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4章50話 見えないものです

「それで……ギド君は今の領主をどう思っているのかな? 仲間になりそうだからこそ、君の、外部からの意見も聞いてみたくてね」

「……それは僕だけの、ですか?」


 ケイさんに聞かれて咄嗟に返してしまった。

 素っ頓狂な顔をされて僕も焦ってしまう。というか、目上の人に対して聞き返すのはあまり良くなかったかもしれないな。それでも普通に疑問に思ったことを返してしまっただけだし……うん、僕は悪くないね。自分が自分を信じなければ誰が信じるんだ……って名言を悪用しよう。


「……確かにその言い方だとそう捉えられるかもしれないな。撤回しよう、君達はどのように感じたのかな?」

「僕は嫌な奴の一言に限ります」


 ここで僕から最初に声を出す。

 これはケイさんが僕を重視しているのが目に見えているから、僕から話を出さなければ他の面々が話すと常識知らずと思われそうだからね。何でか知らないけど目上と思われる人が話し始めなければ下の者が話し始めるのはタブーって言う人もいるし。そういうことを気にする人ほど愚かな者はいないと思うけど。


 だってさ、別に上の人がいなくてもご飯を食べちゃダメとか、意見を言ったらダメとか愚か過ぎるでしょ。目上の人よりもしっかりとした意見を話すかもしれないし、自分がいなくても先にご飯を食べて味とか聞きたいって僕なら思ってしまうし。


 だから一言だけにした。詳しく言うと僕だけが目立つ結果になるし、もし足りないとか僕の意見を付け足せるのなら後で言うってことも可能だからね。それに僕が思うことも皆が思うことも多分だけどこの一言に限るだろうし。


「リリはどう思う?」

「女にしか興味のない雑魚ですね。ただでさえ、自分の力を測れず、ギドさんとの戦闘力の差を部下から指摘されていたにも関わらず殺せと命令していましたから。強くなったのかもしれませんが一番に重要なことが欠けていて冒険者としての才能も何も無いです」

「……ギド君は強いのかな?」


 それを僕に聞くのか……いや、これも試しているのかもしれないな。自分で自分をどれだけ理解しているか、みたいな事を聞かれているとすれば僕に聞くのも納得出来るし。意味無くリリ達みたいな仲間にでは無く僕に聞く理由はないし。


「ランクに合った能力ですよ。強くもなく弱くもなくと言った感じですね」

「そう言っていますがその速度が普通ではないんですよ。一度だけ一緒に依頼を受けた私のパーティの仲間が驚くくらいに早いんです。数ヶ月でゴブリンからオークまで強くなるなんて普通だと思えますか?」


 カバーするのか、もしくは褒めているのかよく分からないけどリリにそう言われると確かにそうかもって思わざるを得ない。確かに僕がこの世界に来て半年経つか、経たないかってぐらいだし。それにシークレットステータスである成長率はMPを除いてSだし、その一個だってSSっていう限界突破したものだしね。


「……すまないね、私には力を測れるだけの才能はないのだよ」

「いえ、商人に普通はなくても良い能力ですし何よりも名誉ある家計のご子息ならば、普通はその家計に合った教育を受けるでしょう。もう一つ付け加えるのであれば……そのような能力はケイさん自体に不必要なものでは?」


 僕がそう並べて返すと一瞬だけ表情をニヤッとさせて「バレているのか」と小さくこぼした。やっぱりか、この人は小さなヒントを元に自分のことを暴かれることが好きなタイプの人だ。好きと言うよりもそれで才能を測るって感じの人かな。


「そこも含めてのミラルだからな。この子はこう見えてもAランク程の力は兼ね備えているよ。ただし我が町の『スケイル』には負けるがね」

「……スケイルですか……」


 やっば……誰それって考えしか出ねぇ。

 えっと例えば……何がそれに当てはまるかな。スケイルってことは鱗みたいな感じだよね。それなら鱗っぽい人、もしくはパーティって……。


「シードのいるパーティですよ。考えているということは知らなかったということですか?」

「……そうなんですか。すいません、模擬戦をする予定の人のパーティの名前は見ないようにしていたので。パーティの中には自分達の戦い方を名前にする人達もいるので公平ではないな、と」


 何よりも僕の名前は売れて無さすぎるからね。僕が相手のパーティ名を知っていて、逆に相手が僕達のことを詳しく知らないのは公平じゃない。本気の殺し合いならともかく、模擬戦ごときで調べるのはちょっとね……。


「たかだか模擬戦ということか。……君は気が付いていないかもしれないが普通はそうはならないよ。才能から来る考えなのか、もしくは……」

「ギルドマスター、悪いですがもし考えていることが私と同じなら多分、前者です。異世界の勇者などの格が違う者達はだいたい同じような考えをしていましたから」


 えー、なんでそこまで上に見られているの。

 いや、純粋に殺し合いでもないし賭けるものもないのに本気でやるのはね。もちろん、戦闘することに関しては本気を出すよ。それこそ相手が望んでいるのに返してやらないのは戦闘をする者に対して仇だけを渡すようなものだし。


「……ふむ、私には分からない何かがあるのか。よく分からないな……」


 本当に分からないようで頭をかいている。

 まぁ、人には分からないことも多いさ。そう言うのは明らかにバカにしすぎているから言わないけど。それに僕が言ったせいで悩んでいるのに。ってか、僕も何でそう考えているのか分からんし。


「ところで」


 少しの間、沈黙が続いたからか。

 ミラルが両手をパンと叩いて声を出す。


「ある程度の年齢を重ねた、お二人の意見は分かりましたが、幼く見えるお二人にも聞いておきたいですね。領主がどう見えるか、と」

「ユウは幼く」

「分かっております。ですが、私にはユウ様の年齢は分からないのです。そうなった場合、見た目から判断するしかないのです。もしお気に召さなかったのであれば申し訳ありません」


