなら三人に飲まれてしまう可能性があったし。この気持ちも焦燥も心を通して分かっているイフの方が説得には向いているからね。


 ミッチェル達の部屋のベッドに座ってイフと話をする。ミッチェルには部屋を開けてもらっているから込み入った話も出来るだろう。もしもイフが話しづらいことがあってもこれなら話せるだろうしね。それにしても……やっぱり怒るよなぁ。


「うん、仕方ないと思うよ」

「……まぁ、頼まれた通りに三人に納得してもらいました。マスターが珍しく本気で怒っているからって言ったら顔色を変えていましたので」

「……そんなものかな」

「そんなものです。誰もマスターが本気で怒った姿を見たことがありませんから。私も初めて見ますよ」


 そう言えば……ルールの馬鹿を倒した時も本気では怒っていなかったな。ただ吸血鬼としての本能には任せたけど。心までは渡していなかったってことは自我っていうか、ブレーキがあったってことなのかな。そこら辺はよく分からないや。あの時はどうするか悩んでいたし一時期は吸血鬼になろうと思っていた時もあったし。


 今は確かに……意識的に殺してやろうって思っているから怒っていることに間違いはない。本気で苦しませながら殺すのであればやり方はいくらでもある。吸血鬼としての特性や女好きとか言う情報を兼ね合わせれば……。


「……そのようなお顔はやめてください。他の人に見られた時になんと言うんですか」

「うん? そんなに変な顔をしていた?」


 首を縦に振られてしまう。

 そこまでなんだ、やっぱり、考えが悪い方向に進んでいると表情までもそれに近いものへと変わってしまうのかな。ただ一つ言えることは僕もエルドにここまでの怪我がなければ怒ることは無かったと思うな。どちらにせよ、調子に乗って他人を怒らせたアイツらが悪い。


「今にも誰かを殺そうとしている顔です。普段のマスターとは似ても似つかない顔でしたよ」

「……確かにそうかもね。親以外でここまで恨みを持ったことは無いから」


 僕も親に関しては恨みはあるし殺したいと思う時は何度もあった。エルドと領主に何の関係があるのかは分からないが僕は僕なりに親と似た自分勝手な領主が嫌いだ。特に父に似たひどい女好きも重なる原因なんだと思う。


 思い返してみれば妹のことは嫌いだとは思ってはいなかったかもしれないな。好きか嫌いかと聞かれれば即嫌いだと答えるだろう。会いたくないと答えるだろうけど、それはアイツが僕にベッタリだったりで面倒くさいからだ。そういうことがなければ何とも思わないだろうし。だってさ、妹に手を出す兄ってカッコ悪すぎじゃないか。


「とりあえず時間は空けてくれるようですよ。戦う時はいつでも呼んでくれとの事です」

「それは助かるよ。だいたいの日程は僕が決めたけど場所とかの兼ね合いでは変わる可能性があるからね」


 どこか三人の優しさを悪用している気がしてならないけど……僕は止まれないんだ。止まってしまえば自分のやろうとしていることを否定してしまうことになる。僕は絶対に僕のやろうとしていることは間違っているとは思っていないからね。殺すのなら殺すし対処を任せて欲しいと言われれば任せるさ。ただ何もしないって言うのは僕に出来るか分からないところだけど。


「ねぇ、イフはさ、僕がやろうとしていることって間違っていると思う?」


 甘えているって分かっている。

 イフに聞くのも見当違いだ。分かっていても自分で自分を信じられなくなってきてしまう。僕が僕でやりたいこと、それが果たして本当に正しいことなのだろうか。僕は間違っていないと思うけれど第三者から見ても同じように間違っていないのか。……もっと根本的な何かがあるとは思うけれど。


「合っているか、間違っているか。それを誰かに聞いても分かりませんよ。少なくとも自分で進むと決めた道を逸れる理由にはなりません。ましてや、どちらかが分からないからこそ実践しなければいけないんです」

