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4章54話 繰り出してみるです

「少し遅くなったかしら」

「ううん、ちょっと前に来たところだよ」


 常套句を言うと少しだけ恥ずかしそうにする。

 分かっている、これからのデートが楽しみだからなんだろうなって。イフも言っていたけど確かに夜に異性と外へ出ることはそういう意味がある。それを想像して恥ずかしくなったのはセイラだけじゃないし。顔に出さないようにしているだけで僕もちょっとだけ意識してしまった。


「綺麗だね」

「ふふ、ミッチェルに頼んで化粧を少ししてもらったのよ」


 ソワソワとする姿は自分の主の娘、いや、本当の主と言う方が正しいのかな。そんな世間体が定めた存在じゃない、一人の可愛らしい初心な乙女にしか見えない。デートの始まりに自分の変化に気付いて欲しくて心身が同じ行動をしない。本当に僕の主は可愛いな……。


「それも良いけど髪型も少し変えてくれたんでしょ? 少しだけクルクルってしてあるし」


 パーマは通じるか分からないから擬音で表現したけど……セイラの表情からして間違っていなかったかな。驚いた顔と嬉しそうな顔が行ったり来たりしていて背伸びした化粧の顔とは少しだけ合わない。ギャップだと言えば確かに悪くないかも。


「なんで分かったの……」

「僕が気付かないと思ったんだ。心外だなぁ、横の髪だから軽く弄ってもバレないと思ったら大間違いだよ」


 そんなさ、「髪を数センチ切ったの」みたいな不可能に近いことに気付けと言われているわけではないし分かるよ。それに何度か触角部分に触れていたら髪型か、もしくは爪か……個人的にはこの二択に限られていたし。


「髪が長い分だけ巻くのは大変だろうしね。短い時間でこれだけ出来たのはすごいと思うよ」

「そうなのよ! さすがミッチェルかしら!」


 確かにミッチェルはすごいと思うけどメイクからして割とナチュラルだ。そこまで濃いものではないしパッと見、すっぴんと代わりがないようにも見える。ただセイラの可愛さだけを引き出すメイク方法が出来るミッチェルは確かにさすがだけどさ。


「似合っているよ。今日はいつもより、いや、いつも可愛いけどより可愛いよ」

「ん……そ、そうかしら……」

「そうそう、化粧の技術を褒めるよりも自信を持って自分のことを話して欲しいな。化粧が出来るから綺麗じゃないし。素に近い化粧で可愛くなる方がすごいと思うよ」


 うん、こうやってニマニマしているセイラを見ると思い切って言った甲斐があるね。そもそも今までで化粧をしている場面なんてなかったんだから余計に素がどれだけ綺麗なのか分かってしまう。個人的にはメイク無しでも可愛いから全然なくていい。


 メイクした後の何が嫌って顔に触れたりした時だよね。距離が縮まって頬と頬が触れ合ったりとかさ、悪戯で頬に手を当てたりとか……そんなことをした時に手に嫌な感覚が伝わるのが嫌。物によってはベタつく物もあるし日本でも少し安ければそういうことがあるのに、科学的なことが進んでいない異世界なら余計にありそうだ。化粧自体が距離を近付けてくれるアイテムなはずなのに遠ざける結果になるかもしれないなんてね。


「それでどこで飲む予定なの? 飲むにしても外飲みだと目線が気になって嫌でしょ?」

「うーん……決めていなかったのよ……。元から外に出るつもりはなかったし……」

「はは、セイラでも思い付いたことをやってしまってあるんだね」


 何となく意外だった。貴族なら教育がしっかりと行き届いているだろうし、計画に無いことをするような雰囲気はセイラから感じたことがなかったからなぁ。自分達とそこまで差がなくて少しだけ安心した。


