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4章48話 戦いの前にです

 日差しが弱くて冬が近いことを知らせてくれる。

 それでも雪は降っていないし王国や魔法国では雪なんて降らないかもしれないな。ボーッとシロをおんぶしながら息を吐く。まだ息は白くないから冬なんてまだまだなのかもしれないな。


「どうかしたのかい?」

「ん? ただ寒くなってきたなって思ってさ」


 ちょうど昼頃だから人通りは割と少ない。今はたいていの人が昼食を撮っている時間だしね。だから引っ付かなくても良いんだけどな。まぁ、リリにそう言っても離れそうもないしいいけど。


「出会いたての頃は夏頃だったからね。割と時間が経ったなって思ったんだ」


 時々、悩む時がある。異世界に来て悪いと思ったことはあまりない。ゼロとは言えないけど僕なりには幸せな良い方向へと持っていった自信があるからね。特にルール家との確執とかさ。後は運でグリフ家の後ろ盾も得られたし。


 それでも帰れるとすれば帰りたいと思う時も少なからずある。僕を殺しに来た親を僕の手で地獄へ落とすことは出来なかったし、学校で仲の良かった友達もいた。もしかしたら好意があったんじゃないかって期待も持てる女友達とかもいたからね。必ずしも元の世界にいたから不幸であったって確証はないし。逆に上手くいく確証もないわけだけど。


「不思議だね。出会いたての頃はこうなるなんて思ってもみなかったし」

「そうかな。私達は最初から懇意にしてもらう予定だったし何なら上手くいきすぎて怖いとは思うけどね」

「ふぅーん」


 僕と鉄の処女との最初の絡み以降、見ていた先は全然、違ったみたいだ。僕としてはただ先輩として三人を見ていたわけだし経験を教えてもらう相手としか最初は考えていなかったっけ。まぁ、その中でも好意は見えていたからからかっていたわけだけど。


 ただここまで仲良くなるとは思っていなかったし個人的にはイアを連れて魔力溜りを抑えた時から見方も変わったわけで……最初から三人とここまで仲良くなるって考えはなかったなぁ。模擬戦をしてもらえるくらいには、というか、現在進行形でダンジョン攻略とパトロの街の冒険者ギルドと戦うために連携を鍛える仲間だし。仲良くないわけがないもんね。


「まぁ、過去は過去だし今は今だね。どちらにせよ仲良くなったって結果になったわけだし、そう思ってなかったとかはどうでもいいか」

「はは、確かにね」


 リリにとってはどうでもいいんだろう。

 僕もぶっちゃけどうでもいい。過去を気にしても何もいいことは無いし。そう思えるようになったのは成長とかではないんだろうなぁ。絶対にあの環境にいた時の僕ならそう思うことも出来なくて卑屈になってしまう自信がある。僕がそう言われていたなら僕の何が分かるんだって今までの自分を否定された気にもなるだろうし。


 やっぱりとしか言えないけどユウは良い表情はしない。別に否定する気は無いので頭を撫でて笑いかけてみると笑い返してくれる。本当に根はいい子なんだよなぁ。


「って! 勝手に頭を撫でないでください……」

「あはは、ごめんごめん」


 最初は勢いよく言ったのに少しずつ力が弱まっていく。怒ってないって意思表示なんだろうね。手を離すと嫌な顔をするし鈍感系主人公なら絶対に悩みの種になるでしょ。まぁ、僕ならなりませんけど。逆にシロは頭を差し出してくるけど、いつもの事だから無視しておこう。どうせ、後で撫でなきゃいけなくなるし。


 まだ人は少なくてミラルの店の人通りも数えられる程度だ。いや、割とお高めの店ということもあって元から人は少ないけど。ただ今日はかなり人が少ない。


「お久しぶりです」

「すいません、少し話しでもしようかなと思ってきました」


 人が少ないことは時間帯ってことで解決出来る。その分だけミラルは対応しやすくなっているのかもしれないけど。もしくは僕達のしたことのせいで人が少なくなったって可能性は……無くはないだろうなぁ。


「どうかしましたか?」

「いえ」


 気が付かないうちにキョロキョロでもしていたのかな。もしくは商人としての才が気づかせてしまうのか。どっちにせよ、バレたことには変わりないんだよなぁ。僕もまだまだってことか。


「人が少ないなと」

「……なるほど、お客様のことを気にしていますか?」

「ええ、少しは」


 聞くのは悪手かもしれないけど自分のせいなら少しは手助けができるしね。まぁ、ミラルなら関係なく儲けそうなものだけど。それでも気にはするんだよなぁ。さすがに心まで悪魔ってか、この世界で呼ばれている魔族にまで染まるつもりもない。


「元より歯向かうものはこのようにされていましたから。私なんてまだマシですよ。私の後ろに商人ギルドマスターと、あまり言いたくはありませんが有名人のシードがいますし。それに話したはずです。私ならば他の仕事でも稼げると」

「……そうですね。まぁ、お詫びも込めてですがコレを渡しに来ました」


 長居するつもりもないからこういう話をずっと続ける気は無い。そう思って回復量の高いポーションを六つだけテーブルの上に置いてミラルに見せつける。予想通りというか、バッとポーションの一つを勢いよく取って目に近付けて遠ざけてを繰り返している。……よく分からないけど鑑定でもしているのかな……?


