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4章52話 探り合いです

か、書けた……。

 僕からすれば大した理由でもないけどミレイヌからしたらかなりの驚きだろう。だってさ、異世界についてのカバーをしてくれた人が異世界について聞くようなものだし。まぁ、深く考えているからそんな表情になるのかもしれないけど。


「ああ、すいません。ミレイヌさんの過去や環境を聞きたいわけではないんです。どちらかと言うと、どうしてこの世界ならではの美味しい食事を作れるのに、このように異世界の食事専門の店を出しているのかな、と気になってしまったんです」


 僕にはそういう意図で聞いたわけではないので否定するように言う。個人的には仲良くなりたい人の一人だしね。話したいと思ったのも同郷の人は滅多にいるものじゃないし、ましてや同郷だからといって勇者のような人達と絡みたいとは思えないから。


 僕の言葉で少しホッとしたのか、「簡単なことですよ」とミレイヌは表情を緩めてくれた。これで変に勘ぐっているわけではないことは伝わったはずだ。いや、聞けるならそういう環境のことを聞いてみたいけど……やっぱり隠しているのは目に見えているし相手の立場になった時は僕も聞かれたくない。それならば聞かない方が仲良くなれるだろうし。


「儲けられそうなことで儲けるのが商人というものです。私の場合は商人とは少し違えど売るための才能があれば稼ぎ口として使います。先程も言いましたがコネがありますから、そこから日本の料理を提供するのは簡単かと」

「なるほど、日本の料理ならば競争相手は少なそうですからね。何でも食材や調味料がないからと師匠も困っていましたよ」


 探りに近いけど一応、聞いてみる。

 僕がミレイヌと話をしたいと思ったのは人となりを知りたかったのと、それに加えてあの和食に近い味付け方だ。例えば醤油とか味噌とかね。似たような味の魚や野菜は見つかれど調味料を作るための大豆とかは見つからなかったし。……米があれば日本酒なんかも作れただろうからセトさんが喜びそうなんだよなぁ。この世界にあるコメモドキじゃ発酵させられなくて終わってしまったし。


「師匠……ですか……?」

「はい、戦いの師匠だったんですが途中でどっかに行ってしまったんですよね。とても破天荒な人で思い立ったら即行動といった方でしたから」


 師匠という言葉から重い雰囲気だと察したんだろうけど師匠は死んでいないよ。そう、僕の心の中で永遠に生き続けるのさ! と、冗談はさておいて死んでいないということはミレイヌに伝えたかったので即座に返しておいた。もちろん、ニッコリ笑顔付きで!


「それでしたら来ていたかもしれませんね。師匠は俗に言う日本人だったんですか?」

「さ、さぁ……あまりそういうことは話したがらない人だったので……。それに名前も教えられませんでしたから」


 少し戸惑ったけど最後の付け足しでミレイヌは納得してくれた表情をしてくれた。普通に一瞬だけでもどもってしまったのは流石に僕の想像力の低さから来たね。まさか、それを聞かれるなんて思いもしなかったから。


「それではその方のことを師匠と呼んでいたのですか?」

「そうです、僕は師匠と、他の人達はお兄ちゃんと呼んでいましたね。お前は才能があるから教えてやると言って色んな日本の知識を教えこまれましたから」

「ふふ、私も会ってみたいものです。いえ、そこまで日本食を愛していたのならばお会いしていた可能性も……」

「もしかしたら、あったかもしれませんね」


 いや、あるわけないけど……。師匠だって僕が都合良く話を進めるための架空の存在でしかないから会える方が驚きだ。ギドって知っていると聞かれて俺の弟子だって言う人はまずもっていないだろう。僕に戦闘とかを教えてくれる人は今までにいなかったし。……なんか悲しくなってきた。


「そうですね、どちらにせよ師匠さんが悩んでいたのもよく分かります。私も色んなことがあってこのような事が出来る能力を得られましたから」

「無理には聞きませんので安心してください。俗に言う企業秘密ですもんね」

「……信用さえ出来れば教えてあげますよ。なので、あまり気にしないでください。そこまで秘密にするほどの事でもありませんし、普通ならば食材があれど作り上げることが出来ませんから」