「それなら歩きながら決める? 食べ歩きでもいいよ。どうせ、今夜は用事も無いから一緒にいたいだけいれるからさ」

「……そうするかしら。しっかり護って欲しいのよ?」

「当然」


 羽織っていたフードを脱ぐ。

 せっかく整えてくれた事には申し訳ないんだけどそのままって言うのは……さすがに無理かな。普通にデートなんだし。もっと言うのなら……こんなに可愛いセイラをマジマジと他の人に見せたくはない。


「ひゃっ」

「これを被れば視線も気にならないからね。外に出ても何も言われないと思うよ」

「そ、そう……」


 その後は何も言っていないような体を装っていたけど、小声では「ギドの匂い」って呟いていたのはバレバレ。僕以外なら聞こえなかっただろうけど地獄耳だしなぁ。だからと言ってそれで虐めたりとかはしないけど……確証はないけどね!


 僕サイズのジャケットならセイラには明らかに大きいんだろうなぁ。フードを被ったら目のところまで隠れてしまったし。ただなぜにフードの端と端を掴んで顔を隠しているのかがよく分からないけど。まぁ、可愛いから良しとしよう。


「行こっ」

「わ、わかったのよ」


 手を握って歩き出そうとするとそう言って少しだけ俯いた。パクパクと口を動かしていたけど見えづらかったし、何よりもそこまで中止する必要も無いからね。マジマジと見つめてしまったら余計に恥ずかしがるだけだろうから。


「離れないでね」

「つ、掴んでいるから大丈夫なのよ!」

「その割には忙しなく指が動いているけど?」


 多少の意地悪はご愛嬌だよね。

 僕の一言でセイラから「うるさいかしら」って強めに言われたけど、すぐに謝ってきたし。本当に可愛いなぁ。それでもサッと普通に繋いでいた手を恋人繋ぎに変えるのはすごいな。恐ろしく早い手の動かし、僕じゃなきゃ見逃しちゃうね。


 スラッと綺麗な指で自分の手と絡まっているって考えるだけで……結構、来るものがあるなぁ。転生する前の指ならまだ細かったけど戦闘とかを重ねていたら割とごつくなったし……。手をバキバキ鳴らしたりはしていないんだけどなぁ。


「どうしたの?」

「……顔にはよらず男らしい手だなって思っていたのよ」

「顔にはよらずは余計だよ」


 まだ女っぽい顔なのかな……。

 自分で見た感じは元の顔よりもかなり男らしいイケメンになったと思うんだけどな。これで僕の元の顔とかを見たらどういう考えを持つんだろう。僕なら見たいと思わないけど……イフに頼んで似顔絵を用意してもらうのはありかな。本当の僕の顔を皆が好んでくれるのかも気になるし。


「顔に寄らないって言うんならさ……これはどうなの?」

「ふぇ……?」


 男らしいって言うのが本当によく分からない。だけど、まぁ、アレでしょ。何か頼り甲斐があるみたいなその程度のことだと思うし。女っぽい顔だったからだと言って女心が分かるわけでは無いからね。


 普通に抱き寄せてただ手を繋ぐだけの距離から本当にゼロ距離まで引き寄せてみた。最初はあまり分かっていなさそうだったけど少しずつ頭が追いついてきたみたいで徐々に頬が赤らんでくるし。


「はいはい、顔を隠さない」

「……ひどいかしら! 最低かしら!」


 なら離れればいいのに……はお約束過ぎるから言うのは無しで。本心から嫌がっているわけではことが分かるから僕としては嬉しいし。フードで顔を隠していて……それを開けたら前髪で目元を隠すとかどれだけ隠したがっているんだ。そこまで恥ずかしかったのかな。


「ふぁ!」

「何その悲鳴」


 前髪を指ですくって目を合わせただけでそれ。

 いや、漫画とかゲームだけの話だと思っていたけど本当に言う人がいるとは……。少しだけあざとさを感じる言葉なのに一切、そういうのを感じさせないのはセイラのスキルか何かかな。


「はぅ……」

「可愛いなぁ……」


 女の子と言うよりも戸惑っている子犬。

 可愛いのベクトルもどちらかと言うと愛らしさに全振りしているな。撫でたい、その頭。そして無いのに不思議と見えるセイラの尻尾。あー、モフモフしたいな。そこまで毛並みがあるわけじゃないんだけどさ。


