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4章51話 ミレイヌとの話です

少しだけ短いです

「どうかしましたか?」


 僕が足を止めていたせいでミラルに不思議がられてしまった。「何でもないですよ」と返してもその不思議そうな目をやめてくれる気配は一切なさそうだ。一瞬とは言え失敗したな。まさか個人の問題に対して首を突っ込ませてくれとは言えないし。今、目の前の人の話を聞かせて欲しいと言うことはそれに近いからね。


 考える、ぶっちゃけて言えば面倒事に巻き込まれるのは確かだ。だけど、この人とは前々から話したいって思っていた。話すにしても準備が必要だったし話が出来るとも限らない。話が出来なければ何も始まらないからなぁ。その点からしてこれは大チャンスでしかない。……テンプレが発動するのを承知の上で話をしてみるべきか。いや……それは……。


「……こんにちは、ミレイヌさん。どうしてここにいらっしゃるのですか?」


 悩んでいる間に何かを察したのか、ミラルが僕達を置いて僕の話したかった人、転生者であるミレイヌに話しかけに行っていた。話し方からして初めてではなさそうだ。って、そうじゃなくて。これは……絶対に気を遣わせてしまったな。


「ええ……すいません、あまり大声では言えない話だったのですが……もしかして聞かれてしまいましたか?」

「多少は……どうですか? 話くらいなら聞けますが時間は」


 悩んでいるミレイヌとグイグイ行くミラル。

 ミラルの性格からしてこんなことをするのは何か理由がなければしないから……やっぱり、僕のせいじゃないか。あー、後悔しか残らない。最初っから聞く方が良かったかなぁ。……いや、それはそれで初めて会うようなものの人にいきなり聞かれても話してくれなさそうだよね。ミラルに気を遣わせたのは僕としてはベストだったのか。


「……いいですよ、ちょうどですが午後からは店を休むつもりだったので。それにギルドマスターの暇を貰うにしても時間がかかりますから」

「ええ、話を聞いてもし伝えなければいけなさそうなことがあれば私から伝えます。そちらの方が確実性はあると思いますよ?」

「違いありませんね……」


 苦笑に近い形でミレイヌが了承していた。

 チラッと僕達の方を見て薄く笑ってから少し考えている素振りを見せる。少し経ってからミレイヌが「そちらの方々も話を聞きますか」と聞いてきたので首肯で返しておいた。


「それならここで話すべきではありませんね。どうですか、私の店で話をするというのは」


 少しだけ言葉が遠回しだけどそれはこの世界での商人の話し方だと思って……。まぁ、どこで話をするかは僕が決めるよりもミラルが決めた方が良さそうだし。そう思ってミラルの方に視線を向けた。


 一瞬、私が考えるのですかと言いたげに見てきたけど諦めたのか、一回だけ大きく息を吐いてから「数秒、時間をください」と言って考えた素振りを見せる。他に良さそうな場所を探しているんだろうけど、ゆっくりと話が出来そうなのは明らかに飲食店でもあるミレイヌの店だ。最終的には同じところに行き着いたのか、いいですよとだけ言ってミレイヌに視線を向けていた。


 対してミレイヌは軽く微笑んだかと思うと受付に「時間を取らせました」と一礼をしてから出口へと歩いていく。ミラルがその後ろを付いたのを確認してから僕達も後を付いて行った。


「珍しい看板ですね」

「ええ、このような看板は世界広しと言えども私のお店くらいだと思いますよ。絶対とは言えませんが」


 だろうな、って言いそうになったけど寸前のところで止めた。この世界で通じる言葉の中にクローズって言葉はない。つまりここでも自分が異世界人であることを教えているみたいだ。まぁ、普通に閉まっていますみたいな看板よりもclosedって書かれている方がカッコイイからね。


「……すいません、読めないのですが」

「これは異世界で使われている言語ですよ。師匠が教えてくれたことがあったんです。ミレイヌさんも似たようなものですか?」


 あ、通じていなかったのね。純粋に和訳とかされているのかって思っていたけどそういうことではなかったみたい。この感じからしてミラルはミレイヌが異世界人であることを知ってはいないようだし。


「そうですね、あまり表では言えませんがコネがあるんです」

「異世界の言葉ってカッコイイですからね。使いこなせる人が本当に羨ましいです」

「同感ですね」


 少し訝しげな視線を向けてきたけど僕がやった事はカバーだからか、特に何かを言うわけでもなくすぐに表情を元に戻した。別に悪意ある言葉ではなかったと思うけど疑ってしまうのは仕方ないかな。全てを信用しているようでは商人としてやってはいけないし。


 ただ一つだけ言いたいのはコネって言葉がこの世界ではあったかなって程度。まぁ、カマをかけられていたとしても最悪は僕の心にいる師匠を出して教えて貰っていたから聞かなかったって言えばいいだけだし。問題は無いね。


 そのままミレイヌを先頭に中に入る。

 その時にclosedと書かれた看板自体が魔道具だったみたいで、触れて何かを呟いたと思ったら看板が外れていた。誰も驚いた様子は見せなかったけど少なくとも僕の仲間は内心ちょっとだけ驚いていたと思う。そうじゃないと僕だけな気がして嫌だからそう思うことにする。


