4章46話 お着替えタイムです
少し短いです
「この衣装どう……?」
「いいと思うけど」
「ならキス!」
「それはちょっと……」
イフがユウを連れ出してからシロが僕の膝上で脚をバタつかせて少し痛い。それなのにミッチェルにしたからシロにもしろって……あっ、ダジャレではありません。まずはその足癖の悪さを何とかしてもらいたいね。
可愛いけどキスってわけではないんだよなぁ。割とどうでもいいことかもしれないけどシロとキスをしたいとは思っていない。あれだよ、妹とキスしたいですかって感じだね。どちらかというとチューじゃん。可愛げがある方じゃないって考え方なんだよなぁ。
「チューならいいよ」
「キス!」
「じゃあダメ」
「なんで!?」
キスはしたくないです。それだけは意地みたいなのがあって許したくないし。チューならいい、全然やってもいい。
「頑固!」
「それは今更じゃない?」
「そうですよ。ダメならダメ、押してダメなら多少の我慢をして引いてみては?」
「うぅ……キスがいいの……」
そこはシロも意地みたいなのがあるんだろうな。可愛いと思うけど僕も無理なものは無理だし。頭を撫でてお茶を濁しておく。異論はもちろん、認めません。……キスかぁ。小学生とかのワガママみたいな感じなんだろうなぁ。少し色気付いてチューは嫌、キスがいいのって感じか。
準備が出来次第って感じなのに一向に出てくる気配がないんだけど……ゆっくり待ってみる。なぜか十分くらい経ってからイフだけ先に出てきた。ちょっとだけ表情が複雑になっている。まぁ、後で聞けばいいか。
「準備出来たの?」
「はい、入れてもいいですか?」
指でオーケーのマークを出す。異世界にオーケーって単語はないからミッチェルには通じていなさそうだけど。ミッチェルとか古参メンバーは僕が勇者と同じような知っているけど地球については詳しく教えていない。ミスが失敗って意味とかは貴族とかなら通じるけど市民には伝わらないしね。貴族の中には地球の言葉とかも教えられるみたい。
日本語としても定着しているから異世界でも通じるってわけではない。例えば男の人のそっち系の人のエッチな店とかで「僕ノーマルなんでそういうことは」って言うと、この世界なら「いけますけど、逆に僕なんかでいいんですか」みたいな捉え方をされるんだよね。詳しくはないけどこの世界でノーマルって隠語としても使われるみたい。最初にイフから使ってはいけない言葉として教えられたし。
「へぇ……」
言葉が続かない。悪い意味じゃなくて良いものを見てツラツラと言葉が浮かんでこないような感じかな。表すにしても適当な言葉が出てこない。間違えて使われている適当な言葉なら割と出てくるんだけどね。
「……やっぱり、似合いませんか……」
「違うよ、似合っていると思う」
一言で表すのなら熊のような服装なんだよね。コスプレ……とはちょっと違うのかな。その割には爪までブラッドウルフの爪でかなり高額な服なんだよ。それにこれを着ていても戦えそうなスペック……戦闘服って言われても見分けがつかないし。これを作るだけの裁縫技術を持っている人って少ないんだろうなぁ。
「これからも着ていて欲しいくらいに可愛いと思うよ。言葉が出てこなかったんだ。悪いんじゃなくて良すぎてね」
「……着替えるのは面倒なんです……。でも寝間着なら……」
ツンデレなのかな。頬を赤らめながら嫌そうな顔をしているけど……嫌そうな顔なのかな。別種過ぎてもしかしたら嬉しい顔なのかもしれない。女性経験少なかったかな。こんな子は初めて見たよ。
「イフ様から『ほっきょくぐま』なるものの絵を見せてもらったんです。ミッチェルなら可愛い服に出来そうと言われたのですが絵が少し……」
下手……ってわけではなさそうだから絶対にリアルに描いたな、これ。リアルな絵とかならどうやってデフォルメ化するとか才能がなきゃ無理だろ。設計図みたいなのを描いておいたら技術だけで済むけど。
「なら尚更、ここまで出来たのはすごいよ」
小さな目があるけど可愛い感じの丸い目だ。それもフードの上に付いているからか、黒目の部分が薄い膜みたいなのになっている。多分だけど被っていても見えるんだろうね。撫でないなぁ……。
少し厚着そうだけど暑そうにしていないし注意して作られているんだと思う。白いからシミとかが出来やすそうだけど、そこら辺も抜かりないだろうなぁ。って、そこはどうでも良くてモフモフとふっくらした感じで絶対に抱き心地がいいよ、アレは……。
「……変態です……」
「へっ?」
あれ……僕っていつの間に立っていたんだ?
確かに座ってシロを抱えて、隣にミッチェルを置いていたはず……。なぜ僕はユウの脇に手を入れているんだ……。やめろ! 僕の体! 勝手に動くんじゃない!
【なぜでしょう……最後に棒読みと付きそうなくらいに心がこもってないですね】
僕が悪いんじゃない!
可愛いユウが悪いんだ!