 なるほど、自分だから作り上げられたって言う自信があるんだな。となれば、見えないスキルとかがあってそれが関係していることなのかもしれない。固有スキルとかでそういうのがあるのならここまでの自信は理解出来る。だけど僕にはそれに負けないだけのチートはあるし素材さえあれば出来そうなんだよなぁ。


 少なくとも同じような店を出すつもりはないし。競合相手とか、ミレイヌの利益を損なうことはしないつもりだ。それに僕が欲しいのは美味しい和食や交渉などで使える材料。他の金銭に関する必要性はない。競合他社なんてごめんだ。確実に言える。僕はミレイヌの敵に回ることは一切ない……って、目の前にいる状態でしっかり言える人になりたいなぁ。意図せずに敵に回ってしまう可能性は無くはないからね。


「まぁ、私からは聞きたいこともありませんし、ギド様達から話したいことかがなければ本題を聞きたいのですが」

「それならば聞かせてもらいたいのですが王国の貴族の勢力図を聞きたいです」


 話が続かないと感じたのか、ミラルが話題を変えようとした時にリリが食い気味に聞いた。いつもより真面目な顔でミレイヌとミラルを行ったり来たりして、珍しく慎重に聞いているんだなって言うのがすごく分かりやすい。冗談の多い人だから本気の顔ってギャップがあるな。


「それが付いてきたかった理由かな」

「……ごめん、私的なことだって分かっていても聞かなければいけないんだ」


 聞く理由はよく分からないけど、リリの興味とかで聞いているのではないことはよく分かる。それなら聞かないといけないんだよなぁ。もしかしたら僕にも重要なことなのかもしれないし。


「教えて貰えますか。もし答えにくいのであれば話さなくても大丈夫なので」

「……よく分からないですけど簡単なことなら話せますよ。まぁ、今の王国の貴族であればパトロのエレク家や現領主の立場により名誉貴族の立場を受けているシャロック家の二つでしょうね。ですが……その表情からしてこの街の、というわけではなさそうですが」

「すいません、私が聞きたい地方の貴族ではありませんでした」

「それならば王都のブラウン家やルノワール家、イズモ家、ルール家」


 そこまで来て僕は立ち上がってしまった。

 注意していたつもりだった。それでも名前が上がったルール家は僕からすれば滅ぼしたいほどに嫌いな存在。その家系の人達が王都の、それも勢力図の名前に上がってきたのだから。すぐに座って「すいません」と謝ったけど相手が悪すぎる。バレバレだろうな……はぁ……。


「……深くは聞きませんが余程、聞きたくない名前だったんでしょう。確かにルール家の噂は良いものが少ないですから分からなくはないです。それとリリ様の聞きたい貴族はいましたか?」

「そうですね、ありました」

「この中の貴族の話と言えば……そうですね、最近になってルール家とブラウン家が世代交代を終えたことくらいでしょう。ルール家は長男が、ブラウン家は次男が継いだと聞いています。特に悪い噂は聞きませんがブラウン家やルノワール家の業績が伸び始めていることくらいですね。実態などはその地で活動しているわけではないので分かりません」

「いえ、そこまで分かれば大丈夫ですよ。ありがとうございます」


 この中で聞きたい貴族がいたのか。そしてルール家は長男が継いでいること……聞いておいてよかったかもしれない。どちらにせよ、ルール家が良い噂が無いのも場合によっては干渉しないことを決められるキッカケにもなったし悪い話はなかった。


「暗い話をしないと言っていたのに逆に暗くしてしまいましたね……」

「聞きたいことを聞けたので良くも悪くもと言った感じですよ。本当に暗くして申し訳ないです」

「いえいえ、私もミレイヌも極力ルール家とは関わりたくない人達なので安心してください。他地方でも悪名が轟く人と関わりたくないのは当然のことですし、そのように嫌がるのも間違っていませんよ」

「……そう言って貰えると助かります」


 どの地方でもクズはいるってことだね。

 パトロの街ならさっき話していた領主であるシャロック家が、王都ならばルール家がって感じかな。それにしても王都にルール家がいるのか……何で魔法国まで来たんだ……? ルール家にもいくつかの派閥というか、徳川御三家のように分かれている可能性も全然にありえるし。だとすると階級とかも聞いておいた方が良いのか……。