「……なるほど、それは確かにそうかもね」


 僕の求めていた答えでは明らかに違う。

 イフは合理的で人の考えと合わない考え方をしている。それは分かっているからイフの言っていることは分からなくはない。だけど、心がそれを認めたがらないんだ。一番に正しくて納得出来る言葉のはずなのに僕の求めている答えだけを提示してもらいたがっている。


「強いて言うのであればマスターは後悔しているようには見えません。後悔していないのであれば戦いながら答えを見つけるべきです。いつでも甘えてくれるのは良いのですが、それでは皆から引き離されるだけですよ」


 皆から引き離されるだけ、か……。

 それを言ってしまえば元から僕の行動と思考はバラバラなんだよ。強くなりたいと思いながら本気で強くなろうとなんかしていない。どこまでが本気でどこまでが嘘なのか自分でも分からないんだ。吸血鬼としての恵まれた力のせいでスキルに困ることも無いし簡単にレベルが上がっていく。


 チートを持っているからこそ、本気で頑張ることの必要性が分からないんだ。ワイバーンと戦った時だって死んでも何とかなる僕だからこそ、あんな適当な戦い方も出来た。フウはもしかしたら死んでいたかもしれないんだ。才能の差なんて努力で覆されるって分かっているつもり、でも、それは本当につもりでしかないんだと思う。


 ミッチェルが強くなるために戦う。そこには僕と一緒に戦いたいとか、僕を守りたいって公言して努力出来る何かがあると思うんだ。本当にあるべき強くなるための覚悟、それが僕には圧倒的に足りていない。


 甘えているって言われればその通りだ。僕は皆の優しさに甘えた結果、エルドを傷だらけにしてしまったし攫われる前に助けられなかった。そこに関しては何と言われようとイフが報告しなかったことは悪いと思っている。甘やかす結果になろうとも誰かに傷を負って欲しいとは思っていないからね。それなのに守るために必要な覚悟が僕には足りていない……自分でそこまで気がつけるはずなのに変えられない。


「マスター……人生は一度きりです。マスターのしたいことがあるように、他の皆にもやりたいことがあります。やらなければいけないこと、必要と迫られていること、やりたくなくても無理やりやらされること、そこは誰もが違うと思います」

「……そうだろうね」

「はい、よくマスターは皆様を信者と称していますが実際は違いますよ。マスターを好きになり助けたいと思うワガママな人達の集まりです。きっとマスターがやるなと言えばやらないでしょう。マスターが止まることを選べば止まるでしょう。そんな時に全員で小さな村を作るのもいいかもしれませんね」


 何を言いたいのかはよく分からない。

 ただ……そうか、信者って簡単に僕は表しているけど皆、生きている人間なんだもんな。やりたいことも誰だってあるんだ。ミッチェルだってイフからすればワガママで強くなろうとしているのかもしれない。僕のように身勝手とワガママは違うのかもしれないな。


「つまり、マスターが何をしたいとしても皆がついていきます。少なくとも私やミッチェル、シロやフェンリルの三人は離れられませんよ。いつまでも独りだと勘違いしないでください」

「独り……?」

「はい、そこまで言えば分かると思うのでこれ以上は何も言いません。自分でお気づきになってください。きっと、それが分かる頃にはマスターはもっと強くなっているはずです」


 僕は一人……独り……じゃない。

 独りだとは最初っから思っちゃいない。僕を助けてくれた心器やイフ、そして最初の仲間であるフェンリルの三人、そしてミッチェル……この世界で生まれた時から独りを感じたことなんてなかった。


 それを何で僕に問い正そうとしてくるんだ。

 僕が独りだと思っているのならもっと苦しい顔をしているはずだ。転生する前の時のように苦しい顔をしているはずだ。僕は僕なりに頑張っているはずなんだよ。あの時のようにただ生を貪るなんてことはしていない。覚悟がなくても強くなっていっているはずなんだ。