 人がいないせいか、少しだけ寒く暗い空間内にミレイヌの軽い動作でガラリと変わる。当然だけどやっている時とは雰囲気が違いすぎて学校を思い出してしまうな。あの昼間は人がいて怖さを一切感じないけど暗くなった瞬間の恐ろしさ。


「自由にお座り下さい」


 ミレイヌが通したのは普段、客が食事を食べるカウンター席だ。横に広いけど食事を出しやすいように全面だけ空いているのでわざとここにしたのかもしれない。膝上にシロを、リリを左に置いてユウがその反対側に座る。リリの逆側はもちろんだけどミラルが座った。


「一応こちらも」


 全員分に果汁水……味として出てきた名前が聞いたことの無い果物だったので飲まないと分からないけど、普通の水ではないことだけは魔眼で分かった。まぁ、毒も入っているわけではないので飲めばいいんだろうけど……立場的に最初に飲むのはダメだからね。面倒くさい話だけど。


「それで本題を聞かせていただいても」

「ええ……まずですが私は領主がと言うよりも誰かの下に付くのが嫌いなんです。ミラルさんは知っていると思いますがギドさんは知らないですよね」


 確かにしっかりと話をしたのは初めてだしね。

 って、自己紹介したかな……と頭が過った時にミレイヌがクスリと笑った。


「一度、店で食事をしていたじゃありませんか。珍しいんですよ、食事をした後に感想を述べる方は。食べられても金銭さえ払えば当然の対価と考える人は少なくないですから」

「あ、そうだったんですね」

「あの時は記憶が生きるとは思いもしませんでしたが……まさかミラルさんと繋がりがある方だとは思いもしませんでしたよ」


 その関係が一週間も経っていない期間で築かれたものだなんて口が裂けても言えないな。現にミラルも苦笑しか出来ていないし。ちょっとだけ口が滑りそうになったのでシロを撫でて気持ちを落ち着けておく。


「色々とあったんですよ」

「……ええ、ああ、私はギドさんを信用していますよ。話をするのは今日が初めてですが所作が明らかにそこら辺の市民とは違い過ぎます。少なくとも商人としての素質もありそうですし」

「ミレイヌさん、ギドはこう見えても商人ギルドのランクはCですよ。貴方と同程度の立場はあります」


 あっ、そっか。今更だけど自分の店を持っている時点でミレイヌが商人ギルドに属しているのは間違いないのか。いや、裏口みたいなやり方があるのかもしれないけど思い付かないし、何よりも同程度の立場という時点で属しているのは間違いないか。


「……まぁ、そうでしょうね。逆にそのような才能があってランクが低ければ苦情を入れかねませんし」

「さすがにそこまで才能を見抜けない人が上に立っているわけがありません。本部ではないんですから」

「言えていますね」


 おおっと、ここに来て二人の腹黒さが……。

 見ないふり見ないふり、と。そっか、僕が置かれている環境は確かに他の人からしたら羨ましいだろうな。ましてや上に立つものが総じて見る目のある人ではあるまいし。グリフの街もパトロの街もその点で言えば才能を見抜ける人は多いってことかな。僕の場合はチートが八割だけど。


「まぁ、そのような話は後でも良いではありませんか。せっかくの話が出来る場だと言うのに暗くなる話は無しにしましょう」

「そうですね、領主の話を先に聞きたいのですが……暗くなるのは確実なので他の話を先に聞いてもよろしいですか?」


 相手の言ったことを逆手にとって自分の聞きたいことを先に聞く。ぶっちゃけ、暗くなる話は無しと言われなければ先に領主の話を聞いてから僕の聞きたいことを聞いていたし。


「いいですよ、ミラルさんは」

「私も大丈夫です。ギドが気になることも聞いておきたいですから。新しい考えに繋がるかもしれませんしね」


 よくある乾いた笑いとか、取って付けたような笑顔はない。心の底からって言うのは分からないけど嘘から出る笑顔ではないことは確かか。ミラルと話をして分かったことだけど言っていることに嘘は無いだろうし。純粋に僕の気になることが気になるんだろうね。


「えっと、それでは」


 小さく息を吸ってからギュッとシロを抱き締める。

 ミラルが飲み物に口を付けたのを確認してから一口だけ口に含んでおいた。柑橘系の酸っぱいような甘いような飲みやすいスッキリとした味で喉が軽く潤ったように感じられる。


「なぜ、勇者の祖国である日本の伝統的な食事を店で出しているのですか?」


 一瞬だけミレイヌの表情が固まった気がした。

長くなりそうだったので切りました。

後、総合PV五十五万を達成しました。少し前に五十万を超えたと思ったのですが、たくさんの人に読まれているのを感じられてとても嬉しい限りです。


次回は土曜、日曜日のどちらかに投稿する予定です。ですが土曜日が忙しいので少しだけ遅れる可能性もあります。遅くても一週間以内には投稿出来るように頑張ります。

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