「わ、ウキウキしてどうしたのかしら」

「え、何のことかな」


 我慢我慢、心頭滅却すれば火もまた何とやら。

 ここで我慢して愛らしさに全振りしたセイラを愛でるよりもより良い方法が……いや、ここでやるのも一つの手だ。ここで動かなければ……とか思ってしまったけど、それ以上にもっとやらなければいけない事が……って。


「それよりもさ、普通に行こうか。イチャイチャするのは楽しいけど夜が終わっちゃうよ?」


 まさかこんな時に「三千世界の鴉を殺し主と朝寝がしてみたい」みたいなことを言えるだけの度量も勇気もない。ましてや、相手の立場も違いすぎるだろうし本当の意味をセイラが理解してくれるとも思えないからなぁ。


「イチャイチャはしていないのよ!」

「いや、じゃあ何をしていたの?」


 右手がしっかりと繋がったままで右腕に体を押し付けてくる。少しだけ膨らんでいる胸が腕に当たって変な気持ちに……ならなくもないけど、そういうことをしたい気がないので大丈夫だ。耐えるんだ……僕……。


 僕の一言にセイラは何かを返すことが出来ずに悩ましげな声を上げている。「うーん」と言ったかと思うと「あ」って口を開いて、そのまま首を左右にバタバタ振ってからまた悩む。その度に腕にかかる感触というか、重圧が変わって本当にヤバいって頭が理解してしまう。


「アレなのよ」

「うん? 決まった?」

「おふざけ……かしら?」


 おふざけも一歩間違えればイチャイチャになるんだなぁって適当なことを考えてみる。いや、普通にイチャイチャじゃない可能性は少しだけあるからなぁ。考える、いや、やっぱり傍から見たらイチャイチャだろ。横を通る男達が物凄い形相で僕を睨んでくるし。その時はニッコリ笑顔で返しているんだけど……なぜか舌打ちされるんだよね。


 この間にも少しずつ歩いているけど数メートルしか進めていない。パトロ自体がかなり広いからどれだけ時間がかかるんだよ。五分ほど歩いて数メートルって……効率が悪すぎるよ。


 ヘイトを集めながら少しだけ歩く速度を早めてみる。付き合いたての初々しさのように少し早めると同じ速度に変わって、意地悪く少し緩めてみると同じようにしてくれる。まぁ、何度もしないで二回くらいそれを繰り返して楽しんだけどね。


「おー、美味しそう」

「……あまり見た事がない食べ物かしら」


 さらに数分間、歩いてようやく街の中心に着いた。いくつもの出店が並んでいて確かにあまり見た事もない食べ物が多くある。匂いもかなり香辛料を使っているのか、とても食欲をそそられてしまうな。


 ただ僕が知っている情報に間違いがなければ香辛料もかなり値が張るし……安価で売るのは難しそうなんだけど、そこはさすが商人の街って感じなのかな。もしくは似ている代替品があるとか。香辛料が高いって……世は大航海時代かな?


「とりあえず食べてみるか」

「それじゃあ、アレを食べたいのよ!」


 セイラが指さしたのはパンの絵が看板に描かれたお店だ。でも、匂いはパンと言うよりも焼肉っぽいから……興味は惹かれるな。案外とセイラに食べたいものを任せるのもありかもしれない。もしかしたら頼りたいタイプじゃなくて頼られたいタイプなのかもしれないし。

書けば書くほど長引かせてしまう病気を発症しています。

書いている最中に考えていたのですが「髪を切ったのに気付いてよ」みたいな展開をよく聞きますけど、思い返してみればそんなこと言われた経験が……悲しくなってきたので話をやめます……。次の話はそれなりに重要な話にする予定ですが軽く流しても大丈夫です。プロットを立ててもその通りにいかないとは……これ如何に……。


次回は水曜、木曜のどちらかに投稿予定です。

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