 いや、聞きすぎは良くないから止めておこう。

 時間も押しているかもしれないし。


「と、それ以上に聞きたいことは……無さそうですね。それでは本題に入りましょう」

「ははは、この状況で話すのは少し度胸がいりますが……簡単に言えば昨日、ミレイに領主が訪れました」


 ポツポツと話し始めたけど商人らしくまとまった文面で非常にわかりやすい。より簡単に言うのであればミレイに領主が訪れて自分の陣営に入れと営業時に言われたということらしい。それも日頃の傲慢さを発揮して満員だというのに金を多く払うからと席を無理やり作らせられたようだ。そもそもミレイヌの経営は少し高めでも市民が美味しく異世界の食事を味わうことでやり方が好みじゃない。


 そこら辺もある様だけど一番は店を建てる時にエレク家からの支援もあったようで、表立った協力はしないにしてもエレク家の方へ付くのを約束しているみたい。ミラルが否定しないということはそういうことだろう。だからエレク家の敵に回るように手立てを出してきたことをミレイヌが伝えに来たようだ。とはいえ、忙しい……まぁ、僕のせいなんだけどね。僕との用事があって話が出来なかったからミラルの話に乗ったみたい。


「それなら尚更、ギドがいる時に聞けて正解でしたよ。ギドは私達の仲間ですから」

「いえ、決まったわけでは……」

「と、言っていますが同じ目標の元にあるのは確かです。協力は無かろうと敵に回ることはありませんよ。ましてや……自分の大切な仲間を捧げるわけがありませんから回ろうにも回れないでしょうし」


 そこまで言われると確かに以外の言葉が出ない。

 まぁ、本当に敵に回る気は無いし公言するつもりもない。話すとしても主のセイラくらいだけどセイラも魔法国の宰相の娘だ。どうやってバラそうという考えに達するのだか。……ってか、宰相の娘なのは皆からも聞いて事実なのは知っているけど仕事をしているのは見たことがないな。


「ふふ、とりあえず良い機会になりました。詳しい話は聞けませんでしたし、特に解決策は見つかっていません。ですが、このような機会が無ければお客様と関わろうとは思いませんでしたから」

「そうですか、それなら僕も嬉しい限りです」


 本当に機会作りは難しいからね。

 知らなかっただけでミレイヌはエレク家からの支援も受けていたようだから……ただ話しかけていたとしても話は出来なかったかもしれない。ましてや自分から信頼を築くのは不可能に近かった可能性が高いし。


「……すいませんが帰ります。さすがに静かに長い時間、一緒にいてくれた三人に何かお返しもしたいですから」

「夕方ですからね。話を聞いていただいたので気分も軽くなりました。今度、会う時は仲間としても嬉しい限りですがお客様として」

「ええ、パトロにいる間はご贔屓にさせていただきます」


 笑ってミレイヌに言うと笑い返してくる。

 小さな紙に何かを書いた上で僕に手渡して軽く手を振ってきた。眠たげなシロを抱っこして空いた片手でユウの手を取る。貰った紙はリリに預けて外へ出た。リリに見ないのかと聞かれて首を横に振っておく。書く時に僕の目の前で書いていたんだから中身を見なくても分かるよ。あれは……ローマ字だ。異世界の人じゃなければ分かるわけがない。


 三人を連れてどこかへ行くのをやめて宿へと戻った。どこか行こうかと思ったけど一名が眠っていたしね。言い訳にしていたことがこうも潰されるとは……まぁ、可愛いからいいや。紙は……夜にでも見ればいい。遊ぶのは……今度でも全然いい。夜ならばイフも暇だろうし。さて……このことを話したらセイラは何と言うんだか……絶対に怒られるのは確定だろうなぁ。

最近、天気が悪いせいで体調が悪いことが多いです。昼頃に体調が悪くて夜は体調がいいのは普通に嬉しくないですね。色んなことを書きたい願望が強すぎて長引きそうだったのでミレイヌの話は省きました。ここから4章の中身に触れていきたいですね(願望)。12月いっぱいには四章の本題に入りたい……。


次回は水曜、木曜日のどちらかに投稿する予定です。

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