「あの……変態と言っても離してくれないのでしょうか……」
「それだけ可愛いってことだよ。恨むのなら可愛い自分を恨んで」
「ッツ……!」
恥ずかしいのか空いた手でフードを被ってしまう。でも、知っているんだ。予想通り目の部分から僕の方を見てくるの。嫌だったら目を閉じたり逸らしたりするはずだしね。
「……ごめん、痛いから許して……」
「自己防衛です! 変態には攻撃するのが一番いいんです! 面倒は嫌なんですよ!」
裾で手を隠したかと思えばしまわれていた爪で体を刺してくる。ぶっちゃけ痛いです。僕でも痛いんだから明らかにユウの見えているステータスではダメージは与えられないはずだし……。加えて言うのなら力を込めた表情や筋肉の動きはしていない。体が小さいから脇に手を入れているから腕の筋肉の動きも感じられるんだよね。
と、愛でていたりとかユウの過去なんて気にしないって言いながら、こんなことを考えてしまう自分が嫌だね。仕方ないから離して代わりに頭を撫でよう。
「あ……ごめ……ごめんなさい……」
「ん、傷のこと? 別にいいよ。僕って少しだけ回復が早いんだ」
「……強くてもユウは傷付けてしまうんです。だから……ユウは……」
……はぁ……こういうところだよなぁ……。
傷付けないつもりが逆に傷つけてしまう。そういう点ではユウと僕は似ているのかもしれない。可愛い子を泣かせるのは心にくるものがある……。
ただこれは回避出来なかったことだし。というか、やはり重い。メンヘラ系でこういう子っているんだろうなって。でも、ああいうのと違ってユウは明らかに闇を抱えているってことか。……だからって攻撃は正当化出来ないけどね。あ、僕の暴挙も正当化出来ませんけど。
それなら尚更、ユウのことを肯定してあげないといけないかな。メンヘラに闇で対抗しては傷付けるだけだって幼馴染が言っていたし。何だっけな……優しく受け止めるが正解だったはず……。だったら!
「見ていて」
頭を撫でて着ている服をめくる。背中が見える程度ならどうでもいい。さてと少しだけ魔力を使うけど大したことではない。ユウのためってことにしておこっか。
「……ほらね、僕には即死以外に殺す手段はないんだ。生まれつき自己回復も早いし稀な呪無効とかもある。要は僕を殺すには一瞬で殺せるだけの力が必要なんだよ」
「……ユウは……本気を……」
「そう、出していないってことは僕に傷をつけてもすぐに治るんだよ。普通の人なら死ぬかもしれないけど僕には効かない。この位ならいくらでもやっていいよ。……代わりに頭は撫でるけどね!」
「ひゃう……うぅ……」
自分なりにはここぞと言う時に頭を撫でたつもりだ。それにユウは僕に少し心を開いてくれたみたいだ。ステータスの偽造が無くなっている。僕だけにかもしれないけど見せてもいいって思えたんだろうね。
……全ステータス九千……そりゃあ傷を付けられるよ。余計に謎が深まるけど今は仲間なんだ。心強く思おう。可愛くて強いとか最強過ぎるね。やっぱりユウは別格か……。
「イフ、ミッチェル、シロ。僕はユウを連れでダンジョン攻略とかしてみたいって思うんだけど、どうかな?」
「いいのではないですか? 強いなら一緒にいて学べることもあります」
「シロも強くなる!」
ミッチェルは淡々と、シロは力こぶを作りながら笑っている。ここにユウが強かろうと怖がる人なんていない。どちらかというと全員が才能あるし学ぼうって精神があるだけだろうなぁ。
ユウの方をチラッと見る。悪いけど僕の仲間にはユウを阻害する人はいないんだ。ユウはもっと自由でいい。頭を撫でると今度は手を無理やり離させられた。嫌われたかなって思ったらフードを外して僕を見てくる。
「……言ってくれたら撫でてもいいです」
「じゃあ、撫でるよ?」
僕が聞くと小さく首を縦に振った。
撫でてみたら目を閉じて笑ってくれる。演じているわけではなかったんだろうけど、これがユウの素の笑顔だ。あー、癒されんだよなぁ。少しだけ演技してみた甲斐があったよ。
「今度は一緒に戦ってみようか。模擬戦でもいいよ」
「……それならいいですよ……」
百パーセントの笑顔で僕を見てから今度は爪無しで抱き締めてくる。それで抱き締め返したら自分のやったことに気がついたのか、ハワハワしながらゆっくりと手を離してくる。うぅん、可愛いが過ぎる……。
メンヘラであっても、重くてもユウならいいやって思えてしまう僕は少し……。いや、これがそういう子に依存する人達の気持ちか。今まで馬鹿にしてきたけど謝っておこう。可愛いは正義だわ。
まだ少しだけ忙しいので投稿が遅れるか、文字数が少ない日が続きます。申し訳ありません。
今までユウが自分は弱くないと言っていた理由がコレです。詳しくはこれから書くつもりなので楽しんで貰えると嬉しいです。徐々に徐々に、それとパトロの街に近い仲間のこともこれから書いていきます。十二月までにはパトロの街編を書き終えたいですね。
後、総合評価千三百越え、ありがとうございます。
これからも至らない点や不明な点、納得のいかない点があるとは思いますが、どうぞこれからもよろしくお願いします。