「と、ここでやめましょう。マスターは明日もやらなければいけないことがあるのではないでしょうか。今日はゆっくりとお休みください」


 僕が一所懸命に考えているのにイフに遮られる。

 イフからすれば悪意はないんだろう。何かに熱中して夜更かしするくらいなら明日にでも考えなさいと言いたいんだと分かる。それにもう少ししたらミッチェルとシロが帰ってくるはずだ。


 寝れない、考えなければいけないことがある。

 エルドを見守らなければいけないのに僕が休んでいてはいけないだろう。キャロが無理をしてしまうだけだから。キャロの代わりは主である僕しか出来ないんだ。寝れるわけがない。


「今の姿をエルドやキャロには見せられませんよ。それに思い上がらないでください。マスターの代わりは私が出来ます」

「……何で……そんなに突き放すの?」


 気分が悪い、ここまでイフに言われる必要性がないだろう。確かに僕のやっていたことは誰かに誇れるようなものでは無いかもしれない。小さな名声や富、たくさんの人に慕われるということに胡座をかいていたのかもしれない。それでもここまで言われる筋合いはないだろ。


「私はマスターで、マスターはマスターです。私が生きるためにはマスターが必要ですが、マスターの代わりはマスターしか出来ません。ですが、似たようなことをするくらいなら出来ます」

「だったら……僕がエルドを」

「もっとマスターにはやるべきことがあるでしょう。マスターの思う焦燥でも何でも私が共感します。だからこそ、小さな言い訳で回り道をしないでください。今は考えるためにも、考えをリセットするためにも寝るべきだと言っているだけです」


 普段のイフならば想像出来ない。

 これが感情のないイフならば愛のムチとかそういうことではないだろう。でも、逆に感情がないのであれば僕に苛立ちを当たることもあるわけがない。きっと……何かを伝えたいから僕にここまでキツく当たるんだと思う。考えろ、考えて考えて考えればきっと答えが……。


「……その調子なら何も分かりませんよ。もうそろそろでミッチェルとシロが来ます。その後にどうするのかはマスターにお任せしますよ」


 悲しそうなイフに僕は何も返せない。

 ただ部屋を出る間際のイフの言葉が耳を刺した。


「例えどんな存在だろうと私達は味方です。きっとマスターに届く時が来ると私は信じていますよ」


 分からなかった、何も分からなかった。

 僕に覚悟がないことが分かっていたからこそ、他に何かないとすれば僕が頑張っていた今までが全て否定されてしまう。このままイフの背中を追うのも一つの手段だろう。でも、それをイフは望んでいるのだろうか。僕はそう思えない。


 僕なりの勝手なワガママでイフを苦しめているだけなんだ。それも分かった振りかもしれない。きっと僕が正しいと思っていることの全てが間違っている可能性もある。……ダメだね、どちらにせよ、イフの言うように寝た方が良さそうだ。何も考えられそうにない。


「どうかしましたか?」

「ううん、考えごとをしていたんだ」


 ミッチェルにそう言ってベッドの中に入る。

 変わらずに潜り込んでくるミッチェルとシロを抱きしめながら眠りについた。何も考えるな。何かを考えれば僕は考えすぎてしまうだけだ。今だけは眠りにつこう。イフのリセットさせると言ったように考えを変えるんだ。

この喧嘩もきっとテンプレのせいなんでしょうね(適当)。


次回は来週の水曜の投稿予定です。そして誠に勝手ながら再来週から二週間ほどの休みを頂かさせてもらいます。私事でやらなければいけないことが多くなり小説を書く時間が取れないために、申し訳ありませんが投稿出来ません。ただ二月の中盤に入ると楽になるので、その周辺で小説の投稿が少し多くなるかもしれません。本当に申し訳ございませんでした。

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2020/01/14 12:49 退会済み
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