「これって……どこで手に入れました?」

「と、言いますと?」

「とぼけないで欲しいのですが……いえ、ここは引きます。前回と同じということですね。すみませんがありがたい……ありがたすぎますよ。これが一本だけでも立て直しなんて難しくはないですし……」


 それは過言な気がするけど……それでもミラルならばやりかねないから否定出来ない。売り方次第買い方次第、欲しい人の欲しい理由次第で高値で売り払うことも出来るからね。ミラルなら卑怯な手で売るつもりは無いだろうけど。


「もちろん、打算はありますよ。そもそもここまで卑怯な手を使う人だとは……思っていなかったと言えば嘘になりますが本当にやるとはという感じですしね。それに今回はもし暇があるのであれば商人ギルドに行きたいな、と」

「あー、なるほど。そうですね、それならば頂く理由になります。……本当にお気になさらなくていいですよ。これは私達もいつかはやるつもりで反論しましたから」


 良い笑顔でそう返されると普通ならそうかで終わってしまうけど……いや、僕のポーションにそれだけの価値があるということにしておこう。それならばこっちも思い詰めなくてもいい。


 才能のある商人の時間を買うということはつまり社長の時間を買うのと同様に価値が高いからね。それにミラルがついてくるとすれば顔合わせするのは低レベルな商人、言い方が悪すぎたけど貴族の息がかかっている商人とは全然違うし。それだけの価値がないわけがない。


「……そうですね、どちらにせよ店に客が来る気配もありません。後回しにしていたギルドマスターへの領主に関しての申告書も提出しなければいけなさそうですし、もしギド様方がお暇ならばご同行させて頂きます」

「回りくどい言い方は必要ないですよ。ついてきてくれますか?」


 僕が軽く頭を掻きながら聞くとミラルが面食らったような顔をしてフッと表情を緩める。シロはよく分からなさそうな顔をして、リリは当然と言いたげに胸を張り、ユウは少しだけ頭を抱えていてすごくカオスだ。


「行かせてください」

「はい、準備が出来次第、教えていただけるとありがたいです」

「ふふ。ギド、ミラルの方が折れてくれたのだからギドももう少しだけ緩い言い方でいいと思うよ」


 緩くか……いや、癖としか言えないなぁ。

 何と言うか、商人に対して敬語を使うのは上司としての立場を相手に押し付けるためなんだよね。自分が相手より下だってしておけばたいていの人は攻撃してこないし。例え相手がそういう人ではなくても攻撃されたくないという本能が勝手に使わせてくるし。


 前回は少しだけ緩い口調だっただろうけど今回は商人としての取引に近い。立場が違いすぎるんだよね。前回はお客としての立場で話してもよかったけど、今回は物を渡す代わりに見返りを貰う取引に近いのだから。


「……気が向いたら使わせてもらうよ」

「素直じゃないねぇ」


 クスクスとリリが笑ってくる。

 ふっふっふ、後で覚えておけよ。こっちはリリが恥ずかしくなるネタが山ほどあるのだから。手始めに……エミさんやミッチェルに手伝ってもらうのもアリかな……。一つだけありがたかったのはリリの発言をミラルが聞いていなかったことかな。リリのさっきの一言を聞いてすぐに奥に引っ込んでいったし。


「ご、ごめん。だからその怖い笑みを抑えてくれないかな……?」

「もうリリを辱める手は考えついたから謝らなくていいよ」


 ひえぇとリリがシロでガードしてくるけど無駄だね。僕の攻撃は盾をも貫く。……あ、やっべ。シロを貫通しちゃったよ。……なんてなるわけがないけど。






 ◇◇◇






「すいません、遅れてしまいました」


 深々と頭を下げてくるけど……数分もかかっていないのですが……? そう突っ込みたいけどやめておこう。数分間で思い付く限りのことが出来るのはミラルに才能があるから。それでいいじゃないか。鍵とか書類とか預金とか……その小さなカバンに全部詰め込んでいるとしてもミラル自体が金持ちだろうし、才能があるし。本当にそれで済むからね。


「待っていませんよ。こちらこそ時間を」

「ギド……長くなるからやめよう。話すこともあるだろうから早めに行く方がいいと思うよ」

「……リリ様の言う通りですね。今だけは商人という肩書きを無視して友人として話をしましょうか」


 ……いや、うんと言いたいけどミラルが友人はともかくとして商人の肩書きを無視するのは難しすぎるよなぁ。……本当に仕事に関しての肩書きの大切さを異世界に来てから学んだし。ミラルに「気が向いたら」とだけ返しておく。ちょっとだけ突き放し気味だったから最後に「友人ですけど心の準備が必要なんです」と言うと静かに喜んでいるのが分かった。


「嬉しいなら嬉しいと」

「リリ、本当に後で覚えておいてね」


 今度こそやめる気はしない。本気でリリには罰を与えよう。「ごめんてぇ」と本気で謝ってきているけど許さない。恥ずかしさに悶え苦しむ姿が目に浮かぶよ。

タイトルが物騒でしたが特に意味は無いです。いつも思うのですが他の人が小説の話のサブタイトルをどのように考えているのか、とても気になりますね。後はどうすれば長引かせずに済むかとかも聞きたいですね(笑)。


次回は水曜、木曜日のどちらかに投稿します。

興味があればブックマークや評価など、よろしくお願いします。

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