 すっげ、めちゃくちゃ長い文章を一口で言いきれるとか。ミラルって見た目によらず肺活量がめちゃくちゃあるんだな。こう見えてロックとかが好みなのかもしれない。デスボとか得意なのかな。


「……ユウは見ていないので分からないのですが話を聞く限りは良い印象はありません。特に人の女性を奪うという話も聞こえていましたから常識的に考えて普通ではありませんよ」

「シロもそう思う。……ミッチェル達を自分のモノにしようとか不可能なことを無理やり権力でやろうとする卑怯者」

「ほう、二人とも見た目の割には考えがしっかりしているな。確かに人を見た目で判断してはいけなさそうだ」


 またユウが怒りだしそうだったけど耳元で「頭撫でていい?」って聞いておいて、了承を取ってから頭を撫でてみると怒りだしそうな顔を普通の穏やかな顔に戻していた。ぶっちゃけ、怒る必要もないし、こういうことでユウの気持ちを楽にさせられるのなら僕の恥ずかしさなんて大したことは無いからね。それを見て怒ったふりをするシロは当然ながら無視をしたけど。


「いきなり頭を撫で始めてどうかしたのかな」

「少しだけ怒りが湧いてきてしまったので誤魔化すためにです。こうすると守らなければいけないと強く思えますし気持ちも穏やかになりますから」


 実際、そうだ。だってさ、本当に頭を撫でて気持ちが穏やかになるのは何度も体験しているし、ここぞと言う時に何も出来ないよりは何か気持ちが楽になることがあるのがベストだしね。今回は本当の理由はそこでは無いんだけど。


「……もしも本当に怒りを覚えているのなら詳しく知っておいた方がいい。アイツはな、その奪った婚約者を孕ませた挙句に捨てたのだよ。男としても人としても終わりだな」

「……そうですか」


 怒りは湧いてこない。そんなことをする人なんだろうなって分かっていたからかもしれない。いや、もしくはある程度の怒りが元からあってそれを払拭しきれなかったからかな。限界を超えたせいで湧いてこないように感じているだけか。


「だから余計に嫌いなのだよ。あちらも私をギルドマスターから下ろそうとしているからな。あちらの根底には女が領主やギルドマスターなどの人の上に立つのを馬鹿だという差別的な考えがあるようだし」


 ケイさんが小さく「本当に愚かなことだ」と嘲笑じみた笑いを浮かべて呟く。僕も嫌いなタイプだ。別に男女で考えや得意不得意があるのは心理学とかの偉い人がテレビでも言っているし、別に才能があるのなら上に立たれてもいいとかし思えないからなぁ。


 男でも大した脳もないくせに部下の業績を奪って自分の得点にする奴もいる。そんな奴の下に付くくらいならって誰だって思うだろう。現にもしもケイさんがそのような人なら色を付けてポーションを買ったりしない。買い叩こうとするのがオチだ。


「だから下ろす。私の力を持って、いや、私達の力を持ってな。君にはその手伝いをしてもらいたいんだよ」

「……やる必要がありますか?」

「さっきとは状況が違うと言いたいんだな。分かっているさ、別に深く踏み込んだことをやってくれとは頼まない。ただ戦力でいてくれればいいんだ。そこまで時間もかける予定は無いし、何よりも」


 ケイさんの言ったことに唾を飲み込んでしまう。

 いや、裏を返せばそこまでケイさん達が動いていたってことなんだろうけど。だからこそ、僕の得にはならないかもしれないが僕達には得になりそうな一言に勝手に喉が反応を示してしまっているんだと思う。


「強いのなら力を貸してくれ。そこまでの商品を作るのならば助けてくれ。私達で出来るかが分からないからこそ背中を任せられる仲間が欲しいんだよ。きっと、ローフもそう考えている」


 そこまで言ってケイさんはこちらを見るのをやめて外を眺め始めた。これはもう話すことはないって判断をしたんだろう。もしくは自分で考えてくれということか。……ただどちらにせよ、僕が勝手に決めていい話ではない。またセイラに怒られてしまうからね。


「……些細なことなら助けられますが本当に重要なことならば僕の主に話を通してください。僕一人で決められることではありませんから」


 とりあえず話を伸ばさせてもらう。

 紙にセイラの名前と僕達の泊まっている宿屋の名前を書いて立ち上がった。ケイさんが小さく「分かった」と言った後に「どうせ巻き込まれることになるだろうが」と言っていたのは気のせいだろう。いや、そうだと思いたい。


 ミラルと一緒に入口へ戻っている最中、僕の頭の中はケイさんの言葉が何度も駆け巡っていく。僕のテンプレを知らないだろうから、と言うよりも絶対に見られるわけが無いのだから、そう言うのは予言か何かなのか。


 受付に戻った時に僕は聞こえてしまった。


「……領主に勧誘されたのですがどうすればいいのでしょうか?」


 話をしたいと思っていた人の言葉はもしかしたらケイさんの予言の始まりなのかもしれない。そう思えば今日の天気は悪かったような……いや、普通に晴天でした。……それならきっとテンプレは働いていないはず……はずだよね!

4章もついに五十話を達成しました。ここまで書いたのにも関わらずタイトル回収もしていないとは……本当に回収する気があるのかと自分で自分に聞きたいですね。4章内で最初のタイトル回収?はすると思います。


次回はいつも通り水曜、木曜日のどちらかの投稿予定です。忙しい場合、投稿が遅れる可能性がありますが極力、投稿出来るように頑張ります。……年末は暇が多いといいなぁ(願望)。

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